第5話―2
状況把握も兼ねた村のひとたちへの聞き込みは想像よりも早く終わり、あたしたちは一足先に森の様子を見に行くことになった。あたしたちが歩いてきた道は比較的学園と村のひとたちによって整備されていたものらしくて、そうでない人の手が加えられていない茂みの中へ足を伸ばすとそこにはかなりの数の小さな魔物がいた。
「ふぅん、雑魚マリィばっかじゃねえか。メシの前のいい運動になりそうだな」
「マリィって?」
「低級魔物の総称!」
ローレンはあたしにそう説明をしながら、さっそく目の前のうさぎ型マリィに火を放つ。
「定期的に駆除しねえとわんさか湧いてくるんだよな、この森」
魔物に魔法を放って、それで終わり――かと思えば。ローレンはうっとうしそうに呟きながら腰を屈めると、マリィの首元を掴み持ち上げ、さらに上を向いて口を開け――そのままごくりとマリィを丸呑みしてしまった。
「……へっ⁉」
「なに」
もごもごと咀嚼を繰り返しながら、ローレンが視線だけをあたしに向ける。
「な、なんで食べちゃうの⁉」
「これが一番効率いいんだよ」
咀嚼と嚥下を終えたローレンが、面倒くさそうに後ろ髪をかきながら答えた。
「い、いま魔法でやっつけたじゃん……!」
「こいつら魔力が――まあ正確に言えば魔力とくっついたネガティブな感情がだけど……好物なんだから、魔法で攻撃するだけじゃ普通に倒せねえし」
そう会話をしながらも、ローレンはちらちらと地面を見ていて、まだ魔物を探しているみたいだった。
「……言われてみれば、そうかも……」
会長は直接魔法で攻撃するのではなく、魔物が取り込まれているキャンバスを魔法で壊すことで魔物を討伐していた。そう考えればあの残虐に思える方法にも、会長がわざわざそれを選んでいる理由があったのかも……。
「食べれるようにするために、小さくしつつ加熱調理してるってだけ」
ローレンがぽつりと呟いて、深い茂みの中にまたさらに足を進める。
「お前はお前で魔物の捕獲、進めていけよ」
ローレンの言葉で、ふと背中に背負っていたキャンバスの存在を思い出す。そうそう、きょうは魔物をあたしの友達にしたかったんだよね。その目的を忘れていたわけではないけど、ローレンの行動に驚いて一瞬見失ってしまった。
「よーっし、ローレンに負けないように頑張るぞーっ!」
そう自分を鼓舞して、あたしは魔物捕獲に奮闘した。
▼ △ ▼
低級魔物の退治と捕獲があらかた済んで、あたしたちは村長さんたちのおうちにお邪魔していた。ご飯をよそったりテーブルに配膳したり、こういう準備はなかなか新鮮だった。学生寮には食堂があるし、食堂はビュッフェ形式だから。
きょうの夕飯は野菜のスープにパン、それからポークステーキ。結構体を動かしたあたしたちにはちょうどいい量だ。だけどローレンは魔物を結構な量食べていたし、お腹減ってないんじゃないかな、と思って隣に座っているローレンを見たけど。
「……」
無心でご飯を食べ進めていて、あたしの視線に気づいてもいなさそうだ。あたしはぼんやりとローレンを眺めつつ食事を進める。
「……ローレンってそんなご飯食べるひとだったっけ?」
「昔の話? 知らね、覚えてねえ」
雑な返答に肩を落としつつ、あたしは今度こそご飯に向き直った。
やっぱりローレンとの過去をいまでも思い出してひきずっているのはあたしだけなのかも。かといって、ローレンにかける言葉が見つからない。聞きたいことも、話したいと思っていたことも全部、過去の続きにあるいまの話だから。
「……きょう、いっぱい魔物いたね」
「ああ」
「……魔物って、美味しい?」
「油絵の具みてえな味」
「油絵の具食べたことあるの?」
「ない」
即答するローレンが面白くてついくすくすと笑ってしまう。こういうところはやっぱり変わってないのかも――って、また過去のローレンを引き合いに出してしまった。
「きょうで片づくといいねえ、任務」
「せっかく公欠もらってんだからさっさと終わらせてどっか遊びに行きてえよな。外出届受理されんのかはしらねーけど」
確かに、と思って頷く。
「じゃあ受理されたとして、どこ遊びに行きたい? あ、そういえば最近おうちに帰ってる? おばさんとおじさんは元気?」
「おい、質問多いって」
真顔だったローレンの表情に笑みが戻る。困ったように言っているけど、内心では面白がっているのはバレバレだった。
「あはは、ごめん!」
「で、なんだっけ? 遊びに行きたいとこは……。んー、飯屋」
「めっちゃ食べる気だ! で、おじさんとおばさんは元気にしてる?」
「親父とお袋、は――」
先ほどまでノンストップだったローレンの手と口の動きが、不意に動かされなくなって、ローレンの時間だけがとまってしまったかのようになる。前方に向けられたその目はどこを見つめているのか不明瞭で、あたしは首を傾げた。
「ローレンくん、アリスティアちゃん、おかわりいる?」
ふと村長さんの奥さんがキッチンのほうから顔を出す。ローレンは思い出したかのように残りのご飯をかきこむと、「もらいます!」と言って立ち上がり、この会話から逃げるようにキッチンのほうへ向かってしまった。




