表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/86

サマーバケーションウォーズ PART2

続きです。

地球から遠く離れた、ヒアデス星団。邪神ナイアルラトホテップは、この星を訪れていた。彼女の目の前には今、大きな湖が広がっている。ナイアルラトホテップは湖に向かって、右手をかざした。

「旧神の力により、このハリ湖へと封じられし風の神よ。その忌まわしき戒め、今こそ解き放たん。」

祝詞を上げたナイアルラトホテップは、そこから地球人に発音できない音を口から発して、呪文を唱える。人間に変身しているナイアルラトホテップだが、彼女の変身は特別なので、そういった音で喋ることもできるのだ。


ナイアルラトホテップが呪文を唱え終えてから数秒後、彼女がハリ湖と呼んだ湖に変化が現れる。湖面が泡立ち始め、そして大きく盛り上がったのだ。やがて、滴り落ちる水があらかた収まった時、それの全貌が明らかとなった。巨大な、あまりにも巨大な、怪物だった。一言で表現するなら、それはタコ。しかもただのタコではなく、どこか神々しさを放つ、巨大なタコだ。ナイアルラトホテップはそのタコに向かって話し掛ける。

「おはようハスター。君と会うのもずいぶん久しぶりだね」

すると、

「…ナイアルラトホテップか。よく出してくれた」

ハスターと呼ばれたタコが応え、一瞬発光して人間の姿となってナイアルラトホテップの側まで歩いてきた。青白い仮面を被り、黄色いぼろ布を纏った人間へと。


彼こそ名状し難きもの、黄衣の王、邪悪の皇太子などと呼ばれる風の邪神、ハスターだ。


「君は相変わらず人化が下手だねぇ。ボクみたいにとは言わないけど、もっと人間っぽくなれないのかい?」

ナイアルラトホテップはハスターの人化について、早々にダメ出しをした。なぜならハスターが身に付けている仮面もぼろ布も、人化しきっていない部分を隠すためのものだからだ。

「…俺は人化が得意ではない。」

「仕方ないなぁ…ほら。」

今度はハスターに向けて手をかざすナイアルラトホテップ。すると、彼女の手から光が放たれてハスターに宿り、すぐに消えた。

「強化魔術か。」

ハスターはナイアルラトホテップが自分に魔術を使ったと見抜く。ナイアルラトホテップが使ったのはただの強化魔術ではなく、かけた相手に自分の魔力を分け与え、その魔力で全能力を永久的に底上げするかなり高度な強化魔術だ。力が強まったことで、ハスターはより人間に近い姿になれるようになった。

「護身用だよ。せっかく復活させたのに、また封印されたりなんかしたらたまらない。それに君は弱いからねぇ」

「…」

自分を強化してもらえたことは素直にありがたかったが、ナイアルラトホテップが言った弱い、という言葉が、ハスターとしてはいささか気に入らない。だがそれは事実だった。ハスターはクトゥルフと敵対する身。しかし彼の力はクトゥルフどころか、その眷属にさえ苦戦するほど弱い。だから旧神達との戦いにもあっさり負けて、このハリ湖に封印されてしまった。

「わかってるとは思うけど、あんまり派手な動きとかはしないようにね?旧神達に君が復活したことがバレると、いろいろ面倒になる。」

「わかっている。いくら俺の力が増したと言ってもな」

「今の君ならクトゥルフと互角以上には戦えるけど、さすがに彼の兄には勝てない。」

「クタニド、か…俺も好きこのんで旧神の長を相手にしようとは思わん。まぁ目立たん程度に、勝手にやるさ。」

「やっぱり君を復活させて正解だった。君は他の神と比べて、良識が違うよ。」

半ば馬鹿にしているとも思える拍手をハスターに送るナイアルラトホテップ。と、彼女は思い付いた。

「ボクが全ての準備を整えるまで暇だろうから、退屈しのぎにいい情報を教えてあげるよ。今地球で、面白い小競り合いが起きてる。」

「小競り合い?」

「改造人間とか進化人間とか、そういった連中が組織を組んで戦争をしているのさ。」

「ほう…いかにもお前が好みそうな話だな。」

「もっとも地球は旧神達が目をつけてる星でもあるから、行くか行かないかは自由だけどね。行くんなら、ボクの魔術でひとっ飛びだよ?」

「いらん。それぐらい自分の力で行ける」

それに、これ以上この不愉快な従者の力の世話になるのも嫌だった。力が増大してより精巧な人化ができるようになったのにまだそれをしないのも、ちょっとした反抗である。ハスターは再びタコの姿に戻ると空を飛び、大気圏を脱出。宇宙でハスターが飛ぶ速度は光を超え、あっという間に見えなくなってしまった。

「さすが風の神の最高位。スピードにおいては一級品だ」

ナイアルラトホテップはそれを感嘆しながら見送り、それからニヤリと笑う。

「これでまた少し面白くなる。さて、次は誰を復活させようかな?」

自分の足元に瞬間移動の魔法陣を展開したナイアルラトホテップは、邪悪な笑みを浮かべたまま、いずこかへと消えた。










「…んっ…」

目を覚ました空子。周りを見てみると、そこには先ほどと明らかに違う光景が広がっていた。ベッドと机だけがある、窓のない部屋。彼女はその部屋のベッドの上にいた。

「ここは…?」

自分がいる場所について知るため、記憶の糸を辿る空子。確か眠る前はアメルダが働いているバーにいて、おごってもらったミルクを飲んだら突然眠くなって…

「…やっぱり睡眠薬が入ってたんだ…」

ミルクの中に睡眠薬が混ぜられていて、それを飲んで眠っている間に、ここに運ばれた。自分は拉致されたのだと、気付いた。

(まずここがどこなのか把握しないと…)

こういう状況で下手に行動を起こすと、死ぬ確率が上がる。とりあえず詳細な状況の確認を行い、自分はどういうことになっているのかを知り尽くすことが先だ。脱出は二の次である。空子がどうしようか考えていると、

「いよう。眠り姫のお目覚めかい」

ドアが開いて一人の男が入ってきた。空子は、誰?とは訊かない。

「あんたね?あたしを拐った連中の首謀者は。」

ここまでくれば、もうわかりきっていたからだ。あの男の余裕、少なくとも空子を助けにきた人間の態度ではない。

「さすがに察しがいいな。その通り。俺はビリー・マクレイテッド。お前をこんなにした連中のボスだ」

予想通りだった。

「あたしをどうするつもり?まさか売ろうってんじゃ…」

「そんな小せぇ目的のためにこんなことはしねぇよ。いくらお前がヘブンズエデンの訓練生とはいえ、売るんならもっと身分のいい女を捕まえてくる。」

(…どうせあたしは普通の家の生まれですよーだ)

売るなら大統領の娘でも拐ってきた方がいろんな意味で使い勝手がいい。わかっていても、空子はむっとしていた。

「今回お前に来てもらったのは、ちょいと頼みがあったからなんだ。」

「頼み?」

少しでも自分の安全を確保しようと、空子はビリーと名乗った男から身を引きながら、ついでに情報も聞き出そうとする。

「ああ。お前を雇いたい」

「あたしを?」

「こっちは今デカイ計画を実行してる最中でな、人手が足りねぇんだ。だから、お前を雇いたい。もちろん報酬もたんまり出してやる」

上から目線で空子を雇おうとしてくるビリー。

「お断りよ。どうしてあんたみたいな…」

そんな態度が気に入らず、それからこんな手荒な拉致まで結構されたのも気に入らない空子は拒否した。が、

「お前、まだ自分の立場がわかってねぇらしいな?」

その途中でビリーは服のポケットからデザートイーグルを抜き、銃口を空子の額に押し当てた。空子は拒否を中断して、思わず息を飲んだ。

「そりゃ手荒な真似したことは謝るさ。けどな、お前の命は今こっちが握ってるんだぜ?」

そして、今の自分の状態を再確認させられる。空子は今、囚われているのだ。身体の自由はきくが、武器はないしビリーがどれだけの実力者かもわからない。例えこの場を切り抜けたとしても、外には間違いなくたくさんの敵がいるはずだ。空子一人の力ではどうにもならない。

「それにお前は傭兵だろ?金を出すって言われりゃ、相手が政府だろうがテロリストだろうが犯罪者だろうが手を貸す。それが傭兵ってもんだ」

確かにそうだ。しかし、ここで簡単に従ってしまえば、舐められる。もはや逃走は絶望的なこの状況、空子は虚勢を張った。

「でも誰に雇われるかを決める権利は、傭兵にあるわ。それに、どうしてあたしなの?あたしより強い傭兵は近くにいたはずよ?まさか他の三人までここに…」

「いや、お前だけピンポイントで拉致ってきたんだ。何せ、こいつがそうしろって言うもんでよ。」

「…こいつ?」

「もう入っていいぞ。」

ビリーは銃を下げ、部屋の外に待たせていたある人物を呼び、その人物は指示に従って部屋の中へ入ってきた。

「あ、あんたは…!!」

空子は驚愕に目を見張った。











ヘブンズエデンに戻ったゲイル達は、エドガーから待機令を受けていた。空子の居場所については無論調査しているが、今はそれより重要な案件があるから、らしい。


案件とは、数時間前にエドガーの元にかかってきた連絡だ。内容は、ロシアの軍用施設が何者かに強襲され、そこに安置してある兵器が強奪されたのだという。安置してあった兵器の名は、ビッグデュエル。アメリカ、ブラジル、ロシア、中国の四ヵ国が合同で開発していた、巨大な人型ロボット兵器だ。ビッグデュエルは全部で四機存在し、四ヵ国の軍用施設に一機ずつ安置されていたのだが、そのうちの一つが盗まれた。一機だけでも凄まじい戦闘力を持ち、その一機が奪われたために現在世界各国が厳戒体制に入っていたのだ。ヘブンズエデンにも声がかかり、ビッグデュエルの奪還と残ったビッグデュエル三機の警護という命令が下された。もしビッグデュエルの奪還も警護も不可能だった場合、破壊するようにも言われている。それほどまでに危険な兵器なのだ。エドガーがゲイル達を待機させているのは、残っているビッグデュエルを守るためである。何せヘブンズエデンには転移システムがあるのだ。連絡さえ入れば、すぐにでも現地に兵を送り込むことができる。連絡さえ入れば、だが。

「ちっ!なんだってこんなとこで待機なんかしてなきゃいけねぇんだ!」

狩谷は苛立ち、壁を殴った。今三人は転移システムの部屋にいる。連絡があったらすぐに動くためだ。

「落ち着け狩谷。気持ちはわかるが、目の前の課題を一つ一つ片付けていくしかない。」

「わかってんだよそんなことは!!」

ゲイルは狩谷をなだめようとするが、狩谷は荒れているままだ。

「やっぱりおかしいよ狩谷くん。一体何があったの?」

アンジェはずっとおかしい狩谷から、何があったのか聞き出そうとする。

「…何でもねぇ。悪かった」

突然落ち着いた。よほど話したくないらしい。

「…しかし、一体なぜ空子を…」

ゲイルは空子が拐われた理由をずっと考えていたが、まだ答えが見つからない。空子が誰かから恨みを買っているなどということは知らないし、本当に何も手掛かりがないのだ。

「…もう夜、か…空子、大丈夫かな…」

アンジェは時間を確認する。時刻は午後10時。空子が誘拐されてから、もうすぐ半日が経とうとしていた。

「あいつなら大丈夫だ。俺はあいつの力をよく知っている」

ゲイルは二人を勇気付けた。なんだかんだ言っても、ゲイルと空子の付き合いはそれなりに長い。今まで幾度となく挑んできたから、彼女がどれだけ強い傭兵かはよく知っているのだ。

「でも、空子のギガトラッシュが…」

アンジェは心配している。敵は知ってか知らずか、ギガトラッシュをそのままにしていった。いや、あのギターケースにはギガトラッシュ以外にも、レールガンアタッチメントやドリルバレットを含めた必需品がたくさん入っているのだ。一応空子はナイフも持っているしCQCも得意だが、武器の大半がない状態。しかも、彼女は眠っていたから武器を取り上げられるだろうし、拘束されたらCQCも使えない。加えて彼女のアーミースキルは、武器に依存する能力だ。これでは何もできない。

「ひどいことされてないといいけど…」

「…ああ。」

ゲイルもやっぱり心配だった。と、

「三人とも聞こえるかい?」

転移室にエドガーの通信が入った。

「今しがたアメリカから連絡が入った。正体不明の一団が、ビッグデュエルを奪おうと押し寄せてきているらしい。」

「わかった。早速出動する」

ゲイルは一足先に転移装置の中へ入る。

「狩谷くん。」

「…わかったよ。」

アンジェに促されて、狩谷も一緒に装置に入った。











アメリカの軍用施設。

「撃て!!ビッグデュエルは死んでも渡すな!!」

警備兵の一人が指示を出し、全員が襲い来る一団に向けて発砲する。対する一団は物陰に隠れながら、弾幕を張る。

「バカなやつらだぜ。」

ビリーは警備兵達が気を取られている隙に、目的のブツを手に入れるべく格納庫の最奥部に接近していた。そして、

「やっと見つけたぜ。二機目のビッグデュエル」

眼前に出現する巨大なロボット。間違いなく、ビッグデュエルの二号機だ。

「じゃあ早速…」

ビリーはディメンジョンボックスを出し、ビッグデュエルを奪取しようとする。が、その時、

「あ?」

自分の後ろの方に何かを感じて、ビリーは振り向いた。そこにあったのは、光の柱。光の柱が消えた時、中からゲイル達が現れた。

「どうやら、うまくビッグデュエルの前に来れたようだな。」

「そして目の前には明らかに怪しいオジサンが一人。あなたが首謀者ね!」

アンジェはビリーを指差して言う。

「ヘブンズエデンの訓練生か…思ったより速かったな。」

「否定しねぇってことは、てめぇを片付ければ終わりってことだな。」

狩谷はビリーにダークハンターを突き付ける。

「悪いが、とっとと倒れてもらうぜ。こっちは忙しいんだ」

狩谷にとってビリーなど眼中にない。だから、さっさと倒して空子を助けに行きたかった。が、人数的に不利なはずのビリーは、余裕で笑っている。

「残念ながら、こっちもこっちで忙しいんだよ。だから、少しばかり卑怯な真似、させてもらうぜ。来な!」

誰かに向かって指示を出すビリー。すると、

「ゲイル!!狩谷!!アンジェ!!」

空子が現れた。しかし、両腕を二人の兵士に押さえられている。

「空子!?」

「えっ!?どうして!?」

困惑するゲイルとアンジェ。

「あいつの命が惜しかったら、俺達を見逃せ。じゃないてあいつ、殺すぜ?」

ビリーは空子を人質に取って脅迫してきた。だからあんなに余裕だったのだ。

「てめぇだったのか、あいつらを指揮してたのは!!」

思わぬ偶然。

「ゲイル。何とか空子を助けられないかな?」

アンジェはゲイルに耳打ちする。

「待て。相手の意図がわからない。状況も不透明だ。うかつに仕掛けるのは危険すぎる」

ゲイルは空子がここにいる理由が、ビリー達の意図がわからず、アンジェに待つよう言った。確かにこの状況、わけがわからない。大体、空子がこんな場所に都合良くいるわけがないのだ。もしかしたら、何かの罠かもしれない。

「んなこたぁどうだっていい!空子を離しやがれ!!」

しかし狩谷は一切気に留めず、ビリーに空子の解放を要求した。

「返して欲しけりゃ、そのままじっとしてろ。用が済んだらすぐにでも返してやる」

ビリーが言う用というのは、間違いなく全ビッグデュエルの強奪。それをさせるわけにはいかないし、当然空子も取り戻さなければならない。二つの条件を満たしつつ、ビリーを倒す方法を考えるゲイル。何より、このままでは我慢できなくなった狩谷が勝手に飛び出して、もっと危険な状態になりかねない。前の猪頭との件もそうだったが、狩谷は感情が昂ると自制心が利かなくなるのだ。

(アンジェ)

ゲイルは頭の中でアンジェに呼び掛けた。ゲイルはアンジェと違って、テレパシーは使えない。だが、アンジェの方からゲイルの心の声を拾うことで、会話ができる。ゲイルはアンジェが気付いてくれるのに賭けて、心の中でアンジェを呼び続けた。

(な、なに?どうしたの?)

やがてゲイルの視線に気付いたアンジェが、ゲイルが心で自分に呼び掛けていることに気付き、テレパシーで応答した。

(俺のアーミースキルとお前の光で、奴らの目を潰す。その間に狩谷に空子を助けさせるんだ。狩谷と空子にもこのことを伝えてくれ)

(わかった)

アンジェはゲイルの作戦を狩谷にも伝える。狩谷と空子は何も言わず、ただ黙って頷いた。

(行くぞ。3…)

ゲイルは心の中でカウントする。

(2…1…)

そして、

(今だ!!)

ゲイルは自分のアーミースキル、爆破を使った。実はゲイルの爆破は、爆破する数、爆破の種類を自由に設定できる。例えば、花火のような爆破を三回同時に、といった具合だ。今回は閃光タイプ。周囲に無数の閃光型の爆破を起こす。

「フラッシュボム!!」

アンジェも光の玉を投げつけた。今度はタイムラグなしで、一気に爆発させる。

「ぐあっ!!何だ!!」

ビリーは強烈な光を直視したことで一時的に視力を失う。彼の部下達も目を封じられ、空子を離した。空子はアンジェからのテレパシーによって事前に知っていたため、先に目を閉じて視力の安全を確保していた。何とか解放された空子は、仲間達の元に向かって駆け出す。

「空子ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

狩谷も空子を迎えに行くべく、走る。



だが、もう少しで二人の手が触れ合うというところで、その間に刃が割って入った。



二人が、いや、ゲイルとアンジェを含めた四人が、既に見慣れている純白のガンブレード。



狩谷が視線を変えると、そこにはその持ち主、エリックがいた。



エリックは無言のままガンブレード、ホワイトスイーパーを振るい、空子から狩谷を遠ざける。

「うっ!!」

直撃は避けられた狩谷。

「エリック!?どうしてお前が!?」

ゲイルは突然現れたエリックに、なぜここにいるのかを尋ねた。

「傭兵なら、戦う理由は一つです。」

エリックはただただ、冷淡に答える。その返答が意味するところに、ゲイルは気付いてしまった。

「そうか…お前、こいつらに雇われたのか。」

「!!」

これにはアンジェも驚く。こんな状況でエリックが敵に回るとは思っていなかったからだ。

「…そうかよ。だったら遠慮はいらねぇな!!」

しかし、狩谷は全く動じることなく、エリックに斬りかかった。元々エリックに対していい印象は持っていなかったし、いつかこんな日が来るということもわかっていた。なら、全力で叩き潰す。狩谷はそういう決意を固めていたのだ。だが、エリックは狩谷のダークハンターを易々と防ぎ、カウンターで狩谷の左腕と脇腹を斬って、さらに発砲。吹き飛ばす。

「ぐおあっ!!」

「あなたのようなゴミが私に勝てると思っていたのですか?身の程というものを知りなさい。」

倒れた狩谷を、本当にゴミを見るような目で見るエリック。

「大丈夫!?」

アンジェは狩谷に肩を貸した。ホワイトスイーパーの斬撃は防砲服すらも突破し、狩谷の左腕と脇腹からは血が滲んでいる。銃撃が防砲服を破らず吹き飛ばす程度に留まっていたのは、幸いと言うべきか。

「おうエリック。助かったぜ」

視力を取り戻したビリーが、エリックに礼を言う。

「しかしここまでお前の予想通りになるとはな。」

「…どういうことだ?」

エリックが何かを予想していたと聞き、ゲイルはビリーに訊く。

「こいつはわかってたんだよ。ヘブンズエデンの、それもこいつのオトモダチであるお前らが動くことをな。だからこいつは先にこっちの空子ってやつを拉致って、お前らを牽制したってわけだ。もっともエリックには、何か別の考えがあるらしいがな。」

ビリーは自分がエリックの戦友であるということ、空子がいる理由を語った。エリックは詳細を語る。

「ゲイル、あなたはまだ甘さを捨てきれず、私と本気で殺し合うつもりがない。だから私は夏原空子を人質に取ることで、あなたに私と殺し合わざるをえない状況を作ったのです。いくらあなたでも、これなら本気になるでしょう?」

空子を拉致するよう指示したのは、エリックだった。空子はここに至るまでの流れを思い出す。結局彼女は、ビリーに協力しなかった。しかし、エリックはそもそも空子を戦力として期待してなどいない。

『あなたは餌です。ゲイルを誘き出すための、ね』

エリックに言われたことが、彼女の頭をよぎる。エリックの目的は、空子を餌としてゲイルを誘い出し、殺すこと。つまり戦場に連れて来ること自体に、意味がある。戦わせる必要がないからこそ、武器を置き去りにして空子だけを連れてきた。今も一切の武器を持たせていない。持たせる必要がないから。

「…エリック。お前はそこまで…俺と戦いたかったのか…」

エリックの手段を選ばない方法に、ゲイルは呆れと怒りを感じている。

「戦いたかったのではなく、殺したかったのです。あなたは今まで私の何を見ていたのですか?」

ゲイルの言葉を訂正させ、エリックはホワイトスイーパーを向ける。

「さあ、来なさい。まさかここまで来て、まだやらないと言うわけではないでしょうね?」

「…」

ゲイルは答えない。

「…あなたにはがっかりさせられましたよ。仲間が人質に取られ、これほど挑発されてもまだ本気にならない。やはり、どこまで行ってもゴミはゴミですね。」

エリックは落胆し、ビリーを見る。

「ビリー、さっさと終わらせて下さい。」

「おう。」

ビリーはエリックに促されて、ビッグデュエルを奪取した。

「なぁエリック。わかってるとは思うが、こいつは仕事だ。私情を挟むなんてのは…」

「わかっていますよ。これはただの、ついでです。」

念押ししたビリーと、振り向かずに答えるエリック。

「…ならいいや。おい」

ビリーが指示を出すと、二人の部下が再び空子を捕らえる。空子は、とても悔しそうな顔をしていた。先ほどゲイルとアンジェがビリー達の目眩ましをした時、エリックは他のテロリスト達を援護するために離れていた。まだ戻ってきていなかったので、エリックの目論見は外れたと思っていたのだが、うまくいかなかったようだ。

「じゃ、帰るか。」

ビリーが出したのは、何かの機械。その機械を起動すると、ビリー達の姿が足から消え始めた。

「…私を殺す気があるなら、追ってきなさい。」

エリックはゲイルを見下しながら、ビリー達とともに消えた。同時に、施設からビリーの仲間達の反応も消える。どうやらビリーが使ったあれは、転移装置だったようだ。恐らくあらかじめ登録した者達を転移させる装置だったのだろう。

「…」

だが、ゲイルにとってそんなことはどうでもよかった。

「ゲイル!!」

アンジェが声を掛けても、ゲイルは反応しない。

「くそぉぉぉぉ!!!」

狩谷は地面を殴りつけた。





次回、ついにゲイルvsエリック!!お楽しみに!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ