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第四十七話 ELDER GOD

今回は、光輝とさだめのパワーアップ回です。コラボの間に起きた出来事という設定ですので、ゲイル達は登場しません。

「まさかあのような結果になるとは…」


ルーラーは首領の間で悩んでいた。まさか皇魔とレスティーが、あれほど強くなるとは思っていなかった。


「いかがなさいますか?」


イズマはルーラーに尋ねる。と、ルーラーは逆に訊いてきた。


「『革命』の準備は、どの程度できておる?」


革命。過去に大規模な作戦を何度も敢行してきたデザイアにとって、間違いなく最大と言える最終作戦。


「…七割でございます。」


「あとどれぐらいで、革命を実行できる?」


「二週間ほど、時を頂ければ。」


「二週間だな?私もそれ以上は待たん。準備を急がせろ。だが、決して失敗は許されぬ。万全を期すのだ」


「は。」


猶予をもらい、頭を下げるイズマ。




「…」


二人の話を扉越しに聞いていたウォントは、自室へ向かう。


「兄さん。」


迎えたのはアプリシィ。ウォントはアプリシィに言う。


「行くぜアプリシィ。」


「行くってどこへ?」


「白宮光輝のとこだ。」


戻ってくるなり光輝の所へ行くと言ったウォント。アプリシィとしてはようやく光輝を殺せるのでとても嬉しいのだが、なぜいきなりそんなことを言ってきたのかわからなかったので、聞いてみた。


「それは構わないが、なぜ?」


「革命、二週間後に始めるってよ。」


「!」


アプリシィはウォントが言おうとしていることがわかった。ウォントは続ける。


「革命が始まれば、恐らくもうあいつを殺す機会は、私怨で戦う機会はない。だから、その前にケリを着けようってわけだ。」


「そうか、そうだったのか。もう革命を…」


「俺としては遅すぎるくらいだけどな。さ、行こうぜ。二週間以内と言わず、今日であいつとの因縁を終わらせる。」


「わかった。今度こそあいつらを殺そう」


アプリシィは了承し、二人はフォビドゥーンから出ていった。











「…はぁ…」


光輝はため息を吐きながら、商店街を歩いていた。と、


「おや、君は確か白宮くんだったかな?」


光輝は大量の荷物を抱えたナイアに出会った。


「ナイアさん。」


「いつもの彼女はいないのかい?」


「ちょっと一人になりたくて…っていうかすごい量の荷物ですね…」


「買い出しだよ。」


「重くないんですか?」


「全然。」


光輝から見た感じ、ナイアが持っている荷物の量は女性一人が持ちきれるものでは全くない。だが、ナイアは涼しい顔をしている。さすが神と言うべきか。


「元気がないね。ボクで良ければ相談に乗ろうか?君より遥かに長く生きている者として、少しは力になれるかもしれない。」


ネリーの手前もあるのかナイアは人間を破滅させるのを完全にやめたらしく、今ではゲイル達の仲間とも呼べる存在になっている。そのため、光輝も全く警戒していない。


「…それじゃあ、お願いしてもいいですか?」


「了解。」


光輝が言葉に甘えると、ナイアの手から荷物が消える。


「魔術、ですか?」


「ああ。寮に飛ばしたよ」


「…最初からそうすればよかったんじゃ…」


「いやいや、人間らしい生活を楽しむためには、こういうことも必要なんだよ。」


ナイアの理屈は、よくわからない。魔術や超能力の他にも、数多くの異能という便利な力が使えるのだから、それを使えばいいと光輝は思うのだが、ナイアは買い出しの荷物をいちいち持って帰ったり、料理を魔術ではなく手で作ったりなど、そういう人間臭い行動を好む。まぁ、彼女はナイアルラトホテップという邪神なのだから、人間でしかない光輝の理解など及ぶはずもない。


「それで、一体どうしたんだい?」


二人は近くのベンチに腰掛けて、話を始めた。











「…」


自宅に戻った皇魔は、自室で手紙を読んでいた。


事は数分前に遡る。


「あなたは…」


帰宅した皇魔を待っていたのは、剛造の秘書を勤めていたという男だった。


「お久し振りです、皇魔様。」


「う、うむ。一体いかがなされた?」


皇魔は秘書を屋敷に上げ、事情を聞いた。


「この度会長が亡くなられましたこと、お悼み申し上げます。」


「これはどうもご丁寧に。」


礼をする二人。


「つきまして、私は会長からお預かりしていた物をお渡ししに参りました。もし自分の身に何かあったら、皇魔様にお渡しするようにと、会長からのご伝言です。」


「親父から?」


秘書が出した物は、二通の手紙だった。片方は真新しい封筒だが、もう片方は少し茶色がかっている。かなり前に用意された物なのだろう。


「こちらは会長の遺書。そしてこちらは、一族に伝わる大切なものだと…」


皇魔は秘書から封筒を受け取る。すると、秘書はゆっくり話し始めた。


「…会長はとても素晴らしいお方でした。私のようなしがない社員を秘書にして下さり、良くして下さって…私としても、惜しい方が亡くなられたと思います。」


この男は剛造の秘書になれたことがとても嬉しかったようだ。


「どうか、あの方の想いを受け継いで下さい。私達にとっては、あなたが次の希望なのです。」


「…必ず。」


皇魔は秘書の言葉に、そう返しておいた。




それから皇魔は、父からの遺書を読んでいる。遺書に書かれていたのは、葬儀の行い方や、遺産の相続。鬼宝院グループの今後について。これは当初の予定通り、皇魔を次の会長にすると記述されていた。そして、最後の記述。そこには秘書から遺書とともに渡される手紙の内容を、ルーラーに伝えるようにと書いてあった。


「ルーラーにだと?」


これは予想外。この古ぼけた手紙に、一体どんな内容が記されているというのか。激しく気になった皇魔は、手紙の封を開けて中を読む。


「こ、これは…!!」


手紙には、驚愕の内容が記されていた。皇魔は手紙を見て決意する。


(何としてでも、この手紙の内容を必ずルーラーに伝えなければ…!!)











「母様。」


帰ってきたレスティーは、照姫に会っていた。


「おかえり、紗理奈。」


照姫とはルーラーとの戦い以来会っていない。久しぶりの再会だった。


「母様は、父様が死ぬつもりだってわかってたの?」


レスティーは単刀直入に尋ねた。照姫は数秒間を空けてから、答える。


「ええ。知っていたわ」


「…知ってて行かせたの?止めなかったの?」


「…紗理奈、よく聞きなさい。」


次の質問をしてきたレスティーに、照姫は諭すように言う。その顔にはいつもの優しさなど微塵もない、冷酷な、忍としての彼女の顔があった。


「私達は霊宮寺家。闇で暗躍する、忍の一族です。忍たるもの、残酷な結末を自ら選ばなければならない時も必ずあります。あの人は、その忍の宿命に殉じたまで。」


照姫が語ったのは、最期の闘いへ赴く前の満夫。彼は、霊宮寺の人間として戦い死ねることを、全く恐れていなかった。己の宿命を果たして死ねることは、最高の名誉だと、そう言って出立したのだ。


「だから、私達にもいつか必ず、宿命のために死なねばならない時が来ます。それを決して、恐れてはいけません。あなたが自分の父親を悼む気持ちがあるのなら」


「…」


レスティーは、何も言わなかった。わかっていたことだ。自分は忍だから、まともな死に方ができるはずはないと。


「でも…」


と、照姫は優しい顔に戻ってレスティーを抱き締めた。


「それまでは、私があなたを守るわ。あなたは何より愛しい、私の宝だもの。」


愛する夫を失った照姫。娘まで失いたくない。だから、宿命の時が来るまでは必ず守る。彼女はそう誓った。


「…私も…」


そしてレスティーも誓う。


「私も必ず、霊宮寺の当主として相応しい人間になります。そして、母様を守ります。」


残った一人の母を守ると。それは、死んだ父との約束だった。











ナイアは光輝から話を聞いていた。


光輝は、先日剛造と満夫の壮絶な死を目の当たりにして以来、自分の戦いについて迷いを抱くようになっていた。皇魔とレスティーには、一族の因縁を終わらせるという大きな使命がある。だが、光輝の目的はウォントへの復讐だけだ。皇魔達に比べて、自分の戦いがどれだけ小さなものなのかを思い知らされた。


「父さんと母さんの仇が取りたくて、ただそれだけの理由でヘブンズエデンに来ました。でも、剛造さんと満夫さんを見て、僕が戦う理由は本当にこのままでいいのか、疑問を持つようになったんです。」


「なるほど。それで?」


「…僕が戦う理由は、本当にこれでいいんでしょうか?」


光輝は躊躇いながらもナイアに訊く。自分の戦う理由が薄れつつあることを、認めたくないのかもしれない。


「別にボクはいいと思うよ?っていうか、君が戦う理由は本当にそれだけなの?さだめちゃんを守るためとかは?」


「それは無論です!でも、僕がここに来た根本的な理由が崩れていくのを思うと…」


「気にしないわけにはいかないって?」


「はい…」


「…ふーん…」


ナイアは少し考えるような仕草をしてから、また尋ねる。


「でも君はウォントとかいうエボリュータントに復讐したいんでしょ?そもそも、君は何で復讐したいんだい?」


「…憎いからです。僕にとって一番大切な両親を殺したあいつが…」


「大切なものを奪われたら嫌、か…その気持ちは理解できるね。ボクだってお嬢様を奪われたらと思うと…いや、思いたくないからよそう。」


ネリーにぞっこんなナイアは、ネリーが消えてしまうという未来の想像を拒否して、また訊いた。


「で、君が復讐したいのは憎しみだけ?ボクはさだめちゃんからまだ理由があるって聞いてるよ。確か、ウォントは君の両親からメッセージを預かってるんだっけ?」


「…はい。自分を殺せるくらい強くなったら、内容を教えるって。」


「君はそれが聞きたいって理由でも、戦ってるんだね?」


「…はい」


「ならいいんじゃないかな。そういう理由でも」


「…えっ?」


光輝は聞き返した。


「別にさ、戦う理由なんて人それぞれなわけだし、比べる必要なんてない。目の前にいるってだけで戦う理由にもなるんだからさ」


「…それは…そうかもしれません…」


光輝は納得した。そもそも、使命は人によって違う。皇魔達の使命はたまたま大きかっだだけで、比べるべきものではないのだ。


「君は君が選んだ道を貫けばいいよ。」


ナイアはそう結論付けた。彼女自身ずっと前から、それこそ宇宙に生物が誕生する前からそうしてきたことだ。


「ただ、確かにあの二人の死に方はすごかったね。あいつを思い出しちゃったよ」


「あいつ?あいつって誰ですか?」


廻藤かいどう光弘みつひろ。今から200年ほど前にいた剣士さ」


ナイアはかつてその光弘という剣士と争っていたそうだ。


「強かったよ。能力抑制術式を全解放したボクとも互角に渡り合えるくらい」


「…それって人間なんですか?」


「ボクも最初はかなり疑ってたんだけど、残念ながら正真正銘の人間。しかもボクが何かやる度にピンポイントで嗅ぎ付けてくるからさぁ、ウザくてウザくて…」


どうやら光弘は規格外な力を持ち、ナイアは相当苦労させられたようだ。一体何者なのかと光輝は気になったが、ナイアが人間と言う以上は人間なのだろう。かなり疑わしいが。


「それから、自分の後継者となる人間に会いたがっていたね。未来に自分の魂を繋ごうとする辺り、あの二人とそっくりだったよ。」


確かに、そっくりだ。やっぱりナイアさんは、いろんな人間を見てきたんだなぁ、と、光輝は思った。


そこへ、


「光輝!」


さだめがパタパタと駆け寄ってきた。


「さだめさん。」


「やあ、さだめちゃん。」


「あれ?ナイアさんも?」


「ちょっと相談に乗ってもらってたんだ。」


「もう解決した?」


「うん。」



だが、来たのはさだめだけではなかった。



「ちょうどいいところでお揃いだな。」



三人は声が聞こえた方を振り向く。そこにいたのは、ウォントとアプリシィ。


「ウォント!!」


「アプリシィ!!」


「…噂をすれば何とやら…」


ナイアはやれやれと肩をすくめ、首を横に振った。


「ん?お前誰だ?この前剛造達と戦った時にいたってのは、なんとなく記憶に残っているんだが…」


「ボクはナイア。ナイアルラトホテップだよ」


「!お前がナイアルラトホテップか…この前はよくもウチの精鋭を返り討ちにしてくれやがったな。ずっと殺したかったぜ!」


ウォントもアプリシィも、自分の部下がナイアを倒しに行って逆に皆殺しにされたのを知っている。特に仲間想いなウォントは、ずっと仇を討ちたいと思っていたのだ。


「だが、今お前に用はねぇ。俺にとって最優先すべきは…」


しかし、今回それは後回しだ。今日は光輝と決着をつけに来た。


「待っていたぞウォント。今日こそお前を倒す!!」


「ウォントは殺させない。」


羅刹刃を抜いて疑似進化した光輝に対して、変身してウォントとの間に割り込むアプリシィ。ウォントもまた変身し、さだめもヴォルテクスを出して疑似進化した。


「やれやれ…これ以上お嬢様を心配させたくないから、瞬殺させてもらうよ。」


ナイアは、能力抑制術式を十三層ほど解除する。現在ネリーの両親はとある理由から異世界に飛んでおり、寮にはネリー一人だ。だから、自分だけは一刻も早く帰宅し、主人を安心させたかった。だが、光輝は言った。


「ナイアさんはさだめさんを守って下さい。ウォントとは僕が!」


「そんなケチ臭いことはしないよ。二人とも守ってあげるって」


「ウォントは僕が倒さなければいけないんです。どうか、わかって下さい。」



「…やれやれ。弟子っていうのは師匠に似るんだねぇ、わかったよ。」


光輝も結局皇魔とさほど変わらないと知り、苦笑しながらナイアはさだめのそばに立つ。


「というわけだからよろしく。」


「は、はい。でも、気を付けて下さいね?アプリシィはアフーム=ザーの力を取り込んでいて、それを自在に使えますから…」


「アフーム=ザー!?」


さだめの話を聞いて、ナイアはおもいっきり嫌そうな顔をした。アフーム=ザーはクトゥグアの眷属。クトゥグアを何よりも嫌うナイアは、その眷属も嫌なのだ。


「なんだ、結局貧乏くじを引かされたんじゃないか…」


「す、すいません…」


文句を言うナイアに、とりあえず謝っておくさだめ。謝る必要はないのだが。


「…まぁいいよ、今この星にはお嬢様がいるんだ。クトゥグアの眷属の力の使い手だからって、主人を置いて逃げ出したんじゃ従者は名乗れないからね。」


「あ、ありがとうございます…」


だが、ナイアにも負けられない理由がある。この地球に居を構えているアザトース、ネリーを守るため気合いを入れ直した。


「話は終わりか?なら、死ね!!」


ナイアとさだめのやり取りを見ていたアプリシィは、早速アフーム=ザーの力を発現させ、不浄な冷炎を放つ。


「きゃっ!!」



「うわっ!!いきなり!?」


さだめとナイアはかわしたが、ナイアのかわし方はあまりにもオーバーだ。よほど嫌なのだろう。


「さて、邪魔者はアプリシィが相手してくれてるし、こっちもやるか!!ホーミングスローフレイム!!!」


ウォントは光輝に向かって炎の玉を投げつけた。こちらは凍らせる炎ではなく、焼き尽くす炎だ。


「うっ!!」


だが飛んでくる速度はとても遅く、光輝はかわしてウォントに接近しようとする。しかし、光輝が炎の玉とすれ違った瞬間に、その炎は爆発。小さな無数の火の玉に分裂して、襲い掛かってきた。


「なっ!?」


光輝はそれもかわすが、火の玉はホーミング性能を持っているようで、いくら逃げても追ってくる。仕方なく羅刹刃で迎撃するのだが、最後の火の玉を斬った瞬間、背後に回り込んでいたウォントから炎を纏った蹴りを喰らってしまった。


「がぁっ!!」


先ほどの火の玉、ホーミングスローフレイムは、この本命の蹴りを喰らわせるための囮だったのだ。


「今回の俺はいつになくマジだ。今までと同じだと思ったら大間違いだぜ!」


こんな複雑な手を使ったことはなかった。ウォントがどれだけ本気なのかということが伺える。


「光輝!!」


アプリシィの氷剣と打ち合っていたさだめは、光輝が早くも危機に陥ったことに気付く。


「余所見禁物!!」


ナイアはさだめの肩を掴むと、二人で一緒に瞬間移動してかわす。直後、さだめがいた場所を冷炎が凍らせた。


「あ、ありがとうございます!」


「まったく、彼氏のことは気になるかもしれないけど、それは戦いが終わった後でね。しかし、どうしようか…個人的に、ボクは彼に触りたくないんだけどなぁ…」


クトゥグアだけでなく、その力を使う者すら、ナイアにとっては嫌悪の対象だ。そんな相手は触りたくもない。だから…


「触らずに終わらせるよ!!」


無数の魔力弾を空中に出現させ、放つ。


「触らぬ神に祟りなしってね。」


かなり意味が違う気もするが、とにかくナイアは魔力弾で遠距離から攻撃した。


「このっ!!」


さだめもまた、雷で攻撃する。アプリシィの能力の特性上、下手に接近戦を挑むのは危険だ。しかし、


「こんなもので!!」


アプリシィは光線を放つと、魔力弾も電撃もみんな凍らせて砕いてしまった。


「う~ん…やっぱり少し相性が悪いかな?」


「本当にすごい冷気…ナイアさんの攻撃まで凍らせるなんて…」


アプリシィとナイアでは、ナイアの方がまだ強い。しかし、アフーム=ザーの力を使っているため、今のアプリシィはナイアにとって非常にやりづらい相手なのだ。それを差し引いても、魔力や雷を凍らせられるというのは尋常ではないが。


「あんまり力を強めると地球壊しちゃうし…さてどうしようかな?」


「ムカつく女だ。さっさと死ねばそれで済む話だろう!!」


やりづらい相手ではあるが、まだかなりの余力を残している。それが気に入らないアプリシィは、再びナイアに冷炎を放った。


「だからその炎はやめてってば!!ホントに嫌なんだよ!!」


「うるさい死ね!!」


「ナイアさん!!」


アプリシィの冷炎をかわし続けるナイア。さだめはナイアを助けようとするが、いつかの時のようにまた足が氷で張り付けられ、動けなくなっていた。


「さだめさん!!ナイアさん!!」


「他人の心配してる場合か?ファイアナックル!!!」


「ぐあっ!!」


光輝は思いの外劣勢に陥っているさだめとナイアを心配するが、そんなことを考えているうちにウォントから燃える拳をみぞおちに喰らってしまった。


「こ…のぉぉぉ!!!」


ウォントに連続で斬撃を放つ光輝。だがウォントは、それを全て軽くさばき、逆に光輝の左頬と胸板を殴った。


「どうしたんだ?そんなんじゃ、お前の両親のメッセージは聞けねぇぞ?」


「うるさい!!」


光輝は再び攻撃する。だが、また簡単に防がれた。


「まさかお前、自分が何のために俺と戦ってるのか、その理由を忘れちまってんじゃねぇだろうな?」



「!!」


忘れるはずがない。だが…


「俺が憎いんだろ?だったらもっと気合い入れろよ!」


その憎悪は薄れつつある。消え始めている憎悪をかざして戦っているため、ウォントからはそのように捉えられてしまっているのだ。


(違う…僕は…)


ウォントへの憎悪を忘れたわけでも、隼人と優子が何を伝えたかったのかを聞きたくないわけでもない。だが、彼の中には別の気持ちがあった。


(さだめさんを守りたい!!!)


愛する人を守りたい。その気持ちの方が、憎悪を上回っていたのだ。


(そうだ。それで良い)


光輝の頭の中に声が聞こえてきたのは、その時だった。突如として空に穴が空き、そこから怪物が顔を出した。タコの頭とコウモリの羽を持つ怪物だ。


「な、何だ!?」


驚くウォント。光輝も焦る。


「あれはクトゥルフ!?」


彼には、その怪物が邪神クトゥルフに見えた。だがなぜだろうか。このクトゥルフからは、一切の邪悪さが感じられない。慈愛に満ちた、とても優しい目をしている。対照的に、ナイアは怒りの目を向けて、この怪物の名を呼んだ。


「クタニド…!!」


「えっ!?クタニド!?」


さだめはナイアが呼んだ怪物の名前に聞き覚えがある。



クタニドは、旧神の一角のことだ。旧神とは、宇宙の調和を守る善なる神々で、クタニドはその長である。クトゥルフの兄にあたる存在で、容姿もまたクトゥルフそのものだが、人間を愛する心優しき神だ。


「この非常事態に何の用だい?ボクを追うことの無意味さは君が一番よくわかっているだろう?」


ナイアは挑発するように言う。クタニドの力はナイアやヨグ=ソトースを上回り、ナイア自身も何度か滅ぼされている。だが化身をいくつも作っているおかげで、完全に滅ぶことはない。クタニドもそれは把握しており、よほどのことがない限りは彼女を追わないのだ。クタニドだけでナイアを滅ぼし尽くすことは、不可能と言えるとわかっているから。


「今回貴様に用はない。用があるのはその二人だ」


しかし、クタニドはナイアに手を下すことはせず、光輝とさだめを見た。


「なんかよくわかんねぇけど、いきなり出てきて邪魔をした落とし前はつけてもらうぜ!!」


持ち直したウォントはエネルギーを集中し、


「アトミックブレイズ・バーストストリーム!!!」


全熱量を込めた光線を放つ。だが、


「無礼者が!!!」


クタニドは両目から光線を発射し、アトミックブレイズ・バーストストリームを打ち破ってウォントを吹き飛ばした。


「ぐあああああ!!!」


「ウォント!!貴様!!!」


アプリシィもアブソリュートゼロ・バーストストリームを撃とうとするが、その前に再びクタニドが光線を出し、アプリシィも吹き飛ばした。


「さて、少し邪魔が入ったな。単刀直入に言うが、今回私はそなたらに力を授けに来たのだ。旧神の因子を持つそなたらにな」


「僕達に?」


「旧神の因子って…」


突然わけのわからないことを言い始めたクタニド。だが、ナイアは何かわかっているようだ。


「旧神の因子を!?この二人が!?」


「ナイアさん、やっぱり知ってるんですか?」


光輝はナイアに尋ねる。ナイアは説明した。


旧神達はかつての戦いで、ナイアを除いた旧支配者や外なる神を封印した。だが、時とともに邪悪なる神々を信仰し、復活させようとする者が現れ始めた。これを知った旧神達は、それら狂信者の暴走や復活した邪神達に備えて、宇宙中の生命体達に邪悪と戦う力を与えていったのだ。旧神の因子もその一つである。この因子を持つ者は旧き印の力を自在に引き出し、邪悪を払い封印する。クタニドは光輝とさだめが、その因子を持つ存在だというのだ。


「戦いの中で旧支配者や外なる神の与える影響は衰え始め、それに従って因子を持つ者も消えていった。だが、そなたらのように時として突然因子を発現させる者もいるのだ。」


クタニドの話を聞いて光輝とさだめは思い出す。アフーム=ザーの冷炎やレギース姉妹の糸を無力化したあの力は、旧神の因子によるものだったのだ。


「でも、僕の両親はそんな力を持っていたようには…」


「私も…」


「旧神の因子は、我々が人類に与えた力そのもの。ゆえに、発現に血筋も遺伝子も関係はない。」


しかし、時が経ちすぎたせいで、因子を持つ者は力の使い方を忘れてしまったという。


「だからこそ、私が来たのだ。そなたらの因子を、完全なものにするためにな。」


次の瞬間、光輝の前に光球が出現した。そして光の中から、鞘と柄に旧き印が刻まれた一本の刀が現る。


「私の力を込めた水神刀だ。」


「水神刀…」


光輝は水神刀と呼ばれた刀を受け取る。


「そなたには、これを。」


今度はさだめのヴォルテクスの刃の両面が光り、そこに旧き印が刻まれた。同時に、さだめの両足を拘束していた氷が消える。


「これでそなたらは、己の因子を使えるようになった。存分に戦われよ!」


クタニドは二人に、戦うよう促す。その時、先ほどクタニドが吹き飛ばしたウォントとアプリシィが立ち上がった。


「やってくれるじゃねぇか…!!」


「お前達を…もう生かしてはおかない…!!」


早速クタニドから受け取った力を使う時が来た。光輝は水神刀を抜き、さだめはヴォルテクスを構える。すると、二人の両手の甲に旧き印が浮かぶ。


「…ちょっと離れてようかな…」


ナイアは旧き印が苦手なので、少し距離を置いた。


「オラァッ!!」


炎を放つウォント。対する光輝は水神刀を振りかざす。すると、水神刀の刀身から水流が放たれ、ウォントの炎を鎮火し、ウォント自身も押し流した。水神刀を光輝に渡したクタニドは、水を司る旧神。そのため、水神刀は自在に水を生み出すことができるのだ。この刀は、雷を操る光輝の能力と相性がいい。羅刹刃から電撃を、水神刀から水流を、同時に放つ。


「クロスインプレッション!!!」


電撃と水流は交差し、混ざり合いながら攻撃力を高め、ウォントに直撃した。


「ぐおぁっ!!!」


「ウォント!!よくもやったな白宮光輝!!!」


激怒したアプリシィは、光輝に向けて冷炎を発する。だが、その前にさだめが立ちはだかり、


「バスターブリッツ!!!」


電撃を放った。ヴォルテクスに刻まれた旧き印は電撃の威力を強化し、聖属性を付加する。さらにさだめの中の旧神の因子が威力を高め、属性効果も相まって冷炎は消滅。アプリシィに当たった。


「ぐああああああ!!!ば、馬鹿な…!!」


旧き印の力は邪悪な存在や不浄な力にてきめんに効く。その効果が、間もなくしてアプリシィに現れた。


「ぐっ!?お…おおおおおおおお!!!」


アプリシィの身体から冷炎が溢れ出し、やがて大きな冷炎の塊となって出てきたのだ。これは、アプリシィと融合していたアフーム=ザーの本体。さだめの攻撃がアフーム=ザーの存在そのものに強く作用し、アプリシィから引き剥がしたのである。強制分離させられたアフーム=ザーに向かって、クタニドが旧き印を飛ばす。巨大な旧き印は中央にアフーム=ザーを拘束し、


「今一度封印の眠りにつくがいい。」


クタニドの言葉とともに、アフーム=ザーを連れて転移した。その先は、アプリシィが封印を解いた場所である南極。別の氷山の中に、アフーム=ザーは再封印された。


「お、俺の力が…!!」


アフーム=ザーの力を奪われたことにより急激に弱体化するアプリシィ。ウォントは光輝に接近戦を挑むが、水神刀から放たれる水流に纏った炎を消され、熱を冷やされ、決定打にならない。


「ちっ…少しはやるようになりやがったか…アプリシィ!ここは退くぜ!」


「だ、だが…!!」


「どうにも分が悪い。それによく考えたら、こいつらは俺達を倒すために必ず追いかけてくるしな。」


「…わかった。」


光輝とさだめが手に入れた力は未知数。深追いは危険と判断したウォントは、撤退を決意する。


「待て!!今回こそ僕はお前を…!!」


「焦んなよ。そうそう、鬼宝院と霊宮寺のガキどもに伝えときな。革命の時は近いってよ」


ウォントは光輝が止めるのも聞かず、アプリシィを連れて消えた。


「逃がしたか…!!」


「落ち着いて光輝。ウォント達と戦う機会は、絶対また来るから。」


「…うん。」


光輝はウォントと決着をつけたかったが、さだめに言われて断念した。彼一人では、さすがにデザイア全員の相手はできない。


「…クタニドさん。水神刀、ありがとうございました。」


「私にも旧き印を頂いて、感謝します。」


「見事な戦いぶりだった。しかし、忘れてはならない。そなたらに与えた力は、宇宙の善を守るためのもの。悪事に使ってはならぬ。特に、憎悪を晴らすためにはな」


「…気付いてたんですか?」


クタニドは光輝を見て言う。どうやら彼は、光輝が内に抱く復讐心に気付いていたようだ。


「復讐目的で戦っては負ける。そなたは既に、復讐よりずっと大事な想いに気付いているはずだ。その想いに従って戦え」


クタニドが言った想い。当然、光輝は気付いている。何よりも大切なさだめを、仲間達を守る。その気持ちに従えと、クタニドは言っているのだ。


「それから、ナイアルラトホテップ。」


「…何だい?できればこのままスルーしてもらいたかったけど。」


ナイアはそっぽを向きながら、クタニドに言う。


「私は、本当は今人間となってこの星にいるアザトースに会いに来たのだ。」


「もしかしてあの戦いを見てたのかい?覗きが趣味なところは相変わらずだね。」


数日前に起きた、アザトースの宮殿におけるナイアとアデルの戦い。クタニドを初めとする旧神達は、あれを見ていた。だから、アザトースがネリーとなってゲイル達に育てられていることも知っている。


「だが、今はまだその時ではないと気付いた。ゆえに、まだ私はアザトースに会わん。しかし、近いうちに私はもう一度、この星に来ることになるだろう。その時は、私の悲願が果たされた時だ。」


「悲願?」


ナイアは聞いた。クタニドに悲願があるなど、聞いたこともない。


「いずれわかる。」


クタニドは悲願が何なのかについては答えず、穴を閉じて姿を消した。











後日、光輝とさだめは、皇魔とレスティーにこのことを話した。


「旧神の因子か…」


「はい。これで僕達も、皇魔さん達と一緒に戦えます。」


「それで、ウォントが革命っていうのが近いうちに起きるって言ってたんだけど…二人は何か知らない?」


さだめは二人に尋ねた。レスティーは答える。


「…一言で表すなら戦争よ。」


「戦争?」


「兵隊達を総動員して、世界中を攻撃するの。私達のご先祖様達が、代々何度も阻止してきたデザイア最大の作戦。」


とんでもないことを聞いてしまった。ウォント達は、そんな大規模な戦争を行おうとしているのだ。


「だが、革命は今回が最後だ。俺がルーラーを倒し、デザイアを終わらせる。」


「僕もお供します!」


「私も!」


デザイアの革命は、今回を最後にしなければならない。今度こそ、宿命に決着をつけるのだ。


「じゃあ、今はその時に備えて鍛練しないとね。特に二人はまだ自分達にどれだけのことができるか、わかってないはずだから。」


「そうだね。ゲイル達が帰ってくるまでの間にうんと強くなって、びっくりさせちゃおう!」


レスティーに言われて、さだめは頷く。今はとにかく、最終決戦に向けて強くなることが必要なのだ。


「よし、そうと決まれば早速始めるぞ!」


皇魔の号令で、一同は特訓を始めた。もうすぐ来る、最後の戦いに向けて。




これで、残る最終強化対象は狩谷と空子だけになりました。しかし、その前に少し息抜きをしましょう。ここのところシリアス展開ばっかりだったので、次回は久々のギャグ回です。キャラ崩壊続出のお笑い回となりますので、お楽しみに!

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