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第16話―2

 票を計算してくれる魔道具があるらしく、開票はそのまま体育館で行われる。ステージの下に並んだパイプ椅子で待機していれば、投票の結果を抱えているであろう副学園長がステージの上に立った。


『これより、生徒会選挙の開票を行います』

 あたしは両手を組んで目を伏せる。


『このたび、生徒会を担うことになったのは――』

 心臓が、うるさいくらいに鳴っている。


『白亜会に決定いたしました』


 わあ、と生徒たちから歓声に似た声が上がった。あたしたちは勢いよく立ち上がって、輪になって飛び跳ねて喜ぶ。


「本当に? 本当に僕たちが当選したんだね……⁉」

「そうよ、ワタシたち! 白亜会が勝ったのよ……!」

 全身で喜びを表していると、ふと向かい側からジェラルドさんが近づいてくるのが見えて、あたしたちは動きをとめた。


 ジェラルドさんが両手を叩きながらやってきて、あたしたちのそばで立ち止まった。


「いやはや負けてしまうとは。やはり白亜会は素晴らしい組織のようですね」

「嫌みったらしいね、ジェラルド。あのひとから傲慢さだけを抽出したらこうなるんだっていう悪い手本のようだよ」


 会長は当選したことから強気になっているらしく、顎を上げてわざとらしくジェラルドさんを見下ろす。


「いずれにせよ祝福はいたいますよ。これで終わりと思われたら困りますがね」

「往生際が悪いな。素直に負けを認めたらどう?」


「往生際が悪いのはあなたのほうだ。一生日陰にいればいいものを……」

 ジェラルドさんは革靴のつま先をトントンと踏み鳴らして、見るからに機嫌が悪そうだった。けれど全校生徒が見ている手前、笑顔ではいるつもりのようだけど。


「文句があるならまたあとで受けつけてあげるよ。でもこれだけはいま言わせて。ジェラルド――この子はうちの庶務だから、むやみやたらに勧誘されたら困るんだ」

「わっ……」

 会長が、あたしの首に腕を回して引き寄せる。すると、なぜか生徒たちから悲鳴が上がった。けど悪い意味の悲鳴ではなさそうで。


「……どれだけ人をおちょくれば気が済むんだ、アンドレア……!」

「ちょ、ちょっと会長、落ち着いてよ~!」

 向こうにあるパイプ椅子から立ち上がったグレッグ先輩が、ジェラルドさんに駆け寄ってその両肩を掴み宥める。


「……気安く触るなグレッグ!」

 ジェラルドさんがグレッグ先輩の手を振り払った。


「あっ、ねえねえジェラルド? キミにいいお土産があるのよ~!」

 セシル先輩がキャピキャピとテンション高くあたしたちとジェラルドさんの間に立つ。


 ドドン、と腕を伸ばしてセシル先輩がなにかをジェラルドさんに向かって突きつけた。


「キミの数々の所業を聞いたエルヴィスからの伝言が、グレッグに貸してもらった(・・・・・・・)このオルゴールに込められてるのよ」


「あーっ! あのオルゴール、セシル先輩が盗んだんですかー⁉」

「あら、盗んだなんて人聞きが悪いわねえ」


 セシル先輩がオルゴールを持っていたのは知っていたけど、伝言を録音するために使っただなんて知らなかった。


「エルヴィスさまからの、でん、ごん……? そんな、なにを言って、セシル先輩……!」

「ポチッとな!」


『……僕の弟に、そんなことを……』

 途切れ途切れの音声が、オルゴールから流れ始める。


『失望したよ、ジェラルド』


「あああああああああああ!」

 ジェラルドさんが頭を抱えてその場に膝をついた。咆哮が体育館中に響いて、生徒たちが不安げに騒ぎ出す。


「もう終わりだ! この世の終わり! もう、知ったことか――!」

 ジェラルドさんが、懐から取り出したキャンバスを床に投げつける。そこから、大きな魔物が姿を現した。それだけでなく、小さな魔物たちがわらわらとキャンバスの中から溢れ出てくる。


 生徒たちは、先ほどとはまた種類の異なる悲鳴を上げながら立ち上がり逃げ始めた。


「一枚のキャンバスから複数の魔物が出て来てる……⁉」

 目を丸める会長に対して、ジェラルドさんはずっと床に座り込みながら笑い声を上げている。


 あたしは足元に群がってきた魔物を抱えられるだけ抱えて、口を開けた。


「会長、もういいですよね、ほかの生徒のみんなに見られても……!」

 目の前に魔物がいる。それならやることはひとつ。


「ああ、構わないよ。さっさと片づけて祝杯を挙げよう!」

 会長が腕を広げて、その手の中に杖を出現させる。みんなもそれにならって、各々の武器を取り出し、使い魔を呼び出す。


「久々の討伐なのに加えてこの量、腕が鳴るわねー!」

「セシル、討伐はしなくていいよ、あくまで今回は回収するだけだから!」

 えっ? と白亜会のみんなが会長を見つめて不思議そうにしている。かく言うあたしもそのひとり。


「なっ、なんだよみんな、不思議そうにして! この魔物たちはまだだれにも危害を加えてないし、それに元々はジェラルドが捕獲していた魔物なんだから、傷つけず返すのが筋だろ……⁉」


 みんなして会長変わったなあ、みたいな目で会長を見ている。会長はそんな視線にむず痒そうにしたのち、突然走り出してまだ体育館に残っている生徒たちに避難誘導を始めた。


「ええっと、回収っていうことならあたしの専門ですね! じゃあじゃあ、みなさんあたしの言うとおりに動いて~――」

「お前美人だな。おいで、撫でさせて」


「あっ、ずるいっすよハリソンばっかり! 自分にも撫でさせてください、お猫さま~!」

 意気揚々と叫んだのにだれも聞いてくれていないみたいだった。

 なにやらハリソン先輩とナターシャ先輩の周りに猫型魔物が群がっているではないか……。


「うわっ、ちょ、近づいてくんな……! あ、今回に限っては我慢しなきゃいけねーか……」

 ローレンもローレンで、いろんな魔物にひっつかれてるし!


「はーい、みんなこっちよー、偉いわねーいいこいいこー。あ、いい毛持ってるわね、ちょっとちょうだい!」

 セシル先輩もセシル先輩で、うまい具合に魔物たちをキャンバスに誘導している。誘導しつつ毛や爪を拝借しているみたいだけど……。


「――み、みんなすっごーい! ねえねえ、あたしにも魔物が近づいてくるコツ教えてよ……!」

 あたしは魔物を回収しつつ、みんなに駆け寄っていった。


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