サマーバケーションウォーズ PART1
長編スタートです。もしかしたらそんなに長くないかもしれませんが、よろしくお願いします。
「…」
夏原空子は、寮の自室のベッドの上に寝転んでいた。部屋を照らす電灯に向かって片手を伸ばした後、戻して、自分の額に手の甲を当てる。
「…どうしよう…」
今、彼女の胸中を、一つの出来事がかき乱していた。
*
三十分ほど前。
「話って何?」
狩谷に呼び止められ、空子は尋ねる。彼女の目には、狩谷がいつもと違う狩谷に見えていた。なんというか、強い決意が感じられる表情をしていた。
「…俺は…」
しかし、よほど抵抗があるのか、なかなか言い出さない。空子は、狩谷が何を決意しているのか興味があったが、同時に、それを知ってしまうと後戻りできなくなるような、そんな恐怖にも似た感覚を覚えていた。
「…俺は…」
まだ言わない。こんなモヤモヤした気分を味わい続けるのは嫌なので、
「何か言いたいなら早く言いなさいよ!」
催促した。その後押しを受けたおかげかどうかは知らないが、狩谷はようやく、言う。
「…俺はお前が好きだ。」
空子は最初、狩谷が何を言ったのか、自分が何を聞いたのか、わからなかった。
「…えっ?」
確か、狩谷はこう言ったはずだ。お前が好きだ、と。今狩谷の目の前に、お前と呼べる相手は一人しかいない。空子だ。
「えっ…あっ…?」
自分に向かって好きだと言われたことを認識した時、空子は自分の顔が急速に熱くなっていっているのを感じた。たぶん、赤くなっている。
「そ、そりゃあ、あたしだって狩谷のことは大好きだけど…」
「お前が言ってる好きと、俺が言ってる好きは違う。」
狩谷に言われて、やっぱり、そういうことなんだと、空子は思った。
「そ、そんな…こ、困る…困るわよ…そんなこと…言われても…」
反論がしどろもどろになってしまう。
「…どうして?どうして今…そんなこと…言うの…?」
「…お前、今日新しいアーミースキルを完成させただろ。」
その時に見せた空子の喜びの顔が、あまりにも可愛かった。
「それだけじゃない。俺は少し前から、お前が好きだった。」
「うそ…」
「ウソじゃねぇ。ホントだ」
力強い態度で言われて、空子はいつもの威勢が完全に消えてしまっている。彼女の心は様々なことにおいて強いが、自分が恋愛をすることにだけは弱い。他人の恋愛を応援することはあっても、彼女自身は恋愛をしたことがないのだから、当然だ。
「すぐに答えが欲しいわけじゃない。お前にはゲイルっていう意中の相手がいるって、わかってるからな。」
「あたしはゲイルなんて…!!」
「だからわかってるって言ってんだよ。」
空子は否定しようとしたが、狩谷はもう空子がゲイルのことを好きだとわかりきっているので、通用しない。
「俺は、俺がお前のことが好きだって、知っておいて欲しかっただけだ。だから、すぐに答えを出さなくていい。じっくり考えて、それから決めてくれ。」
自分の気持ちを伝え終えた狩谷は帰ってしまい、空子はその場から一歩も動けず、彼の背中を見送ることしかできなかった。
これが、三十分ほど前に起きた出来事。
「…ホントどうしよう…狩谷が、あたしのこと好きだったなんて…」
ゲイルだけを見ていて、全く気付けなかった。自分に恋慕を抱く者がいるなど、それが狩谷だったなど、予想もできなかった。ゲイルは鈍感だと思ったが、自分もいい加減鈍感だったんだと、今さらながら気付く。
「どうしたらいいの…?」
空子は、珍しく弱気になっていた。彼女としては、やっぱりゲイルを諦められない。それこそ、ゲイル本人からはっきり断られでもしない限りは。かといって、狩谷の気持ちを無下にしたくもない。ついさっき見たばかりだが、狩谷のあの顔が忘れられないのだ。あんな顔を見てしまっては、面と向かって嫌だとも言えない。自分が初めて好きだと思えたゲイル、そのゲイルに向かってひたすら真っ直ぐ進めるアンジェ、こちらがすぐに拒否できないほど強い決意を秘めた表情で想いを伝えてきた狩谷。
「みんな、ずるい。」
自分にはない魅力を持った三人を思い浮かべて呟く空子。今の彼女にとっては、異姓を意識したことがない、恋愛そのものに興味がないエリックでさえ、羨ましいと思えた。彼ぐらい恋愛を邪魔だと思えたら、こんな気持ちに苦しむこともなかっただろうから。
「ホントに、ずるい。」
想いを伝える素直さもないし、出された愛の選択肢をすぐには選べないほど優柔不断。そんな自分が、空子は大嫌いだった。
「…あたしはどうしたらいいのよ…」
いつしか彼女は苦しみに耐えきれず、涙を流して泣いていた。
*
「…やっちまった…」
狩谷は男子寮の自室で、一人悔やんでいた。
「とうとうやっちまった…」
後悔の内容は言わずもがな、さっき空子にした告白についてだ。こんなことをしたら、空子は悩むに決まっている。きっと今、すごく苦しんでいるに違いない。
狩谷は、今が楽しくてしょうがなかった。アンジェと空子がゲイルを取り合い、ゲイルが二人の扱いに困り、それを自分が眺めている。そんな毎日が、楽しくて仕方なかった。しかし、気付いてしまったのだ。そんな楽しさでは埋められない、心のどこかにあった空虚さに。それを埋める方法はわかっていた。それをやってしまえば空子を苦しめることも、楽しい楽しい今の関係を壊してしまうかもしれないことも、全部わかっていた。わかっていても、止められなかった。空子に自分の気持ちを伝えたい自分を、止められなかった。
「俺は明日から…どんな顔をしてあいつに会えばいいんだよ…」
どうして止められなかったのかと後悔する狩谷。何度も何度も自分を止めようとした。けどその度に自分の中のどうしようもない気持ちが膨れ上がり、こらえきれなくなったのだ。ひたすら後悔する狩谷。苦しむ空子。二人の想いを抱えて、夜はふけていった。
*
「あ~あ…夏休みももうすぐ終わりかぁ~…なんかあっという間だったなぁ~。」
翌日、アンジェは自室の机に頬杖をついて、夏休みの残りをどう過ごすべきか考えていた。昨日別れた二人が恋愛で深く悩んでいるというのに、いい気なものである。
「…まだ宿題、全部終わってないんだよねぇ~…」
アンジェが一つだけ残しているのは、レポートの宿題だ。課題がなかなか決まらず、困っている。
「…~!!駄目だ!!何も思い付かない!!こんな時は…」
知恵を振り絞っても課題が思い付かなかったアンジェは、ゲイルに電話を掛けた。
「ねぇゲイル。今日暇?」
「暇じゃない。今レポートの課題を考えてる」
「ゲイルもレポート終わってなかったんだ?じゃあさ、一緒にやらない?私も今すごく困ってて…」
「それなら、狩谷と空子も誘おう。何かいい知恵をもらえるかもしれない」
「…本当はゲイルと二人っきりがよかったんだけど…まぁいいか。それじゃ、今そっちに行くね。」
「ああ。」
というわけでアンジェはゲイルと合流し、それから狩谷と空子に連絡して、喫茶店で待ち合わせることにした。
「…ゲイルって、ホントに変わったよね。」
喫茶店。アンジェは向かい合わせにゲイルを見て言う。
「そうか?」
「そうだよ。前は誰も寄せ付けたくないって感じだったけど、今は普通に接してくれるし、前だったらみんなで一緒に夏休みの宿題をやるなんて、絶対に考えられなかった。」
確かに、この短期間でえらい変わりようである。
「…そうかもしれないな。」
ゲイルも少しは自覚していた。
「…レポートの課題が決まった。」
「えっ!?早っ!!まだ空子達来てないよ!?」
「決まったものはしょうがないだろう。」
「まぁそうだけど…ところで、どんな課題なの?」
「狩谷達が来てから話す。今話しても二度手間だからな」
話し合う間もなく早々に課題を決めてしまったゲイル。とりあえず、狩谷達が来るまで待つことに。
「待たせたな。」
数秒ほどして、狩谷と空子が来た。
「ううん。今ちょうど二人の話してたの」
「そっか。」
「…なんか二人とも元気ないね。」
「「!」」
アンジェに言われて、顔を背ける二人。
「どうかしたのか?」
「い、いや。」
「な、何でもないわ…」
「…そうか。」
なんとか気付かれずに済んだと、心中安堵する二人。
「きっと二人とも疲れてるんだね。昨日の大会、結構激しかったから。」
「お、おうそうなんだよ!いろいろと責任重大だったからな。な!」
「え、ええ!あたしも正直言って野球の大会に出るなんて初めてだったし、思ったより疲れちゃって…」
「つーか、お前らは元気そうだよな。」
「俺は改造人間だ。あれくらいのことでは疲れない」
「私はしっかり寝たから大丈夫!」
アンジェが昨日のアーミーベースボールフェスティバルの話を出してくれたおかげで、話をそらすことができた。しかし、ゲイルとアンジェでは疲労を感じていない理由の温度差がえらい違いである。
「それより、ゲイルがレポートの課題、決めたって。」
「は!?マジかよ!?まだ話し合ってさえいないぜ!?」
「それで、どんな課題なの!?」
食いついて来た二人。ゲイルは三人に、自分が決めたレポートの課題を話す。
「…『仲間』だ。」
彼がこの課題にしたきっかけは、アンジェが自分が変わったと話したことだ。ゲイルにとって仲間とは、かけがえのない大切な存在の一つ。彼はそれを失うのが怖くて、今まで仲間を作ることを避けていた。だが、アンジェ達と出会って本当の仲間というものを知り、恐怖を乗り越えることができたのだ。アンジェ達がゲイルに接し続けたおかげで、仲間を作る勇気を取り戻したのである。だから、仲間という存在の大切さを再確認するという意味でも、ゲイルはレポートの課題にしたかった。
「…なんか…照れるな…」
狩谷は照れくささを感じ、頭を掻く。
「なんて言うか…ずっと押さえつけてたゴムが跳ね返ってきた感じね…」
空子も少し照れている。ゲイルにこんなことを言われるなんて、思ってもいなかったからだ。
(…ま、最大の貢献者は…)
狩谷は静かにアンジェを見る。
「?」
その視線に込められた意味に気付かず、アンジェはただ頭の上に『?』を浮かべて首を傾げていた。
*
レポートの課題が決まり、レポートはゲイルの寮で書くことになった一同は、喫茶店から移動している。
「ねぇ、やっぱり二人とも変だよ。」
アンジェは狩谷と空子に言った。
「ずっと気まずそうだし、何かあったの?」
「いや、だから何にもねぇって!」
「そうそう!考えすぎよ!」
「…」
無理矢理取り繕おうとする二人を見て、ゲイルは確実に何かあったと気付く。もっとも、その根本的な原因が自分であるということには気付いていなかったが。そんな時、
「ちょっと!何すんのよ!」
女の怒声が聞こえてきた。
「何だ?」
ゲイルが声がした方を見てみると、そこには建物同士の隙間がある。人が二人は通れそうな隙間の奥から、声が聞こえていた。
「言ってみようぜ!」
「そうしましょう!」
「あっ!ちょっと!」
話をそらすいい機会だと思った狩谷と空子は、これ幸いとばかりに隙間へ飛び込んだ。アンジェも慌てて後を追い、その後ろからゲイルも続く。
隙間の奥には小さな広場があり、そこで一人の女性が四人の男性に囲まれていた。
「人にぶつかっといてはいそうですかで済むわけねぇだろ?」
「だから謝ったじゃない!」
「んなもんじゃ足りねぇって。さっきから腕が痛くてたまんねぇんだ。あたたた…こりゃ折れたかな?」
「うわぁ大変だ。こりゃ治療費払ってもらわなきゃなぁ?」
「ついでに俺達の機嫌を損ねた分慰謝料も払ってもらうぜ。」
「許して欲しけりゃ、払うもん払いな!」
下卑た笑みを浮かべながら、不当な請求を行う四人。そこへ、
「おいお前ら。ちょっとやりすぎなんじゃねぇか?」
狩谷が話し掛けた。
「あん?何だお前ら?」
「俺達は今こっちのお姉さんとお話してんの。お前らは関係ねぇだろ?」
「餓鬼はとっとと帰んな。痛い目見たくなかったらよ」
「それとも先に痛い目見てくかぁ?」
狩谷達を前にしても、その態度を崩さない男達。
「うっせぇ!腐った面ァ近付けんな!!」
しかし相手が悪かった。狩谷から顔面に拳を喰らい、男Aが空中を舞う。
「ぐほぁっ!!」
「相棒!!てめぇ…!!」
「ちょっと狩谷。一人で楽しんでんじゃないわよ」
「ぎゃっ!!」
続く男Bを蹴り飛ばす空子。
「この餓鬼ども!!」
「よっと!」
「うがっ!!」
アンジェは掴み掛かってきた男Cを投げ飛ばした。
「てめぇら…もう許さねぇぞ!!」
ゲイルに殴り掛かる男D。ゲイルは男Dの拳を、自分の頭に命中させる。
「あだだだ!!」
「その腕は折れているんじゃなかったのか?」
男Dは鋼鉄よりも硬いゲイルの頭をおもいっきり殴ってしまい、痛みを取り除くために腕を振り回す。ただ、その腕はさっき折れたと言っていた腕であり、これで女性の身の潔白が証明された。
「まぁいい。俺達はヘブンズエデンの訓練生だ。これ以上続けるなら、骨折では済まないぞ…!!」
「うっ…くそっ!帰るぞお前ら!」
ゲイルに凄まれて怯んだ男Dは、仲間を連れて逃げ帰っていく。
「ったく…たまにいるんだよな、ああいう連中。」
狩谷は逃げていったチンピラ達を見て呆れた。
「大丈夫ですか?」
「どこか怪我とかは?」
「ええ、大丈夫よ。助けられちゃったわね」
空子とアンジェに気遣われ、女性は無事だと答えた。
「私はアメルダ。この近くのバーで働いているの。お礼がしたいから、来てくれないかしら?」
女性はアメルダと名乗り、ゲイル達にお礼がしたいのだという。
「バー?昼間から?」
「あたし達未成年だし、お酒はちょっと…」
狩谷と空子は顔を見合せるが、
「朝でも昼でも夜でも、飲む人は飲むわ。それにお酒だけじゃなくて、コーヒーとか紅茶とか、ミルクもあるの。パフェだって出してあげるわ。もちろん、全部私のおごりよ♪」
アメルダはなんとしてもお礼がしたいらしく、聞こうとしない。
「どうする?」
「…仕方ない。この人の気が済むようにしよう」
アンジェはゲイルに訊き、ゲイルはお礼を受け取ることにした。でないと、アメルダは離れてくれそうにない。
「そうこなくちゃ!さ、こっちよ。」
アメルダは四人を先導し、自分が働いているというバーに連れていく。
広場の近くの廃屋。
「これでよかったのか?」
男Aが、目の前にいる黒服の集団に尋ねた。
「ああ、上出来だ。よくやってくれたな」
リーダー格の黒服が答え、礼を言う。
「じゃ、約束のご褒美とやらを頂きましょうか?」
男Bがいやらしい笑みを浮かべて、黒服に言った。元々、そういう約束でこんな芝居に付き合ったのだ。
「ん?ああ、そうだったな。」
だが次の瞬間、黒服全員がサイレンサー付きの銃を抜き、男達に向けて一斉に発砲した。男達は断末魔を上げる間もなく絶命し、崩れ落ちる。
「こんなもんでいいか?」
リーダー黒服がそう言うと、黒服達は廃屋から出ていった。
*
バー。
約束通り、ゲイル達はアメルダに好きなものをおごってもらっていた。
「さっきは本当に助かったわ。ありがとうね」
「いや、あなたが無事でよかった。」
ゲイルは頼んでいたコーヒーを受け取る。
「しかし…」
狩谷は店の中を見回した。今彼ら四人はカウンター席に座っており、店全体が見渡せる位置だ。
「昼間だってのにずいぶん客がいるんだなぁ…」
酒を飲む者やトランプに興じる者、ただ寝ている者など、たくさんの客によって全てのボックス席が埋め尽くされている。かなりの繁盛具合だ。
「言ったでしょ?飲む人はいつでも飲むって。」
「それにしても、結構人気な店なんですね。」
アンジェはミルクを飲む。
(バーに入るなんて初めてだけど、ここなら気晴らしにはうってつけかも…)
まだ完全に鬱な気分が吹っ切れたわけではなく、まぁ飲んで忘れようと思った空子はアンジェに習って同じくミルクを飲んだ。正直さっきチンピラの相手をした時、幾分か楽になっていたのだが。と、
(…あれ…?)
だんだん視界がぼやけてきた。意識が霞んで、すごくいい気持ちだ。というか、眠い。
(あんまり寝られなかったからかしら?)
確かに夕べは狩谷のことが頭をよぎり、あまり寝られなかったのだが、それにしたって少しおかしい。
(このタイミング…まるで睡眠薬でも入ってたみたいな…)
そう思いながら、空子は眠りについた。
「空子?おい空子。こんな所で寝るなよ!」
突然寝てしまった空子を起こそうとする狩谷。
「あらあら、もしかしてあんまり寝てなかったんじゃないかしら?起こしちゃ可哀想よ。」
「!」
アメルダから指摘を受けて、狩谷は起こすのをやめた。思い当たる節があったからだ。
(…悪い)
きっと夜遅くまで悩んでいたのだろう。そして、そこまで空子を追い詰めてしまったのは、自分だ。そう思った狩谷は、心の中で空子に詫びる。
「そう。起こしちゃ…」
言いながら、カウンターの裏にかがんだアメルダ。次にカウンターから顔を出した時、
「可哀想…」
彼女はショットガンを持っていた。
「よッ!!」
狩谷に銃口を合わせて引き金を引く。
「うわっ!!」
狩谷は慌ててのけぞってかわし、そのまま空中で一回転してから着地した。
「アメルダさん!?」
驚くアンジェ。
「…!!」
ゲイルが気付くと、客が全員マシンガンやらアサルトライフルやら拳銃やらを抜いて、ゲイル達に向けていた。
「殺れ!!」
アメルダの号令で、一斉に撃ってくる。
「ちっ!!」
ゲイルはその前に躍り出てプライドソウルを出し、銃弾を弾き始めた。
「ゲイル!!くっ…!!」
アンジェはカウンターに飛び込み、アメルダに拳を連続で放つが、アメルダはアンジェの攻撃をことごとくかわす。
(素人の動きじゃない!!この人一体…!?)
「この野郎!!」
狩谷はダークハンターを組み立て、客に斬り掛かった。だが、直前に客の何人かがスモークグレネードを投げつけ、狩谷から視界を奪う。
「ぐぅっ!!」
構わずダークハンターを振り抜いたが、手応えはない。空振りだ。スモークグレネードの煙は店全体を覆い尽くし、ゲイルとアンジェの視界もふさいでしまう。狩谷は風を操って煙を吹き飛ばし、ゲイルも視界を熱源探知モードに切り替えるが、アメルダも、客も、全員いなくなってしまっていた。どたばたとした撤退の音も聞こえず、まるで最初からいなかったかのように。
「おい、こりゃ一体どういうことだ!?」
全く状況が呑み込めない狩谷はゲイルに尋ねる。
「わからない。だが、俺達が嵌められたということだけはわかる。」
そうとしか考えられない。しかし敵はゲイル達を仕留めることができなかった。これでは何がしたかったのかわからない。そこで、アンジェがあることに気付く。
「…ねぇ、空子は?」
空子が、いない。彼女が座っていた席には誰もおらず、ギガトラッシュとそれが入ったギターケースだけが立て掛けられて残されていた。
「…奴らの狙いは空子か…!!」
ゲイルがそれに気付くも、既に敵は一人もいない。突如として起きた緊急事態について報告するため、三人はヘブンズエデンへと向かうのだった。
*
ロシアの軍用施設。
「…」
地下に造られた格納庫の中に、ビリーはいた。彼が見上げていたのは、全長50m以上はあるかというほど巨大な、人型のロボット兵器。ビリーはズボンのポケットから、手のひらサイズの機械の円盤を出した。円盤の中心にはガラス状の球体が埋め込まれており、それをロボットに向ける。すると、球体から光が照射され、ロボットが光の粒子となって吸い込まれてしまった。
「それが、あなたのスポンサーの発明品ですか。」
そこへ、エリックがやって来る。
「ああ。どんな大きさの物でも粒子化して収納できる、ディメンジョンボックスっていう万能収納箱さ。」
ビリーは得意になって見せびらかす。もっとも、一つにつき一つのものしか収納できないのだが。
「お前こそずいぶん早かったな。もう終わったのか?」
「はい。ここの警備員は全員始末しました」
「さすがだエリック。よし、一度アジトに帰るぞ。そろそろ俺達の仲間達が、もう一人の協力者を連れてくるのに成功しているだろうからな。」
「はい。」
ビリーとエリックの姿は、誰にも見られることなく消えた。
果たして空子の行方は?ビリーの目的とは?次回に続く!




