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第四十八話 バレンタイン騒動

今回はバレンタインデーにちなんだギャグ回です。

「があああああああああああああ!!!!」


影斗は咆哮を上げ、周囲にあるものを手当たり次第に攻撃していた。


「お、おい影斗!!」


「落ち着け!!」


「うるせーっ!!!」


止めようと集まってきたボーグソルジャー達を、激昂しながら蹴散らす。


「何の騒ぎ?うるさいから見てくるようネイゼン様から言われたんだけど。」


そこへ、フィスがやってくる。


「トップソルジャー!!お願いします!!影斗を止めて下さい!!」


「私らの手には負えません!!」


ボーグソルジャー達は暴れ回る影斗を止めるよう、フィスに頼む。フィスは黙って影斗を見た。彼がここまで荒れている理由は当然わかっている。アデルだけでなく、ビャクオウにまで叩きのめされてしまった。自分以上に力を付けつつあるヘブンズエデンの訓練生達に、苛立っているのだ。アインソフオウルモードとケイオスモード。確かに今の影斗では、あれを倒すのは難しい。


(あれが完成してもまだ届かなそうだし、仕方ない。あのシステムの搭載を進言してみようかしら)


もうすぐ完成する影斗専用の装備。それと自分とネイゼンのみが備えている『あるシステム』を両方使えば、勝てるかもしれない。フィスは、そう考えていた。だが、とりあえず影斗を抑えることが先決だ。


「こら!影斗!」












「んっ…ん~!」


ベッドから起きて伸びをしたアンジェは、未だに眠っているゲイルとネリーを見て、起こさないように身支度をし、リビングに向かった。


(ゲイルには迷惑かけちゃったし、もう少し休ませてあげないとね)


幸い、時間はまだある。あと少し眠っていても、全く問題はない。


と、


「あれ?」


アンジェは気付いた。いつもならとっくに起きて朝食の用意をしているはずのナイアが、リビングにいない。


その時だった。


突然ナイアが転移魔術で現れ、アンジェのスカートの中に頭を突っ込んだのだ。


「きゃああああっ!!ナイアさん!?やめて!!やめてってば!!」


アンジェはスカートを両手で押さえながら、スカートの中からナイアの頭を押し出そうとする。しかし、ナイアの力はとても強く、全く敵わない。


「ちょっ、ナイアさん力強っ!!スカート破れる!!破れちゃう!!あと痛い!!」


ナイアは破けてしまうのではないかと思うほど強く両手でスカートを掴み、ぐいぐいと頭を押し込んでくる。とても痛い。


「アンジェ!!どうした!?」


「ママ?」


騒いでいると、ゲイルとネリーが起きてきた。ゲイルは状況を見て赤面する。


「なっ、何をやっているんだお前達は!!?」


「ゲイル助けて!!ナイアさんに襲われる!!」


「そんなことを言うな!!はしたない!!」


ゲイルもアンジェも、どっちも顔が真っ赤だ。アンジェはナイアの頭をスカートの中から追い出せず、ゲイルもこんな状況では手が出せるはずもなく、互いに何もできない。


「ナイア、どうしたの?」


そんな二人を尻目に、ネリーはひどく落ち着いた様子で、ナイアになぜこんなことをしているのか訊いた。だが、


「エリック怖いエリック怖いエリック怖いエリック怖いエリック怖いエリック怖いエリック怖いエリック怖い」


ナイアはひたすらこの言葉を繰り返してガタガタ震え、さらにアンジェのスカートの中に潜り込もうとするばかりで、ネリーにすら理由を言おうとしない。


「エリックさんがどうかしたの?」


とりあえずエリックが原因らしいということがわかり、ネリーはもう一度訊いた。


その時、玄関からバガァァン!!!と音がした。ゲイルが驚いて見に行ってみると、ドアが破壊されており、エリックがホワイトスイーパーを握りしめ、土足で入ってきていた。


「エリック!?というかなぜドアを壊した!?」


「うるさいですよ。今あなたに用はありません」


エリックはずいぶん怒っているようで、髪は逆立ち、全身から怒りのオーラを噴出させ、ゲイルを押し退けてリビングへ侵入した。


「見つけましたよナイア…それで隠れているつもりですか!?」


ナイアを見つけたエリックは、すかさずホワイトスイーパーをナイアに向けた。ここで事態の深刻さに気付いたゲイルは後ろからエリックを羽交い締めにし、ネリーはナイアの盾になるかのように割って入って両手を広げた。


「やめろエリック!!落ち着け!!」


「離しなさいゲイル!!私はこの女の眉間をぶち抜いてやらないと気が済まないんです!!」


「エリックがこんなに怒ってるなんて…ナイアさん、本当に何したんですか?」


暴れるエリックを見て尋常ではないものを感じたアンジェはナイアに訊いた。一体、何をすればここまで怒り狂うのか。


「…ほんの出来心だったんだ。」


「せめて頭を抜いて下さい!!」


スカートに頭を突っ込んだまま喋り出したナイアに、アンジェは赤面しながら抗議した。ナイアは頭を抜くと、三人にエリックが怒っている理由を話す。











それは、昨夜の出来事だった。


実はナイアは、最近エリックのことが気になり始めていた。最初エリックという人間を知った時は、自分に対して反抗的な人間だと思った。まぁナイアを拒絶した人間なんて宇宙中にそれこそ星の数ほどいたし、珍しくなどない。それにそんな人間は、正面から破滅させたり策を講じて搦め手がら破滅させたり、結局ナイアを頼るしかなくなって破滅したりと例外なく死んだ。この男もいずれはそんな末路を辿ることになるだろうと、大して考えてもいなかった。


ところが、エリックは彼女の予想をことごとく裏切る人物だった。たまに力や知恵を頼ってくることはあったが、従おうとはせずそれどころか逆に従えようとしたのだ。挙げ句の果てには、存在価値を失ったナイアにそれを取り戻してみせた。こんな人間は初めてだった。気が付けばいつの間にかエリックのことばかり考えていたナイアは、こう思ったのだ。決して思い通りにならないこの男を、自分のものにしたいと。


決めたら早速行動に移すのが強壮なる邪神、ナイアである。だから昨夜、エリックの部屋に潜入し、眠っているエリックの隙を突いて添い寝したのだ。



全裸で。



ナイアのスタイルは全ての人間の目が釘付けになるように変身したものだ。それが素っ裸になって抱きついてたら、全ての男が彼女のものになる。


しかし、


「ボクの虜になるどころか、ホワイトスイーパーを撃ってきたんだ!!ひどいと思わないかい!?」


「それはこちらの台詞です!!そんなことを考えていたんですかあなたは!!」


ナイアが抱きついていた理由を知り、エリックはさらに激怒してゲイルの拘束を振りほどこうとする。ゲイルも必死だ。


「ナイアさん。すごーく言いづらいんだけど、エリックに普通の男の子の反応を要求しちゃ駄目です。」


「それは今回の一件でよくわかったよ。でも対神弾を使うことないだろ!?死にはしないけど当たったら痛いんだよ!!」


エリックは異性というものを意識したことがない。だから、全裸で添い寝するなんて真似をすれば、怒る。ナイアはそれを知らなかったのだ。アンジェは今教えたが、時既に遅し。対神弾を撃たれまくった。ちなみに、エリックのホワイトスイーパーはゲイルのダゴンとヒュドラの三倍の速度で弾丸の精製ができる。同じようにエリックの頭の中に対神弾の作り方が叩き込まれていたので、彼も対神弾が造れるのだ。


「お願いエリックさん。ナイアは、エリックさんと仲良くなりたかっただけなの。許してあげて」


「頼む。娘の執事が痛めつけられるというのは、俺も見ていて辛い。もうこんなことはしないように言っておくから、今日はこらえてやってくれ。」


「…仕方ありません。今回だけは、二人に免じて許しましょう。」


エリックはゲイルとネリーから頼まれて引き下がり、自分の部屋に戻っていった。


「まったく…もうあいつを下手に刺激するようなことはするなよ。わかったな?」


「…仕方ない。控えるよ…」


ゲイルは早速ナイアに注意し、ナイアも渋々従う。



だが、彼女の本心は違った。



(こうなったら、無理矢理にでもボクのものしてあげようじゃないか)


全く懲りていない。


「ふ…ふふふ…!!」


不気味に笑うナイア。だがその光景は、


「というかドアを壊したままだぞ。」


「どうするのこれ…」


「大丈夫。私が魔術で直すから。えい」


「「おお。」」


という三人のやり取りがあったので気付かれなかった。











「そりゃさんざんだったな。」


ゲイル達から話を聞いた狩谷は、それはもう楽しそうに笑っていた。


「もう、笑い事じゃないよ。」


「まったくだ。こっちはいい迷惑だぞ」


「悪い悪い。しかし、お前らがこんな関係になるとはな。」


狩谷は去年から今日に至るまでの出来事を思い出す。本当に、いろいろあった。特に異世界での戦い、相馬ナイト達との友情はとてもいい刺激になった。門はゲイル達が戻ってきた後消えてしまったが、これからはアンジェの力でいつでも行ける。


「そういえば、もうすぐバレンタインデーよね。」


と、空子はあと二日後に迫ったとある行事を思い出した。バレンタインデー。女性から男性にチョコレートをプレゼントする、想い人達の神聖な日だ。


「私はもちろんゲイルにあげるよ。当たり前だけど、手作りチョコね。」


「アンジェってチョコ作れたの?」


「子供の頃ママに習ったの。作るの何年ぶりかなぁ?空子は狩谷くんに?」


「ええ。あたしこう見えても、お菓子作りは結構得意なんだから。」


「空子の作ったチョコかぁ…食べてみたいかも!」


男二人を前にしてガールズトークに花が咲くアンジェと空子。と、


「…どうしたの?なんかすごい怖い顔してるけど。」


アンジェはゲイルがとても険しい顔をしているのに気付いた。


「…いつもの顔だ。」


「いつも以上に怖いから訊いてるんだよ。」


ゲイルはいつも気難しそうな顔をしているが、今回はそれ以上に顔が怖い。すると、


「あ、あのな?すげぇ言いづらいんだけどよ、ゲイルはむぐっ!!」


狩谷が何かを言いかけ、ゲイルが口を片手で塞いで黙らせた。


「な、なに?一体どうしたのよ?」


理由を追及しようとする空子。ゲイルは狩谷にそっと耳打ちした。


「余計なことを言うな。」


「け、けどお前…!!」


「何よ!?どうしたの!?」


何やら内緒話をしているのが気に入らず、空子が顔を寄せてきた。そこへ、


「ずいぶん楽しそうな話をしてるわね。」


レスティーが割り込んできた。アンジェと空子はそちらに顔と意識を向ける。


「レスティーちゃんもバレンタインデーは皇魔くんにチョコあげるの?」


アンジェはレスティーに尋ねるが、レスティーは首を横に振った。


「皇魔はチョコとか、甘い物が苦手だから。」


「そうなんだ?確かに、そんなイメージあるかも。」


「だから、バレンタインデーには皇魔が喜びそうな物でも適当に見繕ってプレゼントするわ。」


「皇魔くんって何が好きなのかしら?考えてみると、結構謎ね。」


空子は考える。そういえば、皇魔はあまり自分の好みとかを話さない。単にお喋りが苦手という線もあるが。


「さだめちゃんはやっぱり光輝くんに?」


レスティーは唐突にさだめへと話題を振った。


「うん。やっぱり光輝には、私の手作り食べてもらいたいし。」


「さだめさん…」


光輝はさだめの言葉に、胸にじ~んとくるものを感じた。


「でもちょっと心配なことがあるんだよね。」


しかしさだめは、あることが気掛かりだった。


「みんな、ジェラシーファイターって知ってる?」


ジェラシーファイターとは、日本中で話題になっている都市伝説のことだ。何でもカップルや夫妻などを深く憎んでおり、クリスマスやバレンタインデーなど、恋人達が愛を育む日、日本のどこかの街にランダムに現れて、恋人達をその街ごと滅茶苦茶にしてしまうという謎の仮面の戦士のことである。五年ほど前から突然活動を始め、日本では知らない人間がいないほどの有名人となってしまった。ゲイル達はオークションを守るため日本を離れていたので知らないのだが、去年のクリスマスは大阪がジェラシーファイターのせいで大変なことになっていたらしい。


「女の敵だよね!許せない!」


怒るアンジェ。空子も頷いている。


「ジェラシーファイターか…確か…」


光輝はジェラシーファイターの特徴を思い出して口にする。ジェラシーファイターの特徴は、割れたハートマークが描かれた仮面を着け、『愛、死すべし』と書かれたスーツを着て、『恋、許さず』と書かれたマントを羽織っているという。


「完全に変態だな。見つけ次第退治するとしよう」


話を聞いていた皇魔は言い、アンジェ、空子、レスティー、光輝、さだめの五人は頷いた。一方、話題がそれたと安堵したゲイルは、狩谷に念押しする。


「…絶対に言うな。」


「…わかったよ…」


狩谷は仕方なく聞き入れた。











「今年もこの日がやってきた。」


深夜、鷹上市のどこか。建物の一室に、一人の男がいた。明日はいよいよバレンタインデー。女性がチョコと一緒に、男性に愛を渡す日。しかし、それは恋人がいる者に限る話だ。恋人がいない者、他者の愛に対して憎悪を感じる者にとっては、苦痛の日でしかない。


「だからこそ、俺がいる。」


自分は恋愛と無縁な者全ての代弁者だ。男はそう思い込んでいる。


「愛、死すべし!!恋、許さず!!」


男はそう呟きながら、その仮面を被った。











バレンタインデー。


「ねぇねぇチョコ誰に渡す?」「んーとね、内緒!」「えー?教えてよー」


はしゃぐ女子生徒達。男子勢はそんな彼女達を見て、気が気ではない。一方、アンジェ、空子、レスティー、さだめ、光輝の五人は警戒していた。いつジェラシーファイターが現れても対処できるようにするためである。


「てかよぉ、ジェラシーファイターは日本のどこに出るのかわかんねぇんだろ?ここに来るとも思えねぇし、そんな警戒する必要ないんじゃねぇか?」


狩谷は、五人の警戒に水を差した。だが彼が言ったことは、至極真っ当な話なのだ。考えてもみて欲しい。いくら憎しみがあるとはいえ、こんな戦闘集団のたまり場のような学園にわざわざ乗り込んでくるだろうか?


「大体、ジェラシーファイターは何の力もない一般人なんだろ?俺らに勝てるとは到底思えねぇんだよなぁ。」


「狩谷知らないの?ジェラシーファイターは、ただの一般人なんかじゃないよ。」


「は?どういうこった?」


光輝は狩谷に、ジェラシーファイターについて説明する。ジェラシーファイターはクリスマスやバレンタインデーなど、街中でカップルが互いを祝う日に現れ、プレゼントを壊したり、落書きをしたり、パーティー会場を破壊したりする。その手口を知っていたとある財閥の一人娘が、クリスマスに備えて軍隊を雇っていたのだ。しかし、現れたジェラシーファイターはミサイルに無傷で耐える、戦車を小石のように片手でポイポイ投げ捨てる、手から光線を出すなどして軍隊を一掃し、娘が彼氏にあげるはずだったプレゼントを破壊、家にあった彼氏への愛を綴ったオブジェを消滅させるなどの暴挙を行ったという。


「その時ジェラシーファイターは、自分には非リア充達の怨念が味方についているから、リア充に対しては無敵だ、とか言ってたらしいよ。」


「何だそりゃ意味わかんねぇ。」


本当に意味がわからない。だが、ジェラシーファイターがそれをやったのは事実なのだ。このことからも、ジェラシーファイターが無力な一般人などではないということがわかる。


「狩谷くんさっきここに来るなんて思えないって言ったわよね?甘いわ。」


「ああ?」


レスティーは狩谷に言った。


「むしろここだからこそ来る可能性があるのよ。確かに普通に考えたら、こんな所に来ようなんて思わないわ。でもね、普通の人間がそう考えてみたら、ここはカップルが互いの愛を、誰にも邪魔されずに確認し合うためにうってつけの場所でもあるの。カップルに対して普通じゃない憎悪を抱いている人間がそんなことを聞いたら、どう思う?」


ここは間違いなく安全地帯。そこに住んでいる者は、まずそう思っているはずである。しかし、ジェラシーファイターほどの憎しみを持つ者なら、逆に攻め込もうと思ってしまうのだ。自分達が住んでいる場所は安全地帯などではないと、思い知らせようとするのだ。


「狩谷くんの考え方はジェラシーファイターに付け入る隙を与えるわ。それに、木林影斗っていう例があるじゃない。」


影斗の場合は少し特殊だが、ヘブンズエデンの存在に憎悪し、実際に攻め込んできた。ジェラシーファイターが同じことをやる可能性だって、十分ある。


「だから、今日一日は絶対に油断できないのよ。」


「それにジェラシーファイターは、女の子だけを対象にしてるわけじゃないんだよ?カップルそのものを恨んでるから、愛し合ってるなら男の子も敵。狩谷くんも用心しなきゃ」


空子とアンジェが言ったように、ジェラシーファイターからすれば狩谷も、ゲイルや皇魔でさえ、制裁の対象に入っている。


「一つ思ったんだが…」


と、ここでゲイルが口を挟んだ。


「もう今ここでチョコを渡せばいいんじゃないのか?それで済む話だろう。」


「駄目だよ。ジェラシーファイターの目的はカップルに制裁を加えることなんだから、ジェラシーファイターを何とかしないとチョコをみんな台無しにされちゃう。」


さだめはゲイルの考えを否定した。ジェラシーファイターにとって、実はプレゼントがあるかないかは関係ない。愛し合っているかいないかが問題なのだ。プレゼント破壊はカップルに下す制裁として有効だからやっているわけで、プレゼントがないなら他の方法で制裁する。数少ない報告だが、半殺しにされたカップルもいたそうだ。


「もう障害事件じゃねぇか!何でまだ捕まってねぇんだよ!?」


「言っただろ?ジェラシーファイターは素性が一切不明で、クリスマスとかバレンタインデーとかじゃないと現れない。現れる場所もわからないし、そもそも警察とかの手に負える相手でもないんだ。」


「ジェラシーファイターに勝てるだけの力があるのは、私達ヘブンズエデンの訓練生だけなのよ。」


驚いた狩谷に光輝が説明し、レスティーが結論を言った。まったく面倒な相手である。非リア充の嫉妬とは恐ろしいものだ。


その時、


「きゃあああああああああああ!!!」


「うわあああああああああああ!!!」


男女の悲鳴が聞こえた。


「校庭からよ!」


悲鳴を聞いて即座に動くレスティー。


「僕達も行ってみよう!」


光輝が言い、さだめ、アンジェ、空子も行く。


「まさか本当に…」


「ちっ!俺達も行くぜ!」


ゲイルと狩谷も走った。




校庭では、男子と女子の二人が倒れていた。その間に立っている男が、二人から奪ったチョコを地面に叩きつけ、踏みにじる。


「ふん。愛にのろけきった愚か者どもが!」


男は二人を罵る。と、いつの間にか自分を多数の生徒が取り囲んでいるのに気付いた。


「あなたがジェラシーファイターね!?」


タンカをきったのはレスティーだ。男は割れたハートマークが描かれた仮面に、『愛、死すべし』と書かれたスーツと『恋、許さず』と書かれたマントを着用している。この光輝が言ったものと全く同じ姿をしている男は、間違いなくジェラシーファイターだ。


「いかにも。俺の名は、ジェラシーファイター!!この世に存在する全ての非リア充達の嫉妬が生んだ、愛に飢えし者達の代弁者だ!!」


「やっぱり…登場して早々申し訳ないけど、退場してもらうわよ!!忍法・闇影武装!!」


闇影武装を発動したレスティーは、小太刀を抜いてジェラシーファイターに向かって斬りかかった。


「速いな…だが、俺は負けぬ!!」


全身で小太刀の連撃を受けたジェラシーファイター。しかし、すぐに対応した彼は、レスティーの両腕を掴んで止める。


「なっ!?」


驚くレスティー。満夫の命を受け継いで遥かに増した彼女のスピードが、容易く止められてしまったのだ。ルーラーにすら見切れなかったというのに。


「貴様からは愛の気配を感じる。」


「!?」


「どれほど速かろうと、俺が愛ある者に敗れることはない!!」


「がぁっ!?」


ジェラシーファイターは蹴りを放つと同時に手を離し、レスティーを吹き飛ばした。


「レスティーさん!!」


「レスティー!!」


そこにようやくゲイル達が到着する。


「よくもレスティーを…今度は私が相手だ!!」


ヴォルテクスを構えて飛び掛かるさだめ。


「ぬん!!」


だが、ジェラシーファイターが片手をかざした瞬間に、さだめの動きは止まってしまう。


「う、動けない…!!」


「はっ!!」


「きゃっ!!」


「さだめさん!!」


ジェラシーファイターがかざした手を押し込むとさだめは吹き飛ばされ、光輝が吹き飛ばされた彼女を受け止める。


「な、なんか想像以上にヤバそうだぜこいつ…」


狩谷はジェラシーファイターの底知れぬ力を感じ、恐怖していた。


「そこかしこから愛の気配がする…貴様らに教えてやろう。これが非リア充達の嫉妬だ!」


「よくわからんが応戦するぞ!こいつをこのままにしてはおけない!アデル、起動!!」


ジェラシーファイターを明確な脅威だと判断したゲイルはアデルに変身し、仲間達も戦闘態勢を整え、周囲の生徒達も攻撃を開始した。











その頃、特待生寮。


「~♪」


キッチンに立つナイアは、何かを作っていた。


「何作ってるの?」


後ろからネリーが話し掛ける。


「チョコレートですよ。」


「チョコレート?」


「はい。地球人の食べ物の一つです。今日はバレンタインデーですからね」


ナイアはネリーに、地球にはバレンタインという風習があることを教えた。


「じゃあ私も作る。」


「では、一緒に作りましょうか。」


ネリーも一緒に作るということになり、ナイアは材料を追加し、ネリーに作り方を教えてやる。


「ナイアはそのチョコレート、誰かにあげるの?」


「はい。エリックに」


「私はね、パパにあげるの。」



ナイアはエリックのために、ネリーはゲイルのために作っている。


だがナイアが作っているチョコは、ただのチョコではない。出来上がりまでは普通のチョコなのだが、出来上がった後、ナイアはチョコに魔術をかける。かけたのは、魅了の魔術。これでこのチョコを食べた者は、ナイアに無償の愛を捧げるようになる。これをエリックに食べさせるのだ。


「…一応エリック以外が持つと爆発する魔術もかけておこう。」


念を入れるナイア。これで万が一にも、エリック以外の人間がこのチョコを食べる可能性はない。爆発させる必要があるかどうかは不明だが。


「あ、お嬢様は魅了や爆発の魔術をかけちゃ駄目ですよ。これはあくまでも、私が作った場合ですから。普通に作って、普通に渡すんです。」


「ナイアは普通じゃないの?」


「ちょっと違いますね。」


「…ふーん…」


ナイアはネリーにこんな本来なら使う必要がない魔術を使ってはいけないと話す。真似なんてされたら大変だ。ネリーの方は、まぁ何が普通ではないのか訊くこともできたのだが、なぜかそうしてはいけない気がしたので、やめておいた。空気が読める子である。


「さて、では渡しに行ってきます。部屋に行っても追い出されるだけですし、今行って不意を突かないと。」


「…私も行く。」


「えっ?」


ナイアには今行かなければならない理由があるが、ネリーにはない。寮で待っていれば渡すべき相手は必ず帰ってくるし、絶対に拒んだりはしないだろう。


「早く渡したい。」


ネリーがナイアに付いて行きたい理由は、ただそれだけだ。


「…かしこまりました。」


だが、たったそれだけの理由でも、ナイアにとっては連れて行く理由になる。というわけで、二人は寮を出発した。











皇魔は竪彦に連れられて、ヘブンズエデンの第五倉庫に来ていた。ヘブンズエデンには授業に使う教材や道具などが納められた倉庫が第六まであり、第一~第三までは普通課が。第四~第六までは傭兵課が使う。教師の他にも運動部の部員が倉庫の整理を行うのだが、第五倉庫は大型の兵器が納められており整頓に難があるため、時々力持ちで頑丈な皇魔に手伝ってもらっているのだ。


「おい時雨。」


「ん~?」


整理整頓が終わりかけた頃、皇魔は竪彦を呼んだ。皇魔が見つけたのは、クレイモア地雷が大量に収納されたカートだ。日本は対人地雷禁止条約に加入しているのだが、クレイモア地雷は対象外なのでヘブンズエデンにもある。


「あちゃ~。また誰か間違えたんだな?悪い、第四倉庫に移してくれ。」


「うむ。」


だが、ここは第五倉庫。クレイモア地雷は小型兵器なので、小型兵器専用の第四倉庫に移さなければならない。ちなみに、第六倉庫はプラスチック爆弾など取り扱いの難しい兵器を収納してある。皇魔はカートを押し出し、倉庫の外へ出た。


その時、


「ぐあっ!!」


「ああっ!!」


皇魔の目の前に狩谷と空子が吹き飛ばされてきた。


「狩谷に夏原!?一体どうしたのだ!?」


「じ、ジェラシーファイターが…!!」


「何!?」


驚いた皇魔は狩谷が指差した方向を見る。そこには、アデルやアンジェすらも圧倒するジェラシーファイターの姿が。


「ふん、出おったか。ちょうど新しい技を思い付いたところだ。奴で試してやる!」


「は!?新しい技!?今思い付いた!?」


皇魔は狩谷のツッコミを無視し、カートの中のクレイモア地雷を掴み取る。


「それ、クレイモア地雷!?」


驚く空子の目の前で、皇魔は新たなる奥義を発動する。


「闘界覇神拳奥義・地雷投げ!!!」


クレイモア地雷のスイッチをオンにし、ジェラシーファイターに向かって次々投げ始めたのだ。


「それが新技かよ!?つーかクレイモアはそうやって使うもんじゃねぇ!!」


「しかも暴発しまくってるし!!」


二人からツッコミを入れられながら皇魔が投げるクレイモアは、あらぬ方向をむいて爆発したり関係のない者を巻き込んだりしている。


「ぐおおっ!?」


しかし、その何割かはジェラシーファイターに当たって爆発し、しかもかなりのダメージを与えていた。


「「効いてるし!!」」


さらにツッコミを入れた狩谷と空子。そのうちカートの中身は空っぽなり、


「まだまだ行くぞ!!」


皇魔は覇氣鎧装を発動し、ジェラシーファイターを殴り飛ばした。


「ごおぁっ!!」


「嫉妬の戦士よ!!己の浅はかさを知るが良い!!」


「皇魔に続け!!」


なぜかジェラシーファイターを圧倒している皇魔。アデルは全員に号令をかけ、追撃を仕掛ける。




「…」


そんな喧騒を、エリックは興味なさげに屋上から眺めていた。


「うわ…なんか騒がしいと思ったらとんでもないことになってる…」


そこへ、アーサーが来た。


「どうしました?」


「理事長から様子を見てくるよう言われたんだよ。こりゃメイリン先生や室岡先生にも手伝ってもらわなきゃ…っていうか、ここで何してるんだ?」


「避難しているんですよ。面倒事は御免ですから」


「…まぁいい。それより早く収拾付けないと!」


エリックのことだから嬉々としてあの変態に挑むだろうとアーサーは思っていたが、実は逆で避難するためにここに来ていたことがわかった。しかしそれはさておき、今は変質者の撃退が先決である。アーサーは屋上をあとにして、メイリン達教師陣を呼びに行った。


「それにしてもあんなものの侵入まで許すとは、この学園のセキュリティもずいぶんとザルですね。もしかしたら侵入してくる相手が強すぎるだけかもしれませんが」


相変わらず自分から動くつもりは全くなく、エリックはぼやく。と、


「やぁエリック。」


いつの間にか背後にナイアが来ていた。まぁ、彼女の場合は仕方ない。転移魔術に対応できるセキュリティなど存在しないのだから。


「…今度はあなたですか。」


「そう邪険にしないでくれよ。今日は君にこれを持ってきたんだ」


ナイアはエリックにチョコを差し出す。


「昨日のことに対するちょっとしたお詫びだよ。」


本当は違うのだが。


しかし次の瞬間、


「愛、死すべし!!!」


横から飛び込んできたジェラシーファイターがナイアからチョコをひったくり、逃げていってしまった。


「あ」


「…」


反応できなかった二人はジェラシーファイターを目で追う。そして、



チュドーン!!!!



「ぐわああああああああああああ!!!」



チョコにかけてあった魔術が発動し、チョコは大爆発。ジェラシーファイターは吹き飛んだ。


「…」


この惨状を無言で見ていたエリック。


「や、違うんだよエリック。あれは君以外が持つと爆発する魔術がかけてあっただけで、本当は魅了の魔術の方が本命…あ…」


弁明するナイアはよほど焦っていたのか、絶対に言ってはいけないことを言ってしまった。


「ビャクオウ、始動。シルバーキーシステム始動。コード・ケイオス」


エリックはビャクオウに変身し、さらにケイオスモードへと変身した。











「ぐ…あ…なぜチョコが爆発を…」


かなりの大爆発を至近距離で受けたはずだが、生きていたジェラシーファイター。


「そこまでだ変質者め。」


「何!?ぐわっ!!」


だが休む暇もなく、到着した室岡に殴り飛ばされた。


「女の敵め!!」


メイリンも他の教師達や生徒達と一緒に発砲し、


「アンダーヘルナックル!!!」


ダークスに変身したアーサーがジェラシーファイターの足元の影を拳に変化させて、打ち上げた。


「今だ!!エクストリームエクスタシー!!!」


「ハウリングシュート!!!」


最大の攻撃チャンスが訪れた狩谷と空子は、それぞれの必殺技で空中のジェラシーファイターを攻撃。光輝とさだめは互いの武器にエネルギーを込めて飛び掛かり、


「「エンドレスレジェンド!!!」」


同時にジェラシーファイターを斬った。


「鬼神激動拳!!!」


「瞬獄殺!!!」


次に皇魔が覇気で攻撃し、最後にレスティーがジェラシーファイターを地面に叩きつける。


「ま、まだだ…俺は全ての非リア充達の、嫉妬心の代弁者だ…こんな連中になど、負けるはずが…!!」


本来なら死んでもおかしくないのだが、それでもジェラシーファイターは立ち上がる。


しかし、彼らは敢然と立ち向かう。


「ならばお前に見せてやろう。」


「本当の愛の力をね!」


愛の極致。その力、その姿を、見せる時が来た。


「「エルピスシステム起動!!コード・アインソフオウル!!!」」


二人の愛が生んだ、アデルの最強の姿、アインソフオウルモード!!


『人の恋路を邪魔する外道は!!』


「神に蹴られて消え失せろ!!」


「くっ!!うおおおおおおおお!!!」


目の前に現れた愛の極致は、確かにとてつもない力を持っている。だが、それでも敗れるわけにはいかないと破れかぶれの突撃をかけるジェラシーファイター。彼の放った拳をかわして、天高く跳躍したアデルは、


「『アクセラレーション…』」


足にエネルギーを集中し、


「『ハートブレイクキィィィィィィィィック!!!!!』」


ジェラシーファイターを蹴り飛ばした。蹴りが当たった場所はハート型に発光し、


「ぐおおおあああああああああああああああ!!!!!!!」


遂にジェラシーファイターは爆発して倒れた。


「「なんかすごい技出たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」」


盛大にツッコミを入れる狩谷と空子。


「『これが真の愛だ。』」


アデルの口からはゲイルとアンジェの声が同時に出た。











真の愛の前に散ったジェラシーファイター。それから数分ほどして警察のパトカーが到着し、メイリンと室岡がジェラシーファイターを拘束してパトカーに乗せようとする。


「これで一安心だね。」


「ああ。」


ゲイル達はそれを見ている。その時、


「あの…」


ジェラシーファイター達に声をかける者が現れた。


「あら?ネリーちゃんじゃない。」


驚くメイリン。そんな彼女の目の前で、ネリーは自分が持っていたチョコをジェラシーファイターに差し出した。


「あげる。だから、もう他の人に迷惑かけちゃ駄目。」


ネリーはジェラシーファイターが暴れる所をずっと見ていた。だから、気休めかもしれないが自分のチョコをあげようと思ったのだ。本当はゲイルにあげたかったのだが。


「…ありがとう。」


ジェラシーファイターはチョコを受け取ると、仮面の下で涙を流し、警察に連行されていった。


「…ネリー…」


ゲイルはその様子を見て、ネリーは本当に優しい子になったと思った。


「あ!忘れてた!ゲイルにチョコ!」


今までずっと忘れていたアンジェは、チョコを取り出してゲイルに渡す。


「はい!」


「あ、ああ…」


だがゲイルはどことなく気乗りしない感じで、心なしか顔も少し青い。


「どうしたの?」


気になったアンジェは質問し、こらえきれなくなった狩谷が事情を話す。


「ゲイルはチョコが苦手なんだよ。ガキの頃チョコ食いすぎて虫歯になったことがあって、それ以来見るだけでも歯が疼くって…」


「そうだったの!?」


「い、意外な弱点だな…」


空子と皇魔も、これにはかなり驚いていた。


「ご、ごめんなさい!知ってたら作らなかったのに…」


謝るアンジェ。だが、


「…!」


決意したゲイルはチョコの包みをほどくと、中にあったチョコを勢い良く頬張り、噛み砕いて飲み込んだ。


「き、気合いで食べちゃった…」


レスティーはゲイルの行動に驚き、またこの後どうなるかわからず焦っている。


「ど、どう…?」


アンジェはおずおずと尋ねた。


「…ああ。うまかった」


まだ表情は固かったが、ゲイルはチョコの感想を言った。




その直後、




「ナイアァァァァァァァァァァァ!!!」




エリックの声と連続で爆発音が。


「ま、待って!!落ち着いて!!話せばわかるってば!!」


「テメェなんてもん食わせようとしやがったこのゴミ邪神がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


見ると、ビャクオウがホワイトスイーパーとブラックインフィニティーを連射しながら、ナイアを追いかけ回している。


「…な、何があったんだろう…」


光輝がかなり引いていると、ジェラシーファイターを見送ったネリーが来た。ゲイルが訊く。


「ネリー。ナイアは何をやったのかわかるか?」


「魅了の魔術とエリックさん以外が触ると爆発する魔術をかけたチョコを、エリックさんにあげようとしてた。」


「…それでか。」


なぜジェラシーファイターが突然爆発したのか、その理由がようやくわかった。


「あの人もよくやるよね。人じゃないけど」


さだめが言った直後、


「ギャラクティックエンドジェノサイダー!!!!」


「うわああああああああああああああ!!!!!」


ナイアはビャクオウの必殺技によって、地球の外まで撃ち上げられた。




いやはや、非リア充の嫉妬心とは恐ろしいものですねぇ…まぁ、そういう邪悪なものは真の愛には敵いませんけど。なんていうか、今までの流れが台無しですね…。


さて、次回はいよいよベルセルクとの決着!そしてとうとうミレイヌの正体が明らかに!?お楽しみに!

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