モブは主役になれますか? ⑰
「潤理さんはときどき、なにを考えてるかわからない目をしてました」
「え?」
「その目が怖かったです」
潤理から「言いたくても言えなかったことを言いあおう」と提案された。
つきあって二週間が経った。彼の部屋でのんびりコーヒーを飲み、ソファで寄り添っていたときに急にそんなことを言われた。提案されたときの様子から、潤理はずっとそれがしたかったようだ。
「他には?」
「いろいろ謎でした。今となっては答えがわかりますが、その、目が怖いことだけは謎のままです」
「……全部隠してたんだよ。ばれたいのに、ばれたくないことってあるだろ」
恥ずかしそうにわずかに目の下を赤くする潤理を見あげる。
「じゃあなにを考えてるかわからない目をしていたのは?」
「それは……」
「あれにもなにか意味があったんですか?」
今では嘘のように饒舌に、瞳が椎への思いを語る。それでもあの深淵の瞳のときにこの人がなにを考えていたのか気になる。
「椎が可愛いと思うと無心になってた、かも」
「はい?」
「無の境地だな」
あの謎めいた瞳にそんな理由しかなかったのかと唖然とする。呆れていいのか、喜んでいいのか。答えが聞けたからいいとしようか。
「椎だっていつも興味なさそうな目で俺を見てただろ」
「だって世界が違う人でしたから」
潤理は主役で自分はモブだったのだ。興味を持ちようもない。憧れることさえ過分だった。
それが今、こうしているのが信じられない。
潤理の頬に手を添えると、その手が捕まって指先にキスをされた。
「他に言えなかったことは?」
「……実は最大の秘密が」
「それは絶対に聞かないとな」
指先にキスを繰り返しながら潤理が小首をかしげる。唇の感触がくすぐったくて椎が頬を緩めると、潤理はこれ以上ないくらいに幸せそうな顔を見せてくれた。
「実は」
手招きをして潤理に顔を近づけてもらう。耳もとに口を寄せてそっと囁く。
「あの人事の方を次の恋愛指導の相手だと勘違いしたとき、潤理さんを誰にも渡したくないと思いました」
自分で言って恥ずかしくなった。勘違いもだけれど、そんな図々しいことを考えていたのかと思われても仕方がないほどの願望だ。
「椎……」
潤理が黒い瞳で椎を見つめる。その瞳はやはり能弁に椎への気持ちを語る。目は口ほどに、とはよく言ったものだ。きゅっと抱きしめられて、彼の首もとに顔を寄せる。
「こんなに好きな椎が腕の中にいる。最高の幸せだ」
「俺だって」
潤理の背に腕をまわすと腰を抱き寄せられた。顔を覗き込まれ、そのまま唇が重なる。
「ん……」
甘やかなキスにはまだ慣れない。されるたびに心臓が暴れる。
「椎」
好きだ、と低く囁かれる。かすれた熱い声にどきりとして、椎も真似をして潤理の耳もとで愛を囁いた。




