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第17話―2

 むむむ? と首を傾げていると、なにやら談笑している声がドアのほうに近づいてきて、あたしはダッシュで柱の陰に隠れた。ドアが開かれた音がして、ぞろぞろと複数の足音がする。無意識のうちに息を止めて、談笑している集団が去って行くのを待っていると。


「……アリス?」

「ひょあ……!」

 知らない男のひとにそんなふうに声をかけられて、あたしは飛び上がる。やばいバレた⁉ なんて恐る恐る柱の陰から顔を出せば、そこにいたのはオレンジ髪の、なんだか見たことがあるようなないような、そんなひとだった。


「あー、えっと、中入れば?」

「は、はひ……」

 親指で教室の中を指し示されて、頷く。なんだか敵ではなさそう、だけど。


 そのひとは教室に入るなり、並べられている机に行儀悪く腰かけた。

「いやー、聞かれてるとは思わなかったねー。今度こそ完全に信用なくしちゃった?」


「……ですか……」

「ん?」

「ふわふわもちもちセクシィ~なセシル先輩はいったいどこに行ったんですか……⁉ たしかにこの教室に入ったのは見たんですけど……!」

 教室の中にいるのかと思ったけど、いまここには目の前にいる謎のひととあたししかいない。


「……ぷっ、ハハハハ……! キミ、オレのことそういうふうに思ってたわけ……⁉」

 おでこのあたりを押さえながら、謎のひとがケラケラと大笑いする。


「えっ、お、オレのことってどういう意味ですか……!」

「オレのことはオレのことだよ、そのままの意味~」

「……へ?」


 のんびりと言う語尾が、セシル先輩に似てなくもない気がするけど。まさか、それってつまり、どういうこと。


「『ワタシは三年で、副会長をやっているセシルよ。よろしくね? アリス』」

 謎のひとが、胸に手を当てながら朗らかに微笑む。その言葉ってもしかして、あたしとセシル先輩が初めて会ったときの、セシル先輩の自己紹介の……?


「ふわふわが、なんでカチコチに……⁉」

「あ、ふわふわって髪のことじゃないのね、体のことね、了解了解」

 謎のひとが面白そうに呟きながら机から降りてあたしに近づいてくる。セシル先輩はあたしよりもだいぶ背が高いけれど、このひとはそれ以上にあたしと身長差があるみたいだった。このひと、というか――セシル先輩。


「オレって実は女じゃなかったんだよねー」

 セシル先輩が、あたしの肩に腕を回してくる。


「ひゃ、ひゃえ」

 結構女の子相手にしかしないような話とかしちゃってたけど、それって平気そうですか⁉ 思い出せばどんどんと顔が赤くなって、体も縮こまっていく。


「かといって男でもないんだけど」

「……え、えっと?」


「ちょーっと話せばややこしいんだけど、母親が古代魔法使いの生き残りでねー、古代魔法使いって人間離れしてるっていうか精霊的な存在なわけ。えらい長生きだったりそもそも不老不死だったりー。ま、無性別だったりもするんだよね。でも魔法で姿を変えられる。で、オレもその血が強く出てて、元々は無性別だし魔法で性別を変えられもするってーわけ」

「え、ええええ……⁉」


「普段は男の姿でいることが多いんだけどねー。学園じゃアリスのよく知ってるあの姿を貫き通してるよ。……ま、黒衣会のひとたちの前じゃわけあっていまの姿でいるけど……」

「ちょ、ちょっと待って理解が追いつかないです……! と、とりあえずあの、ふわふわに癒やされたい……」

「ん? いーけど。はいどうぞ」


 セシル先輩の姿が、一瞬にしてあたしのよく知るセシル先輩の姿に戻る。あたしはうわーんとわざとらしく叫びながらセシル先輩に抱きついた。


「よぉしよしよし、びっくりしちゃったわねえアリスー」

「びっくりしましたああ」

 セシル先輩に後頭部と背中を撫でられているうちに、混乱していた頭が落ち着いてくる。


「ちょっと、アリスティアの叫び声が聞こえてきたんだけどなにごと⁉ ……って、セシル……! お前っ、どさくさに紛れてくっつくな……!」

「あいだッ」

 なぜか教室に会長がやってきた。そして焦った様子で教室に入ってくるなりセシル先輩の後頭部をはたく。


「やーんアンディ、暴力はんたーい!」

「……お前、その姿じゃ話しづらいから戻してくれる? どうせアリスティアにもバレたんだろ」

「話しづらい相手の頭はたいたりするかね、普通」

 呆れた様子で呟くセシル先輩は、渋々と言った感じで先ほどの姿に戻る。


「え、えっと、会長、もしかしていままでの会話聞こえてました……?」

「うん、まあね。君よりも先にこの教室の前にいたしね、僕」

「えッ」

 セシル先輩を尾行してセシル先輩のことを知ってついでに会長の役に立ったらいいな~とか思っていたのに、会長のほうが一枚うわてだったなんて!


「それに、も、もしかして会長、セシル先輩がずっと女のひとじゃないって知ってました……?」

「……僕は一応、レディ相手にお前とか言わないけど」


 会長がじとっとした眼差しで呟く。そう言われてみれば、どれだけ怒っているときでもナターシャ先輩やあたしには「君」呼びだったような。でもそんなの細かな違い過ぎてわかんないよ! セシル先輩とは気心知れた仲なのかなって思ってたし!

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