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第三十六話 アーミートーナメント

トーナメントは光輝vs皇魔の続きからです。

光輝と皇魔の戦いは、一見拮抗しているように見える。しかし、光輝の場合は攻撃力というものが決定的に不足しているため、当てられてもダメージを与えられない。対する皇魔は、高い防御力を得ているため、光輝の羅刹刃を恐れずに戦うことができる。よけようともしない。

(皇魔さん相手に、小細工は通じない。なら…!!)

ブルーライジングを発動して隙を作り、全力の一撃をねじ込む。皇魔相手に隙を作るのは簡単ではないが、四の五の言っていてはどうにもならない。

「ブルーライジング!!!」

光輝はブルーライジングを発動し、リング中を駆け回る。

「おおっと白宮選手、さらなる能力強化を隠し持っていたぁ!!」

「ここに来てこの技を使うということは、決めるつもりでしょうね。」

実況するジンキルとバウード。光輝は四方八方から皇魔に斬り掛かるが、どれも紙一重でかわされ、防がれてしまい、クリーンヒットにならない。今の光輝のスピードは訓練生や教師から見てもかなりのものなのだが、皇魔はもっと速い訓練生といつも戦っているため、簡単に見切れるのだ。

(やっぱり普通に攻撃するだけじゃ、皇魔さんに隙は作れない…だったら…!!)

ここで光輝がひらめいたのは、逆転の発想。強引に攻めて隙を作れないなら、受けに回って隙を作ればいい。つまり、動きを止めて皇魔の攻撃を防ぐのだ。どんな相手も、攻撃の直後に必ず隙が生じる。それは皇魔とて例外ではない。だが皇魔の場合、確実に相手を仕留めるため、全力の一撃を放ってくるだろう。それに耐え抜けるかどうかはかなりの賭けになるが、この賭けに勝てなければ皇魔には勝てない。

(一か八か!!)

光輝は皇魔の正面に立ち、動きを止める。それを見て皇魔は、一瞬の思案に入った。

(なるほど、そう来たか…)

皇魔は光輝の作戦を見抜いている。

(だが、この俺相手にその策は、無謀を通り越して愚かだぞ!!)

だから光輝の作戦に乗ってやった。絶対に耐えられるはずのない技を、放つ。

「闘界覇神拳奥義・怒涛炸裂拳!!!」

拳の連打にて障害を粉砕せしめる、必殺技。光輝は皇魔の一撃に耐えて、その後に皇魔を攻撃するつもりだった。が、その作戦を見抜いた皇魔は、光輝が戦闘不能になるまで攻撃を叩き込み続けるという選択をしたのだ。

「くぅっ…!!」

光輝はそれを羅刹刃で受け流す。この技をまともに受け続ければ、いくら羅刹刃でも折れてしまう。だから、決して正面からは受け止めず、受け流す。だが、皇魔の攻撃に押され、一歩ずつ下がり始めている。皇魔もまた、少しずつ前進してきていた。

「白宮選手押されております!!このまま下がり続ければ、リング外に落ちてしまいますよ!!」

「攻撃を受け流す限界が来て叩きのめされるのが早いか、リングアウト負けが早いか。とにかく、この状況からの逆転はかなり厳しいものと思われます。」

熱く実況するジンキルと、冷静に状況を解説するバウード。

「…光輝…!!」

さだめは祈るような思いで、光輝を見つめている。


次の瞬間、


「おおおおおおおおおおおおおおおあああああああ!!!!」


光輝の咆哮が轟き、その全身から雷が放たれた。姿が見えなくなるほどの眩い光と、圧倒的な電力。

「ぬっ!?」

それに圧された皇魔は攻撃の手を止め、のけぞってしまう。

「サンダー…!!!」

そして、光輝はこの瞬間こそを最も欲していたのだ。

「ブレイクスルーブレード!!!」

光輝が発動したのは、最強の技サンダーブレイクブレードの発展技。サンダーブレイクブレードは、自分が出せる全ての雷を羅刹刃に載せて斬る技だが、サンダーブレイクスルーブレードは、その雷を自身の限界を超えて引き出して、さらに圧縮してから羅刹刃に載せる技。光輝の雷はもはやただの雷ではなく、プラズマとなる。そして今の羅刹刃はただ雷を載せただけの刀ではなく、刀身全体が輝くまさに光の剣となっていた。

「はあっ!!」

「ぐうっ!!」

未だ体勢が崩れたままの皇魔を斬りつける光輝。彼の死力を尽くした一撃は、獣哮武神拳でも切れぬ覇気の装甲に大きな傷を付けた。まだ終わらない。何度も連続で斬りつける。その度に鎧は傷付いていく。

「あああああっ!!!」

最後に力を溜め、全力で羅刹刃を振り下ろす光輝。しかし、皇魔はその羅刹刃の刀身を片手で掴んで止めた。

「見事。よくここまで強くなったな」

驚く光輝を賞賛してから、

「だがまだまだだ!!」

「うわあああああああああ!!!」

覇道烈破を放つ。同時に羅刹刃を離し、光輝を場外まで吹き飛ばした。

「白宮選手リングアウト!!勝者鬼宝院選手!!」

審判が判定を下す。皇魔の勝ちだ。白熱した勝負の決着に、観客が沸き返る。

「…はは…全然敵わないや…」

ブルーライジングと疑似進化を解除した光輝は仰向けに倒れたまま、力なく笑った。元々勝てるとは思ってなかった戦いなので、この結果は予想できていたものだ。

「だが、お前は確かに強くなった。見ろ」

皇魔は羅刹刃を掴んだ左手を見せた。左手を包む覇気の装甲は熱で溶解しており、装甲の下の手は焼け爛れている。

「以前のお前なら、この傷を付けることすら不可能だったろう。間違いなく成長している。師である身として嬉しいぞ」

本来ならかなり痛いはずだが、皇魔にとっては痛みよりも喜びの方が大きい。皇魔は覇氣鎧装を解除し、光輝に手をさしのべて起こした。




「光輝くん、負けちゃったね。」

「ああ。だが、いい戦いだった。」

アンジェとゲイルは二人の戦いを評価する。同時に、ゲイルは厄介な相手が勝ったと思った。このアーミートーナメントは、是が非でも優勝しなければならない。できる限り強い相手とは戦いたくないというのが本音だ。しかしゲイルの中には、強くなった仲間達と戦ってみたいという思いもあった。

「…やっぱり皇魔は強いね。もしかしたらって思ったけど…」

「そりゃ、皇魔は他ならないこの私と、小さい頃から一緒に修行してるもの。それに、戦場に出た回数だって圧倒的に多いわ。でも光輝くんはあそこまで善戦できた…すごいことよ?」

さだめは光輝が勝てなかったことを残念がっていたが、光輝と皇魔では元々住む世界が違う。勝つなど、無理がある話だ。それでもレスティーは、一瞬皇魔が負けるのではないかと思ってしまった。それだけ、光輝の成長が目覚ましかったのだ。

「…」

狩谷は、黙ってリングを見ている。黄の印の反応が気になって、もう観戦どころではなくなってしまった。しかし、あれ以来黄の印が反応することは一切なく、結局試合は終わったのだ。

(何だったんだ?気のせいか?)

反応があまりにも一瞬だったので、もしかしたら気のせいかもしれない。

「狩谷?どうしたの?」

そう思っていると、空子が心配そうに話し掛けてきた。

「ん?ああ、いや、何でもねぇよ。それよりゲイルの番だな」

狩谷は黄の印の反応を気のせいだと強引に片付け、ゲイルのことを話す。

「ああ。じゃあ行ってくる」

「私も。光輝を迎えに行かなくちゃ」

「なら私も行こうかしら」

ゲイルとさだめ、レスティーは客席を降りる。



「いやぁ、素晴らしい戦いでしたね。」

「はい。ですが校長先生、まだこれは一回戦です。そして二回戦までまだまだあります。これくらいで驚いているようでは、この先気が持ちませんよ。」

「そうですね!これからも素晴らしい戦いがあることを期待しましょう!さぁそれでは、Fブロックの試合を開始します!!」

実況するジンキルとバウード。間もなくして、ゲイルの試合が始まった。











ゲイルはFブロックの試合を見事に勝ち抜き、二回戦に進出した。エリック、さだめ、レスティーの三人も、無事に二回戦に進めたようだ。エリックとレスティーは当然と言えるが、さだめが勝てたのはかなり意外と言える。


二回戦。さだめとレスティーの対決だ。

「いよいよさだめさんとレスティーさんの試合かぁ…楽しみだなぁ。」

光輝は二人の戦いを心待ちにしている。今光輝と皇魔は、観戦側に回っていた。この次はいよいよ、ゲイルと皇魔の戦いである。

「けどなぁ…これどっちかが必ずエリックと戦わなきゃいけねぇってことだろ?」

「…それを考えると、どっちが勝っても不安よね…っていうか可哀想…」

狩谷と空子は、もう三回戦のことを考えていた。確かに優勝するには、勝った方がエリックと戦わねばならない。エリックはレスティーより強く、さだめはエリックの存在が半ばトラウマと化している。空子としては、エリックと戦うことになる方が気の毒だった。

「今はそれより、この戦いを静観するとしよう。桐崎がどこまで強くなったか、俺も見てみたい。」

とりあえずエリック戦を考えるのは後にして、今はこの戦いを見守るべきだと言う皇魔。

「そうだね。どっちが勝つんだろう?」

アンジェはそれに同意し、リングを眺める。

「さだめさん頑張れ!!」

光輝はリングの上のさだめに向かって、エールを送った。




(あうう…緊張するよ…)

さだめは光輝から声援を受けたこととレスティーと戦うこととで、緊張がピークに達しようとしていた。

「ほらほら、力抜いて!そんなに力んでたら私には絶対に勝てないわよ?」

「!」

レスティーは軽く話し掛け、さだめの緊張をほぐそうとする。

「それに、これは任務じゃなくて競技。殺し合いじゃないんだから、楽しめばいいの。もちろん、本気でね。」

ウインクまでしてみせた。いつもと何も変わらないレスティーの態度に、少しだけ楽になった気がするさだめ。

「…うん。全力で楽しもう!」

さだめはヴォルテクスを構え、レスティーは小太刀を抜く。


「試合開始!!」


審判の合図で、まず先にさだめが斬り掛かる。しかし、レスティーの姿が消えて、ヴォルテクスの一撃は空振りした。

「こっちよ。」

気付けばレスティーは、さだめの後ろに回り込んでいる。振り向き様に一撃放つさだめだが、またかわされた。

「こっちこっち。」

「くぅ!!」

何度攻撃しても背後に回り込まれてしまい、かすりもしない。姿を視認することすら、できない。

「っ!!」

次に放たれた小太刀の攻撃を咄嗟に受け止めて反撃するが、

「惜しい!!」

余裕でかわされた。

「速い!!エンプレス選手速い!!なんというスピードでしょう!!桐崎選手を完全に翻弄しております!!」

「遊んでますね。さすが我が校最速なだけはあります。これは何らかの作戦がないと厳しいですよ」

相変わらず実況するジンキルとバウード。だが、言っていることは正しい。このまま何の手立てもなく攻撃していても、レスティーには触れることさえできないだろう。

(もちろん、作戦はある!!)

「疑似進化!!」

さだめはその作戦の一環として、恋人と二人で手に入れた力を、疑似進化を使う。

「あら、もう使っちゃうの?」

「このままやってても、状況は変わらないと思ったから。」

「いいわよ。どれくらい速くなったか、見せてちょうだい。」

レスティーはさだめの疑似進化を警戒し、少し身構えた。

(かかった!)

さだめは心中勝利を確信する。今レスティーは、さだめが疑似進化でスピードを強化して、ごり押しするつもりだと思っているのだ。実は、そう思わせることが作戦である。

(と見せかけて、本命はこっち!!)

さだめはヴォルテクスの石突をリング上に突き立て、

「エレクトリックバイト!!!」

電撃を流した。電撃はリング全体へと広がっていく。

「っ!!」

跳躍して空中へと回避するレスティー。そう、地面に回避できる場所がない以上、空中に逃げるしかない。それこそが、さだめの狙い。

「トールスマッシュ!!!」

レスティーは飛べるが、今は予期せぬ攻撃を回避したばかりで、体勢が大きく崩れている。そこを狙って、さだめは雷を投げつけた。


直撃。レスティーはかわせず、そのまま受けた。だが、

「ふう、危ない危ない。まさかそんな手で来るとはね」

空中には闇影武装を使ったレスティーが佇んでいる。ダメージを受けた様子もない。レスティーは咄嗟に闇影武装を発動させることで、さだめの攻撃を無効化したのだ。

(でも…)

レスティーは少し危惧している。なぜなら、この闇影武装は自分で使おうと思ったわけではなく、無理矢理使わされた。さだめはそういう状況を作ったのだ。

(この子もしかして、光輝くんより強いんじゃない?)

光輝と皇魔の場合、相性の問題もあったが、皇魔は同意したうえで覇氣鎧装を使った。だが、今レスティーは同意など全くなく、強引に使わされたのだ。このことから、レスティーはさだめの方が光輝より強いのではないかと思ってしまった。


(駄目だった…)

対照的に、さだめは焦っていた。彼女は今の一撃で、確実にレスティーを倒すつもりだったのだ。疑似進化を使ったのには、そういう意味もある。しかし、あの闇影武装という技は予想以上の防御力を持っており、防がれてしまった。もう付け入る隙は与えてくれないだろう。

(ちょっと…厳しいかな…)

そう思っていたところへ、追い討ちをかけるようなレスティーの言葉が。

「私としたことが、ずいぶんと油断してたみたいね。でも残念。今この瞬間に、私の中の慢心は消えた。ここからは、全力であなたを仕留めに掛かるわ。」

「う…」

レスティーは完全にその気だ。怯むさだめ。その時、

「さだめさん!!怯えちゃ駄目だ!!」

客席からの歓声に混じって、光輝の声が聞こえてきた。たった一人の人間の声など、この歓声の中では聞こえないはずだが、やはり相手が最愛の人だと違うらしい。

「君ならできるよ!!絶対勝てる!!だから諦めないで!!頑張って!!」

「…」

さだめは光輝の声援を聞いて、無言で頷く。そうだ、忘れていた。自分には光輝がいる。大好きな人が、ずっと見てくれている。確かにレスティーは強いが、自分にも彼と二人で力を合わせて築き上げてきた強さがある。愛がある。これがレスティーの強さに劣るはずがない。

(勝たなきゃ!!光輝の気持ちに応えるためにも!!)

沈みかけていた気持ちが、再び浮かび上がった。己の心を奮い立たせたさだめは、

「ゴールドライジング!!!」

自分を強化する技を発動し、身構える。

「私も全力を出すよ。この試合、絶対勝ちたいから!!」

「…ふふ」

揺るぎかけていたさだめの決意が、完全に持ち直した。いくら光輝のおかげとはいえ、昔の彼女ならこうはいかなかったはず。

「上等!!」

友の成長を嬉しく思ったレスティーは、軽く笑って着地する。

「忍法・炎鬼童の術!!」

着地して早々に、忍法を繰り出す。

「はあっ!!」

さだめは恐れることなく炎の鬼に挑み、一撃目で金棒を、二撃目で鬼を破壊し、三撃目でレスティー本人へと斬り掛かった。しかし、レスティーの姿はさだめの攻撃が当たる前に消滅し、空振る。

「忍法・鉄大砲の術!!」

気付けば後ろの遠く離れた場所に。

「ってぇっ!!」

生み出した大砲で、さだめを砲撃する。

(ゴールドライジングを使っても追いつけないなんて!!)

闇影武装を使ったレスティーのスピードは凄まじく、ゴールドライジングを使ったさだめの動体視力でも、見えるか見えないかぐらいの速さだった。

(やっぱりレスティーを倒すには、逃げ場のない攻撃を当てるしかない!!)

防弾を斬り落としながらレスティーへの対策を考えるさだめ。

(でも、それを使うには…!!)

しかし、彼女が雷を最大出力で放出しても、今のレスティーを捕らえきるにはまだ威力が足りない。レスティーの逃げ場を奪うほどの広範囲を攻撃するには、雷の出力をさらに上げる必要がある。そしてそのためには、レスティーがある技を使うまで待たなければならなかった。

(レスティーがあれを使うまで、持ちこたえなくちゃ!!)

そう思いながら攻撃するが、またかわされる。

「忍法・手裏剣無限分身の術!!」

今度は空中に移動し、手裏剣を投げてきた。レスティーの手から離れた手裏剣は、無数に分裂してさだめへと襲い掛かる。これが、手裏剣無限分身の術。闇影武装による気の物質化を応用した術で、本物の手裏剣を投げると同時に手裏剣の形に物質化した気を放つ技だ。

「くっ!!」

さだめはヴォルテクスを目の前で回転させて手裏剣を全部弾き飛ばし、トールスマッシュで反撃する。しかし、レスティーは何もないはずの空中を蹴り、それだけで驚異のスピードを発揮してかわしてしまう。マッハ90を超える今の彼女なら、空気を蹴って移動することも可能なのだ。というか、回避目的なら普通に飛ぶよりこっちの方が速い。

「忍法・猛吹雪の術!!」

だが、レスティーには及ばなくとも、さだめだって十分速い。吹雪をかわすくらいはできる。

「凄まじい!!強力な忍法のオンパレードです!!」

ジンキルは真上に銃を向けて発砲しながら実況する。ハイテンションだ。

「これはすごいですね。威力はもちろん、パフォーマンスとしても十分です。っていうか校長先生は少し落ち着いて下さい」

対照的に、バウードはジンキルを諫めつつ落ち着いて解説する。

「…忍法って見せ物じゃないんだけどね。」

レスティーは呟いて返しておく。

(まだなの!?これ以上はもう…!!)

さだめは実況が気にならない。いや、気にしている暇がないといったところか。レスティーの攻撃の激しさと、このままでは一撃も当てられないという焦りが、彼女を疲弊させていたのだ。

「お次はこれよ!!忍法・紫電双狼牙の術!!」

レスティーが発動したのは、紫電狼牙の発展技。雷の狼を二体生み出す技だ。さだめは強い。一体だけでは仕留めきれないと判断したレスティーは、この技を発動したのである。

「行けっ!!」

狼達は忠実に従い、さだめに襲い掛かった。しかし、

(来たっ!!)

さだめはこの瞬間を待っていたのだ。

(さぁ、どう出る?)

もしこの技で仕留められなくても、避けた瞬間を見計らって小太刀で斬る。逃げ道は奪った。だが、


さだめはよけることなく、紫電双狼牙をを正面から受け止めた。



「なっ!?」

これにはレスティーも驚く。まさかかわさないとは思わなかったからだ。

「さだめさん!!」

思わず叫ぶ光輝。通常なら、対象にぶつかった紫電狼牙は爆発する。しかし、今回は爆発しない。それどころか狼としての輪郭を崩し、ただの雷に戻ってしまう。そしてその雷はさだめの全身にまとわりつき、黄金の雷へと変換された。

「これは…まさか…!!」

ゲイルは目を見張る。皇魔が疑問混じりに、状況を呟いた。

「紫電双狼牙を…吸収した…!?」




さだめは光輝を守るため、さらなる強さを得る方法を模索していた。そのきっかけとなったのが、先日のイズマとの戦いである。彼女は雷を操るアーミースキルを持つがゆえ、自分に撃ち返された雷の威力を軽減することができた。その体験から、受けた雷の威力を軽減するだけでなく、己の力とすることはできないかと研究していたのだ。使い慣れた能力だけあって、その技術を修得するのに時間は掛からなかった。

「さだめちゃん…いつの間にこんなことできるようになってたの…?」

アンジェは驚き、

「すごい…すごいすごいすごい!!!」

光輝は目を輝かせていた。

「…なるほど、うかつだったわ。どうやら私、まだ油断してたみたい。」

レスティーはさだめの今の状態を見て、少し反省した。あのアーミースキルを持つ彼女なら、こういうこともできると十分予測できたはずなのだ。にも関わらず、紫電双狼牙という強力な技を使ってしまった。次にさだめが取る行動は、吸収した力をそのまま跳ね返すこと。

「…行くよ…!!」

さだめは吸収した雷と自分の雷の全てを、ヴォルテクスへと載せる。

「オーケー…なら私も…!!」

レスティーも全力の忍法を放つべく、身構えた。


そして、


「バスターブリッツハイパー!!!」

「忍法・五行滅殺の術!!!」


さだめの雷と、レスティーの光線がぶつかる。威力は、互角だった。しかし、まだ終わらない。

「ボルトアックス!!!」

さだめはレスティーに向かって駆け出す。もう雷を出せる余力はないが、ヴォルテクスにはまだ帯電しているため、それを利用して斬り掛かる。

「忍法・瞬獄殺!!!」

レスティーも駆け出した。そして、一瞬の交錯の後、

「…うっ…」

さだめは倒れてシールドに包まれた。この勝負、さだめの攻撃をかわしきって忍法を決めたレスティーの勝ちだ。

「桐崎選手戦闘不能!!勝者エンプレス選手!!」

審判が判定を下す。

「さだめさん!!」

光輝は客席を駆け抜け、さだめの安否を確認しに行った。

「光輝くん!!」

アンジェも追いかけようとするが、

「心配するな。桐崎なら、大丈夫だ。」

ゲイルがアンジェを呼び止めて落ち着かせる。

「でも…」

「俺達に任せておけ。ちょうど次は俺とゲイルの試合…これからリングに降りて確認してくる」

仕方ないので、皇魔とゲイルが入場がてら、さだめを見舞いに行った。

「それにしてもすごい戦いだったわね…」

空子は全く心配していない。ヘブンズエデンのシステムは完璧なので、さだめが無事だと信じているのだ。一方狩谷は沈痛な面持ちで、リングを見ている。

「…狩谷?」

「え?ああ、悪い。」

「本当にどうしたの?ずっと様子がおかしいけど」

「だから何でもねぇって。」

空子から訊かれて、また強引に話を切る狩谷。実は、何でもなくはない。また、黄の印が反応したのだ。

(気のせいなんかじゃねぇ…黄の印が何かに反応してる!)

反応したのは、さだめのバスターブリッツとレスティーの五行滅殺がぶつかった時。しかし、なぜ反応したのか、何を基準に反応したのか、全くわからない。

(…もう少し様子を見た方がよさそうだな)

狩谷は些細な反応も逃さないよう、リングと黄の印、両方に気を配るのだった。





リング。

「さだめさん!!さだめさん!!」

光輝はとりあえずシールドを解除し、さだめを体育館の脇に引き込んでから、身体を揺する。

「落ち着け白宮。」

「私の攻撃は全部急所を外してあるわ。だから大丈夫よ」

そばには皇魔とレスティーがいて、覇気と活性の気でさだめを治療している。ゲイルはそのそばで経過を見ていた。ちなみに、今は破損したリングを取り替えているので、次の試合までしばらく時間がかかる。

「…ん…」

「さだめさん!!」

「…こう…き…?」

数分ほどして、さだめが目を覚ました。

「よかった…もう目を覚まさないかと…」

「だから大袈裟だってば!!急所は外したって言ったでしょ!?」

安心する光輝と、その反応に怒って抗議するレスティー。

「心配してくれてありがとう。」

「もう大丈夫なのか?」

「うん。平気」

ゲイルに気遣われながら、さだめは立ち上がる。

「念のため保健室に行った方が良い。俺とゲイルはこれから試合があるゆえ付き添えぬが…」

「わかった。」

「一緒に行くよ。」

「私も。」

光輝とレスティーに支えられて、保健室へ行く。

「…さて。」

皇魔はリングを見る。リングはもう取り替えが済んでおり、いつ入場を命じられてもおかしくなかった。と、思っていた矢先、

「えーリングの整備が終わったようですので、アーミートーナメントを再開したいと思います。それでは、プライド選手と鬼宝院選手の入場です!」

入場命令だ。二人は新しく用意されたリングの上に立つ。

「俺はこういう場所でお前と戦ってみたかった。」

皇魔はゲイルと戦えるのが嬉しいらしい。

「そうか、俺もだ。手は大丈夫か?」

「うむ。この戦いに支障はない」

皇魔の手の傷は、彼の覇気やレスティーの活性の気、イモータルドリンクなどの併用によって完治している。

「言っておくが、俺相手に手加減は不要だ。アデルを使い、全力で俺と戦え。」

「そのつもりだ。」

皇魔は他の訓練生と比べても、次元そのものが違う。いくらゲイルでも、アデルを使わねば危うい。脅迫のこともあるので、絶対に負けられない身だ。だから、最初からアデルを使うつもりだった。

「悪いが、勝ちは譲ってもらうぞ、皇魔。」

「それはできん相談だ。俺とて、負けるためにこの場におるわけではないのでな。」

皇魔も当然ゲイルを勝たせるつもりはない。ただ、全力で戦って打ち負かすこと。それをするために、ゲイルの前に立っている。そして、手加減は不要。


「試合開始!!」


「闘界覇神拳秘奥義・覇氣鎧装!!!」


審判が開始を宣言すると同時に、覇氣鎧装を使う。

「アデル、起動!!」

ゲイルもまた、アデルに変身した。

「二人ともいきなり!?」

「それだけどっちも本気ってことね…」

激戦を予感するアンジェと空子。狩谷はただ黙って見守っている。

「ゆくぞ!!」

「うおおっ!!」

皇魔は拳を繰り出し、アデルはプライドソウルで受け止める。止めた拍子に蹴りを放つアデルと、それに合わせて同じく蹴りを放つ皇魔。剛力と剛力の激突に、空気が震える。











保健室。

いろいろ検査を行ってみたが、さだめの身体に異常はなく、ダメージは完治していた。

「それにしてもすごかったね。僕、あんなことできないもん。」

「そんなことないよ。私と光輝のアーミースキルは同じだから、きっとできる。」

「それでも、さだめさんはレスティーさんと互角だったじゃないか。僕なんて終始皇魔さんに圧倒されっぱなしだったよ?」

「それは相性の問題だよ。私が皇魔と戦ってたら、光輝と同じ結果だったと思う。」

「…」

「…」

話題がなくなってしまった。ちなみにレスティーは空気を読んでか、席を外している。

「…強くならなきゃね…」

「…うん。」

結局、その結論に終わった。











「アクセラレーションパンチ!!!」

「岩山破砕!!!」

アデルの拳と皇魔の拳がぶつかり、轟音と衝撃波が広がる。

「…あっ!!見とれてる場合じゃないよ!!応援しなきゃ!!」

「そ、そうね!!」

「お、おう!!」

「「フレー!!フレー!!ゲ・イ・ル!!」」

二人の戦いに圧倒されていたアンジェ達は我に返り、懸命にアデルを応援する。

「おおおおおおおおおおおお!!!」

アデルはプライドソウルを投げ捨て、ラッシュで皇魔に挑む。皇魔もそれにラッシュを合わせるが、

(なんという気迫か…!!)

アデルの気迫に少し呑まれかけていた。鬼気迫るものを感じる勢いを受けて、皇魔はそれだけ本気なのだと嬉しく思う。一方アデルは、戦いを楽しむ余裕などなかった。皇魔は強く、一筋縄では倒せない。かといって負ければ、ヘブンズエデンが爆破されてしまう。アンジェ達の応援が、絶対に負けられないという気持ちを強くしていた。

「アクセラレーションキック!!!」

「ぐっ!!」

必殺の蹴りを防御し、勢いを殺しきれずに下がる皇魔。

(応えねば!!)

アデルの本気に応えるため、皇魔は自分の奥義を尽くすと決意する。

「ぬぇりゃっ!!」

右手から放たれたのは、覇気の玉。

「うっ!!」

しかしその速度は遅く、アデルは軽くよけた。目の前には、こちらに向けて走ってくる皇魔が。

「おおっ!!」

アデルも走る。その時、アデルは全身を何かに掴まれた。

「何!?」

驚いてそれを見るアデル。彼の全身を掴んでいたのは、巨大な赤い手。その手が赤い理由は、覇気でできているからだ。

「まさか…!!」

アデルは予想する。先ほど飛ばした覇気は、このためではないかと。そして今彼の目の前には、皇魔がいる。

「闘界覇神拳奥義・三腕封殺!!!」

皇魔はアデルの胸に右拳を、みぞおちに左拳を、同時に当てた。これぞ闘界覇神拳の奥義、三腕封殺。覇気の玉を飛ばしてわざとかわさせ、手の形に変化させてからUターン。その手で相手の全身を掴んで動きを封じ、両拳で胸とみぞおちを殴る技だ。

「ごふっ…!!!」

その強烈な攻撃を受けて血を吐きかけるアデル。だが、まだ終わらない。

「龍帝嵐!!!」

皇魔はアデルの首と足を掴んで持ち上げると、頭上で高速回転させ始めた。凄まじい速度の回転は竜巻を発生させ、十分な規模の竜巻になったと確認した皇魔は手を離す。

「うおおおおおっ!!!」

闘界覇神拳の投げ技、龍帝嵐りゅうていらん。相手を自分の頭上で回転させて竜巻を起こし、その竜巻に載せて相手を天高く吹き飛ばす技だ。

「砕滅轟波!!!」

竜巻にもまれて身動きが取れないアデルへと、とどめの覇気を放つ皇魔。大爆発が起こる。

「コンボだぁぁぁぁぁぁ!!!鬼宝院選手見事なコンボを決めたぁぁぁぁぁぁ!!!」

今度はマシンガンを頭上に向けて乱射するジンキル。

「プライド選手はまともに喰らいましたね…これは彼の安否が気になります。あと校長、落ち着いて下さい。」

バウードは物腰穏やかに実況する。

「…」

皇魔は黙って見ていた。三腕封殺、龍帝嵐、砕滅轟波。今までこの連携技を喰らって立っていた者はいない。果たしてアデルはどうなったのか…。



「…!!」



皇魔は目を見開く。アデルは戦闘不能になってはいなかった。イグニスドライブを発動し、クトゥルフサンクチュアリを使うことによって、砕滅轟波を防いだのだ。

「耐えたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!プライド選手耐えました!!!なんということでしょう!!!すごい!!!すごすぎるぞプライド選手ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」

「落ち着けって言ってんでしょうが!!!」

「ゴバァッ!!!」

両手にマシンガンを持って暴れていたジンキルは、バウードから顔面にドロップキックを喰らって吹き飛んだ。

「ほう…耐えたか。」

「悪いが、この戦いには是が非でも勝たせてもらう。」

アデルはダゴンとヒュドラを装備して皇魔に向け、エネルギーをチャージ。

「面白い。」

皇魔も右拳に覇気を込める。そして、

「ルルイエセメタリー!!!」

「鬼神激動拳!!!」

互いに一発撃った。エネルギー弾と覇気の玉は空中でぶつかり、炸裂する。アデルは武器をチャウグナルファングに切り替え、爆煙の中を突き進む。リングに戻ってきたアデルは皇魔にチャウグナルファングで斬り掛かり、皇魔も覇気を込めた拳で応戦する。その時、


「ゲイルさーん!!」

「「頑張って下さーいっ!!」」


声援が聞こえてきた。振り向いて確かめる必要もない。陸堂達三人が、応援に来たのだ。その声援が、アデルの心の炎をさらに燃え上がらせた。

(負けられない!!!)

「ブラッディファング!!!!」

アデルはチャウグナルファングに全エネルギーを込めて乱舞を繰り出す。そのパワーは皇魔の拳を凌駕し、そして一閃。皇魔の胴を斬った。

「…くくく…はっはっはっは!!!」

大笑いする皇魔。

「やはり強いわ!!俺の…負け…だ…」

それから倒れ込み、気絶する。

「鬼宝院選手戦闘不能!!勝者プライド選手!!」

審判が判定を下し、アデルの勝利が確定した。

「やったぁぁぁぁぁ!!!」

アンジェと空子は抱き合い、互いに跳びはねてアデルの勝利を喜ぶ。

「ゲイルさんが勝った!!ゲイルさんが勝ったよ!!」

「すっごーい!!」

「さすがゲイルさん!!」

陸堂、翔子、メルアも喜んだ。

「…あーあ。皇魔は負けちゃったか」

呟いたのはレスティー。光輝とさだめを保健室に送り届けた後、試合を見に来たのだ。

「皇魔と決勝戦で戦いたかったなぁ…」

幼なじみであり、唯一無二の親友とアーミートーナメントで戦えなかったことが、よほど残念らしい。


「無理ですね。ゲイルがあの程度の相手に負けるはずがありません」


背後から声が聞こえて、レスティーの顔から余裕が消える。ゆっくり振り向くと、そこにはエリックが立っていた。

「そしてあなたは私に倒される。断言してもいいくらいです」

「果たしてそう簡単に行くかしら?確かにあなたの方が私より強いけど、その力の差はかなり小さいわよ?」

「油断していると負ける、とでも言いたいのですか?それはありません。」

余裕の態度を見せるエリックに、今この場で倒したいと思ってしまうレスティー。

「次は試合で会いましょう。それまでせいぜい休んでいることです」

エリックは去っていく。レスティーはどうにか殺意を抑え、エリックを見送った。

「…マジでムカつくやつ。」

本当に、相手の神経を逆撫でするのが好きな男だ。



「…」

狩谷はゲイルが勝ったのにあまり嬉しくなかった。それは、黄の印が反応したことが原因である。この皇魔との試合で、黄の印は何度も反応した。そしてその反応パターンから、何に反応しているのかを知ることができたのだ。


黄の印は、強い力がぶつかる度に反応している。


だが、なぜ反応しているかはわからなかった。そこで、狩谷は思い出す。これを自分に渡したハスターが言っていたことを。黄の印に意識を集中する。魔術を使えるようになったのも、バイアクヘーを召喚できるようになったのも、黄の印に意識を集中したおかげだ。

(次に黄の印が反応した時、よく調べてみないとな)

もしこのまま何の手も打たなかったら、まずいことが起きる気がする。狩谷は、そんな胸騒ぎを感じていたのだ。











鷹上市。

淡く発光するクリスタルを見て、男は嫌な笑みを浮かべていた。

「順調だな。だが、まだ足りない。もう少しアーミートーナメントが進めば…」

クリスタルの光は、徐々にだが、強まっていた。

結論から言うと、やっぱりゲイルの方が皇魔より強いです。主人公補正がどうたらとかそんなことを言うつもりはありませんが、彼が仲間に対して、守るべき者達に対して抱く想いは、皇魔やレスティーの強さや誇りにも負けていないんです。しっかし、光輝とさだめは相変わらずのバカップルだなぁ…どうしてこうなった…。


次回はエリックvsレスティーと、謎の男の正体と目的、アーミートーナメント決勝戦について描こうと思います。まぁ、謎の男が何をしようとしているかは大体わかると思いますが、とりあえず皆さんの予想を裏切ることを書きたいですね。


では次回!!

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