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第17話―1

「……セシル先輩、あなたは私の味方ではなかったのですか。どう考えても私たちが優勢だったのに、最終的に白亜会が勝ったのはなぜですか」


 すべての小型魔物をキャンバスに回収し、残るは大きな魔物――グラジィのみとなった体育館の真ん中で、ジェラルドさんはグラジィに背中を撫でられながら地面に伏せている。


「ワタシは確かに買収されたけど……、それでキミたちの仲間になるとは一言も言っていないわよ」

 セシル先輩のとりつく島もないような淡泊な返事に、ジェラルドさんが大きくため息をついた。


「……やっぱり、おれ的にはおれたちの下心っつーか、悪意みたいな、白亜会を、アンドレア会長を貶めてやろう、みたいなのが透けて見えてたんだと思うー……」

 ジェラルドさんの横に座り込んでいるグレッグ先輩が、ため息混じりに呟く。


「グレッグ、お前まで私の判断が誤ってたとでも言うのか……!」

「ちょ、そこまで言ってないから、うん。そりゃ当選しなかったのは残念だけど……、しょうがないじゃん、そういう運命だったっていうか、元々ムリめな話だったんだしさ。むしろ選挙をやるところまで行けたのはデカいっていうか」


「当選しなければ選挙をやった意味なんてないんですよ……!」

 がう、とジェラルドさんの慟哭に呼応するようにグラジィが吠える。


「……で、ジェラルド。最初からうっすらと、黒衣会の真の目的は魔物保護なんかではなく、僕狙いなのはわかっていたけど……。どういうつもりだったか、聞かせてもらえるかい?」

 口調は柔らかいけれど、笑顔が嫌みっぽい会長はジェラルドさんの目線に合わせるように腰を下ろしながら問いかける。


「……日陰者のあなたが……。エルヴィスさまが叶えることのできなかった学園生活を、なに不自由なく謳歌されていらっしゃるのが……」

「なに? ムカつくって?」

「エルヴィスさまが不憫でしょうがなく……。エルヴィスさまの心情を思うと、この胸が苦しくなって……」


「なにそれ、エルヴィスが、あの兄が(・・・・)僕が学園生活を謳歌してるくらいで苦しんだり嫉妬したりするとは思えないんだけど。君、自分が勝手に苦しんでその気持ちをエルヴィスに投影してるだけだよね? 自分の気持ちを勝手にエルヴィスの気持ちだってすり替えないでもらえるかなあ? そういう人並みに嫉妬したり苦しんだりするようなやつだったなら僕はこんなに捻くれて育たないんだよ……!」


「はあ⁉ すり替えてなどいませんが……!」

「ハッ、そういうのって自分じゃわからないものなんだよ、だってどう頑張ったって自分のことは客観視できないんだから……!」


 会長が言うと重みがあるなあ。


「……さっきから会長とか副会長が言ってる『エルヴィス』ってだれ?」

 あたしの左隣に立つハリソン先輩がこそこそと尋ねてきた。


「この国の第三王子もたしかそんな名前でしたよねー。人気者だし流行ってんのかな」

 あたしの右隣に立つナターシャ先輩が気怠げに呟く。


「……えーっと」

 なにか知っていそうだけど迷っている様子を見せるあたしに、先輩たちは不思議そうにしている。


「話せば長くなるんですけど――」

 ふたりからは、ほかの役員に聞かれたら話してもいいと言われているし、うん。あたしは意を決して口を開いた。


▼ △ ▼


 いまから数日前のことである。セシル先輩のことをなにも知らないとショックで落ち込んで以降、あたしは度々放課のチャイムが鳴った瞬間、ダッシュでセシル先輩のクラスの教室を訪れ、セシル先輩を尾行していたのだ。


 けれど先輩は教室からまっすぐ生徒会室に行くばかりで、なかなかおかしな行動を見せたりせず。黒衣会のひとと会ったりもしていなそうだし、やっぱりセシル先輩の言っていた「協力する気はない」という言葉は本当なのか、と安心しかけた頃のことだった。


 ある日のセシル先輩は、教室から生徒会室には向かわず、生徒会室がある棟とは反対の棟に向かっていた。あたしは怪しいと思って、いつも以上に気をつけてセシル先輩のあとをついていった。


 そうしたら、とある空き教室の中でなにやら男のひとの声がしたのだ。


「アンディ、かなり落ち込んでるよ。かなり焦ってるみたいで、何度も選挙対策会議を開いているけど出す案のどれも的を射ていない。音声を流出させるタイミングを見誤らなければ、黒衣会当選も待ったなしだ」

 ――アンディ?


 会長のことをそう呼ぶ会長と近しい人物なんてひとりしか知らないけど、そのひとはこんな男のひとみたいな声じゃないし。


 教室の前で、いっそう耳をそばだてる。

「そうですか。情報提供どうも、セシル先輩。はいこれ、報酬ですよ」


「うわーい! 財布が潤う~~! ついでにお肌も潤う~~~!」


 ――いまセシル先輩って言ったな。


 ――財布が潤うとか言うのはあのセシル先輩しかいないな。


 同名の人物、とはどうにも考えづらく。

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