第五十六話 ぶつかり合う想い
今回はヴァルハラでの戦いです。
「おおおおっ!!!」
咆哮を上げながら突撃する狩谷。だが、このまま突っ込んでもやられるだけだ。魔術を使って、自分の周囲に四つの光る円盤状の刃を出現させ、一緒に突撃する。ゴーザは腕が四本あるが、同じ数だけの攻撃を出現させたのだ。これで一度に繰り出せる攻撃は、合計五撃。確実にダメージを与えられる。そう思っていた。
「…」
ゴーザは黙って突き進んでくる。このまま進めば狩谷の攻撃を正面から受けることになるのだが、そのくらいはわかるはずだ。何か意図があるのかと警戒する狩谷。そうこうしている間に、刃はゴーザにぶつかった。予想通り、ゴーザは四本の腕に持つ剣で刃を防いだ。これでゴーザの武器は封じられた。あとはエルダーキングの一撃で、脳天から叩き斬るのみ。
「ラァッ!!」
勢い良く斬撃を放つ狩谷。しかし、それと同時にゴーザはさらに踏み込み、頭突きを繰り出したのだ。大鎌は間合いが近いと振れない。狩谷はエルダーキングを振り切れず、ゴーザの頭突きを喰らって吹き飛んだ。四つの刃に押し込まれているというのに構わず進めるほどの怪力。そんな怪力とともに放った頭突きは、高校生程度の子供を吹き飛ばすには十分すぎた。ゴーザは剣を振り抜いて刃を破壊する。
「くそっ!!」
素早く立ち上がる狩谷。だがゴーザは既に、次の行動に移っていた。彼が持つ武器が、変わっていたのである。
「デザイアのコレクを知っているか?俺は奴ほど武器を操れるわけではないが、この程度のことはできる。」
それは斧。フランキスカという、投擲用の斧だ。
「面白い技を見せてくれた礼だ。」
ゴーザはフランキスカを一斉に投擲する。超高速で回転しながら飛んでくる斧は、まるで先ほど狩谷が飛ばした刃のようだ。お返し、という意味なのだろうか。
「そうだったな。あんたが作れるのは、剣だけじゃないんだった!!」
フランキスカは投擲用なので、さだめのハルバードのような斧と比べるとかなり小さい。しかし当然のことながら殺傷力はあり、ゴーザ自身が大柄であるため、それが使うフランキスカは大きさも殺傷力も危険度も、倍以上に上がっている。加えて、ゴーザが作る武器は中級ボーグソルジャーなら一撃で倒せるレベルなので、硬度も含めてさらに危険度が跳ね上がる。いくら強化手術を施された狩谷とはいえ、まともに喰らえば無事では済まない。だから避ける。だが、フランキスカは意思を持っているかのように、逃げた狩谷を追ってきた。ゴーザにもこれくらいのことはできるのだろう。
「ちっ!!」
仕方なく狩谷は逃げるのをやめ、飛んでくるフランキスカを一つ一つ破壊していく。そして四つ目のフランキスカを破壊した時、
「!!」
狩谷は咄嗟にエルダーキングを振った。飛来したのは四本の槍。狩谷がフランキスカ相手に苦戦している間に、ゴーザは投擲用の槍を新たに生成し、投げつけてきたのだ。何とか弾き飛ばそうとする狩谷だが、無理な体勢でエルダーキングを振ったためにさばき切れず、一本脇腹に刺さってしまった。
「ぐっ!!うおおおっ!!」
しかし狩谷はへこたれず、刺さった槍を引き抜いてゴーザに投げ返した。敵を殺し損ねた武器に用はないのか、ゴーザは槍を殴って破壊する。仕留められなかったが、多少のダメージは与えられた。そう思うことにする。
「…」
と、ゴーザが見ている目の前で、槍を引き抜いた時に抉れた狩谷の脇腹の傷が再生していく。ウボ=サスラの細胞で強化手術された狩谷は、人知を超越する再生能力まで手に入れていたのだ。
「強ぇな…俺だってこの前より強くなったはずなのに、まるで差が縮まった気がしねぇ。」
「…」
悔しがる狩谷を見て、ゴーザは黙って剣を再度生成する。そして剣にエネルギーを込め、連続で振った。
「デストラクションダンス!!!」
狩谷の再生能力を見て、再生できないほど細切れにするという作戦に出たのだ。狩谷は自身に強化魔術を使用し、スピードを生かして回避する。
(こんなもんいちいちさばいてらんねぇよ!!)
ゴーザのパワーとスピードは、今まで戦ってきた相手と比べても桁外れだ。一撃でもさばこうとすれば、その瞬間に二撃、三撃と畳み掛けられ、倒されてしまう。
(スピードだけでも奴を上回れていることを願うぜ…!!)
狩谷はひたすらかわし続け、
「そこだ!!ハイスピードエッジ!!!」
隙を突いて風の刃を放った。ゴーザはかわすことなく受ける。ダメージはない。
「だったら…エクストリームエクスタシー!!!」
もっと大きな攻撃をぶつける。狩谷はエルダーキングから巨大な光刃を飛ばした。
「クワトロインパルス!!!」
ゴーザも負けじと光線を発射し、エクストリームエクスタシーを撃ち破った。
「ちっ!!」
クワトロインパルスをかわす狩谷。だが、かわした先にゴーザが超高速移動し、狩谷の全身を滅多斬りにした。
「ぐああああっ!!!」
激痛が精神を蝕む。動きが止まる。最後にゴーザは剣から衝撃波を飛ばし、狩谷を壁にぶつけた。
「がはっ!!」
盛大に吐血する。背後の壁にも、おびただしい量の血液が血痕を作る。痛い。痛い。苦しい。
「…くっ!!」
しかし、狩谷はエルダーキングを握り締め、再生能力と回復魔術を使い、傷を治して立ち上がる。
「お前が立ち上がるのは友を守りたいからか?」
ゴーザは、大怪我を負ってもそれを無理矢理治して立ち上がる狩谷を見て、質問を投げ掛けた。
「お前にとって、あの訓練生達はそれほどまでに守りたい存在なのか?」
「そうだよ。俺は負けられねぇんだ!!」
当然とばかりに返す。力の差は圧倒的だが、それでも負けられない。だから、立つ。
「お前は何で戦うんだ?何で世界を滅ぼそうなんて連中の肩をもつ!?この世界がなくなってもいいとか、本気でそう思ってんのか!?お前には守りたいやつとかいねぇのか!?」
狩谷には理解できなかった。こんなに素晴らしい世界を、なぜ滅ぼそうとするのか。なぜそのような集団のために戦おうとするのか。守りたいと思った存在はいないのか、と。
「ああ、いる。」
ゴーザは平然と答えた。
「だったら何で…!!」
なおさら理解できない。世界が消えたら、守りたい者はみんな死んでしまうのに。
「…盟主ミレイヌ様と、智将軍マヴァル。マヴァルは俺の親父だ」
「!?」
そこからゴーザは自分とマヴァルの関係を、自分達の生い立ちを話し始めた。
マヴァルはある病気にかかっていた。体力が衰えるウイルス性の病で、最後には死に至る。山奥という環境でしか発生しないウイルスで感染力も低く、同様に知名度も低い。ゆえに知っている医者が限られており、また治療法も確立されていない。ゴーザはたった一人の肉親であるマヴァルを救うため、方々に走り回り、あらゆる手を尽くした。山をいくつも越えた先にある村の医者を頼ったり、よく効くと評判の薬草を試したりもした。だが、マヴァルが回復することはなかった。
残された手段は、祈ることだけだった。誰でもいい。親父を救ってくれるのなら、例え相手が悪魔だろうと構わないと。
現れたのは、ヴァルハラの盟主だった。
まだ創設したばかりだったヴァルハラは、とにかくたくさんの改造サンプルを求めており、『改造手術によって不治の病を治せるか』というデータを集めるため、マヴァルの噂を聞き付けたミライが訪ねてきたのだ。手術は無事成功し、病はボーグジェネラルとなることで完治した。親子は心の底からミライに感謝し、絶対の忠誠と生涯の服従を約束したのだ。
「俺達親子は、ミレイヌ様に返し切れない恩がある。だからどんな命令であろうと従う。死ねと言われれば死ぬ。俺にはそれだけの覚悟がある」
「…そうだったのか。悪かったな、俺、あんたには守るべき人がいないから、ヴァルハラに入ったのかと思ってたよ。」
並外れた忠誠心。そこには、自分の親を死の危機から救ってもらったという恩があった。
「…けど、それでも俺は負けられない。俺にだってゲイルには、妹の仇を討ってもらったっていう恩があるんだ!!それだけじゃねぇ!!」
狩谷はダメージを完治させ、エルダーキングを構える。
「俺には夢がある!!恵まれない子供達のために、孤児院を開いて幸せを与えてやるっていう夢が!!」
仲間のためだけじゃない。夢のために、これから先を生きる子供達に未来を与えるために、命を懸ける。狩谷にもまた、ゴーザの覚悟に劣らないだけの決意があった。
「…そうか。いや、そうでなくてはならないな。それだけの想いがなければ、この戦場に立つことは許されない。」
狩谷もまた、もう人間とは呼べない存在となってしまった。そうまでしてやらなければならないことがある。その決意を知ったゴーザは、四本の腕を広げる。
「その想いに敬意を払って、お前は俺の最強の技で葬ってやる。」
「いいね。俺も新技、決めさせてもらおうと思ってたところだ…!!」
互いに譲れない。その想いを背負って、戦う。ゴーザの全身から、青いエネルギーが吹き出した。
「アスラ・ザ・バトル!!!」
これがゴーザ最強の技。全身からエネルギーを噴出させ、一時的に爆発的な身体能力を発揮して相手に乱舞を叩き込む技だ。対する狩谷も、新しい技を使う。ゴーザがやったのと同じように、エルダーキングから流れ込む魔力を全身に纏い、能力を強化する。狩谷が使う力は、ハスターの力。正真正銘のハスターだ。ゆえに、この技はこう呼称される。
「トゥルーハスタードライブ!!!」
互いに全力。このぶつかり合いが最後となる。
「これを最後にお前との縁は切れるだろう。だから聞かせてくれ、お前の名を。」
ゴーザに言われて、そういえば三将軍側に面と向かって名乗ったことはなかったなと思う狩谷。だから名乗る。
「狩谷信介だ。」
「…いい名前だ。では…」
好敵手の名前は心に刻んだ。なら、あとやるべきことは一つだ。
「さらばだ狩谷信介!!俺達の最終作戦のため、ミレイヌ様の魂の礎となって死ね!!!」
ゴーザは突撃した。これまでとは比較にならないスピードだ。狩谷はそれをかわして斬りかかる。
「ぬかせよ。勝つのは俺だ!!お前達に俺達を止めさせはしねぇ!!!」
二人はぶつかり合い、斬り合い、殺し合う。激しい、あまりにも激しい戦いだった。二人の力は互角だった。正確に言えば、狩谷はゴーザよりもパワーで劣り、スピードで勝っている状態だ。ゴーザの恐るべきパワーをかわし続けることで、互角の状態を作っているのである。とはいえ、このままでは決着がつかない。何とか決定打を与えなくては。狩谷の脳裏に、ハスターとシュリュズベリィとの特訓の記憶が蘇る。
『風属性の力。その最大の利点は、スピードにある。』
『しかし、相手はそれだけでは倒せない強敵のようだ。スピードを生かして隙を作り出し、強烈な一撃を打ち込む。それが、三将軍とやらを倒す最大の武器となる。』
(スピードを生かして隙を作る!!)
狩谷はゴーザの攻撃をかわし、一度素早く大きく後退。そこからさらに素早く再接近する。ゴーザが反撃してくるより早い。
(強烈な一撃を!!)
そう思いながら狩谷が放ったのは、右ストレートパンチ。
(馬鹿か!?こんなもので俺が…)
ゴーザは腕を交差させてガードする。
その瞬間、ゴーザは吹き飛ばされていた。
「!?」
一瞬何が起きたのかわからなかった。だがすぐ理解する。狩谷の拳が触れた瞬間に暴風が発生し、それに吹き飛ばされたのだ。
「サイクロンエフェクト…!!!」
狩谷は本来エルダーキングに纏わせて使うサイクロンエフェクトを、自分の拳に使用していた。それに気付かなかったゴーザは何の警戒もせずにガードし、吹き飛んだ。
「これで終わりだ!!!」
狩谷はエルダーキングを振り上げ、ある技を使う。先日ハスターから教わった技だ。それは、ハスターの歌の力をエルダーキングの刃に纏わせるというもの。ハスター達との特訓でさらに魔術の精度を上げた狩谷は、より強力なマイクロウェーブを発生させられるようになった。このマイクロウェーブを纏った一撃を当てれば、さすがのゴーザも耐えられない。
「エクストリーム、ハートブレイク!!!!」
狩谷はゴーザに向かって突撃した。喰らう前に終わらせると、ゴーザも向かってくる。しかし、狩谷の方が速く攻撃の完全阻止は間に合わない。仕方なくゴーザは上二本の剣でエルダーキングを受け止め、下二本の剣で狩谷の両脇腹を斬った。
「ぐっ!!うおおおおおおお!!!」
血を吐いたが、狩谷の力は全く緩まない。ゴーザの剣は強烈なマイクロウェーブを浴びて沸騰し、泡立つ。慌て下二本の剣も防御に回したが、それがまずかった。防御に回さず攻撃していれば、狩谷に勝てた。エルダーキングを弾き飛ばしてから細切れにしてやればいい、そう考えたのがいけなかった。
「おおおおあああああああああああああ!!!!!」
狩谷は残された気力を振り絞り、マイクロウェーブをさらに強化したのだ。マイクロウェーブは後出しされた剣も一瞬で沸騰させ、狩谷は脆くなった剣を一撃で破壊。そのままエルダーキングを振り下ろして、ゴーザを斬った。
「うおおおらあああああああああああ!!!!!!」
最後のとどめと、踏み込みながら横に一閃、エルダーキングを振る。ゴーザの身体に、十字に走る裂傷。
「ぐ…おっ…ああっ…!!!」
ゴーザは前のめりに倒れ込み、爆発した。
「うっ…ぐぅぅ…!!」
やがて炎の中から姿を現した、人間体のゴーザ。
「まだだ…まだ…死ねない…!!」
ゴーザは無理矢理立ち上がり、ふらふらしながらクルセイドキャッスルの奥へと消えていった。
「…」
狩谷はゴーザを追わなかった。わかっていたからだ。ゴーザにはもう、戦う力が残っていない。恐らくマヴァルに会いに行ったのだろうが、ああやって歩けるだけだ。そのうち力尽き、死んでしまうだろう。
「やったぜ…空子…」
狩谷は自分の傷を回復し、倒れた。再生能力の発動には体力を消耗し、魔術の使用には気力を消耗する。疲労が限界に達したのだ。
「ゲイル…アンジェちゃん…あとは…任せたぜ…」
彼にも、戦う力は残されていない。狩谷はゲイル達の勝利を信じて、意識を手放した。
*
「はぁ…はぁ…」
空子は荒い息継ぎをしていた。
「…よくやったと言っておこう。」
マヴァルは今までずっと自分相手に弾幕勝負を演じていた空子を、評価した。
「パワードスーツを装着しただけのただの人間でありながら、将軍の域に立つこのわし相手にここまで喰らいついてくるとはな。」
空子は改造を受けたわけでも、何か特別な処置を受けたわけでもない。ただ撃った物を必ず、素早く命中させられるだけの、ただの人間だ。そんな彼女がヴァルハラ最高戦力の一人、智将軍マヴァルを相手に対等に戦えているというのは、もう奇跡とさえ言えた。メシアジャケットが優秀だったということもあるが、それを差し引いてもやはり驚異的だ。
「ゆえに残念だ。実に残念だ。貴様のような優秀な人材を、組織に組み込むことなくこの手で潰さねばならんとはな。」
「まだ…終わりじゃない!!!」
空子はハイパーギガトラッシュとライフイーターの銃口をマヴァルに向けた。
「無理をするな。貴様の武器はもう、全て残弾が尽きかけているはずだ。」
確かに、ここに来るまでの間にかなりの弾薬を使った。マヴァルとの戦いでも相当な量を使った。残りはわずかだ。一応弾薬を気にせず戦える武器も持ってきてはいるが、恐らく気休めくらいにしかならない。メシアジャケットもボロボロにされ、いつ破壊されてもおかしくないレベルだ。
「もう戦うな。わしも息子を持つ身だ。子供を殺すのはいささか気を遣う。できれば苦しませず逝かせてやりたい」
「…あなたに子供がいるの?想像できないんですけど…」
「既に会っておろう。闘将軍ゴーザがわしの息子だ」
「あいつが!?」
「思えばゴーザにもずいぶんと苦しい思いをさせてしまった。こんな死に損ないを追って、ヴァルハラに来たのだ…」
ゴーザ。自分を救うため、あらゆる方法を使ってくれた息子。最初、ヴァルハラに行くのは自分だけでいいとマヴァルは彼を止めた。だが、親父が心配だ親父が気になると言って聞かず、同じ将軍となって自分と盟主を支え続けてくれた。本当に、素晴らしい息子だった。だからこそ、何の改造も受けていない普通の子供を殺すのは、彼でさえ心に負担がかかる。せめて苦しまないように死なせてやることが、智将軍たる自分にできる礼儀。そうであると信じていた。
「だからもう戦うな。じっとしておれ。さすれば、わしは貴様を苦しめることなく、一撃で死なせることができる。」
マヴァルは空子を諭す。
「…まぁ、このまま黙って立っていれば、苦しまずに死ねるでしょうね。」
マヴァルの攻撃は常人である空子にとって、一発一発が致命傷だ。回避もせずに突っ立っていれば、その瞬間に死ねるだろう。
「…許せよ。わしも盟主に支える身。どのような戦いにおいても、負けることは許されんのだ。」
マヴァルは巨大なクリスタルを二本生み出した。これで空子を刺すつもりだ。
「そうよね。あたしを殺さなきゃいけないもんね…やるしかないのよね…」
空子も、マヴァルの考え方は認めている。
しかし次の瞬間、ハイパーギガトラッシュから二発の弾丸が飛び出し、クリスタルを破壊。
「ふざけんな!!!」
ライフイーターの銃弾の嵐が、マヴァルへと殺到した。
「苦しませたくない!?大きなお世話よ!!あたしだって覚悟くらいできてるわ!!負けられない!?こっちも同じなのよ!!あたしも勝たなきゃいけないの!!こんな弱いあたしを好きになってくれた狩谷のためにも!!!あたしにあんたとの戦いを任せてくれたゲイル達のためにも!!!!」
やがてライフイーターは弾切れを起こし、空子はライフイーターを投げ捨ててアイアンクエイクで射撃する。
「結局自分が救われたいだけなんでしょ!?綺麗事に聞こえるけど、あたしを殺した後の痛みに耐えられないから、そんな考え方しかできないんでしょ!?そんなやつに、あたしは絶対負けない!!」
撃つ、撃つ、ひたすら撃つ。マヴァルのクリスタルの表面には少しずつ傷が付いていっているが、クリスタルの中央にある、黒い炎のような部分には全くと言っていいほど届いていない。あそこが恐らくマヴァルのコアなので、あそこさえ撃ち抜ければ勝てると思うのだが…そうこうしているうちにアイアンクエイクも弾切れを起こす。
「…わかってはもらえんか。なら、これ以上話すことは何もない。」
マヴァルは傷を修復しながらクリスタルを集め、
「死ね。」
ダークフレイムブラスターを放った。それをかわす空子。だが、空子がかわした瞬間、そこにクリスタルが出現する。ダークフレイムブラスターはクリスタルに当たると、ダークフレイムブラスターを吸収し、何本もの火柱に拡散させながら空子に放った。
「なっ!?」
それもかわした空子。同じようにまたクリスタルが出現し、炎を吸い込んで拡散して空子に放つ。それが何度も繰り返される。
「ダークフレイムディバイダー。智将軍たるこのわしの、最大最強の技よ。いずれ貴様は拡散し続ける炎に逃げ場を奪われ、焼け死ぬ。」
拡散し、相手を追い続けるダークフレイムブラスター。それが、ダークフレイムディバイダーだ。ダークフレイムブラスター自体が、通常形態の分身だったとはいえビャクオウを灰も残さず焼滅させるほどの大技である。ビャクオウより遥かに防御力の劣る空子が受ければ、即死は避けられない。
しかし、
(待っていたわ!!あんたが大技を使う、この瞬間をね!!)
今のマヴァルはダークフレイムディバイダーの制御に意識を奪われている。意表を突く攻撃を行えば、この技は崩れるはずだ。ライフイーターとアイアンクエイクを弾切れさせたのも、こちらが慎重になると思い込ませるための計算ずくの行動。今まで使わずに温存していた武器を、使う。
「ティンダロス!!!」
取り出されたティンダロスは空子の命令に従い、マヴァルに襲い掛かる。
「ぬう!?」
案の定技は中断され、その隙に空子は周囲のクリスタルをハイパーギガトラッシュで破壊する。
「クリスタルランスカウンター!!!」
飛び掛かってきたティンダロスを、カウンターで破壊するマヴァル。だがティンダロスに気を取られ、反撃の準備を整えていた空子に気付かなかった。
「ポジトロンボイス!!!」
巨大な光線がマヴァルを襲う。しかし、
「クリスタルリフレクション!!!」
ランスがマヴァルの身体から射出されて大きなエネルギーフィールドを形成し、ポジトロンボイスを弾き返した。空子の姿は閃光の中に消える。
「まだまだぁぁぁぁ!!!!」
片手にデッドブリンガーを装備した空子が飛び掛かってきた。直撃する寸前に、上に飛んでかわしたのだ。が、避けきれなかったのか、両足のスーツが破壊されており、剥き出しになった足は靴も靴下もなくなって、肌が黒焦げになっていた。彼女の足はもう使いものにならない。
(そんなの知らない!!腕さえ動けば!!!腕さえ動けば!!!!)
空子はデッドブリンガーを、マヴァルの身体の中央に突き刺し、何度も何度も引き金を引く。それでもマヴァルを貫くには及ばず、デッドブリンガーは弾切れする。しかし、想定済みだ。空子はデッドブリンガーから手を離し、その上からハイパーギガトラッシュで撃つ。
「うあああああああああああああ!!!!!」
マヴァルに光線は効かない。これだけの超至近距離で撃てば効くかもしれないが、何らかの手段を用意している可能性もある。だがハイパーギガトラッシュでも、マヴァルの身体は撃ち抜けない。だからデッドブリンガーを使って、あらかじめ傷を付けたのだ。これならマヴァルを倒せる。そう思っていた。
だが、現実は残酷である。
カチッ!
弾切れだ。ハイパーギガトラッシュまでもが、弾切れを起こしてしまった。
「終わりだ。」
直後、マヴァルの正面から大量のクリスタルの槍が突き出し、空子の身体を貫いた。腕も貫かれ、その弾みにエイボンブックも破壊されてしまった。
「がっ…」
槍を引き抜き、空子の身体を地に落とす。
「まさか無改造の人間にここまでやられるとは思わなかったぞ。惜しかったな、あと一発撃たれていれば、わしは貫かれていた。」
あと一発。本当にあと一発で、空子はマヴァルを倒せたのだ。既にメシアジャケットは全損し、パワードスーツとしての役割を果たさない。武器も全て弾切れを起こしている。エイボンブックも壊したので、新しい武器を出すこともできない。ハイパーギガトラッシュは直前で空子が放り投げたので破壊できなかったが、弾切れしているので意味はない。
空子は戦う力を奪われた。マヴァルはそう思っていた。
空子からはまだ闘志が消えていないと知らずに。
空子は突如として起き上がり、背後に向かって駆け出した。
「貴様!!」
すぐクリスタルを射出して攻撃するマヴァルだったが、空子はバク転を繰り返してかわす。満身創痍の身とは思えないほどの軽やかな動きだった。空子自身、なぜ自分がこんなに動けるのかわからなかった。とにかく絶対に勝たなければならないという意志が、空子の中から痛みを消していたのだ。空子はバク転しながら落ちているハイパーギガトラッシュを拾い、スカートのポケットに手を伸ばす。ここには、ハイパーギガトラッシュの弾が一発入っていた。もし今ある弾が全てなくなったら、これを使って最後の賭けに出ようと考えていたのだ。空子はこの最後の一発をバク転しながら、つまり空中で装填し、さらにレールガンアタッチメントのスイッチを入れる。これらの動作を全て終えてから着地し、マヴァルに向ける。照準は、マヴァルの身体の中央。さっきさんざん撃ち込んだ、あの場所だ。
「ハウリングシューーーートッ!!!!!!!」
これ以上ないと言えるほど強く念じて引き金を引く。発射された弾は吸い込まれるように弾痕に向かって飛んでいき、マヴァルの中央、コアに当たる黒い炎を貫いた。
「ぐはっ!!!」
マヴァルの身体を完全に貫通する弾丸。二つの弾痕から徐々にヒビが広がっていき、マヴァルの身体は砕け散り、爆発した。
「こ、こんな馬鹿な…!!」
人間体に戻ったマヴァルは、倒れたまま空子を見る。改造も受けていない常人の少女が、改造人間の中でも最高峰に位置するはずの自分を撃ち破った。認めたくなかったが、認めるしかない。
「言ったでしょ?絶対負けないって…ぐっ!!うぅ…」
空子は勝利したことで緊張の糸が切れたのか、自分が受けたダメージを思い出し、全身を襲う激痛に倒れて意識を失った。
「…わしは…負けたのか…」
マヴァルはもう、立ち上がれなかった。死んではいないが、もう間もなく死ぬ。それがわかっている。その時、
「親父…親父…!!」
「ゴーザ…!?」
ゴーザがやってきて、ちょうどマヴァルの近くで倒れた。
「親父…ごめん…負けた…」
「…そうか…わしも負けた…」
互いに敗北した親子。
「ごめん…親父のために…勝たなきゃいけなかったのに…」
「…もう良い。例えわしらが敗れても、ミレイヌ様は絶対に勝って下さる。それより、死ぬ前にお前の顔が見れて良かった…」
「親父…父…さん…」
マヴァルの言葉を聞き、ゴーザは満足したような笑みを浮かべて力尽きた。
「お前には、本当に苦労をかけたな…お前一人逝かせはせん。わしも一緒だ…なぁ…わしの息子よ…」
マヴァルもまた力尽きた。
*
ネイゼンはこの世界の人間ではない。こことは違う異世界から、ミライに連れられてやって来たのだ。元の世界でネイゼンは、とある帝国の将軍を務めていた。いくつもの国を手中に納め、世界に対して多大な影響力を持つとても大きな帝国だ。ネイゼンは帝国中の人から慕われる人望厚き将軍で、実力も高く、神将とも呼ばれ、皇帝が最も信頼する将軍として働いていた。
だが出る杭は打たれる。
ネイゼンより一つ下にいる彼の部下は、ネイゼンへの扱いにひどく嫉妬していた。なぜ自分はあの男より劣っているのか、なぜ自分はあの男と同じ将軍の地位に立てないのか。なぜ他人はネイゼンばかりを評価して、自分を認めようとしないのかと。
嫉妬に狂った部下は自分の不祥事をネイゼンに擦り付け、ネイゼンは反逆者として国中から追われる立場となった。自分はやっていないと証言しながら、追っ手を迎撃する日々。自分が全霊を懸けて尽くした日々は何だったのか。自分が忠義を尽くしたことに、果たして意味はあったのか。そう考えるうちに、彼は気付いた。
「全ては無意味だった。わしがやったことは、全て無駄だった。」
廃墟と化した砦で追っ手を全滅させ、自身もボロボロになった。死を待ちながら、ネイゼンは思っていた。
「わしは無実を証明したい一心で戦ったが、誰も信じてくれん以上こんな世界で生きていても意味がない。ならばいっそ、ここで全ての重荷を捨てて、楽になろうと思った。」
そう思った時だった。彼の前にミライが現れたのは。
『…誰だ?』
『私の名はミレイヌ。信じて頂けないかもしれませんが、こことは別の世界から来た者です。』
『別の世界?』
『はい。まずはお詫びを。あなたが窮地に陥っていると知りながら傍観に徹していたこと、お許し下さい。ですが、私は見極めたかったのです。あなたの実力を』
『わしの実力を?』
『…もう一度支えてみる気はありませんか?今度は、私に。』
ミライはネイゼンに、自分に支えてみないかと誘った。
『…すまんが、わしはもう誰の下にも就くつもりはない。』
『お気持ちはお察しします。ですが、私が作り上げようとしている組織には、あなたのような有能な将軍がどうしても必要なのです。どうかご安心を。何があろうと絶対に私は、あなたを捨てたりしません。』
熱心に説得するミライ。ネイゼンは黙り、考えている。
『…あなたが望むのなら、私はこの右腕を差し上げましょう。どうかこれで一つ…』
『ま、待たれよ!!』
ワルキューレを出して自分の右腕を斬り落とそうとするミライを見た時は、さすがに慌てた。
『わかった。そこまで望むのであれば、わしはあなたに支えよう。』
こうして、ネイゼンはミライに支えることになった。ここまで自分を必要としてくれる人間には初めて会った。こんな敗残の老将軍を、腕を斬り落とそうとしてまで欲しがるとは、なんという物好きだろうか。それから二人は兵士を集め続け、ネイゼンはその過程でミライこそ自分が支えるに値する真の君主であることを悟った。
「ゆえにわしは負けられんのだ。少年兵とはいえ、貴様も誰かの下に就いた身ならばわかるだろう?」
ネイゼンはビャクオウに訊いた。
「ええ、わかりますよ。私にも、命懸けで支えたいと願う上司がいましたから。」
自分にとって最も大切だった二人の雇い主。力が足りなかったばかりにみすみす死なせてしまったが、二人は死を以て自分に道を示してくれた。そして今、ナイアという三人目の大切な存在がいる。彼女だけは、今度こそ守らなければならない。
「だから私は、私なりの全力であなたを倒します。あなたと同様に、今を守りたいので。」
ビャクオウはブラックインフィニティーを出し、
「シルバーキーシステム始動!!コード・ケイオス!!」
ケイオスモードに変身した。
「望むところよ。貴様に今一度、わしの覚悟を教えてくれる。ブレイクパワーシステム、発動!!」
ネイゼンもまた、ブレイクパワーシステムを起動する。最強形態と、限界突破形態。全力の二人がぶつかり合う。
「おおおお!!」
まず動いたのはネイゼン。ビャクオウ目掛けて殴り掛かる。ネイゼンの拳は寸分違わずビャクオウの顔面を叩き潰し、粉々に粉砕した。だがその直後、ビャクオウが消える。分身だ。
「読めておるぞ!!!」
ネイゼンは全ての尾をあらゆる方向に向け、光線を発射して薙ぎ払う。いつの間にか展開されていた分身ビャクオウの軍団は、あるいは首を切り落とされ、あるいは胴を両断されて、またあるいは胸を貫かれた。いずれも致命傷であり、ビャクオウ達は全て爆発する。ネイゼンの攻撃をかわした本物のビャクオウは、ネイゼンの周囲を飛び回りながらエネルギー弾を発射した。ネイゼンはそれを腕と尾で弾き飛ばし、ならばとビャクオウは魔術で弾道を操って防御をすり抜け、直撃させる。
「ちっ…」
間髪入れず飛んできた光線をかわす。
「言ったはずだ!!貴様の攻撃など効かんと!!」
高い攻撃力と戦術眼、予想外の効果として発動する強運の他に、この耐久力もネイゼンの強みだ。
「ならば!!」
ビャクオウはホワイトスイーパーとブラックインフィニティーから、交互にギャラクティックエンドブレイカーを撃つ。
「まだまだ!!」
それから二丁を合体させ、ギャラクティックエンドジェノサイダーを撃つ。
「効かぁぁぁぁぁん!!!!」
ネイゼンはそれら全てを受け切った。本当に凄まじい防御力だ。しかし、これはブレイクパワーシステムによるものである。このシステムがなければ、ギャラクティックエンドブレイカー二発を喰らった時点で塵になっている。
「貴様ではわしを倒せん。理解したか?したなら死ねぃ!!」
尾から一斉に光線を放つ。対するビャクオウは、動かない。
(また分身か?芸のないことを…)
ネイゼンは、今いるビャクオウが偽者だと思っていた。だから、一切の行動を取らないのだと。しかし、実は違う。あることを証明するため、わざと動かないでいたのだ。
そして、それは証明される。ネイゼンの光線は、ビャクオウに触れる直前に弾かれた。
「む!?バリアだと!?」
ビャクオウを包むように球状のバリアが展開されており、それが光線を弾いたのだ。
「…これは私が展開したバリアではありません。この戦いに赴く直前に、ナイアが私を守るためにかけてくれたものです。」
ナイアはお守りと称して強力な防御魔術をかけてくれた。そのおかげで、彼だけは全くの無傷でここまで来れたのだ。
「私は彼女を守ると同時に、彼女に守られてもいる。ここまでしてくれた彼女のためにも、私は負けられないのです。」
ビャクオウは合体砲の展開を元に戻し、後ろに向けて刃にエネルギーを込める。
「ならばその護り、我が全力を以て打ち砕いてやろう。」
ネイゼンもまた両腕を前に向け、尾を背後に向けて、それぞれエネルギーを込める。
そして、
「ジェネラルグングニル!!!!!」
ネイゼンは尾からエネルギーを噴射し、ダイブするようにして飛んできた。あらゆる敵を貫き粉砕する、ネイゼン最強の技。戦神オーディンが、神槍グングニルの刺突を繰り出すように見えることから、この名が付けられた。ネイゼン最強の突撃はバリアにぶつかり、周囲に強烈な衝撃波を発生させる。ビャクオウはまだ動かず、踏ん張りながら合体砲にエネルギーを集中させていた。
「ぬぐぐ…!!!」
バリアはまだ破れない。ネイゼンはバリアごとビャクオウを叩き潰すため、尾の出力をさらに上げる。拳のエネルギーも、さらに高めた。
だが、
「あなたに、この護りは破れませんよ。」
ネイゼンの拳がナイアの護りを破ることは、なかった。
「エンドオブファントム!!!!!」
「ごああっ!!!」
その前にビャクオウがネイゼンを斬り上げたからだ。ブレイクパワーシステムを起動したネイゼンは、普通に必殺技を撃つだけでは倒せない。だから、必殺技の威力を引き上げる必要がある。ビャクオウはナイアの防御魔術に全てを託して、威力強化に集中したのだ。そして、時は来た。
「ふん!!」
大きく打ち上げられたネイゼンを追って飛び上がるビャクオウ。
「はあっ!!!」
「ぬぐあっ!!!」
今度はネイゼンを叩き落とす。
「おおあっ!!!!」
床に叩きつけられてバウンドしたネイゼンにタイミングを合わせ、ビャクオウは突撃。ネイゼンの腹を串刺しながら、壁に縫い付けた。
「…っ!!!」
エンドオブファントムを引き抜き、ビャクオウはネイゼンに背を向ける。
「ぐっ…ぬああああああああああああああああ!!!!!!!!」
大爆発を起こすネイゼン。ビャクオウの完全勝利だ。
「…く、くくく…!!」
人間体に戻ったネイゼンは、全身血まみれになりながら笑っている。
「それが…貴様の覚悟か…見事だったぞ…」
「…あなたも、近年稀に見る真の将軍でした。」
「ふふふ…行くが良い。敗残の将軍にできるのは、勝者を見送ることだけだ。そこで経験しろ…わしが支えた…真の主の…力と…覚悟…を…」
「…言われなくてもそうするつもりです。」
恐らく窮地に陥っているだろう友を救うため、ビャクオウは先を急いだ。そこには、忠義を尽くした将軍の亡骸のみが残った…。
*
ベルセルクの槍が空を斬る。一瞬にして距離を取ったフィスは、目から光弾を連射した。ベルセルクはそれをかわしながらベルセルクボムで反撃するが、フィスは軽々とかわしてしまう。
「相変わらず、デカイ図体に似合わないスピードだな。」
フィスの体躯は、ベルセルクよりも二回り大きい。これだけの巨体であんなスピードを出せるというのは、とてつもない脅威と言えた。
「こっちもそうやすやすと喰らってはあげられないのよ。」
ベルセルクはエドガーに修理された際、さらにパワーアップした。いかにフィスとはいえ、一撃でも受ければかなりのダメージをもらう。
「…本当に、どうしてこんなことになったのかしらね。」
呟きながら、フィスは前足を振りかざした。ベルセルクはアームズベルセルクで受け止める。
「少し前までは、同じ組織の仲間だったはずなのにね。」
「上司と部下の、間違いだろ!?」
ベルセルクはアームズベルセルクに力を込め、フィスを押し返した。
「私もミレイヌ様も、誰よりあなたを認めていたわ。それだけに残念…」
「オレを最後までヴァルハラの一員にしておけなかったことがか!?」
このままでは追いつけないと思ったベルセルクは、タイラントユニットを装備してスピードアップ。逃げるフィスに追いすがる。
「もちろんそれもあるわ。でも一番残念なのは…」
フィスはベルセルクの背後に回り込み、
「あなたが何も学んでないってことよ。」
後ろ足で蹴り飛ばした。
「ぐあっ!!」
「最後まで何も知らないっていうのも可哀想だから教えてあげる。あなたが私に勝てないのは、信念がないからよ。」
フィスは自分の過去について語り出す。
「私がヘブンズエデンに入学したのは、あなたと同じような理由よ。とにかく戦いたくて仕方なかった。そのための力が欲しかったの」
フィスはベルセルクと同じく、かなり荒んだ幼少期を過ごしており、気に入らない相手を叩き潰すことでしか己を満足させられなかった。そんなある日、彼女は言われたのだ。お前みたいなやつは、戦場にでも行って死ぬまで戦った方がいい。生まれてくる場所を間違えたんだ、と。確かにそうだった。日々喧嘩に明け暮れていた自分には、そっちの方が遥かに向いている。そう思ったフィスはどうにか試験に合格し、卒業した。その後はただ戦いたいがために世界各地の戦場を巡り、そしてミライに出会ったのだ。一目でわかった。ミライがとてつもなく強いということが。戦って倒したい。そう思って挑み、負けた。瞬殺だった。何をされたのか、全く理解できなかった。まぁミライが時空間を自在に操れるなんて、その道に詳しくない者が理解できるはずはないし、そんな相手にただ速く動けるだけのフィスが勝てるはずもない。
『あなたがフィーネスですね?噂はかねがね聞いていますよ。どうやら、戦うことを好むようですね。』
ミライはフィスのことを知っており、言った。
『よく覚えておきなさい。信念なき戦いは、ただの暴力に過ぎません。あなたの中の渇きは、どれだけ戦おうと決して癒されない。無意味なものなのです』
そこで知ったのだ。なぜ自分は戦いたかったのか。信念を求めていたからだ。
『だからあなたも、信念を持って戦いなさい。私の組織で』
ミライはフィスをヴァルハラへと誘い、フィスはそれに従った。そこでミライが目指すものを知り、フィスもミライを全力で守るという信念を持った。再改造を繰り返したのもそのためだ。
「あなたには自分の命を懸けても構わないという信念がない。命を懸ける理由がある者とない者では、その力に天と地ほどの差があるの。だからあなたは、決して私に勝てない。」
目から光弾を連射しながら進み続け、体当たりでベルセルクを吹き飛ばし、壁にぶつける。
だが、
「やっぱりな。」
ベルセルクは立ち上がった。
「あいつらもあんたと同じく命懸けだった。けどオレは、ただ戦いたいだけだった。なら負けたって仕方ないって思ったんだ。だから!」
ベルセルクは斬り掛かり、フィスは前足で受け止める。
「オレもオレなりの信念を持つことにした!!」
その状態で、ベルセルクはフィスの脇腹を殴った。
「ぐっ!?」
「オレに勝ったあいつらのために、道を切り拓くことだ!!」
フィスの力が緩んだのを確認し、アームズベルセルクを支えにして顔面にドロップキックを喰らわせる。
「がっ!!」
「せめてそれくらいのことはしてやらなきゃな!!」
ベルセルクボムの連射で、追撃をかける。一発喰らうごとに派手な爆発が起きてフィスは下がり、最終的には壁に叩きつけられた。
「だからオレはあんたを倒す。あいつらの邪魔になるからな!!」
最後に特大のベルセルクボムをぶつけてやった。
「…なるほど、何も学んでないって言ったのは訂正するわ。立派な信念ができたじゃない!」
フィスは羽ばたき、煙を吹き飛ばした。
「今のあなたは私が全力を出すに値するわ。どっちの信念が上か、勝負と行こうじゃない。」
今の彼女は、ベルセルクが見たことがないほど精神が高揚している。ヴァルハラから離反したとはいえ、ベルセルクが成長したことが嬉しいのだろう。
「ブレイクパワーシステム、発動!!」
起動したのは、ブレイクパワーシステム。このシステムを一番最初に搭載したのは、ネイゼン。次がフィスで、その次がベルセルクだ。ネイゼンで搭載が成功したためヴァルハラ側は完全に油断していたのだが、フィスは一度使ったきり、人間に戻れなくなった。原因はそれ以前に幾度となく行ってきた、過剰なまでの再改造。ブレイクパワーシステムの負担が複雑化しすぎた全身の機構に一気にかかり、変身に関わる機能が重大な損傷を受けてしまったのだ。もちろん、直すことはできた。今まで行ってきた再改造をミライの力でリセットすれば、直せたのだ。しかし、フィス本人がそれを拒否した。リセットすることは、せっかく再改造したことによって得られた今の力を、失ってしまうことだからだ。今のまま強くならなければ意味がない。ミライを守るためには、今の力が必要だからと。
「ブレイクパワーシステム、発動!!!」
そして、ベルセルクも、ブレイクパワーシステムを発動した。互いに限界を超えた力を発動した以上、勝負は一瞬で着く。
「はああああああ!!!!」
「おおおおおおお!!!!」
その一瞬は来た。フィスの爪牙が、ベルセルクの槍と体術が、一秒の間に何千回も交差する。
「うううう!!!」
「くおおお!!!」
フィスは距離を取り、ベルセルクも分離したタイラントユニットに乗って間を離す。と、フィスを核にしてエネルギーが大きく放出され、それが巨大なフィスの形となった。
「ガーディアンアタック!!!!」
フィスはそれを破壊エネルギーの塊として放つ。ベルセルクはタイラントユニットを加速させて突っ込み、前に向かって跳躍。
「ベルセルクストライカー!!!!」
加速した飛び蹴りを放つ。ベルセルクの蹴りはガーディアンアタックを突破し、フィスを蹴り飛ばした。
「ああああああああああ!!!!!」
蹴り飛ばされたフィスは再び壁にぶつけられ、爆発した。
「勝たせてもらったぜ、フィス!!」
勝利を確信するベルセルク。その時、彼は見た。フィスが爆発した場所に、一人の女性が倒れているのを。軍服を着た、ショートカットの女性だった。ベルセルクは、この女を知っている。
「あんた、元の姿に…!!」
そう、フィスの人間体だ。ベルセルクストライカーを受けたショックで、奇跡的に戻れたのである。
「…ふふ…この姿に戻ることは、もうないと思ってたんだけどね…」
フィス自身にも予想外だった。まさか、こんな方法で戻れるとは思わなかった。だが、彼女はもう死にかけだった。
「最後にもう一度だけ、ミレイヌ様に私の本当の姿、見てもらいたかったわ…」
「…安心しろ。代わりにオレが、一生記憶に焼き付けといてやる。」
「…嬉しい…影斗…私…もう…逝くわね…ミレイヌ様…ご武運…を……」
フィスは嬉しそうな顔を浮かべながら、死亡した。開いたままになっていた彼女の目蓋を、ベルセルクは無言で閉じさせた。
*
「ゴーザ、マヴァル、ネイゼン、フィス…」
アデルと戦いながら、ミライは呟いた。レーダーで最強の臣下達が敗北し、死亡したのを確認したのだ。
「どうやら、エリック達が勝ったらしいな。」
それはアデルも同じくレーダーで確認していた。狩谷と空子においてはかなり生命反応が弱々しいが、生きている。間違いなく勝ったのだ。
「あとは、あなただけだ!!」
「くっ…」
アデルとミライはさらに激しくぶつかり合う。ミライには無限強化機能がないので、徐々にアデルが圧倒を始めていた。そのうえ、アデルはディメンションチャージャーを狙って攻撃しているため、防戦一方なミライはなおのこと不利だ。
「この部屋ごと吹き飛ばすぞアンジェ!!」
『うん!!』
「『アインソフオウルエクスプロージョン!!!!』」
発動したのは、恒星を遥かに越える大きさの彗星を破壊したアインソフオウルモード最強の技。本来そんな技を使ったら地球も無事では済まないが、この部屋を装置ごと破壊する程度に留めるつもりだから大丈夫だ。
「ぬっ!!」
ミライは周囲の空間を念動力のように操り、アインソフオウルエクスプロージョンを抑え込もうとする。だが、うまく止められない。
(本当に強くなりましたね。こうなれば、一か八か!!)
ミライはアデルの背後に瞬間移動し、ワルキューレで切った。
「がっ!!」
これにより、アインソフオウルエクスプロージョンは中断させられる。しかし、アデルはダメージよりもミライがやったことの方に衝撃を受けた。アインソフオウルエクスプロージョンはアデルの全身からエネルギーを放出する技であり、当然背中からも放出されている。ミライは破壊エネルギーの中に自ら飛び込んで、ごり押しで技を中断させたのだ。
「ハァ…ハァ…!!」
当たり前だがそんなことをして無傷で済むはずはなく、ミライは全身がボロボロになっていた。
しかし、
ピピピピッ!!!ピピピピッ!!!ピピピピッ!!!
ディメンションチャージャーが突如として謎の音を鳴らし始め、
「!!」
それを聞いた刹那、ミライはディメンションチャージャーの前に瞬間移動した。
「私の予想通りです。当初の予定よりずっと早く、クロノクライシス発動に必要なエネルギーが集まりましたよ。」
ミライは右手のワルキューレだけを消し、その手でディメンションチャージャーのボタンを押した。瞬く間にディメンションチャージャーは分解され、台座のようなものが現れる。台座の上には、拳大の白い光球があった。ミライは右手のワルキューレを戻し、空間を操って光球を自分の手の上に移動させ、アデル達に見せつけた。
「この世界に生きる者達の争いが生み出したエネルギーです。そして彼らは、自らが生み出した力によって滅びる!!」
『ゲイル!!あれを使わせちゃ駄目!!』
「わかっている!!」
アデルは急速に接近し、光球を破壊しようとプライドソウルを振るった。しかし、その瞬間に光球が衝撃波を放ち、アデルを吹き飛ばした。
「既に滅びは避けられないものとなりました。あなた達にできるのは、私が完全平和を成し遂げる瞬間を見届けることだけ!」
ミライが手を離すと、光球は無数の歪曲する光線となってミライに吸い込まれ、ミライの姿は見えなくなった。
そして
「ファイナルコンバート!!!」
ミライは背中の翼が四枚に増え、その姿がより人間に近く、より神々しいものとなった。これぞミライの最終形態、ヴィーナススタイルである。
「これがヴァルハラ!!これが真の完全平和!!!」
「やめろぉぉぉ!!!」
『やめてぇぇぇ!!!』
ゲイルとアンジェの叫びが木霊する中、
「クロノクライシス!!!!!」
全てが光となって消え去った。
ゲイル達の健闘も虚しく、遂にクロノクライシスは発動してしまった。あらゆるものが、彼らの前から消えていく。そして、あまりにも圧倒的すぎるヴィーナススタイルの力!!希望はないのか!?
次回、『クロノクライシス』。
お楽しみに!!




