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第17話―4

 でも、会長の言った「昔は」の意味が気になる。それに、あともうひとつ、気になることがあった。


「セシル先輩、王族のひとなのにそんなにいつもお金に余裕がなさそうなのはなんで……?」

「うわ、痛いとこ突くね! でも、王子とはいえオレは末も末だし、そのうえ母親は第何夫人とか、そういうのですらないから、大した権力はないんだよねー。引き継げる財産だって雀の涙だよ」


「でもその割には豪勢な暮らししてきてるから節制を知らないんだよ、こいつは」

 会長が疎ましそうに目を細めて、ケラケラと笑っているセシル先輩を見た。会長、女の人の姿のときのセシル先輩よりいまのほうがなんだかセシル先輩に厳しいな……。


「末も末、ってことは結構きょうだいがいるってこと?」

「そうそう、もう何番目か忘れたわ。アンディはオレより数ヶ月前に生まれたから一応アニキだけど、オレたちきょうだいの中では末端扱いされてっから。でも下にももう少しだけいるな」

 こんくらいちっちゃいのー、とセシル先輩が手でうんと小さく表現する。


「じゃあ会長、元からお兄ちゃんだったってことじゃないですか……!」

 あたしが会長に詰め寄るように問いかければ、会長は気まずそうに頷いた。


「まあね……」

「……ん? それどういう意味?」

 こんどはセシル先輩が不思議そうにしている。


「この間、こんどご両親に子どもが生まれるって教えてもらったから、あたし会長に対して『お兄ちゃんになるんですね~』みたいに言ったんです……! たしかにそのとき、会長変なリアクションだった気がしてきた……!」

「……え、は? ご両親って、あの夫婦に? 子どもが⁉ なんでそんな大事なことアリスに言ってオレには言わねえの……⁉」


「えっ、言ってなかったんですか……⁉」

 会長にセシル先輩ともども詰め寄れば、会長はたじろいだ様子で後ずさる。


「や、その、偶然、たまたま、落ち込んでいるときにアリスティアと会ったから、必然的に話をすることになって。アリスティアに話を聞いてもらったらすっきりしたっていうか、気にならなくなったからすっかり忘れていて、別にお前に話すのを忘れていたわけでは……」


 そっか、あたしと話して気にならなくなったのならよかった、と思いつつ。隣に立つセシル先輩を見上げてその様子を窺う。


 セシル先輩は、落ち込んでいるどころかなぜかニヤニヤと目を細めていた。顎をさする指が、仕草が、会長に似ていると思う。


「ふーん、そっかぁー、そうなんだー。よかったねえアンディ~」

「意味深な笑みを浮かべるな気色悪いから……!」

 やっぱりセシル先輩に対して辛辣だよね、会長。


「で、その、会長が養親に育てられているのとか、昔はとかって言ってるのは、どういう意味で……?」


「……まあ、そのままの意味ではあるんだけど。……エルヴィス兄さんはとても優秀で、数多くいるきょうだいの中でも一番だったんだけど。ただひとつ、病弱っていう欠点があってね。僕はきょうだいの中で一番魔力が多かったから、エルヴィス兄さんに魔力を分け与えて治癒をする役目を与えられたんだよ」


 魔力を分け与えるのが可能、なんていうのは初めて知ったけれど、以前会長がエンヴィに魔力を吸われたとき、「こういうことは慣れてる」と言っていたのを思いだした。


「……でも、ほらその。僕の魔法属性って『闇』だから。それが発覚したのはだいぶあとになってからで、エルヴィス兄さんにかなり魔力を与えてしまっていたから、エルヴィス兄さんも闇属性になってしまい、城中は大騒ぎ。僕はとんでもない悪者、穢れた存在として城を追い出され王子としての身分を剥奪されてしまったのでした、ちゃんちゃん……」


「え、そんな、理不尽じゃないですか……! 会長なんにも悪くないのに!」


「うん、そう。エルヴィス兄さんもそんなふうに言ってた。気が弱くてお人好しな兄さんらしい……。僕はエルヴィス兄さんに責められる道理はあれど庇われる筋合いなんてなかったから、いままでと変わらず優しく接してくれる兄に僕はコンプレックスをいっそう拗らせるはめになり、喜び勇んで城を出たよ……。とはいえそれはただの強がりに過ぎず、出て行かされずに済むなら出て行きたくなどなかったさ、もっと言うなら兄さんに魔力を与える役目になぞなりたくなかったし、さらに言うと闇属性に生まれたくなかった……」


 会長のこじらせって一朝一夕のものじゃないんだな、と納得する。


「オレは王族じゃなくなったアンディが不審な動きをしたりしないか見張るためにこの学園と生徒会に入らされたんだよ。本来なら断ってるところだけど、ほら、親父からたんまり給料もらってるし断れなくてぇ……」

 セシル先輩が指でお札を数えるジェスチャーをしている。給料もらってるのにカツカツなんだ、とちょっと疑問に思う。


「本来なら断ってる、とか断れなくて、とか入らされた、って言うわりにだれよりも奔放に学園生活楽しんでいるよね、セシル?」

「え~、バレてる~? もっと言うと卒業したあと『着用済み制服』って言ってこの制服売るのも楽しみにしててさ~!」


「……こんなのときょうだいとか本当に嫌なんだけど……。いい加減話戻す。……僕は兄さんに恨まれたかったのに、あろうことか僕を恨んできたのは兄さんの信者たちだった。兄さんはなんだか厄介なひとたちに好かれがちでね……。なんだか神さまみたいに崇め奉られてる姿をよく見た覚えがある。ジェラルドもその中のひとりだったはず」


 これまで、日常の会話からちりばめられていた点同士がやっと繋がったような気がした。


▼ △ ▼


「――ということで、会長とセシル先輩はエルヴィス王子のごきょうだいでしたー……」

 ふたりを王子と言い表すのもなんだか違うかな、と思ってこんな言い回しになった。


 とはいえ、みんなの反応はやっぱり鈍い。

「へー、そうなんすか」

「ふーん。あ、ところでアリスティアにはきょうだいいる? いるなら挨拶させて」


 ……平常運転過ぎる。

 エルヴィス王子が病弱だと聞いてはいたけど、それが理由で学校に通えなかったとまでは知らなかった。


 そして、会長から聞いていたエルヴィス王子の人柄から推察するに、エルヴィス王子は学校に通えなかったことを寂しく思ってはいれど、それを理由に会長を恨んだり嫉妬したりはしないだろう。むしろ、会長が学校生活をなんやかんやあれど楽しく過ごしていると知ったら心から喜びそうだ。きっと、お兄さんは会長のことを心配しているだろうから。……だなんて、会ったこともないひとだけど。


「……はあ、もううじうじしないでもらえるかな。動機はわかったから。というかべつに、兄さんには君がやった数々の所業をバラしたりしてないから、もうやけになって暴れたりしないでくれる⁉」

 ふと、会長が煩わしそうにそんな言葉を吐き捨てたのが聞こえてきた。


「……へ……?」

「そうそう、さっき流した音声はこの間兄さんに合ったときにむりやり言わせた言葉を繋ぎ合わせただけだから」

「そ、そんな、じゃあ、私の神さまに、私の罪は伝わっていないということ……?」

 いつの間にか起き上がっていたジェラルドさんが、広げた両手をわなわなと震わせる。


「……ジェラルド。これで、隠していた真実が勝手にバラされる恐怖は思い知ったかい?」

「ええ、ええ、それはもう、十二分に……! グレッグ、グラジィ、もう帰ろう……!」

 ジェラルドさんが、キャンバスを抱えて体育館の出入り口に向かって歩き出した。グレッグ先輩とグラジィがそれについていく。


「あ、ちょっ、……はあ、もういいか」

 話を終えた様子の会長とセシル先輩があたしたちの元にやってきた。


「えー、あの音声、ニセモノだったんすか。絶対本物のほうが面白かったのにー」

 ナターシャ先輩がくるくると髪をいじりながら呟く。


「まあ、ワタシも最初はそうするつもりだったんだけどねー。アンディがやめようって言うから」

「……セシルいますぐ黙ってもらえるかな」


「なんだっけ? 『あなたたちと違って、相手のことをむりに暴いたり意図的に傷つけるようなことはしたくないです』ってジェラルドに言い放ったひとからの信用を失いたくなかったから、だっけ?」

「お前はいままさに僕からの信用を失ったよ」


 会長は刺すような視線をセシル先輩に向けた。あははと笑っていれば、そういえばそんなことを言ったような、とふと記憶が蘇ってくる。


 ――会長って、あたしからの信用を失いたくないからって作戦を変えたりするんだ。


 そう思うと、なんだか胸のあたりがむずむずする。こういうの、なんて言い表せばいいのかな。いまはまだわからないけど、いつか――知ることができたらいいな。


【第二章・完】

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