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第五十一話 新たなる決意

ミレイヌの正体がミライであると知ったゲイル達は、全てを知る存在であるエドガーに会いに来た。

「おかえりなさいませ。」


戻ってきた盟主達を迎えるフィス。と、


「…あの…」


見慣れない人物がいるのに気付いた。


「私ですよ。」


その人物、ミライは言葉を発する。


「ミ、ミレイヌ様!?仮面はどうなさったんですか!?」


「捨てました。もう必要ありませんから」


フィスはかなり動揺している。ミライの素顔はフィスも見たことがないので当然だが。


「あの仮面は、来るべき時まで己を律するために着けていた物。その時が来た以上、もう必要ありません。」


「では、発動されるのですか?クロノクライシス計画を。」


ゴーザは尋ねた。ミライは無言で頷く。


「しかし、見事な戦いぶりでしたなミレイヌ様!このマヴァル、ミレイヌ様の本気を久々に見ましたぞ!」


「本当ですかマヴァル様!!私も見たかったです!!」


マヴァルはミライの本気が見れたことがよほど嬉しいのか、かなり興奮している。フィスもミライの戦いを見たがっていた。


「そう興奮しなくても、もうすぐたくさん見られるようになりますよ。もうすぐ、クロノクライシス計画を発動するのですから。」


「ミレイヌ様ならば、例えこの先何者が立ちはだかろうとも計画を成功させられます。」


ネイゼンはミライの力を目の当たりにし、やはり彼女こそがヴァルハラの盟主にして最強の存在であると確信している。


「ええ。ですがその前に、私にはやっておかなければならないことがあります。なので、もう一度出てきますね。」


と、ミライはきびすを返してまた出ていこうとする。


「ならば我々も。」


「いいえ。これは私が一人で、成し遂げねばならないことです。あなた達は私が不在の間、ヴァルハラの守りを固めておいて下さい。」


「…は。」


ネイゼンはミライについて行こうとしたが、ミライはそれを拒否し、ネイゼン達はそれに従う。


「…出掛ける前に聞いておきたいのですが、計画の準備が完了するまであとどのぐらいかかりますか?」


ミライはマヴァルに、クロノクライシス計画があとどれくらいで発動できるのかを聞いた。


「およそ、二週間でございます。」


「遂にここまで来ましたか…わかりました。ありがとう」


ミライは今度こそ、出ていった。フィスはネイゼンに、心配そうに尋ねる。


「ミレイヌ様、どうなされたのかしら?大丈夫でしょうか?」


「案ずる必要はあるまい。あの方は強く、そしていつも正しい。あの方にお任せすれば、何も問題はないのだ。それより、お前に幾つか伝えておかねばならんことがある。心して聞け」


ネイゼンは先ほどあったことの全てを、フィスに語って聞かせた。











「そんなことがあったのか…」


ヘブンズエデンの理事長室。光輝達はゲイル達から話を聞き、先ほどあった戦いのことを知った。狩谷はゴーザとの戦いで重傷を負って保健室に搬送され、空子とナイアが様子を見に行っている。ナイアが生命維持の魔術を使ったおかげで、今のところは死なずに済んでいるようだ。ちなみに、ネリーは先に帰らせている。一方ゲイルは、エドガーに問い詰めていた。


「あんたは知っていたのか!?ヴァルハラの盟主ミレイヌの正体が、ミライさんだってことを!!」


エドガーの机の上には、ゲイルが真っ二つにしたミライの仮面が置いてある。これは、自分が彼女の正体を知ったことの証明だ。また、ミライはエドガーが全てを知っていると言っていた。問わねばなるまい。何を、どこまで知っているのか。


「…ああ、知っていた。何せ彼女はヴァルハラを結成してすぐ、私に宣戦布告しにきたからね。」


ヴァルハラを結成したミライは、自分が生きていて世界を平和にするために戦っていること、それから戦いを誘発する存在であるエドガーが邪魔であると、宣戦布告しに来たのだ。


「なぜ今まで黙っていた!?」


「言ったはずだ。君にはいずれ、選択を迫られる時が来ると。」


「あれは、ミライさんのことだったのか…」


確かに言っていた。いつか必ず、選択しなければならない時が来ると。あれは、ミライを殺すか否かを差していたのだ。


「恩人に降って世界を滅ぼすか、世界のために恩人を殺すか。ゲイルにそんな選択をさせようっていうんですか!?」


「落ち着いてさだめさん!!」


興奮するさだめを、光輝がなだめる。


「しかし、真の平和をもたらすために平和になるべき世界を滅ぼす、か…平和になることは確かだが、これでは本末転倒ではないか。」


皇魔の言う通りだ。これでは一体誰のための、何のための平和なのか。


「私もできることなら、ゲイルの恩人とは戦いたくない。説得はできないの?」


「はっきり言いますが無理です。彼女の決意は、この私が驚くほどに固い。ゲイルも必死で説得していましたが、とうとう折れることはありませんでした。」


レスティーはミライを説得できないか訊いたが、あれだけゲイルを殺すことにぎらついていたエリックが驚くほど、ミライの決意は固かった。彼女を止める方法があるとすれば、もはや実力行使しかない。それも、命を奪うほどの…。


「俺は、あの時確かにミライさんを殺す決意をした。だが、結局迷ってしまった!迷って、負けてしまった!」


「そんな簡単に決められるわけないじゃない!あの時は、私も気が動転してた。ゲイルの気持ちも知らずに…ごめん…」


取り乱すゲイルと、ゲイルにつらい選択を強要してしまったことを詫びるアンジェ。


「いや、お前は悪くない。俺がやらなければならなかったんだ。あの人に強い想いを持つ俺が!だが…」


ゲイルはアンジェを慰めた。お前は悪くないと。悪いのは、あの時ミライを殺せなかった自分だと。


「俺は怖い。次に、あの人と対峙するのが…!」


しかし、怖かった。ゲイルの生き方を決めたほどの人物である。そんな簡単に、割り切れるはずがなかった。


「だが、割り切ってもらうしかない。君でなければ、できないことなんだよ。」


「理事長先生!」


「それと、もうすぐ客人が来るんだ。悪いけど、今すぐ出て行ってもらいたい。」


「…わかった。みんな、行こう。」


冷酷な判断を下すエドガー。そんな彼に激怒しかけた光輝だったが、取り付く島もなく自分の予定を優先してくる。仕方なくゲイルは従い、仲間達とともに理事長室から出た。


「では、君にも席を外してもらうよ。私の研究室へ行ってくれ」


「…はい。」


アーサーにも退室を要求する。アーサーもまた、エドガーに従った。彼はゲイル達と違って、来客の詳細を聞かされている。


「もう一度言っておくが、手出しは絶対に無用だ。客人には、私一人で会わねばならない。」


「はい。」


念押しをされ、アーサーは研究室へと向かう。全てを知った

上で、理事長室を出た。



エドガー以外誰もいなくなった理事長室。アーサーが消えて数分後、来客はやってきた。時空に穴を開けて。


「こんにちは。お久しぶりです、理事長先生。」


来客の正体は、ミライだった。エドガーはまるで友人にでも会ったかのような穏やかな表情と口調で、ミライに言う。


「久しぶりだね赤石君。また会えて嬉しいよ」











保健室。


「それ、どういうことですか!?」


空子は驚いていた。相手は、ナイアだ。ナイアは蓋がしてある試験管を手に持ち、軽く振りながら再度説明する。


「だから、彼を復活させるのにウボ=サスラの細胞を移植するんだよ。」


狩谷はゴーザと戦った際、両方の肺と多数の内蔵や骨をズタズタにされてしまい、出血も多量。その損傷の度合いは、ヘブンズエデンの医療技術でなければ治せないほどだった。即死していてもおかしくないレベルだ。だが、ナイアは彼の治療に、ウボ=サスラの細胞を使うと言った。理由は、このまま治してもゴーザに勝てないからだ。


ウボ=サスラは自存する源とも呼ばれる旧支配者。地球に生命が芽吹く前に地球に降り立ち、地球に存在する全生命を造り上げたという。その姿と性質は、アブホースによく似ている。それは、ウボ=サスラがアブホースを生み出したからだ。旧支配者でありながら外なる神のアブホースを生み出したウボ=サスラは、当然ゴーザよりも遥かに強い。そんな神の細胞によってその身を強化されれば、改造人間でも超進化生命体でもない、ただの人間でしかない狩谷にも、勝てる望みが出てくる。


「でも、それ大丈夫なんですか?ウボ=サスラの細胞は…」


しかし空子は心配だった。細胞移植という行為は普通の人間でも危険だが、使うのは神の細胞。しかも、ウボ=サスラは触れただけで肌が壊死を起こしてしまう、とても危険な存在だ。


「何も心配はいらない。人体にも馴染むよう、既に加工済みさ。」


だが、ナイアは心配ないと言った。確かに、ウボ=サスラの細胞は加工できる。ウボ=サスラの細胞を加工して造られた生命体を、空子は既に見ているのだ。幾度となく戦った怪物、ショゴスである。古きものはウボ=サスラの細胞を加工し、ショゴスを造り出した。そしてウボ=サスラの細胞は生命を生み出すという性質上、他の生物とも相性がいいのだ。すなわち、万能細胞。毒素さえ取り除けば、十分他の生物の細胞として機能する。当然今ナイアが試験管に入れて携帯しているのも、加工済みの細胞だ。


「でも…」


しかし、それでも空子の不安は拭えなかった。



そんな時、



「…やって…くれ…」



狩谷の声がした。今狩谷はカプセル上のベッドに入れられ、多数の生命維持装置に繋がれている。空子とナイアはそのすぐ隣で会話をしていたのだ。


「狩谷!?」


空子はガラスに両手をつく。狩谷はガラス越しに、呼吸用マスクでくぐもった声を出しながら、空子とナイアに頼んだ。


「ハスターから力をもらって、地球を何度も救って、俺は…強くなった気になってた…でも、そうじゃなかった。ミライさんの部下は、俺よりずっと強かった。だから、もっと強くならなきゃいけねぇ。」


「だからって神の細胞を入れるなんて、そんな」


「それがどうした…あいつらは、全身を機械に改造されてんだぞ…!!」


「ッ!!」


「…ゲイルとエリックだってそうだ。あいつらにも、機械が混じってる。俺にも、別の生き物が混ざるだけだ。そんなに変わらねぇ。それともアレか?機械が混じったゲイル達は大丈夫で、バケモンが混じった俺は無理だってのか?」


「そんなこと言ってないでしょ!!あたしは…ただ…」


「…心配してくれてありがとうよ。でもよ、やらせてくれ。俺がもっと強くならねぇと、お前も守れねぇんだ。」


「…」


顔を赤くする空子。そこへ、


「狩谷!!目が覚めたのか!!」


ゲイル達が来た。


「よぉ。大変なことに、なっちまったな…」


「人のことを言っている場合か!」


「でもよかった。狩谷くん、無事なんだね。」


「ボクがついてるんだ。何の心配もいらないよ。それより、君達にも伝えておく。」


安堵するゲイルとアンジェに、ナイアは自分がこれからやろうとしていることと、狩谷の希望を告げた。


「それって、狩谷が人間じゃなくなるってこと!?」


「だ、駄目だよ狩谷!!強くなりたいなら、他の方法を考えよう!!」


「そうだ!!お前まで俺のような人から外れた存在になる必要はない!!」


光輝、さだめ、ゲイルの三人は、狩谷を止めようとする。だが、狩谷の決意は固かった。


「わかってくれ。俺は、ほんの少しでも強くなりてぇんだ。その結果、人間じゃなくなったとしてもな…それよりゲイル、お前まさか、ミライさんのこと、諦めたわけじゃねぇよな?」


「…無理だ。あの人はもう、救えない。殺すしかないんだ」


ゲイルは顔を背けながら言った。


「…諦めんな。まだ何か、方法はあるはずだ…」


「狩谷っ…!」


「俺も、協力する…一緒に見つけようぜ。一番いい方法を、よ…」


そこまで言った狩谷は、気力が尽きたのかまた眠ってしまった。


「…だそうですが?」


エリックはゲイルに尋ねる。この先一体どうするのか。


「…狩谷にこう言われたんじゃ、俺が引き下がるわけにはいかないな。ナイア、俺からも頼む。狩谷を治して、できる限り強くしてやってくれ。」


「あたしからもお願いします!」


空子も頭を下げる。


「もちろんだよ。最善を尽くそう」


ナイアは快く引き受けてくれた。


「ところで、どうしてみんなここに来たんだい?お見舞いにしては人数が多すぎると思うけど。」


「さっきまで理事長先生の部屋にいたんですけど、来客があるからって追い出されたんです。それで、狩谷くんの様子を見に行こうって。」


ナイアがゲイル達が来た理由を尋ね、レスティーが答える。


「お客さんか…まぁ暇な人じゃないのは確かだし、君達ばかりに構ってもいられないよね。」


ナイアは納得した。


「しかし一体誰が来たのか。空気の読めんやつだ…」


皇魔は呟く。


その空気の読めない来客の正体がミライだなどと、どうして気付けるだろうか。











「この部屋は特殊な材質で作られているから、ゲイルやエリックのレーダーに君の出現が察知されることはない。人払いもしてあるし、ゆっくりしたまえ。」


「私が今日ここに来た理由について、わかっているだろうとは思いますが、言いましょうか?」


「一応聞いておこうか。君の意志を再確認するという意味も込めてね」


「あなたを殺しに来ました。」


やっぱり、とエドガーは思った。ミライにとって、最大の障害はエドガーである。殺すこと自体は簡単だが、その後に起きる混乱が厄介なのだ。下手を打てば、計画が潰れる可能性さえある。それを今やろうとしているということは、計画を実行に移す準備が整ったということ。


「いつ、クロノクライシスを発動するんだい?」


「二週間後です。別にその時始末してもよかったのですが、何かされても面倒ですから。」


「念の入ったことだね。さすが、私の生徒だ。」


「元、です。あなたはもう私にとって、恩師ではない。倒すべき、敵。排除すべき、障害。」


エドガーは余裕たっぷりに、笑顔で話す。対照的にミライは、恐ろしいほどに無表情。冷めた目をして、エドガーを見下ろしている。


「そうだ、あなたはメタルデビルズの強制操作システムを持っていますね?渡してもらいましょうか。」


「それほどまでにゲイルが欲しいか。殺す決意をしておきながら」


ミライは答えない。だが、メタルデビルズの強制操作システムを狙ってきたということは、未練があるということだ。ちなみに、エドガーはミライに強制操作システムがあることは教えていない。ただエドガーは用心深いので、メタルデビルズの反逆を防ぐために、その力を外部から自在に制御するシステムを造っているのではないかと予想したのだ。確かに、そのシステムはある。彗星での戦いで、エドガーが使った。アデルとビャクオウの全武装から、変身の解除まで行うことができるシステム。しかし、


「残念ながら、そのシステムは破棄した。これ以上私の生徒を好きにされてはたまらないのでね」


ゲイルを再改造した時、システムは排除した。ナイアにもエリックに同様の処置をするよう指示してある。もう、あの二人を縛るものは何もない。


「念の入ったことですね。さすが、私にとっての最大の障害、といったところでしょうか。」


ミライは皮肉混じりに、先ほどエドガーが言ったことと同じ言葉を返した。


「同じ間違いをするわけにはいかないよ。君をそんな風にしたようにね」


「何の話ですか?」


「とぼけなくていい。君、そそのかされたんだろう?そそのかされて、平和のために世界を滅ぼすなんて結論に至ったんだろう?」


ミライはまた黙った。



エドガーはイス人と接触することで、彼らが持つ多くの知識と技術を得た。時間の秘密を唯一解き明かした種族。そんなイス人の技術を使って、エドガーはあるものを造り上げた。


過去と未来を覗き見る装置。


宇宙の誕生を知るため、その装置を使って過去を見たのだ。結果、エドガーは驚くべき光景を目にした。彼が見たのは、二人の何者かが語り合っている光景。片方は神々しさが感じられるほどに美しい女性。もう片方はルネサンスを彷彿とさせる様式美溢れる鎧に身を包んだ男性。会話の内容から、女性の正体がアザトースであることはわかった。そして、二人の会話が続くうちに、突然男性がアザトースの顔に手をかざし、


手をどけられると、アザトースは突然狂った。


エドガーはこの瞬間理解した。アザトースから理知を奪ったのは、この男なのだと。アザトースが白痴である理由はいくつか説があるが、一番有力なのは生まれた時から理知がないのと、旧神と戦って敗北し理知を奪われたことの二つ。前者は装置を使ってアザトースを見た時、否であると断定できた。ならば後者であると思ったのだが、クトゥルフ神話にあの男性に該当する旧神はいない。ゆえにこちらも否だ。そして何より、アザトースから理知を奪った時のあの嬉しそうな顔。自分が見たどんな相手より、邪悪だと言えた。この男性を生かしておいては危険だと判断したエドガーは、男性の正体について徹底的に調べ上げたが、どの神話にもこの男性に該当する存在はなかった。さらに装置を使って未来を見ることにより、いずれ必ず地球にも接触し地球が破滅すると察知していたエドガーは、男性と戦う勇者を育てるため、ヘブンズエデンを作ったのだ。これで未来は変わったと思い、エドガーは再び装置を使った。


しかし、映った光景はミライがヴァルハラを結成し、世界を滅ぼすという未来だった。


「未来を知る者が過去を弄れば、未来は変わる。だが、このような形に変化するというのは完全に予想外だった。」


再度装置を使ったエドガーは、ミライが男性と接触し、そそのかされた光景を目にした。本当に予想外だった。まさか自分が育てた勇者の一人に接触してくるとは。新たな世界の危機を知ったエドガーは未来を変えるのに必要な因子を探し、そしてゲイルを見つけた。ゲイルをメタルデビルズに改造してミライにぶつけることで、世界の消滅を回避するという作戦に出たのだ。


「心が痛かったよ。まさか自分の教え子同士で、世界の命運を握るような殺し合いをさせることになるとはね。」


エドガーの顔は、本当につらそうだった。だが、こうするしかなかったのだ。何をしてでも、あの男性を滅ぼさねばならない。その気持ちが、あまりにも強かったから。


「…質問が二つできました。まず一つ。私が『彼』と接触したことは、既にゲイル達に伝えてありますか?」


ミライはエドガーが装置で見た通り、男性と接触していた。観念したミライは、エドガーに質問する。


「伝えていない。伝えれば間違いなくアレを倒そうとするだろうが、今の彼らでは無理だ。アレに勝つには、五年後に力に覚醒する、ある戦士に協力してもらわねばならない。」


「…二つ目の質問です。私達の計画、クロノクライシス計画はどうなりますか?」


答えを聞いたミライは、二つ目の質問をする。


「失敗するよ。ゲイル達が防いでくれる」


エドガーは装置を使って見た未来を答えとして、ミライに教える。クロノクライシス計画は、必ず失敗すると。


「…そうですか。ならば、その未来は私が変えましょう。五年後は来ません。私が世界を滅ぼしますから。」


「無駄だよ。君の計画は、絶対に失敗する。何をしようと、この未来は絶対に変えられない。私が変えさせない」


「…」


ミライは両手にワルキューレを装備すると、右手を振り降ろして机もろともエドガーの身体を引き裂いた。抵抗も断末魔もなく、壁に叩きつけられるエドガー。壁が、壁のすぐ上にあったガラスが、エドガーの鮮血で赤く染まる。


「あなたに戦う力はない。これでどうやって私を止め…る…」


その瞬間、ミライは見た。


彼女がワルキューレで引き裂いたエドガーの身体。その中には、多数の機械が組み込まれていた。


「改造…人間…」


気付けば、ミライは呟いていた。


「ゲイルの前に、自分で、テストしたんだ。少しの不備も、許されないし、延命にも、繋がる…」


エドガーは全身をスパークさせながら、自分で自分を改造していたことを告げる。


「そこまでして、私を倒したかったと!?」


「これは、贖罪の証でも、ある。そして、もう一度、言おう。君は必ず、ゲイル達に負ける。だがその時、君は救われるんだ…」


「黙りなさいッ!!!」


ミライは手から閃光を放ち、エドガーを消滅させた。消滅の瞬間、エドガーはどこか安らかな顔をしていた。


「…敗北が救い?あり得ない。」


対照的に、ミライはとても苛立っている。


「いいでしょう!!あなたが見た未来の結末、何としてでも変えてみせます!!」


ミライはそう宣言すると、時空に穴を開けて消えた。











「こ、これ、ドッキリとかじゃ、ないんですよね…?」


地下研究室。光輝はアーサーに尋ねた。アーサーはつらそうに返す。


「残念だが、事実だ。」


アーサーによって理事長室に呼び出されたゲイル達は、惨状をさらしている理事長室を見た。それから研究室に案内され、隠しカメラに録画されていた映像を見せられていたのだ。


「理事長は死ぬつもりだった。だから俺に、何があっても助けに入らないよう命令してたんだ…!!」


この隠しカメラ以外の監視カメラは、あらかじめスイッチを切ってある。ミレイヌの正体とエドガーの死を、ゲイル達以外に伝えないようにするためだ。そして、ミライの目的と意志を聞き出すためでもある。


「そんな…理事長先生が…死ぬなんて…!!」


さだめは涙を流していた。信じられなかった。だが、事実なのだ。エドガーは死んだ。


「俺のせいだ…俺がミライさんを倒していれば…!!」


「ゲイル!!」


悔やむゲイルと、彼を背中から支えるアンジェ。


「そうです。理事長が死んだのは、あなたが迷ったから。全てあなたの責任です」


エリックは悔やみ苦しむゲイルに、冷たく言い放つ。


「エリック!!そんな言い方することないでしょ!!」


アンジェはエリックに抗議する。


「しかし、理事長はあなたに道を示しました。映像の中で彼が言ったことを覚えていますか?彼女の計画は、あなたが必ず潰すと。理事長は、それだけあなたを信頼している。なら、死を以てその信頼を示した彼に、あなたは応えねばなりません。」


だがエリックは続けた。エドガーは最期の瞬間までゲイルを、ゲイル達を信頼していた。ならば、それに応えてミライを止めなければならない。それに、新たな敵の存在も判明したのだ。


「…立ち止まってはいられない、か…そうだな。すまなかった」


ゲイルは事実を受け止め、持ち直した。


「一つ気になったのだが、デザイアの連中はこのことを知っておるのだろうか?もし知っておるなら、好きにはさせんと思うが…」


皇魔は疑問に思った。ヴァルハラの目的は世界の破滅。しかし、デザイアの目的は世界の征服だ。支配する世界がなくなっては、ルーラーも困るだろう。


「アーサーさんは、ゲイル達が話すまで知らなかったんですよね?」


「ああ。俺はヴァルハラと同盟を結んですぐデザイアから離れたから、そんな話は聞いていない。首領やイズマ様だって、聞いたら黙っていないはずだ。」


レスティーはアーサーに訊き、アーサーは答えた。アーサーはヴァルハラと同盟を結んだ後、デザイアがどうなったかを知らない。だが、ルーラーやイズマと長く接し続けてきたから、放っておくはずがないということはわかる。


「つまりまだ知らん、か…知ったら間違いなく潰し合うだろう。そしてその時、デザイアは革命を実行する。」


皇魔は予測した。ヴァルハラが動けば、デザイアも必ず動く。だがヴァルハラとデザイア、どちらが勝っても世界は終わる。なら、どちらとも倒さなければならない。


「…二週間。それが俺達と、世界に残された時間…」


ゲイルは呟いた。あと二週間。それで世界の命運が決まる。











「おかえりなさいませ、ミレイヌ様。」


ネイゼンは戻ってきたミライに頭を下げ、他の幹部達も習う。


「最大の障害は片付きました。あとはクロノクライシスを発動するのみ…」


ミライはけじめを着けてきたことを告げる。と、フィスが沈痛な面持ちをしていることに気付いた。もちろん理由はわかっている。


「木林影斗のこと、聞きましたか?」


「…はい。最も信頼していただけに、残念です。」


「ですが、悲しんでいる暇はありません。既に、その時は来ているのです。」


「…は。」


ミライに説得され、さらに深く頭を下げるフィス。


「では、明日ルーラー殿と会談を行いましょう。クロノクライシス計画のこと、知らせておく必要があります。」


ミライは、自分からクロノクライシス計画の内容を伝えると宣言した。そんなことをすれば、間違いなくルーラーは激昂するだろう。だが、この計画にはその怒りさえも、必要なのだ。


「「「「は。」」」」


当然全て心得ている忠実な臣下達は、迷うことなく返事した。











保健室。そこでは現在、狩谷を強化復活させるための手術が行われている。


「狩谷…」


空子は皆とは行かず一人残り、ガラス越しにその光景を眺めていた。






ミライの真相と、ヘブンズエデン創立の理由。そして、エドガーの死。残された時間は二週間。果たしてゲイル達は、全てに決着をつけることができるのか!?


次回、『決戦前夜』


お楽しみに!!

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