第19話―2
ふと夜中に目が覚めた。いつも隣で寝ているはずのルシィの気配がなかったからだ。あたしはぱちぱちとまばたきをしたのち、ベッドからのそのそと起き上がる。
「るしぃ~……、どこ行っちゃったのー……」
部屋をざっと見回してみるけど、当然だけど姿はない。ルシィを探しに行かなきゃ。そういう気持ちに駆られたあたしは適当に靴を履いて、魔法で足元を照らしながら寮を出る。
夜中に寮を抜け出すって、いけないことをしているみたいでドキドキする。実際だめなんだろうけど、そうも言っていられない事態だし、ゆるしてもらえる? カントクフユキトドキだって叱られちゃうかな?
部屋着だけでは寒いということに外に出てから気がついた。そろそろ上着を用意しないと、と思いつつ、周囲を見回す。当然だけど、暗くてよく見えない。とにかく歩き回るしかなさそうだ。と思い、森があるであろう方角を目指し歩いて行く。ネガティブ・フォレストはペインの濃度が高いんだよね、たしか。だからふらっと行きたくなってしまったのかもと予想をつける。
「ルシィー、ルシィ~? いるー? 寒いし部屋に帰ろうよぉー」
手をメガホンみたいにしつつ、ルシィに呼びかけ続ける。すると、聞き慣れた鳴き声が聞こえてきて、あたしははっと目を丸めた。
「ルシィ! そっちにいるんだねっ?」
声のした方向に向かって歩いて行くと、次第にあたしの魔法の光に照らされたルシィが現れる。
「ルシィ……。だめでしょ、勝手に部屋出たら!」
茂みに座り込んでいるルシィに駆け寄る。なぜだか巨大化しているけど、ペインを浴びているうちに魔物は巨大化することもあるみたいに聞くし。
「でも……、お腹減ってたんだね?」
もごもごと口を動かしていたルシィは、あたしの言葉ではっと目を丸めて、口を翼で隠してしまった。
「あははっ! ルシィってばおっちょこちょいさん! でも勝手に外に出たことは怒ってるんだからね! 前いたとことは違って、ここは魔物を怖がってるひとも多いんだから~……」
ルシィがしゅん、と肩を落とす。
「あ、違う違う、ルシィがひとを傷つけたりしないのはわかってるけど……。初めてルシィを見たひとがそうだってわかるとも限らないでしょ? あたしたち、ケーヤクとかもしてないし、万一ルシィが捕獲とかされちゃったら、嫌だから……」
ルシィの顔を撫でつつ、少しだけ俯くと、ルシィは気遣うようにあたしの顔を舐め始めた。
「わっ、ちょっと、くすぐったいよルシィ……!」
くすぐったさについあははと声を上げて笑う。しばらく舐め続けられて、もう限界! と音を上げると、こんどはあたしを抱え上げた。足が地面から離れて、空との距離がちょっとだけ近くなる。
「わっ、びっくりした……! ルシィってば、まだ寮に戻らない気? いいけど、寮から出たことを怒られるのはあたしなんだからね……!」
文句を言えど、ふわふわの羽毛にくるまれてぬくもりを移されていると、なんだか今すぐ戻らなくてもいいかぁ、みたいな気分になってくる。
「……ねえ、こうしてルシィとぎゅっとしてると、小さいころのこと思い出すよね」
ルシィの羽にくるまれて、ルシィに背中をトントンと叩いてもらいながら眠りに就いていた日々をふと思い出す。ルシィも同じ気持ちでいてくれたようで、ふとあたしの背中をトントンとし始めた。
「えへへ、眠くなっちゃうよルシィ。……あ。もしかして、慰めてくれてるの……?」
こくり、とルシィが首を傾げる。なにか落ち込んでいるのか、落ち込んでいるのならなぜなのか、とか聞いているように見えて、とにかくあたしの話を聞きたいらしかった。
「……あたし、会長に嫌われちゃったかも」
ルシィのあたしを抱き締める力が、いっそう強くなる。
「嫌われてるんなら離れようって、いつもなら思うけど……。たぶんそうすると、会長にもっと嫌われちゃうよね……。仲良くなれたかもって思ってただけに、ショック、かもなあ……」
そもそも相性がよくなかった、そういう運命だった、と受け入れることも、なんだか難しい。
「それに……。会長に、これ以上寂しい思いさせたくないよ……」
あたしが会長から離れてしまうことは、会長からしてみればまた周囲のひとが離れていった出来事として残るかもしれない。自分がどう思われても構わないから、離れたくないなんて思うのは初めてのことだった。そして、そんな自分の変化を怖いとも思ってしまう。
「どうすればいいのかわかんないよ、ルシィ……」
こういう夜は、明けないでほしいと思う。解決策もなにも見つかっていないまま、時間だけが進んでいってしまうのは、取り残されたような気分になるから。
「……ルシィはずっとあたしのそばにいてくれるよね?」
ルシィの頭を撫でてぽつりと呟く。ルシィは肯定してくれるみたいに、夜の静寂を破るように鳴いた。




