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第五十七話 クロノクライシス

クロノクライシスは発動してしまった。その時世界は…。

ゲイルとアンジェを救うため、玉座の間へと急ぐビャクオウ。


その途中、


「!!」


ゲイル達がいる場所、玉座の間がある方角から、光が差し込んできた。いや、正確に言うと襲ってきたの方が正しいだろうか。その光はただの光ではなく、破壊の力を持っていた。しかもとてつもなく強い力で、ネイゼンの最強技にさえ余裕で耐えた防御魔術が、一瞬にして破られるほどだった。


「こ、この光は一体…!?」


ビャクオウの意識は暗転した。




フィスの死を看取っていたベルセルク。そんな彼にも、光は襲い掛かった。


「この光…あいつら、間に合わなかったのか…」


彼はヴァルハラに所属していたため、クロノクライシス計画についても知っている。だから、この光がクロノクライシス計画によるものだということもすぐわかった。しかし、わかったからといってなにができるわけでもなく、何もできないまま、光に呑まれた。




光はクルセイドキャッスルを呑み込み消し去ると、世界に向かって溢れ出し、そしてフォビドゥーン。


「理事長に何て説明すればいいんだろうか…」


アーサーは悩んでいた。本来なら彼らを守る立場にいながら、死なせてしまったのだ。


「こうなることは理解していたはずだ。兵士として戦う決意をした時からな。だが、まさか生き残ったのが俺達だけとは…」


アプリシィにとっても、この結果はかなり意外だったようだ。しかし、同時に憤りも感じている。


「白宮に桐崎…兄さんから託された命を簡単に散らしやがって…!!」


せめてあの二人にだけは生きて欲しかった。因縁を持ってしまったとはいえ、光輝もさだめも巻き込まれただけである。そして何より、全てを託して死んでいったウォントの気持ちを裏切ったことが許せなかった。


「とにかく、全軍に伝えよう。首領が倒れた以上、もうこの戦いに意味はない。なら、一刻も早く革命を終わらせるべきだ。」


済んだことをいくら言っても仕方ない。今どうするべきか、その最良の選択肢を、アーサーは掲げた。


「それでどうするつもりだ?首領が死んだことが伝わったら、奴らは混乱してさらに被害を広げるかもしれないぞ?」


「俺達であいつらをまとめるんだ。首領や副首領のようにはいかないかもしれないけど、やるしかない。」


アプリシィはデザイア内でも、幹部という高い地位にいる男だ。そんな彼が命令を下せば、ルーラーほどの影響力はないだろうが、ある程度兵士達は言うことを聞くはずだ。アーサーも元幹部なので、うまく言いくるめれば何とかなるかもしれない。今は何より、戦いを止めることが先決である。でなければ、命を捨ててまでデザイアを終わらせてくれた皇魔達に、申し訳が立たない。


しかし、兵士達を止めることはできなかった。


彼らを、クルセイドキャッスルから溢れた光が呑み込んだからだ。


「何!?」


「これは!?」


アプリシィもアーサーも、皇魔達四人とルーラーとイズマの遺体も、全てがフォビドゥーンとともに消滅した。




世界中で暴れていたボーグソルジャーやエボリュータントは、訓練生や旧神達の活躍もあってほとんどが倒されていた。だが、光はヘブンズエデンにも、ここにも容赦なく襲い掛かっていた。


「メイリン先生!!」


メイリンに向かって手を伸ばす室岡。


「室岡先生!!」


まるでシンクロしているかのように手を伸ばすメイリン。だが、二人の手は触れ合うこともなく、消えた。


「!!」


世界から人々が消えていくのを見て、感じて、驚愕に目を見張るネリー。そんな彼女にも、光は襲い掛かる。


「いかん!!」


「お嬢様!!」


クタニドとナイアが、ネリーを守ろうとする。


「遂にこの時が来たか…」


エドガーが呟く。



そして世界は消えた。



人も物も、怪物も神も、海も大地も、星も、宇宙すらも消滅した。











「がっ!!」


「うっ!!」


気が付けばゲイルとアンジェは変身を強制解除され、固い岩盤に叩きつけられていた。


「な、何だ!?一体何が起きた!?」


ゲイルは身を起こし、辺りを見回す。そこには、信じられない光景が広がっていた。先ほどまで自分達が戦っていた場所が消えており、ゲイルとアンジェは様々な光が混ざり、変化し、明滅を繰り返す不可思議な空間にいたのだ。周囲には大小無数の岩盤が浮かんでおり、彼らはそのうちの一つに叩きつけられたのだとわかる。


「何だここは!?」


ここがどこなのかわからず、狼狽するゲイル。


「亜空間。宇宙が生まれる前から存在していた、全ての土台となる原初の空間です。」


彼らの背後に、ミライが答えながら現れた。


「亜空間!?どうして俺達はそんな所にいるんだ!?」


新たな疑問を投げ掛けるゲイル。ミライはそれにも答えた。


「簡単です。私が全てを消滅させたから」


「!!」


そう、ミライが消滅させたから、土台となっていた亜空間が露出したのだ。ミライはさらに説明する。


「クロノクライシスとは、私の技の一つ。一定領域における次元の法則を乱し、領域内の全てを分解して無へと還す技。しかし、私個人で使っても、せいぜい銀河を複数消滅させられる程度の威力しかありません。だからこそ、他の要因で力を補う必要があったのです。」


そのために作ったのがディメンションチャージャーだ。自分が世界を滅ぼそうと立てば、人々は必ず抵抗してくる。それを利用したのだ。無論、技自体も改良した。一定領域内の次元を消滅させた後、消滅の際に発生するエネルギーを増幅し、そのエネルギーを基にさらに広範囲の次元を消滅させる技へと。結果、クロノクライシスは複数の宇宙を消滅させ、今もさらに多くの宇宙を消滅させていっている。宇宙の誕生や多元宇宙への分岐など、世界は無限に生まれ続けているが、いずれ生まれる速度を壊す速度が上回り、全ての世界は完全に消滅するのだ。



「あいつらも…狩谷達も消えたのか…?」


「ええ、消えました。もっとも、ルーラー殿に挑んだ者達は、クロノクライシスを発動する前に死んだようですがね。」


ゲイルは一番聞きたかったことを絶望の答えで返され、愕然とした。アンジェに目をやるが、彼女も苦しそうに首を横に振るだけ。存在を感じられない。狩谷達は消えてしまった。そう、消えてしまったのだ。クロノクライシスに巻き込まれて。しかも皇魔達は、その前に死んでしまったらしい。


「私以外の存在は例外なく消えるのです。そしてクロノクライシス発動に、人々は無意識ながらも協力してしまった。愚かな人間には相応しい末路です」


「…愚かだと?今、愚かと言ったのか…?」


ゲイルはミライの言葉に反応した。


「己の利益のためだけに戦い、弱者を虐げ、世界を破壊する。そんな人間を愚かと呼ばずして何と呼ぶのですか?」


ミライは人間によって滅ぼされた世界を、いくつも見てきた。だから結論付けたのだ。人間は愚かな生き物だと。


「…確かにあなたの言う通りかもしれない。だが!!俺はあいつらの存在だけは否定させない!!」


ゲイルは激昂した。


「狩谷…あいつは一番の仲間だった…目指すべき夢もあったのに…!!」


どんな時でも励ましてくれた最初にして最高の仲間、狩谷。


「空子はいつもいつも、俺を支えようとしてくれた。あいつの気持ちに応えてやらなかったのに、それでも…」


アンジェを選んだにも関わらず、仲間としてついてきてくれた空子。


「エリック…あいつには何度殺されかけたかわからない。そんなあいつとも、ようやくわかり合えたと思っていたんだ…!!」


ライバルとして、ようやく認め合ったエリック。


「ネリー…あいつはまだまだこれからだった…!!」


ゲイルとアンジェを信じ、人間に退化してまで娘になってくれたネリー。


「皇魔、レスティー…光輝と桐崎も!!あいつらだって幸せになるべきだったんだ!!」


過酷な使命を背負わされた皇魔とレスティー。巻き込まれた光輝とさだめ。皆、強い信念を持つ仲間だった。だが、彼らは消えてしまった。ミライが消してしまった。それだけでなく、愚かだと罵った。


「あなたがやったことを、俺は許さない!!あいつらの遺志は、俺が背負う!!!」


ゲイルはただ激昂する。自分が仲間達に抱いていた想いを、ミライにぶつける。


「…それでいい。」


しかし、ミライは堪えた様子もない。


「元より私とあなたは道を違えています。わかり合うことなど不可能!あとはただ、潰し合うのみ!!」


それは完全に割り切っているから。自分とゲイルは、もう殺し合うしかないと決めているから。


その時、


「ゲイル。狩谷くん達はまだ助けられるよ」


アンジェが希望を告げた。


「何!?それは本当か!?」


「私にはわかる。世界はまだ、完全には消滅してない。クロノクライシスは、不完全な技なの。完全に消滅するまで、力を放出し続けていないといけない。もし消滅させる力が消えたら、世界は再構築される!」


次元に精通しているアンジェだからこそわかった。クロノクライシスは、多元宇宙規模で無限に広がり続ける、爆発のようなもの。それもただの爆発ではなく、触れた対象の分解を行う爆発だ。しかし、次元は常に強く結び合おうとしているため、一度消滅させても完全に消え去るまでは発動し続けていないといけない。


「…ええ、その通り。時間と空間は表裏一体であるがゆえに、一度乱しても元に戻ろうとする。完全に消えるまで、クロノクライシスを発動し続けなければならない。もっとも、あと一時間で全ての世界は完全に消えますが。」


ミライは白状した。一時間。それまでにミライを倒し、クロノクライシスを止めることができれば、世界は元に戻る。


「なら、それまでにあなたを倒すだけだ!!」


ゲイルとアンジェは互いの手を取り、


「「エルピスシステム起動!!コード・アインソフオウル!!!」」


アデル アインソフオウルモードへと直接変身した。


「返してもらうぞ。俺の仲間達を!!」


プライドソウルを構え、アデルはミライに挑む。











「う…」


気絶していたらしいネリーは、亜空間に浮かぶ瓦礫の上で目を覚ました。


「ここは…」


「目が覚めましたか…」


聞こえたのはクタニドの声。その時、ネリーは気付いた。クタニド、ノーデンス、ヴォルヴァドスの三神。ナイア、ヨグ=ソトース、シュブ=ニグラスの三柱の眷属、ハスターとシュリュズベリィもそばにいたのだが、ナイア以外全員半透明になっている。いや、少しずつ消え始めているのだ。


「みんな、どうしたの!?」


「申し訳ございません。あなたをお守りするのが精一杯でした」


クタニドは答える。彼らは光からネリーを守るため、己の全ての力を使い果たしてしまったのだという。


「咄嗟に私の化身を全員呼び寄せたのですが、それでもあなたしか守れなかった…それにしてもクタニド。君がボクまで守ろうとするとはね…」


ナイアは自分の化身全てを呼び寄せて守ろうとしたが、それでも守れたのはネリーだけだった。彼女が半透明になっていないのは、クタニドがナイアまでも守ったからだ。


「あなたが無事で…よかった…ナイアルラトホテップ…お嬢様を…どうか…」


「クタニド!!」


クタニドは消えてしまい、ネリーは叫ぶ。


「クタニド様…我々も…逝きます…」


「ネリー様…どうかご無事で…」


「ノーデンス!!ヴォルヴァドス!!」


ノーデンスとヴォルヴァドスも消えた。


「総帥…彼らの…あなたの両親のもとへ…行くのです…彼らはまだ生きて…戦っています…しかし…このままでは負ける…あなたがいれば…」


「ヨグ=ソトース!!」


ヨグ=ソトースも消えた。


「わたくしも逝きますわ…ヨグ=ソトース。ハスター…わたくしのために戦ってくれて…ありがとう…」


「シュブ=ニグラス!!」


シュブ=ニグラスも消えた。


「シュブ=ニグラス…シュリュズベリィ、俺に付き合わせて、すまなかったな…」


「いえ、旧神と旧支配者が一つになったのを見届けられて、満足です。」


「ハスター!!シュリュズベリィ!!」


ハスターとシュリュズベリィも消えた。恐らく他の神も消えたのだろう。


「やだ…嫌…どうして…」


仲間を失った悲しみに座り込み、涙を流すネリー。


「お嬢様。厳しいようですが、悲しんでいる場合ではありません。ヨグ=ソトースの遺言を思い出して下さい」


ナイアはネリーの両肩に手を置いて言う。ヨグ=ソトースは、ゲイルとアンジェのもとへ行けと行っていた。二人はまだ戦っているが、このままでは負けてしまう。ネリーが行けば勝てると言っていたが、果たして本当だろうか…。


「…迷ってる暇なんてない。私がパパとママを助けなくちゃ…!」


「その意気です。」


ネリーは涙を拭って立ち上がり、ナイアと一緒にゲイルとアンジェを捜しに行く。場所はすぐにわかった。アデルとミライの力の波動が、増大しながらぶつかり合っていたから。











「『おおおおおおおおおおおおおお!!!!』」


アデルは光をも超える速度でミライへと向かう。プライドソウルを振りかぶり、振り下ろした。しかし、ミライはまるで虫でも相手にするかのように片手の甲で払った。たったそれだけで、百の惑星を両断できるだけの威力を秘めた一撃が弾かれた。


「うっ!!」


アデル自身も大きく弾き飛ばされ、背後に巨大な岩盤が迫る。が、寸でのところで翼をはばたかせて減速し、武器をチャウグナルファングに替えて再度ミライに突撃した。ミライは両手の甲で刃を受ける。パワーが上がっているからか、今度は弾かれず拮抗した。


(このまま押し切る!!)


「『クトゥグアドライブ!!!』」


クトゥグアドライブを発動させることにより、さらにパワーを増強して押し切ろうとする。


しかし、チャウグナルファングはそれ以上1mmも動かなかった。


「ふっ!」


軽い呼吸とともにチャウグナルファングを打ち払うミライ。パワーで負けた。アデルは最強形態で二重の強化をしていたにも関わらず、パワーで押し負けたのだ。ミライはそれから、両腕を突き出してくる。これほどのパワーを秘めた攻撃だ。このまま受ければ串刺しになる。


「っ!!」


しかし、アデルは炎化することによって逃れ、ミライから離れた所で実体化した。


『パワーで勝てないなら!!』


「スピードで勝負だ!!」


「『ハスタードライブ!!!』」


アデルはクトゥグアドライブからハスタードライブに切り替え、武器もダゴンとヒュドラに替えてミライの周囲を飛び回りながら、銃撃する。


しかし、弾が当たる寸前でミライの姿が消えた。


気が付いた時、ミライはアデルの背後に現れており、アデルの背中に蹴りを喰らわせた。


「ぐあっ!!」


吹き飛ばされるアデル。しかし途中で体勢を立て直し、ルルイエセメタリーを三連射。バルザイの偃月刀に持ち替え、突撃する。


「なぜクロノクライシスを発動させたにも関わらず、あなた達だけが消えずに残っていると思いますか?」


ミライは問いかけながらルルイエセメタリーを全て左手だけで弾き飛ばし、バルザイの偃月刀を右手だけで掴んで止めた。


「それはあなた達を直接叩き潰すためです。」


「がっ!!」


自由な左手で、至近距離からエネルギー弾を当てて吹き飛ばす。


「あなた達は私の最後のけじめ。ゆえに私自身の手で直接、完全に消さねばならない。それがクロノクライシスを発動した私に残された、最後の仕事。」


「『イグニスドライブ!!!!』」


ミライの言葉をかき消すように、アデルは最後の手段であるイグニスドライブを起動させ、プライドソウルと剣形態のアークスを装備。ミライに斬り掛かる。繰り出される一撃は、三将軍を三人まとめて倒せるレベルだ。それを一秒間に五千億回以上、放つ。乱舞、乱舞、ひたすら乱舞。しかし当たらない。ミライは光の数倍の速度で、そして最小限の動きで、全てかわしてしまう。


「はっ!!」


逆にミライがかわしながら繰り出す乱舞は、全てアデルにヒットする。瞬く間にズタボロにされてしまう。


『つ、強い!!』


「何なんだこのパワーとスピードは!?アインソフオウルモードが全く通用しない!!」


全力を出しているのに、今も強くなり続けているのに、ミライに全く届かない。追い付けない。


「このヴィーナススタイルは、クロノクライシスを発動するための姿。そしてクロノクライシスは、全次元を消滅させるための技。ですが、それだけではないのです。」


クロノクライシスは確かに全次元を消滅させるために改良したが、実はミライはさらに改良を重ねていたのだ。次元が消滅する際に発生するエネルギーを増幅し、それを基にしてさらに多くの次元を破壊し続けるクロノクライシス。ミライはそのエネルギーの半分を、己に吸収するようにした。吸収したエネルギーは、ミライを強化する。ミライもまた今この瞬間、加速度的に強くなりつつあったのだ。それも複数の次元が消滅する際に発生するエネルギーである。一度にできるパワーアップは計り知れない。以前ミライに無限強化機能はないと言ったが、正確には発動していなかっただけで、機能自体はあった。ヴィーナススタイルはその改良したクロノクライシスと無限強化を使うために、また計り知れない強化に耐えられるように自分を合わせた姿なのだ。ちなみにいずれは必ず世界の創造を破壊が上回るため、破壊に使うエネルギーは半分でも全然問題ない。


「わかりましたか?私をこの姿にした時点で、あなた達が私に勝てる可能性はゼロになっていたのですよ。」


なんたる絶望的な力の差か。もはやアザトースなど比ではない。ミライの方が遥かに強く、恐ろしい怪物へと変化してしまっていた。


「まだだ!!!」



『まだ!!終わりじゃない!!!』


アデルはプライドソウルとアークスを合体させ、さらにバルザイの偃月刀を出し、


「『エルダーサインブースト!!!』」


旧き印を出現させた。その数、およそ三十。


「『エンドオブ…!!』」


アデルはバルザイの偃月刀をしまい、プライドソウルにエネルギーを込めて、


「『ソウルッッ!!!!』」


突撃。旧き印全てを突き抜け、ミライに斬り掛かる。


「エンドオブディメンジョン!!!」


ミライもまた必殺技で応戦。アデルのエンドオブソウルは、もう宇宙が三~四個破壊できるレベルだ。破格の強化。間違いなくアデルが今まで使った中で最大の威力。そこまで強化されたアデルの必殺技を、ミライは容易く打ち破った。


「ぐああっ!!」


破壊されたプライドソウルの刃。アデル自身にも裂傷が入る。


「『シャイニングフェザーストーム!!!』」


だが諦めずに攻撃する。しかし、そんな苦し紛れの攻撃が通用するはずもなく、ミライは攻撃を無視して強引に進み、


「終わりです。」


アデルを直下の岩盤へと叩き落とした。ちなみに、亜空間に浮かぶ無数の岩盤や瓦礫は、ミライが戦い易いように演出したものである。余裕。舞台演出ができるほど、圧倒的に余裕。


「ぐあっ!!」


「ああっ!!」


アデルは岩盤に叩きつけられ、変身が解除される。全力が全く及ばない絶望感。友を救う方法がわかっているのに実行できない絶望感。絶望、絶望、絶望。ただひたすらに、絶望あるのみ。


「ここまでよく戦いましたが、所詮私の信念を超えるものなど存在しないということです。」


ミライは二人のそばへと降り立つ。そして、もう立つ力も残されていないゲイルの首を片手で掴み、持ち上げた。


「うぅっ…ああっ!!」


ワルキューレの刃が食い込み、激痛がゲイルを襲う。


「やめて…ゲイルを殺さないで…!!」


懸命に手を伸ばし、ゲイルを助けてくれるよう懇願するしかないアンジェ。しかし、ミライはそれを聞かず、もう片方の手を振りかぶった。


「さようなら、私がかつて救った人。」


しかしその瞬間、ゲイルとアンジェの姿が消えた。気付くと、二人はすぐ近くにある別の岩盤の上に移動している。が、いたのは二人だけではなかった。


「あなたは…」


「ね、ネリー…!!」


ミライが意外そうな声を出し、ゲイルが驚く。それはそうだろう。消滅したと思っていた者が、生きていたのだから。ネリーはゲイルとアンジェを守るようにして二人の前に立ち、背を向けたまま回復魔術を使った。あの戦いの後勉強したのだろうか、以前とは比べ物にならないほど強力な魔術で、二人の傷は一瞬で完治した。


「パパ、ママ。待っててって言われたのに、言い付けを破ってごめんなさい。でも、今だけ私にも戦わせて。」


「ネリー!!」


ネリーはそう言うと、アンジェが止めるのも聞かずに、ミライの前に高速移動した。


「パパとママを、これ以上傷付けさせない。」


「面白い。全盛期ほどの力はないとはいえ、あなたはかつて世界を創った神。相手にとって不足はありません」


二人は戦いを始める。











ナイアはゲイル達の捜索をネリーに任せ、一人その付近をさまよっていた。本当はネリーと行きたかったが、自分の中の衝動を抑えられなかったから。


「エリック。君は生きているんだね?」


ナイアとエリックは、ある程度感覚がリンクしている。だから、彼が生きているのがわかった。もっとも、近くに来てエリックの反応を感じたから、捜しているのだが。


そして見つけた。岩盤の上に身を横たえる、エリックの姿を。


「ああ…」


ナイアはエリックを抱き締めた。しかし反応はなく、気絶しているらしい。しかも、深刻な状態にあることに気付いた。エリックが足から、少しずつ消えていっているのだ。ナイアは何が起きたのか知るため、エリックの額に触れた。記憶を読み取る。そして知った。彼はクロノクライシスの光に触れた瞬間、その本質を理解し、時空魔術を使ったのだ。乱された時空の法則を、正す魔術を。だが結局は押し負け、一瞬の消滅は避けられたものの、今消えつつあるのだ。


「すごいな君は。」


ナイアは感嘆した。自分は全ての化身を集めてもネリーしか守れず、時空に精通しているヨグ=ソトースでさえ防げなかった攻撃を、エリックは不完全とはいえ防いだのだ。もはや、神をも超越する存在としか言えない。だが、エリックとて無傷では済まず、存在が消滅しつつある。


「…」


ナイアはエリックを救うため、意を決した。己に残された全ての力を使って、エリックの存在を補完する。それが何を意味するか、わからないはずはない。それでも、躊躇いはなかった。クタニド達ほどではないが、彼女もまた疲弊している。そんな状態でそんな高度な魔術を使えば、当然ナイアは消えてしまう。クタニド達のように。しかし、構わなかった。


「…ボクはお嬢様を復活させるためにいろんなことをした。」


その中には一つの国を操るため、王に自分の体を売ったこともあった。だが、そこに愛はない。ネリー以外の存在を、ましてや異性を本気で愛したことは一度もなかった。


「やっとわかったんだ。理屈じゃなく、気持ちで、これが愛なんだって。」


真の愛を知った時、彼女は狂おしい気分になった。この気持ちのためなら、自分の存在すらも捧げられると。


「君に出会えてよかった。」


当初はずいぶん厄介な相手と知り合ったものだと思っていたが、今ではそれが愛しさに変わった。エリックになら、自分をあげても構わないと思えるほどに。


エリックの消滅は止まり、消えた部分は綺麗に復元できた。だが対照的に、今度はナイアが半透明となり、足から消えつつあった。


「…お別れだ。」


ナイアはエリックに口付ける。


「愛してるよ。さよなら」


ゆっくりと離れていく。自分が消えるところは見られたくない。せめて、エリックの視界から外れた所で消えよう。そう思った。


だが、離れようとするナイアの手を、エリックが掴んだ。


「…何を勝手に…消えようとしているのですか…」


「エリック!」


エリックは目を覚まし、ナイアを強引に引き寄せ、抱き締める。


「あなたはもう私のものです。勝手に消えるなど、そんな選択肢はありません。」


エリックにとっても、ナイアは既に大切な存在になっていた。大切な女性を二人も亡くしたエリックは、もうこれ以上失いたくないのだ。


「あなたを死なせはしません。必ず、救ってみせます!」


「エリック…嬉しいよ…」


エリックはナイアを救う方法を必死で考えていた。そして見つけた。


(可能性があるとすれば、これしかない!!)


エリックはその方法を使った。











ミライとネリーの戦いは続いている。しかし、やはりネリーの劣勢は否めなかった。彼女も多数の魔術を使って応戦しているのだが、ミライには傷一つ付けられず、逆にネリーが傷付いていっている。ダメージは再生能力で回復しているが、それもいつまでもつか…。


「このままじゃネリーまで…!!」


「ちっ!!何か方法はないのか!!」


打開策を考えるアンジェとゲイル。ゲイルは自分に組み込まれたシステムの中に、ミライを倒す方法がないかと探りを入れている。と、


「!?」


「どうしたの?」


ゲイルは何かを見つけた。アンジェが尋ねる。


「…理事長からメッセージが届いている。」


ゲイルの頭の中に埋め込まれた通信回路の中に、エドガーからのメッセージが届いていた。履歴を見てみると、再改造を受けた時だ。今までこんなメッセージはなかったはずだが、ゲイルはメッセージを再生してみる。


『このメッセージはクロノクライシスが発動した後に聞けるよう、プロテクトがかけてある。君がこれを聞いているということは、クロノクライシスが発動し、世界が消滅してしまったんだろう。だが、諦めてはいけない。希望は君の中にあるということを、忘れてはいけないよ。では、君の勝利を祈らせてもらおう。』


メッセージはこれだけだった。


「何だこれは!?希望は俺の中にあるだと!?こんな時に意味のわからないことを!!」


せっかく何か方法があると思ったのに、蓋を開けてみればまるで謎かけだ。世界が消滅しつつあるというのに、一体何を考えているのかとゲイルは激怒する。


「希望はゲイルの中に…」


だが反対に、アンジェはエドガーのメッセージについて真剣に考えていた。ゲイルの中にある希望とは、どういう意味なのだろうか。


「…希望って言ったら、やっぱりエルピスシステムのことかな?」


「それならもう使ったろうが。それで駄目だったんだ」


エルピスシステム。確かに希望の名を冠してはいるが、それなら使った。使ってアインソフオウルモードになって戦った。それが通じなかったから、悩んでいるのだ。


「…いや待て。エルピスシステムの特性は…」


と、ゲイルは気付く。エルピスシステムの特性は、ゲイルが認めた相手との融合によるパワーアップ。もしかしたら…


「…そういうことか。」


「ゲイル?」


「アンジェ。もう一度力を貸してくれ」


「それは当然だけど、いきなりどうしたの?」


「…俺の予想が正しければ、アインソフオウルモードはまだパワーアップする。その力があれば、あるいは…」


だが、そのためにはネリーの存在が必要だ。


「行くぞアンジェ!!まずネリーを助ける!!」


「う、うん!!」


ゲイルはアデルに変身し、アンジェは覚醒。ネリーを救いに向かう。


「はあ…はあ…」


ネリーは疲弊していた。弱体化しているのは確かだが、全盛期の力があってもミライには敵わないだろう。


「退化した身でありながら、両親を守るために戦うその勇気は買いましょう。ですが、終わりです。消えなさい」


ネリーに向かって爪を振り下ろすミライ。しかし間一髪、アンジェがネリーを抱き抱えて瞬間移動し、ミライの攻撃を回避した。ゲイルは爆破のアーミースキルで濃い煙幕を張り、視界を塞いでいる間にアンジェと合流する。


「往生際の悪い…勝てるはずがないのに、まだ戦うつもりですか?」


ミライは問いかけるが、返答はない。


「…まぁ何かするにしても、次が最後になるでしょう。この煙幕が晴れるまで、待ってあげます。」


ミライは余命宣告をした。この煙幕が晴れるまでの間だけ、何かする時間をくれてやる。ただし煙幕が晴れれば、その瞬間に今度こそ全てを終わらせると。


「…ネリー。本当はお前にまでこんな真似はさせたくなかったが、お前なしでは勝てない。だから、力を貸してくれ。」


アデルはネリーに頼んだ。ネリーは頷く。


「うん。私も、パパ達と一緒に戦いたい。」


表情には出さないが、家族想いの優しい子だ。この子を、どんなことをしてでも必ず守ってみせる。アンジェと一緒に。そう誓ったアデルは宣言する。


「アンジェ!ネリー!エルピスシステムを使う!!」


「うん!」


「わかった。」


三人は手を取り、同時に唱えた。


「「「エルピスシステム起動!!」」」


アデルは自分の中に、アンジェとネリーが融合していくのを感じた。予想は正しかったのだ。エルピスシステムで融合できる人数は、一人だけではない。ゲイルが認めた相手なら、何人でも融合できるのだ。例えば、彼の娘であるネリー。ライバルであるエリックなども。大切な人が増えれば増えるほど、アデルの力は強まる。


そして、


「「「モード・セイヴァー!!!」」」


アンジェとネリーは融合し、アデルは四枚の翼を持ち金色に輝く新たなる姿、セイヴァーモードへとパワーアップした。発生したエネルギーの余波で、ミライを覆っていた煙幕が消し飛ぶ。


「これは…」


ミライもまた、真の最強形態へと変貌したアデルの力を感じていた。アインソフオウルモードの3000乗、いや、それ以上だ。しかも、アインソフオウルモードが霞んで見えるほどの速度でさらにパワーアップしていっている。退化しているとはいえ、ネリーはオリジナルのアザトースであり、アデルはそれを容れるための器でもあるため、そういう点から見ても相性はいいのだ。それもまた、セイヴァーモードの超絶的すぎるパワーの理由とも言えるだろう。


アデルはミライに近付き、向き合った。それだけで宇宙が数千兆は破壊され、同時に創造されるだけのエネルギーが発生する。互いが神を超え、条件は同じとなった。力が拮抗した状態なら、勝敗を決するのは想いの力。


「俺は…俺達はあなたを救う!!」


「私を救う?戯れ言を!!」




とうとう最後の戦いが始まった。タイムリミットまで、あと二十分。


勝つのはアデルか、それともミライか…。





長かった戦いが、傭兵達の物語がようやく終わる。もはや、やるべきことはただ一つ!!勝て!!勝ってミライを救え!!メタルデビルズ!!!


最終回、『あなたを忘れない』。


いよいよ完結!!お楽しみに!!

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