第五十二話 決戦前夜
最後の戦い、迫る。
クロノクライシス計画発動までの期間はわかった。エドガー・サカウチという犠牲を払って。
「確かに問題のある人だったわ。いつか必ず、報いが来ると思ってた。でも、それがこんな形だったなんて…」
「飼い犬に手を噛まれた、か…だが、実力は確かだった。残念だ」
レスティーと皇魔は言った。エドガーは技術力こそ抜きん出ていたが、それ以外にあまりにも問題がありすぎた。大きな目的があったとはいえ傭兵育成機関を作ったり、たくさんの国の弱みを握ったり。そんなことをした人間には必ずと言っていいほど、報いがある。だが、エドガーの死に様はそんな彼に不似合いだと言えた。ゲイル達に全てを託したという死に方ではない。自分の教え子に殺されるという末路だ。何度も助けられてきただけに残念だった。特に彗星での戦いでは、本当に助かった。
その時、プシューッ!!と音がした。
全員が驚いて振り向いてみると、何かがある。それは、カプセルだった。カプセルの周りに、もうもうと煙が立ち込めている。先ほど音を鳴らしたのはこのカプセルだろう。間もなくしてカプセルが上に開き、誰かが出てきた。なんと、死んだはずのエドガーではないか。
「理事長!?」
再び驚いたゲイル達は、カプセルから出てきたエドガーに駆け寄る。
「生きていたのか!?」
「や、やっぱりあれはCGだったんですね!?」
「よかった!!本当によかった!!」
驚愕する皇魔と、感激する光輝とさだめ。だが、エドガーは言った。
「私はエドガー・サカウチ本人ではない。」
「…えっ…?」
言っていることが理解できず、アンジェは聞き返す。エドガーはまた答えた。
「私は彼の記憶と思考パターン、その他諸々の全てを複写されたアンドロイド・タイプA-Eだ。」
「ア、アンドロイド!?」
「オリジナルのエドガーが死亡した場合起動し、彼の行動を引き継ぐよう設定されている。私が起動したということは、オリジナルは間違いなく死んだということだ。」
レスティーは驚き、エドガーの姿をしたアンドロイドは告げる。彼の話だと、自分の死を予見していたエドガーは、自分が死んだ後の備えとしていくつもの布石を打っており、このアンドロイドもその一つだという。これでエドガーは間違いなく死んだということが、より明白になった。
「とはいえ、私はオリジナルと寸分違わぬ行動をするように造られた存在だ。オリジナルのようにエドガーと呼んでくれて構わないよ」
「と言われても…」
「うーん…」
光輝とさだめは困惑している。とりあえずエドガーとして呼称することになったアンドロイドは、はぁ、とため息を吐いた。
「君達には、立ち止まっている時間なんてないんじゃなかったのかな?」
確かにその通りだ。クロノクライシスの発動があと二週間に迫った今となっては、もはや一刻の猶予もない。ヴァルハラのアジトもデザイアのアジトも判明しているので、計画発動前の今乗り込んで潰すのがベストだ。ベストなのだが、正直に言おう。今のままでは勝てない。まず、対ミライ戦の切り札となるアデルとビャクオウ。アインソフオウルモードの完全発動には、ゲイルとアンジェの精神の同調が不可欠。ゲイルはもう大丈夫だと言っているが、まだ踏ん切りがついていないのは他者から見て明らかだった。かといってビャクオウだけでは、ミライを含めた三将軍とトップソルジャーの五人を同時に相手取ることは不可能だ。次にデザイア戦だが、ルーラーの力は未だに未知数。何の策も準備も整えないまま挑むのは自殺行為だ。皇魔とレスティーも、まだ自分達の力不足を感じている。
「とにかく今は、最後の戦いに向けての準備が必要だ。特にゲイル、君はまだ気持ちの整理をしなければならない。恩人を討たなければならないのは何よりつらいだろうが、君に対して強い思い入れのある赤石君は、君に倒してもらうことで救われる。彼女の誤りは、彼女に救われた君によってのみ、誤りだと認識させることができるんだ。」
「…わかっている。」
ゲイルは返事をした。彼も理解しているのだ。自分にしかできないことだと。だが、まだ気持ちが整理できていないというのも事実。ミライを止めるには、アインソフオウルモードが絶対に必要。彼の精神状態が落ち着かなければ、その切り札は本来の力を発揮できないのだ。
「あとは最終決戦に向けて腕を磨く、ですか?」
「そうだね。」
エリックはエドガーに聞き、エドガーは頷いた。
「…アーサーさん、あなたはどうなんですか?」
「えっ?」
レスティーが不意にアーサーに質問した。皇魔が補足する。
「ヴァルハラと戦うということは、同時にデザイアの相手もするということだ。そうなれば当然イズマを、お前の父を討つことになる。覚悟はできておるのか?」
デザイアの副首領イズマは、ルーラーに並ぶ鬼宝院家と霊宮寺家の怨敵。だが、アーサーにとっては自分を死の間際から救ってくれた恩人なのだ。
「…君達と一緒に過ごしてようやくわかった。ルーラー様もイズマ様も、間違ってる。血は繋がってなくても、親の間違いは子が正さなくちゃいけない。俺はもう、覚悟を決めている。」
つい最近までは、二人の命に従って戦うことに何の疑問もなかった。だが、協力して困難に立ち向かい、何度も世界を滅亡の危機から救ってみせたゲイル達を見て、アーサーはやっと自分の親達が間違ったことをしているということに気付いたのだ。だから戦う。それが自分の役目だと信じているから。
「ならば止めはすまい。こちらも因縁のある相手だからな」
皇魔はアーサーの覚悟を認めた。とにかくあと二週間後には、彼らの全てに決着がつく。
「世界が滅ぶか、俺達が勝つか、二つに一つ、だな…」
ゲイルは呟いた。
*
クルセイドキャッスル。
ミライはルーラーとイズマを呼び、自分達が実行しようとしているクロノクライシス計画について話した。
「何だその計画は!?それではまるで、最初から我々を裏切るつもりでいたかのようではないか!!」
「そうは言っておらん。」
「我々はそちらがこの計画を知ってどのように行動するか、それを知りたいだけなのだ。」
激怒するイズマと、それを宥めようとするマヴァルとネイゼン。イズマについては、予想通りの反応といったところか。しかし、ルーラーは特に何か意思を見せるわけでもなく、非常に落ち着いている。
「落ち着けイズマ。」
「首領!!あなたこそ何を落ち着いているのですか!!奴らは我々デザイアを愚弄したのですぞ!?」
「だから落ち着けと言っている。それに、愚弄したわけでもあるまい。向こうはただ、自分達が前々から用意していた計画の全貌を明かしただけだ。もう一度言うぞ?落ち着けイズマ。」
「は、は…!!」
これ以上言えば、確実にルーラーを怒らせてしまう。それだけは絶対に避けなければならないと、イズマは黙った。
「それで、どうとは?」
ルーラーはミライに質問する。
「文字通りの意味です。先ほども言った通り、クロノクライシスが成功すればあなた方も滅ぶ。今まであなた方デザイアは、我々ヴァルハラにとって良き同盟相手で在り続けて下さった。しかし、このような話を聞いては同盟を維持する意味などないと思われるでしょう。そこで、首領のあなたにお訊きしたいのです。同盟を破棄するか否かを…」
「そういうことか…」
確かに、こんなことを知って同盟を維持する者など、いるはずがない。だが、同盟を維持するか破棄するかは、ヴァルハラの盟主ミライと、同盟を結んだデザイアの首領であるルーラー。二人の意思にかかっている。だから、まずどうするかをルーラーに聞こうというのだ。
「当然破棄だ!!首領!!このような我々を舐めきった連中などと、これ以上同盟を維持する理由などありません!!」
破棄を進言するイズマ。ヴァルハラの所業は、デザイアに向かってもう必要ないと喧嘩を売っていることに他ならないからだ。
しかし、
「同盟を維持しよう。」
ルーラーは同盟の維持を宣言した。
「首領!?」
「ヴァルハラにとってデザイアが良き同盟相手であったように、我々にとってもヴァルハラは良き同盟相手だ。私はこの関係を、ずっと維持していきたいと思っている。」
ルーラーにとってヴァルハラほど都合のいい同盟相手はなかった。同盟を破棄するには、あまりにも惜しい相手だ。
「ただ、クロノクライシスとやらを発動させるのは無視できない。こちらも滅ぼされるわけにはいかんのでな。そこで、我々はクロノクライシス計画発動と同時に、革命を実行する。どちらの計画が完遂できるか、勝負と行こうではないか。」
「つまり、あなた方が勝てば隷属せよ、と?」
「そうだ。面白かろう?」
これはとんでもないことになった。世界を巻き込む計画を同時に発動し、勝った方に従う。ヴァルハラが勝てば世界もろともデザイアも滅ぶが、デザイアが勝てば世界は滅ばない。ただ、あとにはデザイアが統治する地獄のような世界が広がり、そこにヴァルハラも奴隷として加わることになる。
「なるほど、わかりました。」
とにかく、デザイアは今回の計画に協力しないということがわかった。それだけわかれば十分だ。
「では、これにて会議を終了します。」
ミライは会議を終了する。恐らくこの先会議を開くことは、二度とないだろう。最後の会議を終えて立ち去る前に、ルーラーはミライを見た。
「ようやく見れたな。そなたの仮面の下が」
ルーラーに仮面の下を見せるのは初めてだ。それが最後の会議の席だとは思わなかったが。
「もう私には必要ないものですから。」
「…さらばだ。」
ルーラーはイズマを連れて、今度こそクルセイドキャッスルを発った。
「…これでよかったのですか?」
終始黙っていたゴーザは、ようやく口を開いてミライに尋ねた。
「ええ。ルーラー殿は協力的です」
ルーラーは協力するなどと言っていない。しかし、ミライはルーラーは協力的だと言った。
なぜなら、一番肝心なことを話していないからだ。
「奴らが戦うこと。それが我々にとって何以上の喜びだというのに…」
「所詮は私怨でしか戦えん男よ。奴には大局が見えておらん」
マヴァルとネイゼンは嘲笑っていた。
*
オリジナルのエドガーが死んでから、二日が経った。
「オーッス!」
いつもの教室。そこへ、なに食わぬ顔をした狩谷が入ってくる。
「狩谷!!もう大丈夫なのか!?」
「おう!ナイアさんのおかげでな、調子はバッチリだぜ!」
「よかった…空子喜ぶよ!ずっと心配してたし!」
心配して駆け寄ってきたゲイルとアンジェに、狩谷ははつらつとした笑顔で答えた。ウボ=サスラの細胞は狩谷の肉体に完全に馴染み、その力を強化した。あらゆる生物と最高の相性を持つ超強力万能細胞のおかげで、狩谷は特にリハビリも必要なく、復帰することができたのだ。
「そういえば、空子はいねぇな。どっか行ったのか?」
狩谷は訊く。確かに、教室のどこにも空子の姿がない。アンジェが答えた。
「理事長先生の所だよ。ほら、あの時空子の武器、ほとんど壊れちゃったじゃない?だから新しい武器を支給してもらいに。」
空子はマヴァルとの戦いで、ギガトラッシュとライフイーター、アイアンクエイクとデッドブリンガーを破壊された。失った武器を再支給してもらうために行ったのだ。
「そっか…あいつ武器がなきゃ戦えねぇもんな。特にギガトラッシュは痛かったろ…一番使ってた武器だからよ…」
「お前も呼び出されていたぞ。教室に来たら、すぐ理事長室に来るようにとな。」
「マジか?じゃあちょっと行ってくるわ。」
ゲイルから自分も呼び出されているということを聞いた狩谷は、教室を出て理事長室へ向かった。
「…できることなら、あの二人は巻き込みたくないな…本当ならお前とエリックも巻き込みたくなかったが…」
「仕方ないよ。ゲイル一人じゃ、絶対勝てないし。」
ゲイルは狩谷も空子も、本当ならアンジェも巻き込みたくなかった。四人は自分とミライの因縁に、元々無関係だからだ。だが、もう彼らの協力なくして、ヴァルハラを止めることはできない。それだけ大きな存在になっていた。
「ゲイルは、もう心の整理が付いた?」
「…正直、まだ少し迷ってる。頼りないよな、こんな旦那で。」
「そんなことない。まだ時間はあるから、ゆっくり心を落ち着けよ?私もゲイルを支えるから。」
「…ありがとう。」
ヴァルハラとの決戦は、もう目前まで迫っている。一刻も早く精神状態を整えて、アインソフオウルモードを使えるようにしなくてはならない。だが、恩人と戦わねばならないということが、まだゲイルを苦しめ続けていた。
「それにしても、ミライさんがそそのかされてたなんてね…」
「俺も驚いた。一体誰がこんなことを吹き込んだのか…」
アンジェもゲイルも、ミライに余計なことを吹き込んだ何者かに対して怒りを感じている。だが、その何者かと戦っている時間はない。今は、眼前の脅威をなんとかしなければ。
「…俺は怖い。再びあの人と、殺し合わなければならないかと思うとな…」
「…本当は私も怖い。だってそれ、ゲイルを殺せって言われてるようなものだもん。私だったら、絶対やだって言う。」
アンジェにとって家族であり、また恩人でもある。もし今の状態に当てはめるなら、ゲイルを殺せと言われているようなものだ。しかも、拒否は許されない。
「昔の俺なら、間違いなくヴァルハラに行った。世界なんて、ミライさんと天秤にかけたらどうだっていいからな。だが、俺には決して秤にかけられないものができた。アンジェにネリーに、それからたくさん…」
それら全てを守るため、ゲイルはミライと再び対峙しなければならない。
「殺す以外の方法であの人を諦めさせる方法。それはやっぱり、負けを認めてもらうことだって、私は思う。」
アンジェはミライを殺さずに済ませる方法として、負けを認めさせるという方法を提案した。
「負けを認めてもらう、か…簡単じゃないぞ。だが、現状それしかない、な…」
ミライの意志を砕くには、一体何をすればいいのか、全くわからない。だが、まだ時間はある。
「頑張ろうな、アンジェ。」
「うん。一緒に頑張ろう」
二人は言った。
「申請を受けた武器は、全部ここに入れておいたよ。」
「ありがとうございます。」
空子はエドガーからエイボンブックを渡され、早速中身をチェックした。だが、なぜかギガトラッシュだけがない。
「理事長先生。ギガトラッシュが入ってないんですけど…」
「入れる前にぜひ見せておきたくてね。アーサー」
「はい。」
エドガーが命じると、アーサーが何かを持ってきた。それは、長い砲身を持つ巨大な機械っぽい銃だ。空子は一瞬、大砲ではないかと錯覚した。
「破壊されたギガトラッシュを強化改修した、ハイパーギガトラッシュだ。従来の実弾だけでなく、エネルギー弾や光線なども自在に撃ちわけられる。」
「これ、ギガトラッシュなんですか!?」
空子は驚いた。何せ、外見が全く別物と言えるほど様変わりしていたのだ。無理もない。
「オリジナルの記憶を見て知っているよ。君はギガトラッシュに相当な思い入れがあるだろう?だったら新しい物なんて渡さず、生まれ変わらせようと思ってね。」
「あ、ありがとうございます!!」
アンドロイドとは思えない心遣いに、空子は感謝した。ギガトラッシュは彼女が入学した時から使っている、本当に強い思い入れがある銃なのだ。生まれ変わった愛銃を、空子は嬉しそうに撫でている。そこへ、
「失礼しまーす。」
狩谷が入ってきた。
「狩谷!!怪我、治ったの!?」
「おかげさまでな。それより、その銃何だよ?」
空子は新しい武器、ハイパーギガトラッシュについて話した。
「そっかぁ、よかったなぁ。俺、お前が落ち込んでるんじゃねぇかって心配してたんだ。」
「ええ。本当によかった…」
「ところで理事長先生。俺に用って?」
「もうすぐ来るはずだが…」
エドガーは誰かを待っているらしい。と、電話がかかってきた。エドガーは受話器を取り、何か話した後、通話を切った。
「お客様が入らしたようだ。アーサー、お通ししてくれ。」
「はい。」
理事長室から出ていくアーサー。少しして、
「お待たせしました。」
アーサーは二人の客人を連れてきた。狩谷はその二人に驚く。
「シュリュズベリィ教授!?それにハスター!!どうしてここに!?」
アーサーが連れてきた客人は、シュリュズベリィとハスターだった。
「久しぶりだな。話に聞いていたより元気そうだし、完治したようで何よりだ。」
シュリュズベリィは狩谷が大怪我を負ったことを知っているようだ。ハスターは自分達が来た理由を答える。
「ナイアルラトホテップから頼まれた。お前を鍛えてやって欲しいとな」
「ナイアさんが?」
ナイアはテレパシーを使い、ハスターとシュリュズベリィに依頼したのだ。二週間以内で、可能な限り狩谷を鍛えてやって欲しいと。
「お前にもそろそろ、もう一段階上の力を使わせてやろうと思ってな。」
「すげぇ!助かるぜ!」
願ってもないチャンスだった。より専門家であるハスターとシュリュズベリィなら、効率的に狩谷を鍛えてくれるはずだ。
「あたしもお願いしていいですか?」
そこへ、空子が進み出る。
「ふむ…いいだろう。近代の兵器がどれほどのものか、確かめておくのも面白い。」
「ありがとうございます!!」
シュリュズベリィは了承し、空子は頭を下げて礼を言った。
「…みんな、前に向かって進んでるんですね。」
「ああ。オリジナルが誇りに思っていたはずだよ」
ヴァルハラとデザイアという強大な存在を前にして、それでも先へ進もうとする子供達。アーサーはその姿を見て、感慨深いものを感じていた。
「俺も、早く踏ん切りをつけないと…!!」
「はぁっ!!」
空中で高速回転しながら、光輝は羅刹刃と水神刀による攻撃を放つ。
「ぬん!!」
皇魔は両刀を拳で受け流し、光輝の脇腹を蹴り飛ばした。
「ぐはっ…!!」
「どうした!!もっと気合いを入れて打ち込んでこい!!」
「はい!!」
倒れた光輝は皇魔から檄を飛ばされ、瞬時に復帰して再び向かう。
「あっちはいい感じね。」
レスティーは皇魔と光輝を見てから、視線を正面に戻す。そこには、ヴォルテクスを杖代わりにして立ち、荒い息継ぎをしているさだめがいた。
「休憩する?」
「平気!」
さだめはヴォルテクスをかざして雷を放ち、レスティーはそれを小太刀でさばきながら進み、互いに攻撃を受け止める。今四人は、二週間後の決戦に備えて最後の特訓をしているところだ。
「どう?今度の戦い、勝てると思う?」
「厳しいとしか言いようがないわね。多分、彗星の戦いよりずっと激しい戦いになるわ。」
さだめは質問し、レスティーは答えた。厳しいとしか言いようがない。今度の戦いは、神官達を遥かに上回る強敵達を全員倒さなければならないのだ。
「でもやるしかないよね!!」
「その通り!!」
だが負ければ世界が終わる。四人は世界を守るため、激しい特訓に身を投じた。
屋上。
「何の用だい?」
エリックはナイアを呼び出していた。
「…礼を、言うべきなのでしょうね。」
「狩谷くんのことかい?まぁ、ああしないとお嬢様が悲しむからね。」
ナイアにとって、実はネリー以外はどうだっていい。彼女の行動原理はネリーによる。やはり、元アザトースである彼女との主従関係は変わっていないのだ。だから、ネリー以外はどうなろうと知ったことではない。
たった一人を除いて。
「今日呼び出したのはそれだけではありません。ただ、あなたに会いたかっただけなのです。」
「そうかい。ボクも会いたかったよ」
エリック。決して自分のものにならない、ただ一人の人間。ゆえに惹かれた。エリックもまた、彼女に惹かれていた。
「まったく、全部あなたのせいですよ?あなたが私に干渉し、引っかき回したりしなければ、こんなことには…」
エリックはずいぶん丸くなった。ゴミとしか思っていなかった存在を仲間だと思い、ゲイルは自分より強いとようやく認めた。それはナイアの影響が強い。彼女が持つ天真爛漫さが、エリックを変えたのだ。
「そうかもしれないね。」
ナイアは自重気味に笑った。
「…それで、今度の戦いは勝てそうかい?」
「愚問です。勝てそうか負けそうかではなく、絶対に勝つ。それが私です」
「…ふふ、そうだったね。」
ナイアは思う。少し前、ヨグ=ソトースが言っていた戦いとは、この戦いのことだったのだと。
「…必ず勝ってくれ。」
「当然です。私を誰だと思っているのですか?」
二人は笑い合った。
*
訓練生達は残された時間をフルに使って、想いを残した。
そして、二週間後。
「時は満ちました。」
ミライは玉座を立ち、歩き出す。その後ろから、三将軍とフィスがついて行く。たどり着いた場所は、巨大な広場。そのテラスにミライが立つ形となり、眼下にはおびただしい数のボーグソルジャーが集まっている。
「おお!ミレイヌ様だ!」「ミレイヌ様だぞ!」「我らの盟主がとうとう…!」
ざわめき始めるボーグソルジャー達。そんな彼らを、
「静まれ!!!我らの盟主の姿を目に焼き付け、言葉を魂に刻むのだ!!!」
ネイゼンが黙らせた。広場が静まりかえる中、ミライが話し始める。
「皆、今日という日までよく私に付き従ってくれました。」
ボーグソルジャーに改造された者、ヴァルハラに加入した者達は、皆世界に絶望した世捨て人達。ゆえに全てを滅ぼすというミライの意志に賛同し、今までずっと長い苦難の道を歩んできたのだ。
「しかし、その苦難も今日終わります。我々が終わらせるのです。悪しき意志に支配され、狂いきったこの世界を!!」
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』
一斉に歓声を上げるボーグソルジャー達。彼らにとって、今日ほど待ちわびた日はない。
「これは聖戦である!!繰り返す!!これは聖戦である!!我らの意志を世界に見せつけ滅ぼすのだ!!ヴァルハラの名のもとに!!!」
『ヴァルハラの名のもとに!!!ヴァルハラの名のもとに!!!ヴァルハラの名のもとに!!!』
『これは聖戦である!!!これは聖戦である!!!これは聖戦である!!!』
ミライが言った言葉を復唱し、そして、
「出撃せよ!!!!」
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!』
ボーグソルジャー達は出撃していった。
フォビドゥーン。
「さぁ進化の宝珠よ。我らに、革命を勝利へと導く力を…」
ルーラーが隠していた進化の宝珠に、小さな宝珠の欠片を投げた。欠片は粒子に分解されて宝珠に吸収され、それが呼び水となったかのように宝珠からは力が流れ出してフォビドゥーン中に広がった。否、フォビドゥーンの端末を通して世界にまで流れている。この力を浴びたエボリュータントは力を強化され、まだエボリュータントになっていない兵士も全員エボリュータントに進化した。そして、端末の先は革命実行者である別動隊の潜伏先へと繋がっており、そこでも同様の現象が起きている。
「全兵員の最終強化が完了しました。」
「よし。ならば、革命を開始せよ。」
「は!」
準備は整った。イズマに命じて革命を実行させるルーラー。
「いよいよ始まったか。」
コレクは呟いた。
「我々の目的は、間違いなく乗り込んで来る彼らを迎え討つこと。」
「ヴァルハラに合わせるためにわざわざ延期したんだ。向こうも少しは強くなってるだろうし、楽しませてもらわないとな。」
メイカーはイズマから与えられた自分達幹部の役目を復唱し、ウォントは自分達を殺しに来る皇魔達の到着を心待ちにしていた。
「…」
アプリシィは光輝への憎悪を瞳に宿し、無言で待っている。
*
世界中でヴァルハラとデザイアの兵士が同時に暴れ出したという情報は、ヘブンズエデンにも届いていた。今は各地から山ほどの援護要請が届いている。
「とうとう始まったな。」
「タイムリミット、だね…ゲイル、もう大丈夫?」
「ああ。俺はもう迷わない!」
この二週間でミライと戦う決意を固めたゲイルには、もう躊躇いがない。協力してくれたアンジェには感謝している。
その時、
「パパ、ママ!」
「お嬢様!お待ちを!」
ネリーとナイアが来た。
「ネリー!ナイア!」
「二人ともどうしてここに!?」
「お嬢様が君達を見送りたいってね。」
ネリーはこれから最後の戦いに挑む父と母を、見送りに来たのだ。
「パパ、ママ。絶対に帰ってきてね?私、もっとずっと、二人と一緒にいたい。」
「ああ。約束する」
「必ず戻ってくるから、それまで私達が帰ってくる場所を守ってて。約束、できる?」
「うん。」
ゲイルとアンジェと約束を交わした愛しい娘は、二人の頬に一回ずつキスをした。
「ナイア。ネリーを、俺達の娘を守ってやってくれ。」
「君に言われるまでもないよ。クズどもには指一本触れさせない。それより、本当に加勢しなくていいのかい?」
ナイアは前もって、ゲイルに訊いていた。自分はこの戦いに加勢しなくてもいいのかと。彼女は分身することができるし、加勢に行くのも不可能ではない。ミライやルーラーとの戦いにも、すぐカタが付くだろう。だが、ゲイルはそれを良しとしなかった。
「あの人との問題は、俺が解決しなくちゃいけない。他の誰かじゃ駄目なんだ」
「じゃあせめてデザイアだけでも…」
「必要ない。」
そこへ、皇魔が割り込んできた。
「この因縁には俺とレスティー、白宮と桐崎、アーサーで決着をつける。無関係な者の出る幕ではない」
ナイアは元々無関係だ。ゆえに、先祖代々の因縁を持つ自分とレスティー。それから関係を持ってしまった光輝とさだめ、元デザイアのアーサーだけで決着をつけると言った。
「ナイア。」
「お嬢様…」
ネリーはナイアの服の袖を引く。
「信じよう。」
「…はい。お嬢様」
その一言で、ナイアはあっさり折れた。ネリーが言ったから、ナイアは従った。
「そうだ、エリック!」
「何ですか?」
ナイアに呼ばれて振り向くエリック。次の瞬間、
エリックはナイアにキスされた。マウストゥマウスで。
「「「「!!」」」」
それを見たゲイル、アンジェ、光輝、さだめは赤面し、レスティーは口笛を吹いて、皇魔は片手で顔を押さえた。
「な、何を!?」
「おまじないだよ。君が必ず生きて戻ってこれるよう、防御魔術をかけてあげたんだ。」
「だからといってこんな…」
「モチベーションは大事だよ。」
好き勝手なことばかりしたナイアは、ネリーを連れて瞬間移動で消えた。
「なんて大胆な…」
アーサーは呟く。
「遅くなってすまねぇ!」
「早く行きましょう!いずれここにもボーグソルジャーやエボリュータントが攻め込んでくるわ!」
そこへ、遅れて到着する狩谷と空子。ハスターとシュリュズベリィも一緒だ。
「…なんかあったのか?」
「う、ううん!」
「何でもないよ!」
狩谷から質問されて、光輝とさだめは慌ててごまかした。
その時、
「出たぞーっ!!!」
生徒の声が聞こえてきた。見ると、ボーグソルジャーやエボリュータントが、互いに争いながら侵入してきていた。
「言ったそばから来やがった!!」
「お前達は行け。」
「ヘブンズエデンの守りは、我々が勤めよう!!」
早速撃破にかかるハスターとシュリュズベリィ。
「もはや一刻の猶予もない!!全員で必ずここに戻るぞ!!」
ゲイルが号令をかけると、全員が頷く。
「行くよ、さだめさん!!」
「うん!!」
光輝は水神刀を抜き、さだめはヴォルテクスを出して、同時に地面に突き立てた。すると旧き印が光輝、さだめ、皇魔、レスティー、アーサーの足元に現れ、五人は消える。彼らはデザイアのアジト、フォビドゥーンがあるアラスカに行ったのだ。
「じゃあ私達も!!」
アンジェは覚醒し、残った五人を連れてヴァルハラのアジト、クルセイドキャッスルがあるロシアへ瞬間移動した。
とうとう始まった最終決戦。あまりにも長かった一年間の物語が、ようやく終わりを迎えようとしていた。
*
ヘブンズエデン、エドガーの研究室。
「さて、これでバッチリだ。」
エドガーはオリジナルが死んだという事実を隠し、オリジナルがやっていたことを完璧に遂行。世間に怪しまれることはなかった。しかしオリジナルのエドガーを演じる一方で、彼はあることをやっていたのだ。
「あんたには世話になったな。」
「構わないよ。君だってオリジナルの教え子だし、これぐらいは当然さ。」
「…決着、つけねぇとな。」
エドガーと語らっていた一人の男は、地上で起きている激戦を思って顔を上げた。
遂に始まったヴァルハラとデザイアの最終作戦。世界は超強力二大犯罪組織と、全面戦争を開始した。それぞれの決着をつけるべく奔走する訓練生達。勝つのは誰だ!?
次回、『死力を尽くして』
お楽しみに!!




