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第五十四話 後悔が終わる時

所変わって、ヘブンズエデン。

ヘブンズエデン、特待生寮。ボーグソルジャーとエボリュータントの大群は、ここにまで迫ってきていた。


だが、その大群の一部が爆発によって吹き飛ばされる。


「悪いけど、ここにはボクの大事なお嬢様がいるんだ。これ以上近づくっていうなら、全滅してもらうよ。」


やったのはナイアだ。魔力弾を炸裂させて、敵を吹き飛ばしたのである。


「ナイアルラトホテップだ!!」「ひるむな!!仲間の仇だぞ!!」「殺せ!!殺せーっ!!」


だが敵はナイアを見てもまるで止まることはなく、むしろ勢いを増して襲い掛かってきた。


「まぁ自業自得だけどさ、君ら、ウザいよ。」


ナイアは彼らが何を言っているのか、その意味を理解している。それにたった今も、彼らの仲間を何人か始末したところだ。が、ナイアからしてみればネリーとエリック以外などどうでもよく、敵対しているのならなおさらどうでもいい。彼女は主人の命を狙ってくる者は容赦なく鏖殺し、自分を殺そうと向かってくる者も当然殺る。


「邪魔なんだよ。ボクとお嬢様とエリック以外、この世界には必要ない。今すぐ全部消してしまいたい!」


言いながら、ナイアは拳を一発放つ。絶大な威力を秘めた拳はボーグソルジャー一体を容易くぶち抜いたがそれだけでは終わらず、発生した拳圧が後ろにいたボーグソルジャーとエボリュータントを九体まとめてぶち抜く。


「それでもゲイル達を殺さないのは、お嬢様が悲しむからだ。彼らはお嬢様が大切に想っている家族と友人だからね」


「わけのわからないことをごっ…ほっ…!!」


「わからなくていいんだよ。わかってもらおうと思ってないから」


背後から襲ってきたエボリュータントだが、ナイアの髪が生き物のように動いたかと思うと、無数の鋭利な槍に変化して伸び、エボリュータントの全身を串刺しにして殺害した。刺さっているエボリュータントを放り投げ、また別の獲物を倒そうとするナイア。


だが、ここで予想外なことが起きた。


「…パパ…ママ…」

いつの間にか、ネリーが寮の外に出てきていたのだ。


「お嬢様!?」


戦いに夢中で気付かなかったナイアはネリーを守ろうとするが、ネリーの近くには既にボーグソルジャーがいて、間に合わない。


「ぶっ殺してやるぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


ネリーに襲い掛かるボーグソルジャー。




だが次の瞬間、




突然三ツ又の槍を持った男がどこからか飛び出し、ボーグソルジャーの前に立ちはだかった。


「君は…」


その人物を見て立ち止まるナイア。


「え…」


ネリーは自分のそばに立つその男を呆然と見上げる。やがて、攻撃を止めたボーグソルジャーが男の名を呼んだ。




「か、影斗!!影斗じゃねぇか!!」




そう。それはもうこの世にいないはずの男、木林影斗だった。


「お前、生きてたのかよ!!トップソルジャーから話を聞いた時は驚いたんだぜ!?ヴァルハラから離反して死んだなんて聞いたからよ!!」


そのボーグソルジャーは影斗と親しかったボーグソルジャーだ。しかし、友人を前にして、影斗は何も言わない。


「トップソルジャーもあんな嘘っぱちを言うなんざ、人が悪いぜ!!当然、俺達を助けに来てくれたんだろ?」


「…」


まだ何も言わない。影斗は依然として、沈黙を守ったままだ。


「影斗…?」


さすがに様子がおかしいことに気が付いたのか、ボーグソルジャーは少し怯えたように影斗に聞いた。いつからか他のボーグソルジャーやエボリュータントも攻撃をやめ、影斗を見ている。


そして、


「悪いな。」


影斗は三ツ又の槍、アームズベルセルクでボーグソルジャーを斬った。


「ぐぎゃあっ!!」


「嘘っぱちじゃねぇんだわ。ヴァルハラから離反したってのは」


「そ、そんなぁ…お、俺達は、友達、だぐぶぅっ!!」


「油断大敵。傭兵の基本だろ?」


影斗が反逆したことが信じられなかったボーグソルジャーは手を伸ばしたが、影斗は無慈悲にも元友人の脳天にアームズベルセルクを突き刺してとどめを刺した。


「か、影斗てめぇ!!」


「本当に裏切ったのか!?」


この惨状を見ても、他のボーグソルジャー達は影斗の離反が信じられないようだ。だから影斗は言ってやった。


「ああそうだ。いずれ潰そうと思ってたやつの下にいるのも、いい加減飽きたんだよ。つーかさ、オレは自分が望む力と展開を手に入れられるよう、お前らを利用してただけなんだぜ?愛想良く振る舞って上司に忠実だったのも全部演技。お前らなんか、本当は何とも思ってなかったんだよ。仲間でも、友達でもな!」


「な、なんだと~!?」


「影斗、あんた…!!」


最初から裏切るつもりでいたことを堂々と宣言されたことで、ボーグソルジャー達の怒りは頂点に達する。


「ん~?まさかオレと戦る気か?お前らごときがこのオレと?」


「黙れ!!ぶっ殺してやる!!」


「裏切り者には死の粛清を!!」


標的を影斗に切り替えて襲い掛かってくるボーグソルジャー達。


「スタイルコンバート」


影斗はニヤリと笑ってベルセルクに変身し、ボーグソルジャーもエボリュータントも全員まとめて瞬殺してしまった。


「ハッ!ただのボーグソルジャーやエボリュータントでしかねぇお前らが、ハイブリッドウォーリアーのオレに勝つなんざ無理だっての。」


パワーアップ前のアデル達を完全に圧倒し、パワーアップしてからも拮抗してみせたベルセルクに並みの怪人が勝てるはずはない。タイラントユニットを使うまでもなかった。


「木林影斗…生きてたんだ?」


「おかげさまでな。」


ナイアは意外そうに話し掛ける。ゲイルとアンジェをミライの攻撃から庇って倒れた影斗は、確かに瀕死の重傷を負っていた。しかし、エドガーの命を受けたアーサーに回収され、奇跡的に修理が間に合い、さらに再改造を受けてパワーアップし、復活したのだ。


「で、君は何をしに出てきたんだい?もしもお嬢様に手を出すっていうなら…」


「安心しろ。オレはお前らと戦いに来たんじゃねぇ。行く前にちょっと寄っただけだ」


ベルセルクはナイアにそう言ってから、ネリーに言った。


「…この前は悪かったな。」


「えっ?」


「お前の服、ボロボロにしたの、まだ謝ってなかったからよ。」


ベルセルクは、この前ネリーの服をボロボロにしてしまったことを、謝りに来たのだ。


「…とても君はそんなキャラに見えないんだけど。」


「うるせぇ!!オレだってなぁ、悪いと思ったら謝るんだよ!!」


かなり呆気に取られているナイアに、ベルセルクは照れ隠しと抗議した。


「…いい。また、新しい服、もらったから。」


「…そっか。」


ネリーはベルセルクを許した。


「ところでお嬢様。なぜ出てこられたのですか?外は危ないから隠れるよう言ったはずです。」


それはともかく、いきなり寮の外に出てきたネリーだ。ナイアはなぜ隠れるよう言ったはずなのに出てきたのか、問い詰める。


「パパとママが、苦しんでる。」


「あの二人が?」


「あ~、なるほどな。」


ベルセルクはなにやら納得している。ネリーはゲイルとアンジェの危機を察知し、いても立ってもいられなくなって出てきたのだという。


「行かなきゃ…」


「お前は行くな。代わりにオレが行くから」


「行くって、クルセイドキャッスルとかいう城にかい?」


「だから言ったろ?ここには行く途中で寄ったって。」


クルセイドキャッスルに行こうとするネリーを制し、ベルセルクは自分が代わりに行くと言った。そもそも最初からクルセイドキャッスルに行くつもりで、ここにはネリーに謝るために寄っただけだ。


「オレも自分がやるべきことのために戦うことにしてな。じゃ、もう行くわ。急がねぇと終わっちまうからよ」


ベルセルクはタイラントユニットを装備すると、クルセイドキャッスルに向かって行った。ナイアは自分の魔術で連れて行こうかと思ったが、かなりのスピードだったので別にいいかと思い、ネリーを守ることに集中することにした。


「あの二人なら大丈夫です。さ、寮に戻って下さい。」


「…」


「…お嬢様?」


寮に戻るよう促すナイアだったが、ネリーは何か考えるような素振りをしているだけで、動かない。数秒後、


「ナイア、お願いがあるの。私をヘブンズエデンに連れて行って」











「はああああああ!!!」


「うおおおおおお!!!」


雷と水を宿した日本刀が、炎を灯した両拳が、激しくぶつかり合う。


「おおおおおおおおお!!!」


「やああああああああ!!!」


氷剣と大戦斧もまた、守るべき者を守るためにぶつかり合っていた。


「どうした!!そんな程度で俺を殺せると思っていやがるのか!!白宮光輝!!!」


「ウォントォォォォォォォォォォ!!!!」


ウォントは光輝を挑発し、光輝はそれに乗ってさらに激しく斬り掛かる。


「光輝!!挑発に乗っちゃ駄目!!」


「俺を前にして余裕だな。その余裕が命取りだ!」


「!!」


光輝は憎しみで戦ってはいない。だが、相手は両親の仇だ。そんな相手に煽られたりすれば、平常心を保ってなどいられるはずはない。なので、光輝を気に掛けるさだめ。しかし、彼女が戦っているアプリシィもまた、ウォントに並ぶ最強クラスのエボリュータント。そこまで余裕はない。気付けばさだめは両足を凍らされ、動きを封じられている。


「お前を殺してから白宮光輝を殺す。だからさっさと死ね!!」


氷剣をかざして斬り掛かってきたアプリシィ。さだめはもがくが、足は強力に固定されて全く逃げられない。


(逃げられないなら…)


かわせないなら、取る方法は一つしかない。


(弾く!!!)


さだめは左手の甲をアプリシィに向ける。その瞬間、彼女の正面に旧き印が展開され、バリアのようにアプリシィを大きく弾き飛ばした。その直後に旧き印の盾は消え、今度はさだめの両手の旧き印が発光。放たれた力が手と腕を経由して足に行き渡り、氷を破壊して彼女に自由を取り戻した。


「はっ!!」


今度は旧き印の力を付加して威力を強化し、アプリシィに向けて雷を飛ばす。


「こんなもの!!」


だが、こんな牽制のような技でダメージを受けるアプリシィではない。氷剣で雷を斬り裂き、再びさだめへと襲い掛かる。


「なぜそこまで俺の邪魔をする!?俺は白宮光輝の手から、ウォントを守りたいだけだというのに!!」


アプリシィはさだめとつばぜり合いながら、なぜどこまでもしつこく食らい付いてくるのかと尋ねた。それに対して、さだめはこう答える。


「私もあなたと同じだよ。私もあなた達から、光輝を守りたいだけ。それだけの理由で、今私はここにいる!!」


さだめはアプリシィを押し込み、己が心に抱く想いを吐露した。


「私は彼を、愛しているからッ!!!」


旧き印の力を全開にして、自身の身体能力を高めるさだめ。さらに、


「ゴールドライジング!!!」


ゴールドライジングまでも発動した。これによって彼女の腕力は瞬間的にアプリシィを上回り、アプリシィを押し返した。


「まだだ!!まだだァァァァ!!!」


アプリシィは、今度は全身から氷の弾丸を発射しながら突撃。さだめも全身から雷を放って迎撃しつつ突進し、再びつばぜり合いに持ち込む。だが、今度はさだめが弾かれた。アプリシィが押し返されたのは油断していたからであり、油断していなければ非力なさだめなど容易く跳ね返せる。


「アブソリュートゼロ・バーストストリーム!!!」


さらに溜めなしのアブソリュートゼロ・バーストストリームを放った。さだめは旧き印を再展開して防ぐ。冷凍光線は旧き印に弾かれ、周囲に飛散した。超越零度の光線すらも防ぐ、鉄壁のバリアだ。


「…!!」


しかしさだめは気付く。アプリシィの意図に。アブソリュートゼロ・バーストストリームは周囲に飛散した。ただの光線ではなく、絶対零度を下回るほどの冷気を宿した光線だ。例え旧き印のバリアは凍らせられなくても、それ以外のものは凍る。飛散したアブソリュートゼロ・バーストストリームは、着弾したさだめの周囲を凍らせ、さらに強烈な冷気を生み出したのだ。さだめの周囲だけが急激な低温となる。気温が下がれば生物は体力を奪われ、動きは格段に鈍くなる。アプリシィは体力を消耗させて、さだめから完全に自由を奪うという作戦に出たのだ。


「くっ!!」


さだめは無数の旧き印を展開し、ドーム状となるように形を変化させ、冷気を防ぐ。だが、アプリシィの意図に気付くのが少し遅かった。既にかなりの体力を奪われ、旧き印の長期展開ができなくなっていたのだ。しかし、このバリアを解けばアプリシィはさらなる冷気を浴びせてくるだろう。このままでは負ける。


「遅かれ早かれお前の体力はもうすぐ尽きる。俺の勝ちだ」


「うう…」


アプリシィの言う通り、さだめが勝てる可能性はかなり低くくなってしまっていた。




「はぁっ!!」


水神刀から水流を放つ光輝。


「ホーミングスローフレイム!!!」


ウォントは火の玉を投げつける。火の玉は水流にぶつかる寸前で破裂し、無数の火の玉となって光輝に襲い掛かった。


「ぐああああ!!!」


水流を使っていたために動きが止まっていた光輝は、火の玉を全て喰らってしまった。ホーミングスローフレイムは任意のタイミングで炎弾を炸裂させ、無数の小さな炎弾に変えて攻撃するフェイント技。ウォントの弱点は水であるが、その弱点を突く攻撃を使ったがゆえに、光輝はフェイントに引っ掛かってしまった。


「俺の炎は直線的なものばかりじゃないってことは、前の戦いでわかってただろ?いくら弱点突いたからって、それで倒せるほど俺は弱くねぇ。」


水神刀から放つ水は超高温の炎だけでなく、邪悪な意志や不浄な力が宿ったものも流し清め、消し去ることができる神の聖水だ。しかし、その聖水も直接当たらなければ、対象を消すことはできない。当然のことだ。だからウォントもまた、その弱点を突かせてもらった。彼もただ熱いだけで終わる男ではなく、戦いを分析して的確に相手を倒すという一面も持ち合わせた戦士なのだ。他の団員に比べて考えるのが苦手というだけで、戦闘そのものが苦手なわけでは決してない。


「ま、まだだ!!負けるわけには…!!」


「そうかい。なら勝つことだな。無理だろうけどよ!!」


全身を燃やす炎を、旧き印の力を使って消し去る。旧き印があれば、ある程度はダメージを回復することもできるのだが、そんな時間を与えるような優しさはウォントにはない。炎を宿した拳で殴り掛かった。


しかし、ウォントの拳はバシッという音を立てて片手で止められた。


光輝ではない。いつの間にか追い付いてきていた皇魔だ。


「なっ!?」


「…ふん!!」


皇魔はそのままウォントの拳を掴み込むと、アプリシィに向かって投げつけた。ウォントはアプリシィにぶつかり、さらにウォントが発生させていた高熱によってさだめの周囲の気温が急上昇。辺りの氷が溶けて冷気が消えたことが確認され、さだめもバリアを解除する。


「皇魔さん…!!」


「無事か?白宮。」


皇魔はふらつく光輝を支える。そこへ、レスティーも来た。


「二人とも大丈夫!?」


「レスティーさん!!」


「レスティー!!よかった…無事だったんだ…」


皇魔とレスティーが大した外傷もなく現れたのを見て、さだめは安堵する。レスティーの闇影武装の装束は気でいくらでも再生するし、弱ったふりをしていたので実際には全くダメージを受けていない。


「皇魔にレスティー…ってことは、コレクとメイカーは殺られちまったのか…!!」


「ルーラー以外の相手に苦戦するわけにはいかんのでな。」


「ウォーミングアップを兼ねて、軽~くねじ伏せさせてもらったわ!」


「ちぃっ!!」


ここにあの二人がいるということは、コレクとメイカーは倒されたということ。戦友二人が倒された事実を知り、ウォントは悔しがる。


「てこずっておるようだが白宮。加勢は必要か?」


皇魔は光輝に、自分は加勢するべきかどうかを訊く。皇魔と二人がかりでなら、絶対に勝てる。だが、


「…いえ、大丈夫です。僕一人にやらせて下さい!!」


光輝は皇魔の手から離れ、旧き印を使って自身の傷を治癒した。


「…その言葉を待っていた。」


加勢の拒否。しかし、この状況なら当然のことだ。ウォントは光輝がずっと決着を待ち望んでいた相手。そこに、いくら師とはいえ他者が干渉するのは不粋というもの。


「ならば勝て。俺が言えるのはそれだけだ」


ここは師匠として、弟子の背中を後押ししてやるべきだ。


「…はい!!」


師匠からの声援を受けて持ち直す光輝。レスティーは一応、さだめに声をかける。


「彼はああ言ってるけど、どうする?私はさだめちゃんに加勢した方がいい?」


「大丈夫。私も一人の力で勝ちたい!」


「そう。」


これもまぁ、予想通りの答えだ。


「レスティー。俺は先に行くが、お前はここに残り、二人の戦いの行方を見守れ。万が一二人が敗れるようなことがあれば…」


「わかってるわ。私もそうしようと思ってたところよ」


「…すまんな。」


皇魔はレスティーを監督役として残し、一人先へ進んだ。


「行くぞウォント!!これが正真正銘、最後の勝負だ!!」


光輝はブルーライジングを発動させる。


「上等だ!!かかってきやがれ!!!」


復帰していたウォントは全身から灼熱の炎を燃え上がらせ、光輝とぶつかる。


「殺してやる…殺してやる!!!」


アプリシィは全身から冷気を放出し、両手をこれまでとは比較にならないほど鋭利に生成された氷剣に変え、さだめに斬り掛かった。


「負けないッ!!!」


さだめもゴールドライジングを使って、アプリシィの超越零度の斬撃を受け止める。


(二人とも、頑張って!)


もし二人が負けたら、自分が代わりにウォントとアプリシィを倒さねばならない。レスティーは光輝とさだめの勝利を信じて傍観に徹した。











ダークスとイズマの戦いもまた、激化しながら続いていた。


「ぬあっ!!」


賢者の杖からエネルギー弾を飛ばすイズマ。と、ダークスの姿が消えた。


「ふん!!」


すぐ賢者の杖を自分の背後に向けて振る。そこには消えたはずのダークスがいて、イズマの攻撃を受け止めていた。シャドーテレポート。影から影へと瞬時に移動するダークスの技だ。そして、ここは屋内。移動できる影ならいくらでもある。ダークスにとって非常に有利な場所だ。


「ぬああっ!!」


だが、イズマも伊達に副首領をやっているわけではない。賢者の杖を振り抜き、ダークスは再びシャドーテレポートを使って逃げる。しかし、


「ぜあっ!!」


「ぐああっ!!」


ダークスはイズマのエネルギー弾を受けて吹き飛ばされてしまった。ダークスが次に現れる場所を予測して、現れると同時に攻撃したのだ。一度転移してから再び転移するまでの僅かなタイムラグが、シャドーテレポートの弱点である。


「汝の技は全て知り尽くしておるわ。利用できる影が多いだけなど、我にとっては何のアドバンテージにもならんぞ。」


「くっ…」


ダークスに戦い方を教えたのはイズマだ。ゆえに、ダークスの技は全て知り尽くしている。いくらでも対応できるのだ。


その時、


「アーサー!!」


「皇魔!!」


皇魔が来た。


「来たか。だが、ここは通さん。首領のもとへ行きたければ、我を倒せ!」


イズマは賢者の杖を皇魔に向け、エネルギー弾を飛ばす。


「ふんっ!!」


皇魔はそれを片手で弾き飛ばした。


「ほう、少しは力を付けたか。ならこれはどうだ!!」


イズマは今度は光線を放とうと、賢者の杖に力を集中する。


だが、


「させない!!」


ダークスがシャドーテレポートでイズマの背後に回り込み、イズマを羽交い締めにした。皇魔が来てくれたことでイズマの注意が逸れ、シャドーテレポートが成功したのだ。


「貴様ッ!!」


「行け皇魔!!俺に任せて、先へ進むんだ!!」


「すまん!!」


必死にイズマを足止めするダークス。皇魔はダークスに詫びを入れ、首領の間へと駆け抜けた。


「おのれぇぇっ!!」


「ぐわあっ!!」


イズマは全身から強烈なエネルギーを放ってダークスを吹き飛ばし、拘束を強制解除する。


「汝は今、我を足止めではなく倒すべきだった。我を倒す機会は永遠に失われたぞ!!」


「倒してみせる。それが今俺がここにいる理由で、俺の役目だからだ!!」


二人は互いにエネルギー弾を放ちながら接近し、顔面を殴った。











首領の間。


「…」


椅子に腰掛けているルーラーは、頬杖をついて目を閉じ、遠い昔の記憶を思い出していた。




『ゴホッ!!ゴホッ!!』


『闘弍!!大丈夫か闘弍!!』


1200年前。鬼宝院闘弍は病床についていた。そのそばには兄の拳壱がいて、闘弍の看病をしている。


『…ええ。大丈夫です、兄上。もう大分治りました』


『無理をするな。お前は生まれつき身体が弱いのだから、修行に参加しようとしなくていい。』


『…はい。』


『では、俺はもう行く。門下生達が待っているからな』


『はい。お気を付けて』


道場へと出向く兄を、弟は見送る。見送って、姿が見えなくなってから、


『…くそっ!!』


闘弍は床を殴り付けた。彼は虚弱体質で、無理をするとすぐ病気にかかってしまう。今回も拳壱の修行に参加しようとして身体がついて行かず、寝込んでしまっていた。


『ゴホッ!!ゴホッ…!!』


激しく動いたことでまた咳き込む。何で、どうして自分はこうも弱い?強く在りたいのに、なぜ強くなれない?



そう、思っていた時だった。



『ずいぶんと荒れておられるようですな。そんなに暴れられては、治るものも治らないというもの。少し落ち着かれよ』



声が聞こえて顔を上げると、そこには見たこともない鎧を着込んだ男が立っていた。


『だ、誰だお前は!?一体どこから入った!?』


慌てる闘弍。この男は一切の気配を感じさせず、また一切の音を立てずに現れた。使用人の中にも見た覚えのない、全く知らない初対面の相手だ。


『私のことはどうでもよろしい。それより、あなたは自分の身体のことで悩んでおられる様子。もしその体質を治す方法がある、と言ったら?』


『!?あ、あるのか!?私の身体を治す方法が!!』


『ええ。』


『た、頼む!!教えてくれ!!私は名家の人間だから、お前が望むものは何でもくれてやろう!!だから…だから…!!』

正体についての質問はスルーされてしまったが、闘弍は男が言ったことに飛び付いた。この虚弱体質、どんな医師に依頼しても治すことができなかった。もし本当に治すことができるのなら、何でもする。そう、藁をも掴む思いで飛び付いたのだ。


『でしたら、これを差し上げましょう。』


にこやかに笑った男は、闘弍に何かを差し出す。それは、真紅に輝く宝石だった。


『これは…?』


『進化の宝珠。使った者を超進化生命体、エボリュータントへと進化させる魔法の宝珠でございます。』


『エボリュータント?人間ではないのか?これを使ったら、私は人間ではなくなるのか?』


『残念ながら。ですが、これ以外にあなたの虚弱体質を治す方法はありません。すなわち、人間の自分にこだわっている限り、あなたは永遠にその苦しみから解放されないのです。どうしますか?人間のまま永遠に苦しみ続けて死ぬか、それとも人間を捨てて苦しみから解放されるか、二つに一つです。』


男は闘弍に選択を迫った。闘弍は悩む。確かにずっと悩まされてきた問題ではあるが、そのために人間であることを捨てるというのはいかがなものだろうか?だが、男の言うことも理解できる。人間である限り、この体質は治らない。それは人間である医師に診察された結果なのだから、確実だ。ならば、とるべき道は一つだった。


『…使おう。』


その答えを聞いて、男はにぃっ、と笑う。


『ではあなたが最も強く望む自分を思い浮かべながら、宝珠を自分の胸に叩きつけるのです。さすればその瞬間にあなたは人間という小さな存在から解放され、より強大な存在へと生まれ変わることでしょう!』


男から宝珠の使い方を聞いた闘弍は、意を決して自分の胸へと宝珠を叩きつけ、黄金の怪物へと姿を変えた。


『これが…私…?』


『おめでとうございます。あなたは今、エボリュータントに進化しました。苦しみが消えたでしょう?』


『…ああ。どこも痛くないし、苦しくもない。とても晴れやかな気分だ』


頑丈で強力な自分をイメージしてエボリュータントに進化した闘弍は、虚弱であるという苦痛から確かに解放された。どころか、今まで感じたことがないほどに清々しい気分だ。今なら兄やその門下生達を全員まとめて相手にしても、容易く一蹴できる。そんな気分さえした。


『これであなたは全ての苦痛から解放されました。そう、全ての苦痛から。』


男は話を続ける。


『もうあなたは、強い兄上の弱い弟などではない。今はあなたの方が確実に強く、これからはあなたが兄を自分の影として使うことができる。』


『兄上を…影…?』


『そうです。あなたの兄は、弱いあなたをいつも疎ましく思っていたはず。鬱陶しく付きまとってくる、何もできない影として。しかし、今はあなたの方が本物だ。あなたの方が強いのだから』


『…ああ、そうだな…』


闘弍は呆然と呟いた。思えば、自分はいつも兄に迷惑ばかりかけていた。そんな自分を、鬱陶しいと思っていないはずがない。しかし、これからは逆に自分が常に優位に立てるのだ。


『支配してやれば良いのです。この家を。いや、世界そのものを。あなたならば十分に可能。全てを支配する存在、ルーラーとなることが。』


『ルーラー…』


『はい。ああ、進化の宝珠をもう一つお渡ししておきますから、ご自由にお使い下さい。これ以外にも、進化の宝珠は世界各地の遺跡や洞窟に眠っていますので、探してみるのもいいかもしれません。』


男はルーラーの手にもう一つ進化の宝珠を握らせると、


『お代は結構。あなたが満足した姿を見れれば、私はそれで十分なのです。』


部屋の出口に歩いていき、消えた。


『…ルーラー…私が世界を…』


闘弍は進化の宝珠を握り締めた。



これが最強のエボリュータント、ルーラーが誕生した瞬間だった。




「ふん!!」


ドアを蹴破って首領の間に突入する皇魔。


「久しいな、ルーラー。また会えて嬉しいぞ」


皇魔はルーラーを見て言い放った。


「騒々しい男だ。もう少し静かに入ってこれんのか。といっても、貴様に会いたかったのは私も同じだ。」


ルーラーも閉じていた目を開くと、椅子から立ち上がる。


「さて、それでは始めようか。」


戦意は高揚している。ルーラーは今日、この日のために生きてきたと言っても過言ではないのだ。既に剛造と満夫は倒れた。今目の前にいる皇魔と、どこかにいるはずのレスティー。そして現在霊宮寺家を守っている照姫を倒せば、因縁は完全に消える。


だが、ここで皇魔は予想外の行動に出た。おもむろに手紙を取り出し、それをルーラーに見せたのだ。


「その文字、兄上の…なぜ貴様がそのようなものを持っている!!」


驚くルーラー。この手紙は、皇魔が剛造から内容をルーラーに伝えるよう、遺言とともに託されたものである。それは、ルーラーの兄拳壱が、ルーラーに宛てて書いたものだった。鬼宝院家がルーラーに内容を伝えるため、1200年もの長い時の中を、紙に覇気を宿すことによって劣化や風化から守り、保管してきた。皇魔は手紙を読み上げる。手紙にはこう記してあった。


『闘弍へ。


まず最初に謝らせてくれ。すまなかった。私はお前の兄であるから、弟の気持ちは全てわかったつもりでいた。しかし、まさかお前がそんな風に思っていたとは夢にも思わなかった。我ながら、何と思い上がった思想であっただろうか…だが、どうか信じて欲しい。私はお前を、家族として愛している。この気持ちは、例えお前がどのような姿になろうと変わることはない。だから、お前の気持ちに気付けなかった私を許して欲しい。もう一度言う。すまなかった


拳壱より。』


謝罪。兄の拳壱から、弟の闘弍、ルーラーに宛てた謝罪の手紙。


「…今さら…」


内容を聞いたルーラーは、明らかに憤慨していた。


「今さらそんな言葉で許しを乞うだと!?ふざけているのか兄上!!」


ルーラーは鬼宝院家を出る前、自分が感じていた劣等感と、支配されていたという感情を吐露して出た。だが、違っていたのだ。拳壱はずっとずっと、ルーラーを想っていたのだ。


「…止まらぬ…今さらそのような手紙を見せられたところで、私は止まらぬぞ!!」


怪人体へと変身するルーラー。


「哀れな男よ…」


皇魔はゆっくりと構えた。











「はあああああああああああ!!!」


「おおおおおおおおおおおお!!!」


ぶつかり合うさだめとアプリシィ。だが、二人の力は完全に互角で、どちらも決定打に欠けている。


「今度こそ終わりだ…!!」


と思っていたが、アプリシィにはまだ奥の手があった。


「アブソリュートゼロ・ブリザード!!!」


全身に超越零度の吹雪を纏ったのだ。その吹雪には無数のツララや氷塊、氷剣が混ぜられており、踏み込んで来た者を氷漬けにしてから粉々に打ち砕く。体当たりしてこの吹雪をぶつける技、それがアブソリュートゼロ・ブリザード。これがアプリシィの最終奥義だ。


「死ねぇぇぇぇ!!!」


アプリシィは突進してきた。さだめは焦りながらもそれをかわす。かわしながら、雷で迎撃する。しかし、雷は吹雪に弾かれ、アプリシィは追いすがってきた。このままでは、いずれあの体当たりを喰らってしまう。喰らえば間違いなく即死だ。


(こうなったら…)


さだめは決意する。雷が効かないのなら、方法は一つ。吹雪の中に吹き荒れる氷を全てすり抜け、冷気で凍る前にアプリシィに斬撃を当てて倒す。だが、そのためにはよほどのスピードが必要だ。レスティーほどの速度の持ち主なら可能だろうが、さだめにそこまでの速度はない。しかし、それでもやるしかないのだ。


「ゴールドライジング・MAX!!!」

ライジングMAXを使うさだめ。レスティー並みの速度を得るには、これを使うしかない。疑似進化や旧き印の加護を得ているとはいえ、それでも肉体に絶大な負担を与えるこの技。これを使って倒せなかったら、もう本当に打つ手がない。


(お願い!!通って!!私に光輝を守らせて!!)


祈るような気持ちで自分の力を全開にし、冷気と氷をすり抜けるためにスピードと動体視力を、アプリシィを確実に仕留めるために腕力を強化し、ヴォルテクスにも雷を宿す。


「やあああああああああああああああ!!!!」


そしてとうとう、さだめは吹雪の中へと突き進んだ。服が凍る、スカートが凍る、タイツが凍る、靴が凍る。美しい金の長髪までも凍り始める。だが、足は凍っていない。服は凍ってしまったが、氷は薄い。腕は振れる。肌も凍ってはいない。寒さも感じてはいない。飛んでくる氷が見える。身体は動くし、かわせる。かわしてかわして、かわした先に、遂にアプリシィが見えた。


「ああああああああああああああ!!!!!」


「!!!」


さだめは力を振り絞り、アプリシィへと横薙ぎの一撃を放つ。


「ぐあっ…!!!」


クリーンヒット。斬り裂けはしなかったがアプリシィは大きく吹き飛ばされて壁に激突し、直後にアブソリュートゼロ・ブリザードも解除された。


「はあっ…はあっ…」


さだめもライジングMAXを解除し、膝を着く。ほんの少ししか使わなかったというのに、凄まじい疲労だ。全身から力が抜けて、立ち上がることができない。また、アプリシィもまだ起き上がってこなかった。


(倒した…?)


そう思ったさだめだが、油断は禁物だ。警戒を怠らない。まず、旧き印を使って凍らされた部分を解凍。可能な限り身軽になっておく。次に呼吸を整え、アプリシィが起き上がってきた時への対策を



「き・さ・まぁぁァァァァァ~…!!!」



…練ろうとしたところで、アプリシィが両手を床に着けながら、ふらつきつつも起きあがった。その瞬間、さだめは身震いした。冷気ではない。アプリシィがこちらに向けてくる、圧倒的な殺意によって。向こうもダメージは負ったはずなのに、まだこれだけの殺意を放つことができるとは思わなかった。あの憎悪に染まった瞳を見ているだけで、全身が凍りつきそうだ。


しかし、その瞳は別の方向を向いて驚愕へと変わる。




「ぐあっ!!」


ウォントに殴り飛ばされた光輝。


「このっ…!!」


すかさず水神刀から水流を放って攻撃する。


「ハァッ!!」


その水流に両手から炎を出して対抗するウォント。本来なら、ウォントの炎は消されてしまうはず。だが、炎は水流を押し返し、光輝はかろうじてかわした。


「なっ!?どうして…さっきまでは消せたのに…」


「その水はただの水じゃないんだろうが、こっちもただの炎じゃないんでなぁ。出力を上げてやればいいんだよ!!」


「くっ!!ならもう一度!!」


「無駄だっつってんだろ!!」


再度水流を放つが、また押し返されてしまう。


(本当に効かないのか…!!)


ウォントがここまでの力を持っているとは思わなかった。水神刀が絶対の切り札ではなくなったことを知り、光輝は焦り始める。


しかし、それはウォントも同じだった。


(つっても、これだけの炎を連発できるわけじゃねぇんだけどな。ったく、やべぇもん持ってきやがって…)


最終強化を経ても、ウォントの炎は水神刀が出す水を超えられなかった。だが、ある方法を使うことによって、ウォントの炎は水神刀の水を超えることができるのだ。


その方法とはすなわち、自身の生命力を炎に変換すること。


負けるのは、エネルギーが足りないから。だから自分の命を燃料にして炎を強化し、水を破っているのだ。だが命を燃やすということは、彼の寿命を縮めてしまうということ。ゆえに、連発はできない。


(気付かれたらアウトだ。奴がこのまま電撃で勝負してくれりゃあ、勝てる)


ウォントは結局自分が水という弱点を克服できていないことを悟られないよう、細心の注意を払う。


「…どうかしていた。」


「?」


と、光輝は唐突に言った。


「お前は僕の手で、僕の力で倒さなければならない。だから!!」


光輝の全身に、稲妻がほとばしる。


「こっちで!!雷の方でお前を倒してやる!!」


光輝はウォントを、己の本来の能力である電撃を使って倒すことにしたのだ。


「ブルーライジング・MAX!!!」


光輝もさだめと同じようにライジングMAXを発動する。羅刹刃の刀身に雷が宿り、水神刀の刀身にもまた雷が宿る。


「そうこなくちゃな…アトミックブレイズ・ボンバー!!!」


対するウォントは、自分が生み出せる最大火力の炎、自身のエネルギー全てを両拳に送った。凄まじい熱量に、ウォントの両拳が燃え上がる。全炎を両拳に回し、敵を殴り燃やす技、それがアトミックブレイズ・ボンバーだ。全てのエネルギーを拳に回しているため、本体の防御がかなり手薄になる。つまり、防御を捨てた攻撃重視の技。本来なら、恐らくこれを使う必要もなかった。だが、光輝のライジングMAXが命懸けの技だということを、彼はもう知っている。命懸けの覚悟には全力で応えるのが、彼のポリシーだ。それに彼はこの戦いで…


「行くぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


「こぉぉぉぉいッ!!!!」


光輝は自分が出せる全速力で突撃し、全力の刃を振るった。それを片方の拳で止めるウォント。続く二刀目の斬撃も、もう片方の拳で受け止める。そこからは、互いに連撃を放つのみだった。ウォントの拳がかする度に、服には焦げ跡が付き、肌には焼け付くような熱気が襲う。光輝の斬撃がかすめる度に、防御用のエネルギーが足りていないウォントの身体には、痺れるような痛みが走る。どちらも当たれば一撃必殺。クリーンヒットすれば確実に倒れ、二度と立ち上がれまい。


「おおおおおおおおおおおお!!!!!」


両拳で一撃を放つウォント。光輝はそれを受け流し、ウォントの胴に向けて斬撃を放つ。奴の体勢を崩した!あの姿勢ではかわせない!決まった!勝利を確信する光輝。


だがそこで簡単に決めさせてくれないのがウォントだ。咄嗟に両拳から炎を噴射して、その勢いで飛び退いてかわす。


「ぐっ…」


だが完全にはかわしきれず、胸に大きな裂傷が入った。


「…どうした!!俺を殺すんじゃなかったのか!?その程度で俺に勝てるって本気で思ってたのかよ!?」


決して浅くはない傷。普通なら慎重になるはずだが、なぜかウォントは光輝を挑発した。


「そんな程度であいつらの息子だと!?笑わせるぜ!!このくそったれの雑魚助野郎が!!」


「ぐう…!!」


「悔しいか!?悔しかったら俺を殺せ!!殺ってみろ!!その程度のこともできねぇのか!!俺を殺さなきゃ、お前より先にあの女を殺すぜ!!」


さらに挑発するウォントは、さだめを指差した。その瞬間に光輝は目を見開き、


「させるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


構えて突撃した。


「来い!!白宮光輝!!!」


「うおおおおああああああああああ!!!!!」


なおも挑発を繰り返すウォント。



そして、



羅刹刃と水神刀の二本の刃は、ウォントの両胸を貫いた。



「…えっ…?」


ウォントは一切反撃することなく光輝の刺突を受け、ダメージで変身が解けた。


「…ふっ…」


ウォントはそのまま仰向けに倒れ、それに従って二本の刀も抜ける。


「がはっ!!ごほっ!!」


背中を強く打ち付け、ウォントは激しく吐血する。


「兄さん!!!」


それを見ていたアプリシィはさだめとの戦いを放棄し、ウォントのそばに駆け寄った。


「兄さん!!兄さん!!!」


ウォントを揺さぶるアプリシィ。光輝の刀は、ウォントの両胸の肺を貫いていた。出血もひどい。もう助からないだろう。


「どう…して…どうして…?」


なぜ反撃してこなかったのか。呆然と問いかけた時、光輝は無意識のうちにライジングMAXを解いていた。


「…死ぬつもりだったからだよ。俺なりに、ケリを着けるためにな…」


ウォントはこの戦い、負けるつもりだった。負けて死ぬつもりだった。


「何で…何でこんなやつのために、兄さんが!?」


アプリシィはウォントに訊く。彼もまた、変身を解いていた。


「終わらせるには、俺が死ぬしかなかった。事の発端である、俺がな…白宮、よくやった。約束通り、あいつらから聞いたメッセージを伝える…」


ウォントは自分が隼人達から聞いたメッセージを、光輝に伝えた。


「『誕生日おめでとう。プレゼント、渡せなくてごめん。』…だとよ」


「!!」


その言葉を聞いて、光輝は震える。


「…お前、次の日は誕生日だったんだってな。あいつらから聞いたよ…悪かったな、お前らの幸せを…家族を奪っちまって…」


覚えている。あの事件があった次の日は、光輝の誕生日だった。


「…覚えててくれたんだ…」


あの頃、隼人も優子も仕事にかかりきりで、自分の誕生日なんて忘れていると思っていた。だが、二人は覚えていてくれたのだ。


「がふっ!!ごっ!!」


「兄さん!!もうそれ以上喋っちゃ駄目だ!!」


「…いや、喋らせてくれ。頼まなきゃならないことがあるからな…」


ウォントは吐血しつつも、無理をおして話す。


「アプリシィ、白宮を恨むな。」


「!?どうしてだ!!こんなことをしたやつを、恨むなっていうのか!?」


「そうだ。元々悪いのは俺だから、殺されても文句は言えねぇ。それに、憎しみの連鎖は断ち切らなきゃならないからな。お前が、それをやるんだ。俺はもうお前を助けてやれないが、お前は強い子だ。やれるよな?ごほっ!!」


「兄さん!!」


「…白宮。アプリシィを、俺の弟を、頼む…」


「…」


光輝はウォントの頼みを黙って聞いていた。頷くこともできなかった。しかし、それでもウォントは微笑みを浮かべている。


「…ああ…やっと終わった。五年間続いた…俺の後悔が…やっと…やっ…と…」


ウォントはゆっくり目を閉じ、そして息絶えた。


「兄さん…兄さぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」


兄の遺体を抱き抱えて泣き崩れるアプリシィ。光輝はそれを呆然と見ていた。全身から力が抜けていくのを感じる。


「光輝。」


倒れそうになった彼を、さだめが支えた。


「さだめさん…」


「…」


さだめは何も言わない。何を言ったらいいのか、彼女にもわからなかったからだ。


「行きましょう。皇魔とアーサーさんが待ってるわ」


全てが終わったと見たレスティーは先頭に立って歩き始めた。光輝はさだめに肩を借りて歩く。だが数歩進んで立ち止まり、振り向いた。アプリシィはまだ、泣き続けている。


「…」


光輝は今度こそ、先へ進んだ。




「…さだめさん、レスティーさん。」


やがて、激闘があった部屋からかなり離れた頃、光輝は二人に尋ねた。


「…僕がやったことは、本当に正しかったのかな…?」


「…」


さだめは答えない。


「光輝くんがやらなくても、私や皇魔がやったわ。倒さなきゃいけない相手だもの」


レスティーは答え、


「…はい。」


光輝は頷いた。











ゲイルもアンジェも甘く見ていた。相手はトップソルジャー。ボーグジェネラルよりも下の存在だ。


だが、


(つ、強い…!!)


アンジェはそう思わずにはいられなかった。


「おおおっ!!!」


プライドソウルによる一撃を放つアデル。だが、フィスの姿が消える。直後、


「スーパーソニッククロー!!!」


「ぐああっ!!」


フィスが背後から突撃し、前足の一撃でアデルを壁に叩きつけた。


(まただ!!)


フィスはとてつもないスピードの持ち主で、先ほどからずっと二人の攻撃がかわされ続けている。フィスは二人をミライのもとまで通さず、遠距離攻撃で装置を破壊しようとしても、ミライがバリアを張って防いでしまう。アインソフオウルモードを使おうにも、フィスはそれを警戒して二人が接触しないように攻撃してくる。



打つ手がない。そう思っていた時だった。



「おりゃああああああああああ!!!!」



天井を破壊して、何者かが飛び込んできた。


「お、お前は!!」


アデルはその人物を見て驚く。


「木林影斗!!」


アンジェも驚いた。飛び込んできたのは、影斗の変身するベルセルクだったのだ。


「間に合ったらしいな。」


ベルセルクはミライとフィスを見て言った。





ウォントは散った。光輝達はさらに先へと突き進み、そこで皇魔とともに変わり果てた姿となったルーラーと対峙する。


激闘に参戦する影斗。彼が対戦相手に選んだフィスには、知られざる因縁があった。そして、ネリーもまた、戦う決意をする。


次回、『魔人、墜つ』。


お楽しみに!!

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