第18話―2
「あれ……、手紙以外にもなんか入ってる……? 『アンドレアと仲良くしてくれている後輩さんへ』……」
「あら、招待状じゃない。国花の刻印までついてて本格的ね~」
セシル先輩が横からあたしの手元を覗き込んでくる。真ん中にでかでかと載せられている絵の花は国花であるらしい。
「あ、裏にメッセージが書いてあるみたいよ。『アンドレアはきっと照れくさがって学園での話を聞かせてくれないだろうから、あなたがアンドレアの学園での様子を教えてくれると嬉しいです。王室の庭園でお茶会を開くので、ぜひアンドレアと来てほしいな。アンドレアが嫌がる場合は、あなただけでも』」
セシル先輩が招待状から視線を上げたあと、あたしにひっそりとした感じで目配せをしてきた。
「……お茶会っておやつ出ますよね?」
「え? まあね……?」
「え、君、まさかとは思うけど」
あたしが問いかけると、会長が信じられないものを見るようなものを見るような目であたしを見てきた。
「おーきゅーで出るおやつ……、気になる……。じゅるり……」
「嘘だろおおお⁉」
生徒会室に会長の咆哮が響く。
「かいちょぉ~、一緒に行きましょうよお~」
「アリスティア、君ね、僕が帰れない、王宮に行けない事情はわかってるだろ……⁉ あんな丁寧な説明をしたんだから、理解できなかったとは言わせない……!」
会長が目と鼻の距離まで迫ってくる。
「でも~、だって~」
「だってもへちまもないわあ!」
「ちょっとちょっと、後輩に怒鳴り散らかさない。……でも、ホントに、一回くらい遊びに来てもいいんじゃない?」
ソファに腰かけたセシル先輩が、ゆったりと首を傾げた。その言葉に、あたしも同意だと激しく頷く。
「セシル、お前まで……!」
「……アンディの境遇を思うと、追い出されたと感じるのも無理はないけど。ワタシからしてみれば、親はアンディのこと、本当は心配しているはずよ。エルヴィスも当然ね」
「……なにを根拠に……」
会長の唇が、拗ねているみたいに引っ込んでいるのを見つけて、あたしはもうひとおしでいけそう、と思った。
「アンディはいーっぱい家族に迷惑や苦労をかけられてきたでしょ。それもアンディの意思を介したりなんかせずにね。だから、もう立場なんか気にせず過ごしてほしいって思って、里親に出したんじゃないかってワタシは推測してる。だって、アンディの養親だって、国王自ら選んで、そのうえ挨拶にまで行ったのよ? ま、強いて言うならそれが根拠ね」
「……初耳」
「そりゃあね、言うなって口止め料もらってたから~」
引っ込んでいた会長の唇が、こんどはもごもごと揺らぎ出す。
「……にしたって……。もう少し、やり方ってものがあるだろ……。なんでもかんでも言葉足らずすぎるんだよ……」
「そうみたいですねえ」
「……だから、そんなふうに言われたって、兄さんとは会わない。顔を合わせる必要性を感じられないし、いまさら会いたいだなんて言われるのも反吐が出る。……エルヴィス兄さんは悪くないけど、悪くないからこそ余計に、兄さんについ暴言なんかを吐いたりしてしまったら、僕が完全な悪になってしまう」
あ、そうか。会長ってずっと、エルヴィスさんが悪くないのを理解していて、理解してはいれど恨んでいる気持ちも嘘ではなくて、ずっとその矛盾に苦しんでいたのか。……なんて、エルヴィスさんと会長の関係をつい最近知ったばかりの人間だけど、知ったばかりなりにそんなことを思う。
「……ま、そう一朝一夕で仲が改善するようなら、アンディの性格はそんなに屈折してないわよねえ……。アンディは一切悪くないだけに、強制もできないし、したくないし……」
諦めムードを漂わせて、セシル先輩がため息をつく。
「……はあ。なんでそう、仲を改善させようとしてくるかな。セシル、金銭が絡まない限り他人には兄弟であろうと口出ししてこないだろ。アリスティアだって、馬が合わないんだったら離れたらいいんじゃないですかね~とか、そういうふうに言うタイプだったじゃないか……」
「あ……、すみません。嫌だったなら謝ります。ただちょっと、血が繋がった家族と仲が悪いのはもったいないかな~と思ってしまって。なんとなく……」
そう、なんとなく。血の繋がった家族って、下手すれば血の繋がらない家族より簡単に繋がりが切れてしまいそうだから。……なんていうのは全部あたしのイメージなんだけどね。
「ワタシに関しては、エルヴィスにしつこくアンディの様子について聞かせろ~って言われるのにうんざりしてきてるからよ! 父さんと違ってエルヴィスは報酬金をくれないんだもの。『あのね、セシル。いくらきょうだいで、僕のほうが年上だからといって、ひとにお金をせびるのはあんまりよくないと思うんだ』とか説教してくるし! お人好しで倫理観がきちんと機能してるのはわかるし、普段は仲良く喋れるけどたま~にうざいのよね。それを考えたらワタシとアンディって、かなり馬が合ってるほうじゃない⁉」
「僕らの母親、仲いいらしいからそのせいじゃない……」
会長がうんざりした感じで呟く。
「とにかく。……招待状の件、君の好きにすれば。僕は君の交友関係にとやかく口を出すつもりはないし、なによりエルヴィスは僕にとって赤の他人。僕は彼に干渉しないし、彼に干渉されたくもない。この話は以上!」
そう言って、会長はビリリと送られてきた手紙を便箋ごと破いてしまった。ゴミ箱の上に舞う紙屑は、もうすぐで訪れるだろう初雪を思い起こさせた。




