第7話―1 告白・前編
公欠期間が明けて、あたしは朝一番に生徒会室へ足を踏み入れる。そこにはデスクについて紙の上でペンを動かしている会長と、テーブルでなにやら実験器具に入った液体とにらめっこしているセシル先輩がいた。
「……ああ、いらっしゃい、アリスティア」
「おはよーございます、会長……って、あれ。いまあたしの名前呼びました?」
「本当ね。呼んだわね」
セシル先輩はつけていた実験用のゴーグルを頭の上に持ち上げながら会長を訝しげに見る。
「……なんだよ。べつに、そんなに変なことでもないだろ……」
会長は大げさに取り沙汰されたことに対して嫌そうに目を細めているが、若干耳の先が赤くなっているのが見て取れた。
「……へぇ~、ふ~ん。アリスの休みがいつ終わるのかってしきりに、やたらと、とんでもなく、もう日付を顔面に書いてやろうかってくらい気にしてたけど、へぇ~、そういうこと~」
「……セシル、どの薬品をお前の口にぶち込めばお前は黙ってくれるのかな」
「や~ん、アリス、あのひと犯罪者だから近づかないほうがいいよぉ」
白衣を翻しながらセシル先輩がソファから立ち上がり、助けを求めるようにあたしに抱きついてくる。ちょっと待って、先輩、いい匂いすぎるかも……!
「……ンン、ちょっと、距離が近すぎるのはどうかと思うんだけど?」
「あらやだ、アンディに目をつけられるのは面倒だわ、いいところで離れておきましょうね」
セシル先輩はそう言って、颯爽と元いたソファへと戻っていく。セシル先輩の安心できる体温と匂いが去って行って少し寂しい。
「セシル、お前は一言も二言も余計なんだよ……! ……あー、ンンッ、えっと、アリスティア? 活動報告書は書いてきたかい」
「あ、はい。こういうの書くの初めてだったからちょびっと苦労しましたけど、ちゃんと全部埋めてきましたから! よければ褒めてください!」
鞄に入っているクリアファイルから、ふたつに折り畳まれた活動報告書を取り出して、デスクに座る会長に手渡す。
「ああはい、どうも……。……ちょっと君、字が汚すぎない?」
「はい! 個性的でいいでしょ?」
「いや読めないのは困るんだけど……。……あー、うん、読めないことはない……、か……」
目を細めたり、逆に大きく開いたり、近づけたり遠ざけたりしながら会長があたしの活動報告書のうえで視線を滑らす。
「ところで、君が帰ってきた日にローレンから、停止してた協会からの任務をまた再開させる、こっちにはあまり顔を出せないかもしれない……って連絡を受けたんだけど。急だと思わない? 君、なにか知ってる?」
「……あー、あはは、えっとぉ……」
それについては、色々あったと言うしかないんだけど。あたしの微妙な反応に、会長は怪しむように眉根を寄せている。あたしはどういうべきか迷って、目を伏せた。
「ローレン、夢を叶えるために頑張る……って言ってました! それ以外は、あたしとローレンの秘密……、ってことにしておきます」
よし、うまいこと誤魔化せたかな! と思って閉じていた目を開けた瞬間に視界に入った会長は、なぜか先ほどよりも機嫌が悪そうだった。
「へえ、そう、秘密ねえ~……。僕と秘密を交わすよりも先に、君はローレンとも秘密をつくっていたわけだ? へえ~、隠しごとが多くて大変な人生を送るつもりなんだね、君はー。その先は茨の道だよ? 君が耐えられるような環境だと思えないんだけど。ねえ、君はお天道様に恥ずかしくないような生き方をすべきじゃない?」
「こらアンディ、自分が気に入らないからって意味不明なこと言ってねちっこく詰め寄らないの!」
幼い子どもを叱るみたいに、セシル先輩が会長を咎める。
「よくわかんないけど心配してくれてる? んですよね? 大丈夫です、あたし口軽くないから!」
「……それは、重々承知してるよ……」
「えへへ、でしょでしょ? 会長公認の口の堅さでしょ~?」
自分を指差して満面の笑みを浮かべつつ、会長に問いかけるけれど、会長はいつの間にやらあたしの報告書に視線を戻してしまっていた。あたしはひっそりと手を下ろして、会長が受理してくれるのを待つ。
「……うん、字の汚さと語彙力の乏しさはともかくとして……。起こった出来事や時系列がとても詳しく書けているし、出現した魔物の特徴や状態もわかりやすい。それになにより、君、問題となっていた魔物を捕らえられたんだね? よくやったじゃないか!」
会長が珍しく満面の笑みを浮かべたかと思えば。会長が報告書を持っていないほうの手をあたしに向かって伸ばしてきて、あたしの頭を撫でた。
「……えっと、ありがとうございます?」
「……ハッ! 僕はまた後輩にパワハラセクハラをしたね⁉ 島流しで済めばいいほう、終身刑火刑絞首刑になってもまったく不自然ではない……!」
「アリス、そいつの脳天チョップして。そうしたら落ち着くから」
「え、そんな壊れかけた魔道具にするみたいに? まあいいですけど……」
あたしはセシル先輩に促されるまま、俯いて頭を抱える会長のつむじ目がけて手刀を振り下ろす。




