サマーバケーションウォーズ PART4
今回は超展開なので、読者の皆様がついてこられるか心配ですが、ご覧下さい。
一度ヘブンズエデンに帰還した狩谷達は、残された最後のビッグデュエルを守るため、中国に来た。
「ゲイル…どうなったのかな…」
アンジェは心配そうに呟く。あの時は、ゲイルが無事に戻ってくると信じていた。しかし、ゲイルもエリックも消息不明となっている。無事に逃げ延びたか、あの爆発に巻き込まれたか。とにかく、今は彼らがどうなったのかわからないままだ。
「心配したって仕方ないわ。今私達にできることは何か、よく思い出してみなさい。」
そう言ったのは、レスティー。ヘブンズエデンに戻った後、エドガーが援軍として呼び出したのだ。
「…残ってるビッグデュエルを守ることと、盗まれたビッグデュエルを取り返すこと。それから、空子を助け出すこと。」
「よろしい。」
アンジェの復唱を聞き、レスティーは満足そうに頷いた。
「生きているにしろいないにしろ、敵はエリックを使えない。なら、全部簡単にできるはずよ。」
レスティーにとってもエリックは脅威的な存在だが、そのエリックは使われない。ビリー自身が切り捨てたのだ。全ての目的を達成するのに、こんな大きなチャンスはない。
「ゲイルなら心配ないよ。皇魔さん並みに頑丈だから、きっと無事だ。」
「そうだよ。あんな爆発程度じゃ、絶対死なない。」
光輝とさだめは、アンジェを元気付ける。
「…うん。私、信じる。今までだって、ずっとそうだったもん。」
二人に勇気をもらったアンジェは頷き、今自分がやるべきことをやることにした。一方狩谷は、空子のことを考えている。ゲイルのことももちろん心配だったが、それ以上に空子のことが心配だった。空子はゲイルほど強いわけでも、頑丈なわけでもない。何かあったら簡単に死んでしまう、脆い人間なのだ。
(空子…)
今頃どんなひどいことをされているのか、考えたくもない。しかし、助けるためには考えなければ。
(今度こそ助ける!)
そう固く決意しながら、狩谷はビリーの襲撃を待つのだった。
*
ビリーのアジト。
「これが、約束の品です。」
ビリーはモニターの前に座り、近くにある装置にディメンジョンボックスを置いた。すると、装置が発光し、ディメンジョンボックスが消える。これは彼のスポンサー、ヴァルハラから提供された物質転送装置だ。
「確かに頂きました。」
モニターの向こうで、ミレイヌが送られてきたディメンジョンボックスを見せる。
「これで残りはあと一機。もうしばらくお待ち下さい」
ビッグデュエルは三機とも、ヴァルハラに送った。あとは最後の一機を届けて報酬をもらえば、ビリーの仕事は終わりだ。しかし、
「いえ、四機目はいりません。」
ミレイヌは最後のビッグデュエルを不要と言った。
「は?しかし…」
「ビッグデュエルは、性能も装備も全て同じです。三機まで手に入れられれば、十分なのですよ。その代わり、あなたにはやってもらいたいことがあります。」
そう言うと、ミレイヌは何かを転送してきた。ビリーが手に取って確認してみる。
「これは…ディスク?一体何のディスクですか?」
「それは特殊なプログラムを組み込んであるOSです。そのOSを最後のビッグデュエルにセットして下さい」
何とも不可解な依頼だった。真意を確かめるため、ビリーは尋ねる。
「これをセットするとどうなるんですか?」
「ビッグデュエルは自動的に起動し、暴走を開始します。」
「暴走プログラム?そんなことをして何になると?」
「私達の計画には必要な措置なのです。そちらも派手に暴れてくれると、非常に助かります。」
「…わかりました。じゃあ補給が済み次第、すぐ作戦に取り掛かります。」
「お願いしますよ。報酬は弾みますし、後でこちらからも救援を送っておきますから、頑張って下さいね。」
結局ミレイヌの真意は読めぬまま、二人は通信を終えた。
「…何なんだヴァルハラって?」
ビリーも、世界平和を目指している組織だということは知っている。だが、実際にヴァルハラがやっていることはまるで真逆だ。これでは世界が平和になるはずはないし、むしろ戦争が起きるばかりだ。
「…まぁいいか。戦争が増えれば、傭兵は食うに困らない。俺にとってはプラスになることばかりだ」
それに、ヴァルハラに雇われたおかげで、強大な力とエドガーを揺さぶるためのアドバンテージも手に入れた。当然、このことをミレイヌに報告してはいない。これでエドガーを操ることができるようになった。エドガーを操れるということは、そのまま世界の全てを牛耳れるということになる。世界を手に入れるのは、自分一人でいい。ヴァルハラなど、所詮仕事を終えるまでの関係でしかないのだ。
「さて、そろそろ補給も終わる頃だな。」
ヴァルハラが馬鹿のように寄越した大量の弾薬と食糧のおかげで、他から取り寄せる必要はない。これだけの物資を用意できるヴァルハラは確かに脅威だが、ビリーはそれ以上の力を手に入れた。
「俺は最強だ。」
笑いが止まらない。
*
ブラジル。
大規模な爆発に巻き込まれ、瓦礫の山と化した軍用施設。
その瓦礫の一部が、下から斬り裂かれた。
「がぁっ!!」
直後、斬り裂かれて細かくなった瓦礫を弾き飛ばして、ゲイルが現れた。
そのすぐ近くの瓦礫も、下から何発もの銃撃を受けて吹き飛ぶ。
「はぁっ!!」
吹き飛んだ瓦礫の下からは、エリックが。爆発に巻き込まれた二人は死にはしなかったが、大ダメージを受けてしばらく気絶していたのだ。
「…どうする?まだやるか?」
だが、二人同時に目を覚ましたのがまずかった。時間差だったら、互いにスルーしてこの場を離れることができたのだが。
「当然です。あなたが生きている限り、私の戦いは終わりません!」
案の定、エリックはまだやる気だ。
「…と言いたいところですが、状況が変わりました。」
と思いきや、エリックは戦うのをやめた。
「やはりビリーを放置することはできません。個人的な恨みがありますから」
あの時は関係ないと言ったが、実は彼がビリーに対して抱く憎悪は、ゲイルより上だ。ゲイルを殺した後で始末するつもりだったしどこに行くつもりかもわかっているが、この分だとゲイルと決着をつけるには相当かかるし、戦いを優先している間に逃げられるかもしれない。何としてもビリーを殺さなければ。全て、ビリーが真実を教えたことが原因だった。
「そうだな。正直な話、お前に構っている暇はない。空子を侮辱されたのは許せないが、まず空子を救うことが先だ。」
戦いも一区切り着いたところだし、今は共通の敵ができている。
「言っておきますが、私は謝りませんよ。」
「だからそれは後回しだと言った。」
二人は変身し、決戦の地である中国に向かって飛んでいった。
*
中国。
「へっ!ずいぶんと早く攻めてきたじゃねぇか!」
狩谷は襲撃をかけてきたテロリスト達に反撃する。
「昨日は夜に襲ってきたのに何で!?今昼すぎだよ!?」
「テロリストにそんなこと関係ないさ!!」
光輝はアンジェの疑問に答えながら、一人、テロリストを斬った。
「狩谷!!アンジェ!!レスティー!!ここは私と光輝で抑えるから、ビッグデュエルの所へ行って!!」
「わかった!!」
「うん!!」
「オッケー!!」
今いる場所をさだめと光輝に任せ、三人はビッグデュエルの格納庫へ向かう。
「よし。今回は私達の方が早かったみたい」
アンジェは格納庫を見回してみる。そこにテロリストやビリーの姿は、影も形もなかった。
「おお、今度はお前らが先だったか。」
噂をすれば、ちょうどビリーが空子の手を引いてやってきた。
「今度は渡さないよ!!空子も返して!!」
「返す?冗談だろ?やっとあのエドガーを脅すネタが手に入ったんだぜ?」
ビリーは空子の頭に銃を突き付けながら言う。
「こいつを殺して欲しくなかったら、そのままじっとしてろ。今回俺の目的は、ビッグデュエルを頂くことじゃないんだ。」
「どういう意味?」
レスティーは尋ねた。
「すぐわかる。アメルダ!」
「了解リーダー。」
ビリーが呼ぶと、アメルダが現れる。アメルダはビッグデュエルの胸部に飛び付くと、隠してあったカバーを開いて、中のボタンを押した。すると、ビッグデュエルの胸部が開く。ビッグデュエルは操縦型のロボットで、中に人が乗って操作する。胸部ハッチを開けたアメルダは中に侵入し、その姿は見えなくなった。
「何をするつもり!?」
「まぁ見てろ。面白いものが見られるぜ」
ビリーは空子の頭にさらに銃を押し付けてレスティーを制しながら、他の二人にも動かないよう言う。
「終わったよリーダー。」
アメルダがコックピットから顔を出し、それから飛び降りてきた。同時に、ハッチが自動で閉まった。
「アメルダには、ビッグデュエルを暴走させるプログラムが組み込まれているOSを渡しておいた。今それをセットしてもらってたんだよ」
「暴走プログラム!?」
「ちょっと何なの!?何がしたいのよ!?」
驚くアンジェとレスティー。
「知るかよ。OSを送ってきたのはヴァルハラのミレイヌだ。そのミレイヌがビッグデュエルを使って、派手に暴れろって言ってきたんだよ」
だから、ビリーは作戦開始時間を昼にずらしたのだ。夜なら人が少ないが、昼なら人通りはたくさんあるし、ここは人口の多い中国だ。被害はとんでもないことになる。
「みんな!あたしに構わずこいつを倒して!」
空子は自分に構わずビリーとヴァルハラの計画を阻止するよう言う。が、
「無駄無駄。いっぱしの兵士ならそういうこともできたんだろうが、こいつらは餓鬼だ。人質を無視することなんてできやしねぇよ」
ビリーが言う通り、狩谷達は動かなかった。
代わりに、今までウンともスンとも言わなかったビッグデュエルが動き出したが。
「なっ、ビッグデュエルが!!」
「言ったろ?暴走プログラムだって。」
アンジェの反応を見てニヤリと笑うビリー。ビッグデュエルの両手の平の中央が開き、そこから機関銃の銃口が飛び出した。ビッグデュエルは両手を周囲に向けながら機関銃の弾をばらまき、辺りを破壊していく。かと思ったら今度は背中のバーニアを点火し、天井を突き破ってどこかに飛んでいってしまった。
「おーおーさすがは最新のロボット兵器だな。じゃ、俺らも暴れてくるわ。」
ビリーとアメルダはソルジャースタイルに変身し、飛んでビッグデュエルを追いかける。もちろん、空子も連れて。
「ま、待て!!」
狩谷が呼び止めるも聞かず、ビリー達の姿は消えてしまった。
「ごめんなさい。私がいながら…」
レスティーは何もできなかったことを詫びる。
「仕方ないよ。あれだけ警戒されてたら、手なんか出せない。」
本当ならレスティーが隠れて奇襲をかけるつもりだったが、それより早くビリー達が来てしまった。それも敗因と言える。
「とにかく追うぞ!」
狩谷は言ってから、エドガーに連絡した。
「理事長先生!ビッグデュエルが暴走した!今どっかに向かってんだが、どこに向かってるかわかるか!?」
「こっちでも確認してるよ。ビッグデュエルは施設の近くにある町に向かってるね」
「町だと!?」
「急ぎましょう!!」
このままでは大惨劇が起きてしまう。だが、
「行かせねぇぞぉぉぉぉ!!」
テロリスト達が雪崩れ込んできた。狩谷達は光輝達と合流し、まず敵を全滅させることにした。この施設の人間を見殺しにするわけにもいかないからだ。
*
町。
「何だあれは?」
人々を踏み潰し、ビルを粉々に砕き、反撃に動き出した自衛隊を虐殺し、全てを破壊し蹂躙していくビッグデュエルを、高台から一人の男が見ていた。黄色いぼろ布を纏った男だ。
「人間はあんなものを作っていたのか?」
男の正体は、邪神ハスター。ナイアルラトホテップの手で復活したハスターは昨夜地球に到着し、今までずっとこの町に潜伏していた。そこへこの状況である。一応、あの巨大な何かが人工物だということは、見た感じでわかった。
「ナイアルラトホテップからは目立つ行動をするなと言われているが…」
とりあえず、戦わないことに決めている。そんなことをすれば自分の力を使うことになるし、そしたらその力の波動を旧神達に感知されてしまう。そうなれば、旧神達は間違いなく再び自分を封印しようと現れるだろう。
「今の俺ならヴォルヴァドスやノーデンス辺りには勝てる。だが…」
それ以上の力を持つ最強の旧神がいる。その力はナイアルラトホテップをも凌駕し、神々の総帥アザトースにも迫るという。ハスターはその旧神が何者かを知っており、そいつとだけは絶対に戦いたくないと思っていた。アザトースに迫るほどの強さなのだから、戦えばもはや封印程度では済まない。確実に滅ぼされる。なので、傍観することにした。もっとも、あれがこちらにまで攻撃してくるなら、正当防衛をしなければならないが。
「む?」
と、ハスターはおかしなものを見つけた。見たことのない二匹の怪物が一人の少女を捕らえ、何かしているのだ。ハスターはその一団を注視していた。
ビリーが取り出したのは、手の平サイズの一枚のガラス。それ空子に投げた瞬間、ガラスは巨大なケースに変化して、中に空子を閉じ込めた。
「プリズンケース。こいつもヴァルハラが開発したもんでな、対モンスター用の捕獲装置なんだってよ。大型トレーラー六台分のパワーでも壊せねぇってんだから、お前一人の力じゃ脱出は無理だな。」
「出して!!出しなさいよこのバカ!!」
全力でガラスを叩く空子だが、傷一つ付かない。ビリーが言ったことは本当だったようだ。
「命令通り、俺も暴れなきゃなんねーからな。お前を連れてたら邪魔なんだよ」
「でも貴重な人質だから、こうして閉じ込めたってわけ。多分ビッグデュエルの攻撃でも壊れないから、安心してこの町が壊滅するのを見てなよ。」
「ま、待っ…!!」
空子が止める間もなく、戦闘を始めるビリーとアメルダ。互いに銃を使い、逃げ惑う人々を一人一人、撃ち殺していく。
「絶対的な立場から一方的に人殺しをするってのも、楽しいよなぁ!!」
「あはははは!!逃げろ逃げろ!!逃げ場なんてないけどね!!」
楽しんで人殺しをする二人。
「やめて!!やめてよ!!」
必死に呼び掛けながら、空子はガラスを叩く。だが、二人は心から殺しを楽しんでいるようで、全く聞く耳を持たない。そして、出ることもできない。
(あたしには何もできないの!?そんな…そんな理不尽…ないわよ!!)
悔しがる空子。その時、
「空子!!」
アンジェの瞬間移動を利用して、狩谷達が来た。
「けっ!お前らも来やがったか。」
「空子は返してもらうぜ!!」
ビリーに斬り掛かる狩谷。この状況なら、空子を盾に取られる心配もない。だが、
「舐めんな!!」
ビリーは剣を抜いてダークハンターを受け止め、狩谷を弾き飛ばした。
「俺がボーグソルジャーだってこと、忘れてんじゃねぇのか?」
「アタシもね。ボーグソルジャー二人を相手に勝つつもり?」
「お前達こそ、たった二人でこの人数に勝てると思っているのか?」
強気に言い放つ光輝。しかしその時、
「残念ながら二人ではない。」
そう言いながら、髭をはやした大男が現れた。
「わしの名はネイゼン。ミレイヌ様より『大将軍』の称号をたまわった者だ」
「あ、あなたは…!!」
アンジェと狩谷は、この大男を知っている。ボーグジェネラルの一人、ネイゼンだ。
「此度はミレイヌ様の命を受けて貴様らの援軍に参上した。」
ネイゼンはビリー達を援護しに来た。ミレイヌが言っていた援軍とは、彼のことだったのだ。しかし、まだ終わりではない。町のあちこちにジャンパーホールが開き、大量のヘルポーンが出てきた。
「ネイゼン様!このリクソン及びヘルポーン五百体、到着致しました!」
ネイゼンの側に、巨大な斧を持った虎のようなボーグソルジャーが来る。
「来たかリクソン。此度の戦、存分に力を振るうがいい。全てを破壊し尽くすのだ!」
「はっ!!」
ネイゼンにリクソンと呼ばれたボーグソルジャーはヘルポーンを指揮し、さらに破壊と殺戮を広めていく。
「これで五百と四人。完全に形勢逆転だなぁ?」
「くっ…」
勝ち誇るビリーを見て、光輝はたじろぐ。ヘルポーンも一体一体は大したことはないが、五百もいる。しかもボーグソルジャーが一体追加され、ボーグジェネラルまでが来た。その上さらに、暴走するビッグデュエルとも戦わなければならない。どう考えても不利だ。
そう思っていた次の瞬間、ビッグデュエルが死角から何者かの突撃を受けて昏倒した。
「む?」
その何者かが何かを確認しようとしたネイゼン。彼とビリーの周囲に無数のエネルギー弾が着弾し、爆発が起こる。ビッグデュエルをすっ転ばせた者と、ネイゼンとビリーを攻撃した者は、狩谷達の前に姿を現す。アンジェの顔が歓喜にほころび、狩谷は驚いた。
「ゲイル!!」
「エリック!!」
そう、ブラジルから飛び立った二人が、ようやく到着したのだ。
「遅くなってすまない。しかし…またずいぶんと厄介な状況だな。」
アデルは今起きている惨劇を見て言った。
「ちっ。生きてやがったか…思ったよりしぶとい」
「あの程度では死なないと言ったはずですよ。」
ビャクオウの生存に舌打ちするビリー。
「ならば、貴様の相手はわしがするとしよう。」
そんな彼の前に、ネイゼンが進み出た。
「こいつはいい。あいつは俺の手に余りますから」
ビリーは喜んだ。ビャクオウが、エリックがどれだけ厄介かということは昔一緒に戦った時わかったし、三将軍最強のネイゼンなら負けることはあり得ない。
「やれやれ…私はこの手であなたを殺したかったのですがねぇ…」
一応分身して戦うこともできるのだが、マヴァルより強いネイゼンが相手では、分身を割いている余裕はない。
「安心しな。あのビリーってのは俺が代わりにやってやるよ。」
なので、ビリーは狩谷が倒すことになった。
「頼むぞ狩谷。俺はビッグデュエルを止める!」
「おう!」
アデルはビッグデュエルを止めに行く。本当ならアデルも狩谷に加勢したかったが、さっきビッグデュエルに突撃した時にわかったのだ。あれは自分にしか倒せないと。それに、狩谷は自分の手で空子を救うことに執着しているようだし、いつぞやのロリコン戦の時のように邪魔者扱いされてもまずい。その証拠に、
「お前らも他の連中の相手をしてくれ。ビリーとアメルダは俺が倒す!」
アンジェ達にそう言った。
「二人同時に相手するってこと!?」
「さすがに無茶だよ!」
「そうよ!せめて片方は私が戦うわ!」
光輝、さだめ、レスティーの三人は食い下がるが、
「いや、あいつらには借りがある。まとめて叩き返してやりてぇんだ」
狩谷は聞かない。仕方ないので、
「わかった。絶対空子を助けてね!」
諦めたアンジェは三人を連れて、大軍勢を倒しに行った。それを見送ってから、狩谷はビャクオウに言う。
「…ネイゼンはお前に任せるが、俺はお前を許したわけじゃねぇ。けどゲイルの手前もあるから、一発殴るだけで許してやるよ。つーことで、こいつら片付け終わったら殴らせろ。」
「お断りします。もしそんなことをすれば、ゲイルより先にあなたを殺します、よっ!!」
丁重に断ってから、ビャクオウはネイゼンに斬り掛かった。
「スタイルコンバート!!」
ネイゼンはジェネラルスタイルに変身し、片腕でホワイトスイーパーの一撃を受け止めた。
「終わった後の話をするとは余裕だな?わしに勝てると思っておるのか!」
「当然です。あなたを殺してから、ゆっくりあの裏切り者を血祭りに上げるとしましょう!」
二人は戦いながら、その場を離れていく。
「たった一人で本当にアタシ達に勝つつもり?」
「仲間を連れて来たって全然構わないぜ?」
アメルダとビリーは、余裕の表情を見せる。
「はっ!お前らみたいな雑魚なんざゲイルの力を借りるまでもねぇ。俺一人で十分だぜ!」
狩谷は意を決して、二体のボーグソルジャーに挑んでいった。
(そうだ。ゲイルの力を借りれば、こんな連中は一発で片付く)
「ロックンロールハリケーン!!」
狩谷は隙を見て二人を吹き飛ばし、再び斬り掛かる。
(けどそれじゃあ意味がねぇんだ)
ビリーのバルカンを、アメルダのマシンガンを防ぎながら、突き進む。途中でさばけなかった弾が狩谷の手足に命中したり、頬をかすめて切り傷ができても構わず進んで戦う。
(空子は俺が助ける!!俺が助けなきゃいけねぇんだ!!)
そんな鬼神のごとき戦いぶりをする狩谷の姿を見て、
「狩谷…」
空子は呟くことしかできなかった。
「調子に乗ってんじゃないわよ」
しかし次の瞬間、アメルダが至近距離からショットガンを発砲。
「ごはっ…!!」
血を吐いて体勢を崩した狩谷。そこへビリーが斬り込み、狩谷が防御しようと盾にしたダークハンターを真っ二つにしてしまった。
「なっ…」
「いくらいきがろうと無理なもんは無理なんだよ!!」
丸腰になった狩谷にバルカンを撃つビリー。だが狩谷は諦めない。
「うおおおああああ!!!」
素手のまま殴り掛かった。しかし、素手でボーグソルジャーに勝てるはずもなく、返り討ちにされてしまう。
「狩谷!!」
窮地に陥った狩谷を見た空子は、プリズンケースに体当たりを始める。
「やめてよ!!やめてったら!!」
全力の蹴りも叩き込んでみるが、びくともしない。
「それ以上狩谷を傷付けないで!!」
悲痛な叫びを上げながら、友を救おうと必死の抵抗を続ける空子。
「し、心配するな…」
防砲服はボロボロになり、口から血を垂れ流しながらも、狩谷は立ち上がる。
「こんな奴ら…屁でもねぇ…すぐに…片付けて…」
それを見た瞬間、空子は無理だと思った。そんな状態で、勝てるはずがない。
「強がりやがって…うぜぇんだよ!!」
「があぁっ!!」
案の定、狩谷はビリーに殴られ、大きく飛ばされた。拳一発にも耐えられないほど弱りきったその身体では、どうあがこうと勝てるわけがない。
(どうして…どうしてあたしは…!!)
捕らえられ、武器もなく、何もできない。あまりの悔しさに、空子は涙を流す。
「さぁて、そろそろ終わりにするか。人質は一人いれば十分だし」
ビリーはまだ立ち上がれずにいる狩谷に、バルカン砲を向けた。
「ジ・エンドだ。」
あとは、撃つだけ。ボロボロになった防砲服はもう防具としての役目を果たせないので、終わりだ。
しかし、直後に起きた出来事に呆気に取られてしまったビリーは、バルカン砲を撃てなかった。
狩谷の背後に、黄色いぼろ布を纏った男が現れたからだ。
「あん?何だお前?」
ビリーは一旦バルカン砲を降ろす。
「…」
男は質問に答えず、なぜか狩谷を見ている。
「…まだ逃げてないやつがいたのか。あいつらは危ない。早く逃げろ!」
男に警告しながら、狩谷はようやく立ち上がった。しかし男はそれを聞かず、狩谷に質問した。
「お前はなぜ戦う?」
「…ああ?」
「お前はなぜ奴らと戦うのかと訊いている。」
「…あそこに捕まってるやつを助けるためだよ。さぁもう行け!」
質問に答えた狩谷は再び警告した。だが男はまた警告を無視し、
「なぜあの女を助ける必要がある?俺が見る限り、そこまで必死になって戦ってまで助ける価値があるとは思えん。あの女はお前の何だ?なぜそこまで戦う?」
次の質問を矢継ぎ早に繰り出した。狩谷はそれらの質問に、一度に答えられる答えを出す。
「あいつが好きだからだよ。惚れた女のために命を懸けちゃ悪いか?」
「…」
男の質問は終わった。話は終わりとばかりに、狩谷は再度、ビリーに殴り掛かる。
「ふんっ!!」
「ごあっ!!」
今度は蹴り飛ばされ、男が立っている場所まで戻された。
「お前が戦う理由はわかったよ。わかったからもう死ね」
今度こそバルカン砲を向けるビリー。
しかし、ビリーはまたバルカンを撃つことができなかった。
男が片手を向けて何かを放ち、ビリーをアメルダもろとも吹き飛ばしたからだ。
狩谷は、今男が放った力を知っている。
それは自分が操る力。すなわち、風だ。
「あ、あんた一体…」
狩谷は男を見る。男は名乗った。
「俺の名はハスター。風の神だ」
「!!」
狩谷は驚く。よく見てみれば、男が纏っているのは黄色いぼろ布。ハスターの化身の一つ、黄衣の王と特徴が一致している。ただ、仮面は着けていなかった。これはナイアルラトホテップから強化魔術をかけられたことにより、完全な人化が可能になったからだ。結局従うことにしたのである。
「これを使え。」
ハスターは狩谷に向けて手を出した。ハスターの手には、不可思議な紋様が刻まれた黄色いメダルが乗っている。
「まさかこれ…黄の印か!?」
エドガーから聞いた話だが、これは黄の印というメダルによく似ていた。
「よく知っているな。そうだ」
美しくもおぞましい言葉で彩られた戯曲が記された魔導書、黄衣の王。その第二楽章を読んだ者のもとに送り届けられるのが、黄の印である。黄の印を持つ者のもとへはハスターが現れ、その魂を奪う。そして黄の印の持ち主は、自分の意思でそれを捨てることができない。
「だがこれはお前が知っている黄の印とは少し違う。これを手にすれば、お前は俺の力の一部を得る。」
「つまり契約するってことか?なら遠慮するぜ。」
ハスターと契約した者はいずれ怪物となり、ハスターに精神を支配されてしまう。狩谷はそれを知っていたので、黄の印を受け取らなかった。しかし、ハスターは言う。
「これは契約ではない。ただお前に俺の力をやるだけだ」
「何?」
契約するわけではなく、自分の力を無償で与える。ハスターはそう言ったのだ。
「俺の言葉を信じるか否かはお前次第だが、急いだ方がいいぞ。」
ハスターは自分が吹き飛ばしたビリーとアメルダを見る。
「野郎…妙な手品使いやがって!!」
「もう容赦しないわ!!遊びは終わりよ!!」
二人は復帰して向かってきていた。確かに、時間がない。
「…迷ってる暇はなさそうだな…!!」
狩谷はハスターから黄の印を受け取った。
「では、お前が望む武器の形を思い浮かべろ。お前が最も使いやすい武器の形だ」
「…武器…」
そう言われて狩谷がイメージしたのは、
(…鎌!!)
今までずっと自分と一緒に戦ってきてくれたダークハンター。その姿を思い浮かべる。すると、狩谷の手の中の黄の印が発光し、巨大な鎌になった。
「らあっ!!」
「ぐっ!?」
「うあっ!!」
狩谷は鎌を一振りして、ビリーとアメルダをまとめて斬り飛ばす。
「エルダーキング。黄の印の武器形態だ」
ハスターは変化した黄の印について説明する。
「すげぇ…全身に力がみなぎってくる!」
鎌、エルダーキングから流れ込む力に陶酔する狩谷。と、狩谷は気付いた。ボロボロになったはずの防砲コートが修復され、傷も治っている。それだけでなく、コートが黄色に染まっていた。近くにあったガラスに自分を映してみると、髪も黄色くなっているのがわかる。
「俺の力を受けたお前の能力は数倍に増幅されている。その姿はその影響だ」
「…何だかよくわかんねぇけど、ありがたく使わせてもらうぜ!」
力を増した狩谷は圧倒的で、二人のボーグソルジャーを相手しているにも関わらず、それを超える戦いができている。
「エクストリームテンペスト!!!」
普段使っているエクストリームテンペストよりも強力なものを放つことができた。こちらもかなり強化されているようだ。今の技でビリー達を吹き飛ばした狩谷は、今のうちにと空子の側に駆け寄る。
「空子、大丈夫か!?ちょっと下がってろ!」
「わ、わかったわ!」
狩谷は空子を下がらせ、エルダーキングでプリズンケースを斬りつける。だが少しばかり傷が付くだけで、破壊はできない。
「くそっ!どうすりゃいい!?」
思案する狩谷。その時、
「意識をエルダーキングに集中しろ。」
ハスターが呼び掛けた。狩谷が言う通りにすると、エルダーキングから頭の中に情報が流れ込んできた。
「…よし!」
狩谷は一度プリズンケースから離れ、エルダーキングを向けた。
「ハスターの歌!!」
すると、エルダーキングから電磁波が発生し、プリズンケースの表面が泡立った。今狩谷が使ったのは、電磁波を出して攻撃するハスターの歌という魔術だ。狩谷に魔力はないが、黄の印はこれ単体が魔力の永久機関としての機能を持ち、また魔術を使うための回路が組み込まれているので、魔術と全く接点を持たない者でも、念じるだけで魔術が使える。狩谷は強度が弱まったのを確認し、エルダーキングで泡立った部分を攻撃。
「狩谷!!」
「空子!!」
破壊された所から飛び出してきた空子を受け止める。
「ごめんな、空子…」
「ううん。助けてくれてありがとう」
抱き合い、互いに謝罪と礼を言い合う。だが、まだ戦いは終わっていないのだ。
「そうだ。理事長先生が、お前にこれを渡してくれって…」
「!!」
狩谷はエドガーから渡されていたブレスレットを渡す。
「すごい!!完成したんだ!!」
空子はブレスレットを装着した。すると、
「ようやく救出に成功したみたいだね。」
ブレスレットからエドガーの声が。
「使い方は前に説明した通りだ。やってみたまえ」
「はい!」
「なぁ、これ何なんだ?」
状況が読めない狩谷のために、エドガーが説明する。
「これはエイボンブック。武器をデータ化して収納するブレスレットで、最大で十五個の武器と十五種類の弾薬を六千発まで収納できる。無論、通信機能や時計機能、マップ機能も完備だ。」
「すげぇなオイ!!」
狩谷はエドガーが作ったこのエイボンブックというブレスレットの機能に驚いていた。
「あたしのアーミースキルって、どうしても武器に依存しちゃう能力でしょ?だったらそれを最大限活かせるだけの武器をたくさん揃えなきゃって思って、それで少し前に理事長先生にお願いしたの。たくさんの武器を一度に、しかもかさばらないように運用できる装置を作って下さいって。」
確かに空子のアーミースキルは、武器があって初めて威力を発揮する。そのスキルを活用するため、彼女が考えた方法が、このエイボンブックだった。
「武器は既に君に頼まれていたもの。それからギガトラッシュを入れてある」
「ギガトラッシュもう入ってたのかよ!?」
狩谷はツッコミを入れた。空子を救出してから渡すと言われていたが、もう渡されていたとは思わなかったからだ。
「あそこで教えちゃあつまらないだろう?じゃあ頑張りたまえ。」
通信を終わるエドガー。
「今まで一人で戦わせちゃったわね。でも、ここからはあたしも戦うわ!」
空子はブレスレットに人差し指と中指を置いて、武器の名前を言う。こうすることで、収納してある武器を出せるのだ。
「メシアジャケット!!」
すると、エイボンブックから光が飛び出し、空子の身体にまとわりついた。光はボディースーツと、バイザー付きヘルメットを構築して装着される。これはメシアジャケットといい、常人の十六倍のパワーとマッハ10の飛行スピードを備えるバトルスーツだ。
「さぁ、反撃開始よ!!」
「おう!!」
空子と狩谷は戦う決意を新たに、ビリーとアメルダを睨み付ける。ハスターはその戦いを、ただ黙って傍観していた。
*
四川省。
「…」
休憩をしていた皇魔は、どこか遠くを見ていた。
「どうかされましたか?」
ワンレンがやってきて尋ねる。
「…破壊と殺戮の気配が、風に乗ってここまで伝わってくる。それを感じていました」
「気付かれましたか。町の方で何かあったようです」
ワンレンも皇魔と同じく、この先にある町で戦いが起きていることを感じていた。
「…そろそろ頃合いですね。」
ワンレンは皇魔に言う。
「今を以て、あなたの修行の全行程を終了します。私は弟子達を守らねばならないのでここを離れられませんが、行って存分にお力を試してきなさい。」
修行を始めてから約一ヶ月。ついに、この時が来た。
「では行って参ります。」
頭を下げた皇魔は空を飛び、戦場へと向かう。
次回、決着。




