第4話―3
「んじゃ、きょうはこの辺で終わりにしとくかー」
広がる晴天の下、人目につかない校舎裏にてローレンに稽古をつけてもらっていたあたしは、ローレンのその一言で重い剣を地面に置いた。
「はーい、ありがとうございました、せんせー!」
「だからその先生ってのやめろって……」
ローレンが照れ臭そうに首の後ろをかく。照れるローレンが面白くて、せんせー呼びを繰り返していたら、不意に前方から人影が見えた。
「やば……っ!」
あたしは咄嗟にローレンに剣を押しつける。「おう」とローレンは頷いて、魔法で剣をしまってくれた。
一応、生徒会に魔物討伐という仕事があることは、一般生徒には内緒であるらしい。魔道具と言えど、武器なんて持っていたら不自然すぎる。
「あれ? ライラちゃんだ! どうしたの?」
現れた人影は、あたしのクラスメイトのライラちゃんだった。
「……アリスティアさんに用があって」
ライラちゃんがぼそりと零すけど、その声はあたしにしっかりと届いていた。
「え? あたし?」
「……オレ、生徒会室戻っとくわー」
ローレンがなんでもないように言って、颯爽とこの場を去る。その後ろ姿をひととおり眺めて、あたしはライラちゃんに視線を戻した。なんの用だろうと思いつつ、ライラちゃんに向き直る。
「どうしたの? ライラちゃん」
「……なんであんたが……」
「え?」
「なんで私よりも遥かに成績が悪いあんたが、生徒会に入れるのよ……!」
ライラちゃんがそう叫べば、あたりは突然、黒いもやに包まれて。瞬間的に力強い風が吹きすさび、一瞬、目を開けていられなくなった。
やっと目を開けられた次の瞬間には、大きな魔物が目の前に存在していた。
「ライラ、ちゃん……?」
「私、知ってるんだから。生徒会は魔物を討伐してるんでしょ⁉ 私の使い魔を倒してみなさいよ、会長にスカウトされた、期待の新人さん……!」
「そ、そんな、倒すなんてできな――」
「じゃあなんで生徒会に入ったの⁉ 私にその枠ちょうだいよ……! 私のほうが、もっと、あんたよりうまくできる……!」
ぐあぁう、と魔物が吠えている。それと同時に、周囲に力強い魔法が漂った。あたしは、腕でそれを防御することしかできない。
「えっと、どうすればいい……⁉ どうすればライラちゃんは満足できる……⁉ でも、あたしが生徒会をやめたって、ライラちゃんが生徒会に入れるとは限らないと思うんだけど……!」
「~~~~っ私は、あんたの、そういう傲慢なところが気に食わないのよ……! ジェラシィ、こいつのことやっつけて……!」
ライラちゃんのかけ声で、魔物――ジェラシィと言うらしい――はいっそう強く咆哮する。そうして、ジェラシィはあたしに顔を近づけて、口を大きく開いた。迫り来る攻撃を予想して、あたしは目を閉じる。
「ちょっとー、安眠妨害っすよー」
ふと、頭上にホウキに乗ったナターシャ先輩が現れた。ナターシャ先輩はあたしたちを見下ろしていて、あたしに攻撃が迫っているのを見かねるとあたしの前にシールドを張ってくれた。もうすでに吐き出されていたジェラシィの魔法は、シールドの前に砕け散る。
「あ、あなたは……! 類い稀なる頭脳を持ち、もうすでに飛び級で大学卒業も済ませたっていう、あのナターシャ先輩……⁉」
「わぁー、陳腐な説明っすねー」
ナターシャ先輩はゆっくりと下降して、つまらなさそうに両足を前後に揺らす。
「騒ぐのはいいっすけど、生徒会室から聞こえないとこでやってもらわないと困るんすけどー」
「す、すみませ、先輩に迷惑をかけるつもりじゃ……!」
「自分に迷惑をかけるのはよくなくて、このひとに迷惑かけるのはいいって、それどういう了見?」
ライラちゃんの言葉がなにやらナターシャ先輩の気に障ったらしく、ナターシャ先輩は珍しく眉をひそめた。
「え、だって、ナターシャ先輩は立派なひとだから……」
「……一年C組魔法コース、ライラ。親はいわゆる学歴厨で、いい大学に進学しろって言われてる。でもあんた自身はさほど成績がよくないらしいね。せめて、教師に好かれるがために生徒会の面接やら試験やらを受けたはいいものの不合格。だから、自分よりも成績の悪いこのひとがすんなり生徒会に入ったことを憎んでるとか、だいたいそんなトコロ?」
ナターシャ先輩は慣れたように本をめくって、そこに書かれている内容を読み上げるようにぽつりと呟く。
「あんたにとってはシビアなことを言うと思いますけど、そーやって頭のよさとかで他人を評価してるから、あんた自身もそれでしか評価されてないんじゃないです? あんた、ちょっと調べたカンジ素行は悪くないんだし、授業態度も問題なし。ただ勉強に熱中して、よくサボるから部活の顧問とかにはよく思われてないんすねー。ベンキョーに執心しなくても、あんたにはいっぱい評価される基準も軸も存在してんだから、そっちに目を向けてみてもいいと思うんすけど。第一、自分、別にそんな大した人間じゃないんで、ヘコヘコされても困るんすよー。ふあーあ……」
ナターシャ先輩にしては珍しくたくさん喋ったあと。ライラちゃんが黙ってしまったのを見ると、ナターシャ先輩は肩をすくめて、「それじゃ~」とのんびりと声を上げて再び生徒会室のあるほうに飛んでいってしまった。




