アインソフオウル PART6
これで長編終了です。
「ミレイヌ様。兵士の回収を完了しました」
珍しく、ミレイヌの前に立って頭を下げるフィス。ヤディス=ゴーの激突情報は当然ヴァルハラでも確認されており、それに備えてボーグソルジャー達を回収していたのだ。クルセイドキャッスルには、それ自体に強力な転移システムが搭載されている。あとは、これを使ってクルセイドキャッスルを外宇宙にでも転移させるのみだ。
しかし、今にも地球が破壊されそうな状況だというのに、ミレイヌはまだ転移の指示を出さない。それは、ヘブンズエデンの訓練生達が彗星に向かったという情報を得たからだ。彼らが解決してくれるなら、別にクルセイドキャッスルを転移させる必要などない。
「ですが、保険もかねて転移させておいた方が良いのでは?」
「よさんかフィス。兵士達を送り出すならともかく、この城を移動させるのにどれだけのエネルギーが必要か、お前もわかっているだろう?ミレイヌ様もそれを考えて、ギリギリまで待っておられるのだ。」
ミレイヌに進言するフィスに、マヴァルが割り込んだ。
「…あんな子供に何とかできるとは思えませんけどね。」
「そんなに悪い状況でもなさそうですよ。ほら、見なさい。」
フィスが文句を言っていると、ミレイヌが今玉座の間の空中に大きく映しているモニターを指差した。あれはミレイヌが密かにヤディス=ゴーに飛ばしたサーチャーが見せている映像である。今、ちょうどアデル達とガタノトーアが戦っている場面だった。
「あれは彗星を操っている首謀者の最終手段です。つまり、敵の敗北も近いということ…」
「しかし、あまり優勢ではなさそうですな。」
ネイゼンは戦況を分析する。
「…どっちが倒れても、俺達には都合がいい。」
ゴーザの言う通り、ガタノトーアが倒れれば地球の危機は回避され、アデル達が倒れれば最大の脅威が抹消される。その結果地球が消えても、彼らにとってさほど問題ではない。
「今は見守りましょう。なかなか面白いですよ」
「…わかりました。」
フィスは了承し、いつもの定位置、ミレイヌのそばに寝そべる。ミレイヌは優しく、フィスの頭を撫でてやるのだった。
*
フォビドゥーン。
「首領。部下を全員収容しました」
「ご苦労。」
イズマはルーラーに報告する。彼らもまた、目前に迫った地球滅亡の脅威を前にして、自分達の部下を集めていた。フォビドゥーンにはクルセイドキャッスルほど優秀な転移システムはないが、強力なバリアシステムがある。ヤディス=ゴーが衝突しても、破られることはない。
「地球が消えた後で、ゆっくりとあの彗星を頂くとしよう。我らの新たな拠点としてな」
今回のヤディス=ゴー襲来は、デザイア側にとって思わぬ事態となったが、ヤディス=ゴーが地球にぶつかれば、鬼宝院や霊宮寺を初めとした厄介な組織は全て消える。それからヤディス=ゴーを操る者を倒し、自分達が新たな支配者となるのだ。
「さぁ、早く来い。私の手駒となりにな」
ルーラーは邪悪に笑っていた。
*
鬼宝院グループのビル。この屋上に、一人の大男が座り込んでいた。鬼宝院グループ社長にして皇魔の父、剛造である。剛造は真上の彗星を見ながら、一人で日本酒を楽しんでいた。
「たった一人で宴会とは、寂しくありませんかな?剛造様。」
と、その背後から声がかかる。
「そろそろ来る頃だと思っていたぞ。満夫、照姫。」
剛造は後ろを向いて、二人を呼んだ。レスティーの両親、満夫と照姫。
「ヘブンズエデンに避難されないのですか?」
満夫は尋ねた。
「なに。あれがぶつかれば、地球は間違いなく滅ぶ。ならどこに逃げようと同じこと…」
剛造は生き延びようと足掻くより、今の状況を楽しむことにしたのだ。彗星の激突で地球が滅亡するなど、そうあるものではない。
「彗星を見ながら酒を飲むというのも、それなりに楽しいぞ。お前達もここへ来て、わしと飲むがいい。既に社員は全員避難させたから、わしら三人だけで落ち着いて楽しめる。」
「たった三人で宴会だなんて寂しすぎますわ。ですから、もっと賑やかにやりましょう。」
照姫が言うと、忍者達が集まってきて、宴会の準備を始めた。彼らは、霊宮寺の忍達だ。
「しかし、せめて皇魔君を送り出すくらいはしてもよかったのではありませんか?可哀想に…」
「そういうお前達こそ、紗理奈を送り出しはしなかったろう?」
「あら、気付いておられたんですね。」
剛造達は、自分の息子達をヤディス=ゴーに送り出しはしなかった。それは、彼らが大勝利して戻ってくるとわかっていたからだ。
「わしの息子もそれほど馬鹿ではない。やるべきことを見つけたのなら、あとは黙ってやらせるだけだ。」
剛造は彗星ヤディス=ゴーを見上げた。あそこで、自分の息子が死力を尽くして戦っている。
(必ず戻ってこい。お前にはまだ、教えておらんことがあるのだ)
そして、鬼宝院家と霊宮寺合同の宴会が始まった。
*
ヤディス=ゴー。
「ハッハッハッハッハ!!フッハッハッハッハッハッハ!!!」
ガタノトーア、イマシュ=モは触手から光線を出し、周囲の建物を打ち砕き、破壊の限りを尽くしていく。
「どうだ!!素晴らしいだろう!!これがガタノトーアの力だ!!多大な犠牲を払ってまで、手に入れたかいがあった!!」
「犠牲!?犠牲だと!?」
「どういうことだ!?」
突然イマシュ=モの口から飛び出した、犠牲という言葉。意味がわからず、アデルと狩谷は訊いた。
「邪神ガタノトーアの力を、何の犠牲も払わずに手に入れられると思うのか?私が作戦を実行した時、大勢の神官が犠牲となった。ウーベル達五人は、その時の生き残りなのだ。」
イマシュ=モは触手を振るいつつ、当時の説明をする。アデル達は、ウーベル達神官が、長い時の中で行われた世代交代ののちに生き残ったものだと思っていた。しかし、実はガタノトーアに戦争を仕掛けた時の生き残りだったのだ。
「そうまでして邪神の力を手に入れたかったのか!!目的は何だ!!なぜ犠牲を払ってまで、そんな力を欲しがる!?」
さらに質問する光輝。
「力を欲する理由など、一つしかあるまい!私の目的は、全宇宙の支配だ!いずれはナイアルラトホテップやアザトースなどの外なる神をも打ち倒し、宇宙最強の存在として君臨してやる!!」
「そんな馬鹿げた目的のために…許せない!!」
さだめは触手をかわしながら、イマシュ=モに雷で反撃する。だが、雷はイマシュ=モの表皮に弾かれ、傷一つ負わせることはなかった。
「馬鹿げた、か…お前達のような愚か者には理解できまい。理解してもらわずとも結構!お前達は死ぬのだからな!!」
「危ない!!」
イマシュ=モの触手がさだめを襲ったが、間一髪で光輝がさだめを抱き抱えて守った。
「大丈夫?」
「う、うん…」
怪我はなさそうだ。
「闘界覇神拳奥義・牙城粉砕!!!砕滅轟波!!!」
「忍法・炎鬼童の術!!!紫電双狼牙の術」
皇魔、レスティーの二人が、強力な技を次々と叩き込む。だが、イマシュ=モにダメージはない。
「全然効かないわ!!」
「ちぃっ!!言うだけのことはあるってわけか!!」
空子と狩谷も猛攻を浴びせるが、イマシュ=モにはダメージを与えられないでいる。
「硬いだけなら…!!」
アンジェは瞬間移動でイマシュ=モに接近し、
「ビーストクラッシュ!!!」
イマシュの触手を一本破壊した。しかし、破壊した触手はものの数秒で生え変わり、アンジェに襲い掛かってくる。
「ダメージを与えても、すぐ再生されちゃう!!」
アンジェは攻撃をかわしながら下がる。
「だったら…!!」
「エリック!?」
突然ビャクオウがイマシュ=モに急接近し、アデルが驚く。ビャクオウがたどり着いたのは、イマシュ=モの頭。
「エンドオブファンタズマ!!!」
ホワイトスイーパーの刃にエネルギーを込めて、連続で斬りつける。イマシュ=モの頭を破壊すれば、倒すことができるはず。そう読んだ上での攻撃だった。しかし、
「狙いは悪くない。」
「!!」
イマシュ=モは口から光線を吐いて反撃してきた。ビャクオウは紙一重で回避するが、その後からも触手から放たれた無数の光線が追いすがる。
「だが貧弱すぎる!その程度で私を倒せると思ったか!」
ビャクオウがイマシュ=モの頭に付けた傷は、かすり傷のように小さなものだった。あっという間に再生されてしまう。
「このままでは勝てない…こうなったら…みんな、来い!!」
このまま攻撃を仕掛けたところで、アデルでも勝率は低い。ならば…、
「俺達の全ての力を合わせて、奴を倒すぞ!!」
全員の最強技を一斉にぶつける。それならあるいは…というわけで、アデルは仲間達を集めた。
「フィアーズイクリプス!!!」
自分の技を限界まで強化するため、フィアーズイクリプスで周囲の瓦礫を集めてギガンティックデビルズとなるアデル。
「っしゃあ!!やってやるぜぇぇ!!」
魔力を高める狩谷。
「一斉射撃よ!!」
ティンダロスを呼び出す空子。
「貴様を打ち砕く!!」
「喰らいなさい!!」
覇気を集中する皇魔と、気を練り上げるレスティー。
「行くよ、さだめさん!!」
「うん!!」
雷を極限まで増幅する光輝とさだめ。
「あまり舐めないで頂きたい…!!」
百体に分身するビャクオウ。
「エルダーサインブースト!!!」
彼らが放つ最強技を、最良の状態で放つため、特大の旧き印を展開し、弓を引き絞るアンジェ。
そして、
「ワールドエンドブレイカー!!!」
「プラチナアローシューティング!!!」
「エクストリームエクスタシー!!!」
「ハウリングシュート!!!」
「鬼神激動拳!!!」
「五行滅殺の術!!!」
「「バスターブリッツハイパー!!!」」
「ギャラクティックエンドブレイカー!!!」
傭兵達は攻撃した。アデルの極大の光線が、アンジェの矢が、狩谷の魔力斬が、空子の弾丸と光線が、皇魔の覇気が、レスティーの五色の気が、光輝とさだめの雷が、ビャクオウの百の閃光が、威力を強化されてイマシュ=モに殺到する。
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
イマシュ=モの、ガタノトーアの巨体は、その攻撃の嵐の中に消えた。
「…頼むから倒れてくれよ…?」
「これで駄目だったら、もう打つ手がないわ。」
狩谷と空子は、イマシュ=モがどうなったのか注視する。やれるだけのことは全てやった。これで倒せていないようなら、傭兵組の敗北は確定だ。
「…くそっ!!」
舌打ちしたのはアデル。驚いたアンジェが尋ねた。
「ど、どうしたの?…ま、まさか…!」
アンジェの中に、嫌な予感が生まれる。そしてそれを、ビャクオウが肯定した。
「…ええ。邪神は未だ健在です…!」
アデルとビャクオウのレーダーは、強力な生命反応を捉えていたのだ。
「クックックッ…ハッハッハッハッ…」
やがて煙の中から、イマシュ=モが悠々とガタノトーアの巨体をさらけ出した。
「今のは少し焦ったぞ。咄嗟に結界魔術を使っていなければ、再生に少し時間がかかったかもしれん。」
イマシュ=モは終神形態になっても、魔術が使える。攻撃が当たる寸前に魔術で結界を張り、威力を軽減したのだ。まぁ結界を使わなかったとしても再生にかける時間が数分程度増えるだけで、致命傷にはならなかったが。
「さて、いい加減遊びは終わりにせねば…な!!」
イマシュ=モは複数の触手の伸ばしてアデルの全身を貫くと、その後ろにいたアンジェ達に触手から光線を浴びせた。
『ぐあああああああ!!!』
『きゃああああああ!!!』
『うおああああああ!!!』
直撃を受けたアンジェ達は、吹き飛ばされる。
「貴様もだ!!」
イマシュ=モはアデルの全身に突き刺した触手を、外側に向かって引っ張る。
「がああああああ!!!」
アデルは粉々に砕ける。多大なダメージを受けたことによってフィアーズイクリプスの支配が外れ、ギガンティックデビルズは元の岩石に戻ってしまった。そして、核となっていたアデル本体にも、触手が鞭のように振り下ろされる。
「ぐはっ…!!」
質量とパワーとスピードが一つになった触手の一撃は、アデルにさらなるダメージを与えた。イグニスドライブが解除されてしまったが、ぺちゃんこになっていないだけまだマシだ。
「作戦の考案者はお前だな?面白い策だったが、私を倒すにはパワーが足りなすぎる。お前達は私に挑むべきではなかった。あのまま宇宙船で、地球から離れていればよかったのだ。」
触手でぐりぐりとアデルを踏みにじるイマシュ=モ。既に仲間達は倒れ、残ったアデルも圧倒的に不利。
「…む?」
と、イマシュ=モは自分の触手が動かせなくなったことに違和感を覚える。
「…それで俺に、地球を見捨てろと言うのか。地球に残してきた大切な人達を、見殺しにしろと言うのか!!」
アデルだ。両手で頭上の触手を掴んで押さえ、根性で強引に立ち上がったのだ。
「舐めるな!!お前が裏切った地球人は、お前が思っている以上に強いぞ!!」
「なっ!?」
「アクセラレーション…パァァァンチッ!!!」
全身全霊を込めた、アクセラレーションパンチのアッパー。触手は大きく打ち上げられ、アデルはその間に離脱する。
「まだそれだけの力が残っていたのか。面白い!ようやく面白くなってきたぞ!」
しかし、触手を打ち上げただけだ。ダメージはない。
(使うしかないのか…)
イマシュ=モが言ったように、アデルとガタノトーアのパワーは雲泥の差だ。このまま続けても、絶対に勝てない。このまま続ければ、だ。それなら、パワーを上げるだけの話。
「理事長!最終リミッターを外せ!今がその時だ!」
最終リミッター。アデルがイマシュ=モを倒すための、文字通り最後の手段。それを使う時が来た。
「いいのかい?」
「危険は承知だ。やれ!」
「…わかった。」
エドガーも、気が進まないらしい。だが、地球の命運が、自分の生徒達の命が懸かっているのだ。やるしかない。エドガーはヨグソトースに積んであるアデルのリミッタープログラムを操作し、
「最終リミッター、解除。」
パネルを押した。
「感謝する!」
力がみなぎってくるのを感じるアデル。封印されていた彼の力が、全て解放されたのだ。
しかし、それは禁断の封印を解いてしまったことも意味している。
ーー封印を解いたな!?ーー
聞こえたのは女性の声。とたんに、アデルの中から力が、エネルギーが溢れ出す。女性の、アザトースの力が。
「ぐああああああああああああ!!!!!」
今までとは比較にならないレベルの力が吹き出し、アデルの姿がイビルゴッドモードに変化していく。同時に、コスの印がアデルの身体から離れて消えた。コスの印の封印が、アザトースによって破られたのだ。
(こ、こんなに違うのか!?)
アデルはアザトースの力の凄まじさを感じて戦慄する。これが、アザトースの全力。
「ゲイル!?ゲイル!!」
意識を取り戻したアンジェはいち早く駆けつけた。他の者も目覚め、アデルのもとへ駆け寄る。
「力が…制御できない!!」
「待ってて!!今私が…!!」
アンジェはエルダーサインブーストを発動し、アデルに向けてプラチナアローシューティングを放つ。だが、光の矢はアデルに当たる前に消えてしまった。
「駄目!!アザトースの力が強すぎて、私の力が届かない!!」
アザトースの力はアンジェ達の予想を遥かに越えており、アデルの全身から溢れるアザトースエナジーは光の矢を阻んでしまったのだ。
「…あなた達なんかに私の力を制御できると思った?」
アデルはアザトースの声でアンジェに言う。
「その声…アザトース!?」
「こ、こいつ、前より饒舌になってやがるぜ!!」
警戒する空子と狩谷。アザトースは前回の戦いからさらに知性を増したようで、話し方がカタコトから滑らかになっている。
「あーあ、やめた方がいいって言ったのに。」
ビャクオウからも、女性の声が上がる。ナイアルラトホテップが憑依したのだ。
「貴様…!!」
「ナイアルラトホテップ!?」
皇魔とレスティーも警戒する。
「まぁいいわ。せめてこの人の望みだけは叶えてあげる。その後は、私の人形よ。」
「全部聞いてたから説明はしなくていい。ガタノトーアごときがボク達にとって代わろうとは、いい度胸じゃないか。」
イビルゴッドモードとなった二人のメタルデビルズは、イマシュ=モに攻撃を仕掛ける。
「ぬうっ!?」
「あははは!!久々に楽しませてよね!!」
「ボクの主人への反逆罪は、命で償ってもらおう。」
アザトースもナイアルラトホテップも、アンジェ達など眼中にないといった感じだ。
「さ、最悪だ!!もうどうしようもない!!」
「最後の手段のリミッター解除が…こんな結果を呼び寄せるなんて…!!」
光輝とさだめは絶望した。旧き印を使うという方法もあったのだが、レギース姉妹との戦闘以来どうやっても出せない。第一、あの二神を相手に旧き印など通じるのだろうか。クトゥルフやハスターならまだしも、相手はアザトースとナイアルラトホテップだ。
「…ゲイル…」
だが、彼女だけは諦めていなかった。
「ゲイル!!!」
いや、やけになったのかもしれない。アンジェは飛び出し、後ろからアデルを抱き締めた。
「駄目だよゲイル!!正気に戻って!!」
「無駄だよ。今この子の意識は、私が掌握してる。呼び掛けたくらいじゃ…」
「だったら…!!」
アンジェは自分の力を解放する。まばゆいばかりの光が彼女を包むが、アデルには届かない。
「そんな脆弱な力で、私に敵うわけないじゃない。」
まだアザトースの力が、アンジェの力を阻んでいる。しかし次の瞬間、
「何!?」
アザトースが驚愕し、アンジェが消えた。
「あ、アンジェが…」
「ゲイルの中に…入っちまった…!?」
空子と狩谷の目からは、そう見えた。
*
「…」
エドガーは無言で、パネルをタッチしている。
「理事長。今あなたは、何を…?」
突然謎のシステムを操作したエドガーを見て、アーサーは質問した。
「エルピスシステムを強制発動した。」
エドガーは万一に備えて、アデルとビャクオウに備えられた能力を、外部から強制的に発動・停止できるようにしている。今エドガーは、アデルに備えられたものらしいエルピスシステムというものを、強制発動したのだ。
「エルピスシステム?」
「私がアデルに搭載した最後の能力だよ。最終リミッターを解除すると、使えるようになる。」
エルピス。ギリシャ語で、希望。エドガーはアデルが持てる全ての力を使ってもどうしようもない状況が訪れた時、それを打開するための手段としてこのシステムを作った。これはアデルの変身者、ゲイルが心に決めた相手と心身ともに融合することで、その能力を飛躍的に引き上げるシステムだ。このシステムを使えば、理論上はアザトースをも凌駕するほどパワーアップすることができる。
「すごいじゃないですか!!何で今まで封印してたんです?もっと早くに使えば、アザトースの問題が解決できたかもしれないのに。」
「さっきも言った通り、このシステムでパワーアップするにはゲイルが心に決めた相手が必要だ。確かに外部から強制発動できるが、相手がいなければその真の力は発揮されない。だから、その相手の出現を待つ必要があった。」
「そ、そうだったんですか…」
強制発動システムを使ったことで、ゲイルとアンジェが融合したことはわかっている。強制発動で外部から融合させることはできるが、ここから先どんな反応が起こるかは二人次第だ。二人の気持ちが同調してアデルがパワーアップするか、同調できずにアンジェが弾き出されるか。
元々エドガーがゲイルとアンジェを引き合わせた理由は、このエルピスシステムを完全に発動するためだ。アデルの力は神すら超えるものとなり、アンジェにも心の拠り所ができる。しかし、思えばあまりにも身勝手な方法だった。
(いずれこの罰は必ず受けよう。だが、今は…)
やれるだけのことはやった。あとは、二人に任せるしかない。ベストな結果が出ることを、エドガーは祈った。
*
ここは、ゲイルの精神空間。
「ぐああああああ!!!うああああああ!!!ああああああああああ!!!!」
もがき苦しむゲイル。
「ふふふ…ふふふ…はははは…」
目の前には、アデルの姿をしたアザトース。アザトースはゲイルに向かって手をかざし、エネルギーを送っていた。このままエネルギーを送り続ければ、ゲイルは消える。ゲイルが消えた後、この精神空間を乗っ取れば、ゲイルの身体を自分の人形にすることができるのだ。
(俺には、誰も守れないのか…)
仲間を、大切な人達を助けるつもりが、完全に墓穴を掘ってしまった。ゲイルは自分の弱さを嘆く。
(何もできないのか…)
結局、彼が求める強さを手に入れることはできなかった。もうすぐ自分は消える。アザトースに消されてしまう。
(希望は…ないのか…!!)
「あるわけない。私を相手にした時から、あなたには絶望しかなかったの。あなたの負けは、最初から決まっていたのよ。」
ここは精神空間。ゲイルが思ったことは、そのまま声として空間に響く。彼の絶望する声を、アザトースは楽しんで聞いていた。
だが、
「違う!!!」
それは一声によって変わる。
「希望ならある!!まだ負けてない!!」
光とともに現れたのは、アンジェ。ゲイルとアザトースの間に入り、アザトースエナジーを断ち切った。
「アンジェ!?お前、どうして…」
「心を落ち着けてゲイル!!意識を集中するの!!今のあなたなら、わかるはずだよ!!」
ゲイルは言われた通り、意識を集中した。すると、ゲイルの目の前に光り輝く文字が現れる。
「エル…ピス…システム…?」
ゲイルが文字に触れると、文字は光の粒子となってゲイルの中に入り込み、情報を与えた。
「…そうか。理事長がこれを…それでお前はここに…」
エルピスシステムの使い方を理解したゲイル。
「ここに来る途中で、私にもその情報が流れ込んできたの。あとはどうすればいいか、わかるよね?」
アンジェも理解している。彼女がここに来れたのは、エドガーがエルピスシステムを外部から強制発動したから。だが、まだエルピスシステムの真価は発揮されていない。それを発動するには…、
「…アンジェ」
ゲイルはアンジェを自分の方に向かせ、そっと抱き寄せる。
「ゲイル。私は、あなたが好き。あなたは、どうなの?」
アンジェは抵抗することなく、むしろ望んでゲイルの腕に抱き寄せられた。
「…俺も好きだ!アンジェ!」
今まで何度も自分を助けてくれたアンジェ。今回だって、いつアザトースに消されてもおかしくないのに、その危険を承知で助けに来てくれた。それは、アンジェがゲイルを愛しているから。ゲイルも、アンジェが助けに来てくれるのを待っていた。アンジェを愛しているから。
二人は優しく、そして情熱的な口付けを交わした。互いの愛を示しながら、二人は強く、頭の中で唱える。
((エルピスシステム起動!!))
「させない!!」
アザトースはそれを阻止しようと強烈なアザトースエナジーを放つが、ゲイルからも強い光が放たれ、ゲイルとアンジェの光はどんどん強まっていく。
((コード・アインソフオウル!!!))
二人が念じた時、空間から闇を消し去るほどの光が生まれた。
「うぎゃああああああああああああ!!!!」
アザトースはゲイルの精神空間から弾き出される。
そして…!!
*
アデルは凄まじい純白の光を発し、その中に消えた。
「な、何だこの光は!?」
「アザトース!?これは一体…!!」
驚くイマシュ=モ。ナイアルラトホテップも困惑している。
(いつまで私の身体を勝手に使っているのですか!!出ていきなさい!!)
「ぐうっ!?」
エリックは自分の中から強引にナイアルラトホテップを追い出し、イビルゴッドモードを解除して近くの地面に着地する。
やがて、アデルを包む光の中から、美しい二枚の翼が出現。光は段々と収まり、光が消えた時、そこには純白のアデルがいた。
謎の反応を捉えたヨグソトースのシステム。
「理事長!これは!?」
エドガーはアーサーに語る。
「絶望の彼方に希望は存在する。その希望を手に入れたアデルは、邪神から光神へと生まれ変わったのだ。そう、無限光の光神、アインソフオウルモードへとね!」
アインソフオウルモード。遂に目覚めた、アデルの新たなる力。
「あの姿…ゲイルとアンジェが、一つになってる!!」
空子は感じた。基本的なフォルムはアデルのままだが、イタカウイングの代わりに生えているあの翼は、アンジェのものだ。ゲイルのアデルと、アンジェの力が一体となった姿。あまりにも力強く、神々しい姿だった。
「何をしようと無駄だ!!お前達は私には勝てん!!」
触手を向けるイマシュ=モ。だが、アデルの両手にプライドソウルと、剣に変化したアークスが出現したと思った瞬間、イマシュ=モがアデルに伸ばした触手は、全て細切れにされていた。
「な、何ぃぃぃ!?」
触手を見て驚愕するイマシュ=モ。彼らは触手一本破壊するのも苦労していたはずだ。今伸ばした触手の数は、五本。しかし、アデルはそれを一瞬で容易く細切れにしてしまった。
「な、何だ!?斬ったのか今の!?」
「わ、私でも、微かにしか見えなかったわ!なんてスピードなの…!」
何が起きたのかわからずうろたえる狩谷。レスティーは今のアデルの反撃がかろうじて見えたが、とてつもない速度だった。彼女でも、かわせと言われたら間違いなく無理と答える速度だ。
「おのれぇぇぇぇ!!」
口から光線を吐くイマシュ=モ。光線はアデルに直撃した。だが、無傷だ。
「す、すごい!防御力も、これまでのアデルとは桁外れだ!」
「あの攻撃をノーダメージでしのぐなんて…!」
光輝とさだめは、自分達が気絶に追い込まれたほどの攻撃を無傷で耐えきったアデルの防御力に驚く。
「俺の中に、お前の存在を感じる。アンジェ。お前はそこにいるんだな?」
『うん。私も、全身でゲイルを感じてる。すごく暖かい…ゲイルが優しいからだね』
互いの存在を感じる二人。今二人の心は、幸せで満ちていた。
「一緒に戦ってくれ!アンジェ!!」
『もちろんだよ!ゲイル!!』
アデルは両手の武器を構え、イマシュ=モに向かう。
「うおおおおお!!!」
再生を終らせたイマシュ=モも、アデルを迎え討つ。
「『はあああああああああああ!!!』」
まず一発蹴りを放つアデル。ただの蹴りで、300mはあるガタノトーアの巨体が大きく吹き飛んだ。
「き、貴様ぁぁぁぁ!!」
すぐ触手で反撃するイマシュ=モだが、当たらない。現在のアデルは、イグニスドライブ発動時の数百倍以上のパワーとスピードを持つ。だが、それだけではない。
「アンジェ!!」
『ゲイル!!』
エルピスシステムの特性とその真価が発揮されている。それは、融合した者達の互いを想う気持ちが強ければ強いほど、無限にパワーアップしていくというものだ。だから、これが今のアデルの全てではない。まだまだ、もっともっと、どこまでも強くなっていくのである。
「…」
ビャクオウはアデルの戦いぶりを、アデルの姿を見ていた。いや、見とれていた。
「…美しい…」
自分が何よりも愛する純白が、おぞましい邪神を圧倒している。本当に、美しかった。
「…はっ!?」
だが、直後に自分の感性を疑った。
「美しい?今私は美しいと言ったのか?アデルが…ゲイルが…?」
戦いの流れは、完全にアデルに傾いていた。イマシュ=モには既に、再生能力を使う気力も残されていない。
「これで決めるぞ、アンジェ!」
『うん!』
ゲイルが言うと、アークスが小さな羽の形に変化して、プライドソウルに装着された。アデルはプライドソウルを撫でながらエネルギーを込め、それから真上に突き上げる。刀身からはエネルギーの刃が長く伸び、
「『エンドオブ…!!!』」
アデルは構えて突撃。
「『ソウルッ!!!!』」
長大な刃で、イマシュ=モを斬った。
「わ、私を倒しても、ヤディス=ゴーは止まらんぞ!!お前達には勝てなかったが、地球は破壊してやる!!はははははは!!!ぐあああああああああああ!!!!!」
捨て台詞を吐いて爆発するイマシュ=モ。
「やらせないさ。」
戦いに勝利したアデルは、狩谷達のそばまで来る。
「やったな!ゲイル、アンジェちゃん!」
「ああ!だが、まだ終わっていない。今から俺達の力で、お前達をヨグソトースに転移させる!ヨグソトースに戻ったら、急いでヤディス=ゴーから離れるよう理事長達に言ってくれ!」
アインソフオウルモードは、ただ単にアデルの能力が強化されるだけではない。融合した者、すなわちアンジェの力も同時に使うことができる。ちなみに、アンジェの力も強化されている。
「ゲイル達はどうするの!?」
空子は尋ねる。自分達をヨグソトースに転移させて、その後は一体どうしようというのか。
「俺達は、 ヤディス=ゴーを破壊する!」
「そ、そんなの無理だよ!」
「そうだよ!大きすぎるもん!」
無茶だと言う光輝とさだめ。だが、ゲイルとアンジェは力強く言った。
「大丈夫だ。俺達ならやれる!」
『大丈夫だよ!』
狩谷は二人の言葉を聞いて、空子を見た。彼女の表情には、変化がないように見えるが…、
「今は、二人を信じるしかあるまい!」
「やって!理事長先生にはちゃんと言っておくから!」
「よし!」
皇魔とレスティーが代わりに答え、アデルは手をかざして狩谷達をヨグソトースへと飛ばす。
「おや?君達どうやって戻ってきたんだい?」
「それより、早くヤディス=ゴーから離れてくれ!」
いきなり帰還してきたことに驚いたエドガーだが、狩谷達から説得されて、ヨグソトースを操作。ヤディス=ゴーから全速力で離脱する。
「…そろそろか?」
『うん。もう十分だよ』
二人はヨグソトースが十分な距離まで離れたのを確認する。アンジェの気配探知能力だ。
「よし、やるぞ、アンジェ!!」
『うん!!やろう!!私達ならできる!!』
二人の気持ちは、さらに強まる。強まった気持ちを破壊の光に変えて、
「『アインソフオウル…!!!』」
アデルは全身から解き放つ。
「『エクスプロージョンッ!!!!』」
ヨグソトースから様子を見ていた狩谷達。次の瞬間、ヤディス=ゴーが一瞬強く発光したかと思うと、塵一つ残らず消滅した。そして、消え去ったヤディス=ゴーの跡から、アデルが光を超える速度でヨグソトースに向かって飛んでくる。狩谷達はかけがえのない仲間達の大勝利に、歓声を上げた。地球は救われ、アデルは新しい力を手に入れ、本当に大勝利だ。アデルは瞬間移動を利用して、ヨグソトースの中に入る。
だが、入った瞬間にアデルは仰向けに倒れた。
「ゲイル!!アンジェ!!」
空子は驚いて助け起こそうとするが、その前にアデルの変身が解けた。ゲイルとアンジェが、互いの手を握って幸せそうに眠っている。
「…疲れたのね。あんな力を使えば、当然かしら。」
そっと手を引く空子。
「…確か医務室があったな?レスティー、二人を運ぶぞ。」
「了解。」
空気を読んだ皇魔に指示され、レスティーは協力してゲイルとアンジェを運ぶ。握り締められた手がほどけないように注意しながら。
*
「ゲイルとアンジェは、無事戻ってきたようです。」
エドガーに報告するアーサー。エドガーは満足そうに頷いた。
「そうかそうか。それはよかった」
しばらくは、状況の対応に追われることだろう。だが、地球が滅ぶよりはずっと軽い。
「本当に、よかった。」
エドガーは心から安堵した。
空子はヨグソトースの艦橋の窓から、宇宙を、地球を見ている。そこへ、遠慮がちに狩谷が来た。
「…フラれちゃった。」
空子は狩谷の方を振り向いて言う。彼女は、直接ゲイルに告白したわけではない。だが、あんなものを見せつけられては、フラれたも同然だ。
「…でもいいの。よくよく考えたら、あたしよりあの二人の方がお似合いだもん。」
だが、ある面では割り切っていた。自分ではゲイルの足手纏いにしかなれないということが、わかっていたのだ。
「…じゃあ、もう俺がもらってもいいよな?」
「えっ?」
刹那、空子は狩谷に捕らえられた。逃げる暇などなく、その腕に絡め取られた。
「前にも言ったろ?俺は総取りする方なんだ。」
そして次の瞬間には、唇が重ねられていた。空子は、それを拒まなかった。なぜなら、彼女も少しずつ、狩谷に惹かれていたから。
「…でも、僕達の戦いは何も解決していない。」
別の艦橋で、やはり地球を見ながら、光輝は言った。確かに、地球の当面の危機は回避された。しかし、ヴァルハラやデザイアとの戦いは終わっていない。むしろ、わからないことが増えた。二人に現れた旧き印は、一体何だったのだろうか。
「そうだね。でも、今は少し休もう。私、疲れ…ちゃっ…」
さだめは寄りかかり、光輝はそれを受け止める。彼女は愛しい人の腕の中で、寝息を立てていた。
「…うん。」
光輝は彼女の顔を優しく撫でながら、その寝顔を堪能していた。
「…」
エリックは乗組員用の部屋で、ベッドに腰掛けてうなだれている。
「…負けた…完全に…!!」
イマシュ=モにではない。ゲイルにだ。実力だけでなく、美しさでも、エリックはゲイルに負けてしまった。
「…くそっ…!!」
エリックは一人、部屋の中で悔しがっていた。
*
「終わったようだな。」
空を見上げるハスター。そこにはもう、ヤディス=ゴーはない。ただ、いつもの空が広がるのみだ。
「そうみたいですわね。」
と、彼に声をかける者がいた。ハスターは振り向いて驚く。
「シュブ=ニグラス!」
「久しぶりですわね、ハスター。」
博物館の一件以来、ゲイル達と別れたはずのシュブ=ニグラスだ。
「危なそうだったら手を貸してあげようかとも思いましたけど、その必要はなかったようですわね。」
「…ああ。」
「…わたくしはもう行きますわ。あなたと同じく、旧神に目を付けられている身ですし。」
会って早々に去るシュブ=ニグラス。ハスターは、それを呼び止めなかった。彼女とは確かに付き合っていたのだが、それはもう過去の話だからだ。
「…元気でな。」
だから、そう一言だけかけて、彼も姿を消した。地球の危機が去った今、もう旧神達に協力する必要はない。風のように、気ままに生きるだけだ。
「終わったようですな。」
シュリュズベリィは研究室の南樹に言う。
「ええ。今帰還すると連絡がありました」
「そうか。では、私はもう行きましょう。」
「エドガー博士達には会っていかれないので?」
「ええ、彼らにはもう必要ありません。おっと、彼らが帰ってきたら、これを渡しておいて下さい。」
シュリュズベリィは南樹に封筒を渡した。
「これは?」
「お礼の手紙と、気休め程度のプレゼントです。」
封筒を渡してから、シュリュズベリィはセラエノ断章を出して開いた。転移魔術を使うつもりだ。
「彼らには、これからも激動の運命が待ち受けているでしょう。しかし、彼らなら必ず乗り越えていけると信じています。」
シュリュズベリィは、魔法陣の光の中に消えた。
傭兵達は、戦いに勝った。だが、彼らの戦いはまだ終わらない。
特にゲイルとアンジェには、シュリュズベリィの予言通り、さらなる激動が待っているのだ。彼らが予想もしない形で。
新たなる力、アインソフオウルモード!そして、ゲイルとアンジェは交際を始めます。詳しいことは、次の座談会で。
では!




