第三十七話 激闘と陰謀
遂に今回、黒幕の正体が明らかになります。
アーミートーナメントもいよいよ大詰め。昼休憩を挟んで、三回戦に突入だ。三回戦最初の組み合わせは、エリックとレスティー。
「時間は既に十分与えました。私に倒される覚悟は、当然できたでしょう?」
リングに立つエリックは上から目線で、レスティーに尋ねる。
「残念ながら、そんな覚悟はしていないわ。私がしたのは、あなたに必ず勝つという決意だけ。」
「世迷い言を…」
始まる前から、両者は険悪なムードだ。
「殺気がここにいても伝わってくる…いや、これは怒りか。」
ゲイルはレスティーが放つ殺気を感じ取り、彼女が尋常でないほど怒っていることを知る。これほど強く、そして明確な怒りと殺意を放出するレスティーを見るのは、初めてだった。
「エリックはレスティーに何をしたの?何をしたらこんなにレスティーが怒るの?」
完全に復帰したさだめは、今は客席で勝者の戦いを観戦する側に回っている。
「わからない。でもこの戦い、とんでもないことになるのは確かだ。」
光輝はさだめのそばで、レスティーの殺気に身震いしながら、リングを見ていた。ちなみに、今皇魔は保健室で休んでいる。
「…」
狩谷は黙っている。理由は、黄の印の反応を少しでも見逃さないようにするためだ。彼の予想が正しければ、エリックとレスティーの攻撃がぶつかった時、また黄の印が反応するはずである。
(何でこんなことで反応するのか、理由を突き止めねぇと…)
今まで黄の印が反応することなど全くなかった。それが反応したということは、普通ではない。不吉な予感を感じさせるその理由を突き止め、解決すること。それが今自分がやるべきことだと、狩谷は思っていた。
「試合開始!!」
審判が試合開始の合図をする。
「忍法・闇影武装!!」
レスティーは早速闇影武装を発動。
(何かさせる前に潰す!!)
小太刀を抜いて、全速力で斬り掛かった。戦闘力では少しだけレスティーを上回っているエリックだが、ビャクオウの力を手に入れる前ならさほど恐ろしくはなかった。しかし、今のエリックはビャクオウの力を手に入れているのだ。パーフェクトチェンジ、デビルズエイリアス、イリュージョンナイトメア。どの能力も、レスティーにとっては非常に脅威となる能力である。つまり、後手に回ったらほぼ負けが確定している相手なのだ。だから、ビャクオウに変身される前に仕留める。それ以外に完全な勝利を収める方法は、ない。
「はあっ!!」
しかし、レスティーが攻撃した瞬間に、エリックの姿が消えてしまう。そして、レスティーの攻撃が外れた直後に、エリックではなくビャクオウが現れる。
「なっ!?」
エリックはビャクオウに変身するための掛け声をしていなかった。だが、ビャクオウに変身している。
「ビャクオウに変身する前に仕留める、ですか。狙いは悪くありません」
レスティーの作戦は、既に見抜かれていた。
「ですが、これはあらかじめ知らされていた戦い。私が何の手も打っていないと思いますか?」
「…なるほどね…」
レスティーはこの瞬間に理解する。エリックは『ビャクオウに変身した』のではなく、パーフェクトチェンジを使って『変身する前の自分の姿に変身していた』のだと。既にビャクオウに変身した状態で入場していたのだ。つまりレスティーは、最初からもう後手に回っていたのである。
「言っておきますが、もう覚悟の時間は与えませんよ?」
「誰がっ!!」
だがレスティーは臆することなく、ビャクオウに挑んだ。ほんの少しでも怯めば、ビャクオウにペースを握られてしまう。
(そうだ、それでいい。だが…)
ゲイルは勇ましく戦うレスティーを見て、彼女がビャクオウの気に呑まれていないと知る。しかし、
「くっ!!」
「どこを見ているのですか?」
レスティーの小太刀は幻影を斬り、背後からビャクオウが銃撃する。
(あの幻影殺法…やっぱりレスティーちゃんでも苦戦するんだ…)
アンジェは思った。ビャクオウのイリュージョンナイトメアは、神話生物にも通用する超強力な能力。強靭な精神力を持つレスティーとはいえ、やはり幻影と本物を見抜くのは容易ではない。
「だったら!!」
レスティーは跳躍し、全速力でドームの外へ。
「忍法・手裏剣無限分身の術!!」
ビャクオウの真上から、リング全体に向けて手裏剣を投げる。
「ちっ…」
すると、今姿が見えるビャクオウが消えて、別のビャクオウが現れた。しかし当たった手裏剣はビャクオウに刺さっておらず、ダメージを与えることさえ簡単ではないことを物語っている。
「まだまだ!!忍法・雷神波の術!!」
レスティーは一度小太刀をしまい、両手から雷を出して攻撃した。これは今いるビャクオウが分身か本物かを確認するためのだめ押しだ。
「ぐぅぅぅ…!!」
苦しむビャクオウ。消えないところから見て、どうやら本物らしいが、それでも倒すまでには至らない。
(本物さえわかれば十分!!)
だが、レスティーにとってはそれでいい。後手に回ってしまった今となっては、ビャクオウを一撃で倒せるなどとは思っていない。闇影武装を発動しても、レスティーのパワーでそれを行うのは不可能に近いだろう。しかし、パワーが足りないなら手数で補う。それが、闇影武装が編み出された理由でもある。一撃で倒せないなら、倒れるまで攻撃するだけの話だ。
(本物の位置がわかった今なら、瞬獄殺を決められる!!)
デザイアの幹部、メイカーすら戦闘不能にした大技。これを決めれば、確実にビャクオウを仕留めることができる。ビャクオウの動きは止まったままだ。よけられるより、能力を使われるより、レスティーが瞬獄殺を使う方が速い。
「忍法・瞬獄殺!!!」
空中から飛来したレスティー。ビャクオウの全身を拳が、蹴りが、斬撃が襲う。
「ぐあああああああああああ!!!!」
断末魔を上げ、変身を解除して倒れるエリック。
「…やった…やった!!」
勝った。彼女自身も信じられないでいるが、彼女はエリックに勝ったのだ。ゲイルも、いや、観戦していたエリックを知る者全てが驚いている。エリックがゲイル以外に負けたことに。
レスティーが勝ち、エリックが負けた。誰もがそう思っていた。
「これで満足ですか?」
体育館全体に、エリックの声が響く。
「えっ…?…」
その声が聞こえた瞬間、今まで見えていた光景が消えて、全く逆の状況が現れていた。
リングの中央にはうつ伏せに倒れているレスティー。そこから少し離れた所に、ビャクオウがいる。
「な、何が…ぐぅっ!!」
状況を理解できないでいるレスティーが呟いた時、彼女は全身に激痛を感じた。わずかに残された力を振り絞り、ビャクオウを見る。ホワイトスイーパーが光を纏っているのが見えた。エンドオブファンタズマを使ったということだろう。レスティーはそれを喰らって倒れたのだ。しかし、全く意味がわからない。確かにレスティーはビャクオウを倒したはずだ。レスティーにも、ビャクオウに瞬獄殺を当てたという手応えがある。にも関わらず、倒れているのはレスティーの方。
「まだわかりませんか?なら教えてあげましょう。私はあなたと、この会場にいる者全員に幻を見せたんですよ。」
この状況を正確に説明するとこうだ。ビャクオウは戦いが始まると同時にイリュージョンナイトメアを発動し、レスティーと体育館に来ている者全員に、レスティーがビャクオウと戦って勝ったという幻覚を見せていた。本当はレスティーもビャクオウも棒立ちのままで、戦ってなどいない。当然レスティー達はそれに気付けないので、その隙にエンドオブファンタズマを決めて、レスティーを倒したのだ。
「私は数分感覚の幻覚を見せましたが、実際に勝負が決まったのは約7秒。でもよかったではないですか。わずかな間とはいえ、私に勝ったという夢を見られたのですから。」
「そ…そんな…強すぎる…」
もはや闇影武装を維持することもできなくなり、変身が解除されるレスティー。
「あなたも強くなったようですが、私はそれを上回る速度で強くなっています。いや、手にした力に差がありすぎたのかもしれませんね。」
変身を解いたエリックから掛けられた言葉を聞きながら、レスティーは意識を手放した。
「な、なんということでしょう!!スピードがウリのエンプレス選手が、逆に瞬殺されたぁぁぁぁぁぁ!!!」
「うるせーっ!!!」
「ごふあっ!!」
拳銃で暴れていたジンキルを、バウードはバックドロップで黙らせた。
「エ、エンプレス選手戦闘不能!!勝者アンダーソン選手!!」
審判がそれを尻目に、また起こった出来事に驚きながらも、判定を下す。
「レスティーちゃんがこんなにあっさり負けるなんて…」
空子はさらに力を付けたエリックを見て愕然とする。自分は弱くないと認めさせる。そう決意したのだが、エリックが認めるのはまだまだ先になりそうだ。
(奴はどんどん強くなってきている。いや、自分の能力の使い方を覚え始めてきたというところか…)
恐らくビャクオウに改造されてからも、エリックは自分に比肩しうる相手とは出会わなかったのだろう。だがヘブンズエデンに戻ってきてからは、ヴァルハラやデザイアの幹部など、自分を超える実力者と何度も戦った。そのおかげで自分の力の本当の使い方を見出だし、身に付けてきていたのだ。
(やはりこのアーミートーナメント、最大の障害はエリックか…!!)
もうわかりきっていた話だが、エリックの強さはヘブンズエデン全体から見ても群を抜いている。優勝するには、そのエリックを倒さなければならないのだ。
「っ!」
ふと見ると、リングの上のエリックが、ゲイルを見ていた。まるで次はお前の番だとでも言っているような、嫌な笑みを浮かべている。
(…負けられない)
ヘブンズエデンを爆破させないためにもだが、自分が倒した皇魔、エリックに倒されたレスティーの意志を継ぐ上でも、負けられなかった。ゲイルは自分のブロックで行われる最後の試合に勝つため、リングへ行く。
(エリックのバカ野郎!!)
狩谷は心の中で、エリックを罵倒していた。この戦いで黄の印が反応する理由を調べなければならなかったのに、エリックはレスティーの攻撃に自分の攻撃をぶつけなかった。必然的に、黄の印も反応しなかった。
(…仕方ねぇ。相手がエリックなら、十分予想できた結果だ)
それにいくらエリックでも、異常を知っているわけではない。話したとしても、協力は得られないだろう。
(決勝戦までは、あと一戦残ってる!それで何とか…)
その一戦で、黄の印の反応を調べなければならない。狩谷は神経の糸をピンと張り巡らせ、反応に備えた。
*
その一戦でも、黄の印が反応することは何回かあった。しかし、相手は皇魔やレスティーほど強力な一撃を持ち合わせていたわけではなかったので、反応が一瞬、しかも弱すぎて意識を集中する暇がなく、結局反応について調べることはできないまま、決勝戦が来てしまった。
(くそっ!!仕方ねぇ…この決勝戦で反応の理由を突き止める!!)
もう手遅れかもしれないが、やらないよりはマシだ。些細な変化も見逃さないよう、今までで一番警戒する。
「この時が来るのをずっと待っていました。」
エリックは目の前に立つゲイルに、この決勝戦が来るのを待っていたと伝える。
「今度こそあなたを打ち倒し、私が最強だということを証明します。当然あなたには、今までの勝利が間違いであったと認識してもらいますよ。」
「…もう勝負は決まっているだろう。あんなことができると見せつけられた後じゃな…」
ゲイルはエリックがレスティー戦でやった時のことを思い出す。彼には、エリックのイリュージョンナイトメアを破る手段がない。木林陰斗の看破でもあれば状況はかなり違ったのだが。
「安心して下さい。これは幻影ではありません」
「…使っていないのか?」
「はい。」
「なぜ使わない?あれをやればお前の勝利は確定したも同然だろう?」
「勘違いしてもらっては困りますね。あれはレスティー・エンプレスとの試合を短縮するためにやったのであって、あなたとの戦いではいつもの使い方をします。」
いつもの使い方とは、分身に幻影を混ぜるなどといった、最も使う戦法のことである。
「…てめぇだけは正面から叩き潰さねぇと気が済まねぇからなぁ。」
エリックは素の性格に戻り、本音を言った。搦め手から勝利することなど、容易い。だが、それではゲイルに屈辱を返すには、完全に不足しているのだ。
「純白を愛するこのオレ様に何度も何度も汚ならしいヘドロを塗りつけやがって、ただ倒すだけで済ますと思ってんのか?ああ!?」
正面から正々堂々と叩き潰し、力の差と格の違いを見せつける。それでようやく、ゲイルに勝利したと言えるのだ。
「…そうだな。」
ゲイルはただ、プライドソウルをエリックに向ける。
「安心した。」
今この瞬間、ゲイルの頭の中からはヘブンズエデンに仕掛けられた爆弾のことが、綺麗に抜け落ちていた。代わりにあったのは、自分が出せる全力でエリックを倒したいという強い想い、願望だった。
「試合開始!!」
審判が試合開始を宣言し、エリックが先手を打ってホワイトスイーパーで発砲する。ゲイルは飛んでくる弾丸をことごとく弾き飛ばし、エリックに飛び掛かった。エリックもホワイトスイーパーの刃で、プライドソウルの刃を受け止める。
「さあ遂に始まりました!!アーミートーナメント決勝戦!!エリック・アンダーソン選手もゲイル・プライド選手も、我が校を代表する強力な訓練生です!!」
「間違いなく凄まじい戦いになりますね。どちらを応援するか迷いますが、とにかく悔いの残らない戦いをしてもらいたいです。」
いつも通り実況するジンキルとバウード。しかし、互いに拳銃を向け合っている。
(来た!!)
そして、予想通り黄の印が反応した。
「悪い!ちょっとお前らだけで応援しててくれ!」
「う、うん!」
狩谷はアンジェ達に応援を任せて物陰に隠れ、ポケットから黄の印を出して見る。実は今まで反応した黄の印を見ていなかったので、ここで初めてどんな反応かを見ることになる。黄の印は強く発光し、脈動していた。こんなに早く、しかも今までで一番強く長い反応があったことにも驚いたが、これなら確実に理由を突き止められる。狩谷は黄の印を握りしめ、意識を集中した。
(これは…ゲイルとエリックの力がぶつかり合ってるな…)
力と力はぶつかり合い、より強い力を生む。そして生まれた力が、どこかへ流れている。狩谷はそれを感じ取った。
(この力の流れを探れば、源にたどり着く。こっちだ!)
どう考えても不自然な流れを感じさせる力。それをたどり、狩谷は体育館を、ヘブンズエデンを出ていった。
「…」
空子はいずこかへと駆けていった狩谷を見送ってから、アンジェ達に言う。
「あたしもちょっと行ってくるわ。ゲイルのこと見ててね!」
「うん!」
「わかった。」
「心配しないで。」
アンジェ、さだめ、光輝はそれぞれ応対し、空子を見送ってから、再びゲイルの応援に入る。
急ぐ狩谷は黄の印をエルダーキングに変化させ、パワーアップした。スピードも上がり、ビルの上を飛び回って流れの源を探す。やがて、一件の廃屋にたどり着いた。
「ここか…」
エルダーキングを持ち直し、廃屋の内部に突入する。気配を消して忍び込んだ狩谷は、一つの部屋を発見した。ドアがないその部屋の中からは男性の声が聞こえ、奇妙な光が漏れ出ている。
「動くな!!手を挙げろ!!」
意を決した狩谷は中に飛び込み、エルダーキングを向けた。
「…ほう、まさかここに入ってくるやつがいたとはな。」
こちらに背を向けていた男は特に臆した様子もなく、ゆっくり振り向く。
「お前、ここで何をしていた?ヘブンズエデンから力を集めていただろ?」
「ん?何でわかった?」
狩谷から質問された男は不思議そうな顔をした後、視線をエルダーキングに移す。
「…それ、人間の武器じゃないな。神の武器か…そいつを使ってここを突き止めたってわけだ」
一目でエルダーキングが神の武器であると見抜いた男。狩谷はただ者ではないと警戒する。
「お前…何モンだ!!」
「…別に教えてやってもいいか。お互い、神に関わる身だし」
ずいぶんと余裕な態度で、男は説明を始めた。
「俺の名はヘインズ・ウェイトリー。俺はここで、親父を呼び出す儀式をしていた。」
「儀式?」
「ああ。俺の親父はお前らがクトゥルフ神話って呼んでる神話の神でな、今は幽閉されてるんだが、ちょっと頼みがあって呼び出すことにした。」
「親父が神だと?一体…」
今ヘインズと名乗った男は、神と人間の間に生まれたハーフで、父親が神らしい。
「…待てよ?ウェイトリー…?」
ヘインズの名字が気になり、少し思案に入る。そして数秒後、狩谷の頭の中に恐ろしい仮説が浮かんだ。
「まさか…お前の親父ってのは…」
クトゥルフ神話の神の中には、気に入った人間と交わり子を残す者もいる。そしてその中には、とある強大な神もいるのだ。それは、アザトースが生み出した三つの存在から生まれた神の一柱。
「そう、ヨグ=ソトースだ。」
狩谷の予想は、当たっていた。
*
狩谷を捜す空子。
「あら、空子じゃない。ずいぶん慌ててるみたいだけど、どうしたの?」
しばらく捜していると、メイリンと室岡に出会った。
「メイリン先生、室岡先生!狩谷を見ませんでしたか?」
「狩谷なら、さっきすごい顔してあっちに行ったぞ?」
学園の外を指差す室岡。
「ありがとうございます!」
空子はその方角へ向かっていくと、
「メシアジャケット!!」
メシアジャケットを装着して、学園の外へ飛び出していった。
*
アザトースは自分の意思を代行する者として、三つの存在を生み出した。這い寄る混沌、闇、無名の霧。這い寄る混沌からはナイアルラトホテップが、闇からはシュブ=ニグラスが生まれ、無名の霧からはヨグ=ソトースが生まれた。ヨグ=ソトースは過去、現在、未来、平行世界や異世界に至る全ての時代、全ての世界に同時に存在することができる邪神で、それら全てを一つの存在として知覚し、ヨグ=ソトース自体もそれらに行くための門として機能する。ゆえに全にして一、門にして鍵と呼ばれ、またナイアルラトホテップやシュブ=ニグラスと同等の力を持つ副王としても知られている。そして、ヨグ=ソトースから生まれたハーフの中で一番有名なのが、ウェイトリー兄弟なのだ。
「俺はウェイトリー兄弟の末弟だよ。」
神話の中では三人いることになっているウェイトリー兄弟だが、ヘインズなどという名前は聞いたことがない。神話に記されていない四番目の弟がいたということだろう。
「目的は何だ!!ヨグ=ソトースを召喚して、何をするつもりでいやがる!?」
先ほども説明した通り、ヨグ=ソトースはナイアルラトホテップにも匹敵する大邪神だ。そんなものを召喚するとなると、よほどのこととなる。ヘインズは話した。
「話を聞いたんだよ。ヘブンズエデンの理事長が、クトゥルフ神話の神々を模したものを作っている。このままじゃ親父を模したものまで作られるかもしれねぇってよ」
一体誰から聞いたのかはわからないが、ヘインズはエドガーがアデルやビャクオウを造ったことを知っていた。
「俺は親父を誇りに思ってる。だから、親父の劣化品なんかが作られることが我慢ならねぇんだ。だがヘブンズエデンは難攻不落…落とすとなると、親父の力でも借りなきゃ無理だ。」
ヘインズの目的はエドガーをヘブンズエデンもろとも消し去ることのようだ。
「しかももう一つ問題がある。ヘブンズエデンとこの鷹上市には、儀式を行うのに必要な環境が整ってねぇ。」
神を召喚するには、しかるべき儀式をしなければならない。手順に従わねば無論儀式は成功せず、神を召喚することはできない。ヨグ=ソトースの召喚にはいくつか満たす必要のある条件があり、これには環境が関わってくる。つまり、儀式の手順と一致する環境がなければ、ヨグ=ソトースの召喚は不可能なのだ。
「そこで俺は別の方法で親父を召喚することにした。見な」
ヘインズが見せたのは、強く光る小さなクリスタルと、部屋全体に描かれた魔法陣。
「時空を開く術式だ。正規の儀式じゃねぇから、親父のいる空間への門を開くには相当なエネルギーが必要でな、そのためにこのエネルギー蓄積クリスタルを使う。」
エネルギー蓄積クリスタルとは、その名の通りエネルギーを大量に貯めておけるクリスタルで、多くのエネルギーを消費する術式などの起動に使われる。
「こいつはあらかじめヘブンズエデンに仕掛けておいた術式と連動しててな、強いやつの攻撃同士がぶつかる時に発生するエネルギーを感知すると、そいつを吸い取って貯蔵するってわけよ。ま、そのためにちょいとした仕掛けをしたんだが」
「仕掛け?」
「ああ。ゲイルって訓練生に、アーミートーナメントで優勝しないと仕掛けた爆弾で学園を爆破するって手紙を送った。本当は爆弾なんて仕掛けてねぇけどな、爆弾よりずっとすごいのが来るから。」
「な、何!?」
ここで狩谷は、初めてヘインズがゲイルにやったことを知る。思えば、ゲイルの様子が少しおかしかった。気持ちに余裕がないというか、妙な焦りを見せていたのだ。アンジェからは、ぼーっと考え事をしていたという話も聞いている。あれは全部、ヘインズが原因だったのだ。
「許さねぇ…よくもゲイルを!!!」
友を脅迫し、あまつさえ邪神の召喚に利用したことが許せない狩谷は、エルダーキングを構えた。
「何がなんでも止めさせてもらうぜ!!」
「ハッ!面白ぇ。こっちももうすぐでエネルギーの充填が終わるし、それまで暇潰しといこうや。」
対するヘインズは武器も持たず、しかし余裕で両手を広げていた。
*
ゲイルとエリックの戦いは続く。既にリングのあちこちが破壊され、観客のボルテージも最高潮に達しようとしていた。と、エリックは何かを取り出した。手のひらサイズの、円盤状の機械だ。これがアーミートーナメントにおける出場選手達の保護装置、バイタルガードである。しかし次の瞬間、エリックはそれを片手で握り潰した。
「…何のつもりだ?」
「こんなもの、我々の闘争には必要ないでしょう?」
驚くゲイルに、エリックはさも当然と答える。つまりエリックは、ここからは競技ではなく、殺し合いをしろと言っているのだ。
「…そうだな。」
ゲイルもバイタルガードを取り出し、リングの外へと投げ捨てる。
「おおっと!!両者バイタルガードを破棄したぁぁぁぁぁ!!!競技としては違反になりますが」
「構わねぇぇぇぇ!!!お前ら二人揃って殺し合えやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「てめぇ人の実況横取りしてんじゃねぇぞ!!!」
「黙れやこの老いぼれが!!!もとはと言えばてめぇがエキサイトしたせいだろ!!!」
「何だとクズがぶっ殺すぞオラァァ!!!」
「上等だかかってこいやウラァァ!!!」
こちらもかなりすごいことになっている。エリックはやっぱりそれを無視して、
「ビャクオウ、始動。」
ビャクオウに変身した。
「アデル、起動。」
ゲイルもアデルに変身する。
アーミートーナメントは、ヘブンズエデンの学園祭は、最終局面へ突入しようとしていた。
はい、自分で勝手に作ったウェイトリー兄弟の四男、ヘインズ・ウェイトリーの登場です。彼の目的は、アーミートーナメントで生じるエネルギーを利用して、ヨグ=ソトースを召喚することでした。果たして狩谷は副王の召喚を阻止することができるのか。アーミートーナメントはどうなってしまうのか。
次回、いよいよ学園祭終了です!




