第5話―1 決断・前編
明るいうちに森を抜けて、村の集会所にて夜になるまで待機。その間に、村のひとたちに説明を聞いたり、逆にこちらが指示をしたりと、待機中も暇ではない。
数日分の荷物を詰め込んだ鞄を背負っているあたしは、いくら体力自慢といえど人の手が入っていない森を歩いているうちに息が荒くなっていっている。対してローレンは、獣道のようなこの道でもまるで平地のようにさくさくとあたしの数歩前を進んでいた。昔はあたしのほうがローレンよりも体力があったのに、いつの間にか抜かされていたみたいだ。
ローレンのそういう知らない一面を見つけるたび、会っていなかった年月の長さを思い知る。ローレンのほうも、そう思っているのかな。ローレンも寂しく思ってくれていたらいいな。同じ気持ちでいてくれたら嬉しいのにな――なんて思うけど、ローレンに限ってそれはなさそう。むしろ、アリスは全然変わんねーなって言ってくると思う。
「……あ、見えてきたぜ」
ローレンが不意に立ち止まり、前方を指差す。ローレンがさしているのは、いまいる暗い森とは打って変わって広く開けている明るい村だった。
「おお……、素敵な村だ!」
「だな」
植物が豊かに実っている田んぼに、綺麗に保たれている家屋。もうすでにあちこちから夕飯の匂いがしている。それらを眺めて零した言葉に、ローレンはすかさず同調してくれた。
「きょう泊まる集会所はあっちのほうだ」
ローレンが地図も見ずに、次の行き先を示してくれる。あたしはそれに頷いて、ローレンとともに歩き出す。
辿り着いた集会所の前で、ここの住民――村長さんとかなのかも――に出迎えてもらった。
「ようこそ、学生さん方。わざわざ足を運んでもらって悪いねえ……」
「いえいえ、ここの方々には世話になってますし」
そうそう、この村は学園に一番近い人の住む地域だからって、なにか学園でイベントごとをやる際はこの村のひとたちに手伝ってもらうこともあるそうなのだ。そもそも、学園の生徒はこの村の出身者も多いそうな。
「あらー、ローレンちゃん久しぶり! 元気してた?」
「ちょ、マーガレットさん、『ちゃん』はキツいですって……」
不意に畑のほうから姿を現した女性は、ローレンを見かけるなりぱっと表情を明るくしてこちらにやってくる。ローレンもローレンで、慣れたように会話をしていて、どうやらふたりは知り合いらしかった。ローレンは顔が広いとは以前から思ってたけど、ここまでとは思わなかったな。
「そっか、魔物の件で学生さんが来てくれるとは聞いてたけど、ローレンちゃんだったのね~」
「そうなんですよ。あ、こっちは同じく白亜会に所属してるアリスティアです」
「あ、アリスティアです! よろしくおねがいします……!」
ローレンがてのひらをあたしに向けてきたのを見計らって、あたしはぺこりとお辞儀をした。
「あら、一緒に魔物退治してる子? てっきりコレなのかと……」
マーガレットさんが小声で囁きつつ小指を立てる。
「これ……?」
「はっ⁉ ちょ、マーガレットさん冗談キツいって!」
突然大声を出すから、横にいるローレンのほうに顔を向ければ、ローレンはぶんぶんと首を横に振っているうえになぜか顔を赤くしている。
「ふふふ、ごめんなさいね~」
マーガレットさんはいたずらっぽく笑いつつ、この場を立ち去る。マーガレットさんの後ろ姿を見送って、あたしはローレンに向き直った。
「ねねね、いまのってなに?」
「……」
ローレンはあたしを見下ろすなり黙りこくる。困ったな、ローレンが嫌なら詮索するつもりはないんだけど、気になるものは気になる。
「……って意味……」
すると、ローレンはなにやらごにょごにょと口を動かし出す。あいにく聞き取れなくて、「え? なに?」と問い返せば、ローレンは今度は必要以上に大口を開けた。
「恋人とかって意味だよ、アホ!」
「あ、アホ……⁉」
「気にするとこそっちか⁉」
くわっと大口を開けて顔を真っ赤にするローレンにツッコミを入れられる。
「あ、あのーう……?」
「あ、すんません」
困惑する村長さんの声に、あたしたちの間に流れる空気が一気に元どおり。そうだった、ただローレンとお出かけに来たんじゃないんだった、と思い出して、あたしは村長さんに向き直った。
「ひとまず、集会所の中に入りましょうか。そのままでは荷物が重いでしょうし」
「それじゃあ、お邪魔します」
「お邪魔します!」
薄々察していたけど、ローレンは大人との対応に慣れているみたいだった。村長さんのあとに続いて歩き出すローレンを横目で見つつ、ローレンの変わりように驚く。
「いま、妻が夕飯を用意していましてね。あとで我が家でおふたりにご馳走したいと思っているのですが」
「まじですか! なにからなにまでありがとうございます、助かります!」
それまで比較的クールに振る舞っていたローレンが、突然子どものようにぱっと目を輝かせて無邪気に言うから、あたしはまたしても目を丸めてしまった。




