11話
今からこの人と踊らなきゃいけないの…?!
さすがに私も今嫌われてる人と踊るのは抵抗ある。それに相手なんて指先が触れるのも気に食わない事だろう。
どうしようか悩んでると、ポンっと父親が私の肩に手を置いてきた。
「どうしたんだいエレノア、アルベルト君と踊って来なさい、緊張しているのか?」
父親は良い子煩悩な父親を演じている。すると突然ニコニコしていた顔を真顔にして私の耳元までグッと顔を近づけた。
「本当はお前みたいなやつじゃなくてリリアを結婚させたかったんだぞ…、年齢的に仕方なくお前にしてやってんだ、お前みたいな出来の悪い奴に大役があるんだぞ。まずは気に入られて来い。」
「…は、はい…」
周りの人は気づいていないのか。実の娘にこんな事を言う父親がいると言うのに…。もしかして普通なのかな?私は前世でも今世でも普通の父親が分からないから…。
ジョーンズ家の方を見ると、ジョーンズ公爵もアルベルトに催促している様子が見えた。
「アルベルト、お前と将来を共にする御令嬢なんだぞ、次期公爵として淑女をエスコートするのも大切だ」
「父上、お言葉ですがこの婚約は父上とヴァレンティア公爵が決めた事ですよね?愛してもいない女性と踊る気にはなりません、彼女もきっとよく分からない私のことは嫌でしょう」
アルベルトの言ったことは一見私に気遣うような言葉だが当たり前のようにそんな事は一切ない。嫌われている。初対面で緊張するのは分かるけどそんな明らさまにいきなり嫌う事なんてある?なかなかに失礼だけど。紳士っぷりは圧倒的にリノアスが凄いな。貴族が平民の立場のリノアスに負けてるってヤバい。
まぁこの人はリリアが好きになるんだから仕方がないのか。本当になんでエレノアはこの人が好きになったの?好きになる要素が今のところないんだけど。
「ですので私はご遠慮致します。父上は母上と踊ってきて下さい」
「アルベルト…!」
一応次期公爵だがそんな威厳の欠片もない。あまりにハッキリと断るものだから周りの貴族は私に同情や見下すような目が向けられた。
「まぁアルベルト様ったら…レディにそれは失礼じゃないかしら?」
「レディといってもあのエレノア嬢よ?あの反応は妥当じゃない?」
「政略結婚でしょうけど将来の夫からあんなこと言われるなんて哀れね」
まぁ国内のエレノアの評判は良くないし当たり前か。でもそんな事でへこたれてたら未来なんて変えられないわ。いくらでも言っておきなさいよ。
と私は思うが隣にいる父親はそうも思えないらしい。
「ちっ…、強情なガキが…」
あ、そういえば将来的にアルベルトと結婚したらジョーンズ家に移り住むのか。父親から離れられるのは嬉しいけどアルベルトをどうにかしないといけないのか。めんどくさい…。
父親がまた私に近づいてきた。
「おい、お前にはジョーンズ家の軍事情報を盗み出してくる大役があるんだ。今少しでも気にいられる努力をしろ」
「はい…」
そう、父親がさっきも言っていた「大役」とは、ジョーンズ家の軍事情報をヴァレンティア家へと漏洩する事。そしてそれが私が国外追放される理由。
私とアルベルトの曾祖父の代で起きた戦争。祖父の代は表面上は穏やかに友好的に過ごしてきた。だがその裏では見て見ぬふりをしていたがどうしても拭いきれない歴史がある。そして好戦的なこの父親のアメレッドが生まれた事が運の尽き。また戦争を始める気だ。曾祖父が敗戦した敵取りでもするつもりか。
早くそれがみっともない事に気づけばいいものを。
「本当に申し訳ない、エレノア嬢、アルベルトも13歳とはいえまだまだ幼くてな…」
ジョーンズ公爵が私に謝りに来た。
「いえ、お気になさらないで下さい、あちらも政略結婚ということで初めは良い印象を持たれなくて当然です、私もよく分かっていますから」
「エレノア嬢…、ありがとう…、ヴァレンティア公爵、本当によく出来たお嬢様ですな」
「ええ…どうも…、あ、エレノア少し髪が崩れてしまっているな、こちらで直そう」
私がジョーンズ公爵にそう答えた途端、父親は私の手を引いて裏へと連れていった。
「何をしているんだこの馬鹿女!気に入られる努力もせず呑気に受け入れるとは…!嫌がっていても無理やり攻めるべきだろう!仲を深める努力をするためには…!まさかお前裏切るのか?」
立て続けに私に罵声を浴びせてきた。裏切るのかという問いに対しては否定はできない。戦争なんかを賛成するものがどこにいるのか。
それにしてもこの人本当に戦争をする気あるの?頭が悪すぎる。また負ける。軍事情報があったとしても。
「お父様、押してダメなら引いてみよという言葉あるのをご存知ですか?」
この時代にそんな言葉ないが…。後これは恋愛に多く使われる表現だけど今の状況にはあっている。
「今あそこで無理矢理アルベルト様に迫ったってもっと嫌がられるだけです。むしろジョーンズ家の信頼をもっと損なう恐れがありますの。今は大人しくすることも大切ですわ」
「ふむ…、使えない女かと思っていたが意外とまともな事も言えるのか、まあそれも一理あるな」
一理じゃないし、信頼してほしいならそれしか方法はないと思うけど…?この人に戦争は不向きだな…。仮に感心してても私なんかを認めたくはないのかも。
「まぁいい、一度でもジョーンズ家に失言なんてするなよ?それは戦争が始まったら言えばいいんだからな」
ニヤッと笑って父親はまたメインホールへ戻っていった。
失言なんてしないわ、戦争なんてしょうもない事より私の未来の方が大事なんだから。
私も遅れてメインホールへと向かった。




