第二十四話 強化合宿
今回から、合宿編です。
ヘブンズエデンの強化合宿は、合宿といっても特別にキツい訓練をしたりはしない。それはあくまでも、自主だ。合宿の内容は、合宿先で起きている事件を解決するというもの。合宿に選別する事件はどれも裏にマフィアなどの犯罪組織が絡んでおり、それらを壊滅させるのが主。つまり、実戦だ。訓練と実戦は違う。いくら予習復習をしていようと、それが本当の意味で役に立つのは、勉強の試験だけ。戦場における実戦では、常に予測不可能な事態がつきまとう。ヘブンズエデンはこの実戦を重視しており、実際の戦闘で生き残る術を、強くなるためには何をすればいいかを学ばせる。
「しかしマサチューセッツ州かぁ…嫌な予感しかしねぇな。」
狩谷はぼやいた。それもそのはず。普通の人間にとってはただの州だが、クトゥルフ神話を知る者、また体感した者にとって、このマサチューセッツ州はそうではない。何を隠そう、ここにはクトゥルフ神話で最も有名な地であろうミスカトニック大学と、インスマスがあるのだ。
ミスカトニック大学とは、世界中から様々な魔導書が寄贈されている図書館がある大学である。クトゥルフ神話と魔導書は切っても切れない関係で、邪神やクリーチャーを召喚・退散・復活・封印するなど、何かと絡んでくる。次にインスマス。こちらは一見普通の港町なのだが、住人の大半がカエルに酷似したインスマス面と呼ばれる顔面の持ち主であり、邪神クトゥルフの半魚人のような眷族、深きものどもとの交流もあったという。現在はゴーストタウン化しているそうだ。
「しかも起きてる事件が…」
空子は胃に穴があくような思いをしながら、今回解決すべき事件を思い出した。現在このマサチューセッツ州では所々で行方不明事件が起きているらしく、失踪者の数は百人近くまでのぼり、それで解決依頼が来たのだ。
「これって間違いなくダゴン秘密教団の仕業だよなぁ…」
狩谷が頭を抱えながら言ったダゴン秘密教団とは、クトゥルフを、その眷族である邪神ダゴンを崇拝する宗教団体で、メンバーの大半が深きものどもかインスマス面。クトゥルフを復活させようと日々社会の裏で暗躍しており、この事件の犯人もその教団の仕業ではないかと狩谷は思っている。無論ミスカトニック大学もインスマスも架空の地ではあるが、ダゴン秘密教団が実在する可能性は大だ。アザトースやナイアルラトテップが実在するのに、クトゥルフやその信望者がいないはずはない。でないとクトゥルフ神話ではなくアザトース神話になってしまう。まぁそれはこの際どうでもいいが、とにかくまずは行方不明になった人々がどうなったのかを詮索すべきだ。そこから様々な事柄を割り出すことができる。
「恐らくまだ生きているな。」
ゲイルは行方不明者達がまだ生きており、拉致されただけだと予想した。しかし、あまり時間はないだろう。もしダゴン秘密教団が誘拐したのなら、まず目的は儀式の生け贄か交配だ。クトゥルフを復活させる儀式がどのようなものかはわからないが、こういった儀式はまず生け贄が必要となる。次に交配についてだが、そもそもインスマス面の人間の正体は深きものどもとの混血児だ。インスマス面は時とともにひどくなり、最終的にその人間は深きものどもそのものとなる。そして、寿命では死なず、他の深きものどもと永遠にクトゥルフを崇めるのだ。簡単に言えば、新しい信望者を増やす。そのための交配である。
「っていうか、もうダゴン秘密教団が犯人だって前提で話が進んでるのね。」
「これだけわかりやすすぎるヒントが揃ってるんだよ?食いついてみたくなるでしょ?」
アンジェはレスティーに返した。彼女達はこの短期間で、精神だけとはいえアザトースとナイアルラトテップに接触している。そしてナイアルラトテップは、自分達以外にも邪神がいると言っていたのだ。答えはもう出たも同然である。
「…まぁ外れてたら外れてたで別に何かあるわけでもないし。信じてみる価値はあるわね」
レスティーも乗った。現在彼女達は、合宿開始の集会を済ませた状態。それさえ済めば、後は自由行動だ。チームを組もうが出し抜き合おうが、二週間以内に事件を解決さえできれば一切構わない。今から二週間。余裕も十分にある。仮にダゴン秘密教団が実在しなかったとしても、その時はその時だ。
「よし、じゃあまずインスマスに行ってみようぜ!」
全員が狩谷の意見に賛成する。深きものどもと交流のあったインスマス…ダゴン秘密教団絡みで何かあるとしたらそこしかない。一行は早速行ってみることにした。
*
インスマスへと向かうゲイル達を、陰から一人の男が見ていた。真夏だというのに黒いコートを着込み、フードをかぶったこの男は、ゲイル達が行ったのを確認すると、コートのポケットから無線機を取り出し何かを話し始める。
男が無線機を持つ手。その指の間には、水かきのようなものがついていた。
*
「…」
ルーラーはしかめっ面をしてイズマを見ている。
「どうかなさいましたか?首領。」
イズマは尋ねた。
「メタルデビルズを追い詰める策は、既に打ってあると言っていたな?」
「はい。」
「どのような策だ?」
ルーラーはゲイルの暴走がどうしても気になっており、何とかしてそのデータが取りたい。
「策と言っても、アデルを暴走させるには、死ぬ一歩手前まで追い詰める以外、方法が判明しておりません。ならば、より強力な手勢を向かわせて追い詰めるのが得策かと。」
まさしく、テロリストらしい荒っぽい方法である。
「して、誰を差し向けた?」
問題は誰を向かわせたか。生半可な強さの兵士では、逆に返り討ちに合う。イズマはニヤリと笑って答えた。
「メイカーでございます。」
イズマがゲイルを暴走させるために差し向けたのは、四幹部の一人、メイカー。
「ほう…」
メイカーなら、実力としては申し分ない。強すぎて暴走する暇もなく倒してしまうかもしれないが、そうなったらそうなったで別に構わない。
「可能ならメタルデビルズを始末してもよいと命じておきましたが、今からでも加減するよう命令を訂正しますか?」
「よい。邪魔者が減るなら、それに越したことはないからな。」
ミレイヌは何か考えがあってアデルを生かしているようだが、いくら同盟関係とはいえそこまで面倒は見切れない。死んだとしても、事故だ正当防衛だと口裏を合わせればいいだけの話。
「ところで、メタルデビルズはどこにいる?メイカーはどこへ向かった?」
イズマはルーラーの疑問に、まとめて答えた。
「マサチューセッツ州です。何やら事件が起きているようで、その解決に借り出されたのでしょう。」
「ふん、のんきなことだな。自分達のもとへデザイアの幹部が向かっているとも知らず…」
「知るはずはありません。メイカーが事件に巻き込まれないか少し心配ですが、あの男は慎重派です。何も問題はないでしょう」
メイカーは慎重で、かつやることは徹底している。数々の暗殺と殲滅をこなした、歴戦の強者なのだ。
「メタルデビルズとの因縁…意外に早く決着がつきそうだな。」
ルーラーはほくそ笑んだ。
*
ニューベリーポートへと向かう街道の途中。インスマスは、そこに存在する…はずだが…
「…何もねぇな。予想はしてたけど」
狩谷が言った通り、何もない。何度も言って申し訳ないが、インスマスは架空の地だ。実際には存在しないので、行ってみたところで海があるだけ。あとは何もない。
「とにかく調べてみましょう。ただ見ただけじゃわからないこともあるし」
レスティーは調査するよう促す。確かにまだざっと見ただけだし、何の進展もないと断言するには早すぎる。
「それはいいんだけどよ…何でお前がいるんだ!?」
狩谷がツッコミを入れた相手は、なぜか来ていたエリック。
「私がどこにいようと私の自由です。違いますか?」
エリックは海を見ながら、素っ気なく返す。
「お前なら来ると思っていたぞ。」
しかしゲイルは、エリックが確実に来ると読んでいた。エリックが今以上の力を望んでいるなら、必ずこの強化合宿に参加するはずだからだ。
「まったく不愉快ですね。あなたと考えていたことが同じだったとは」
「そう言うな。俺達と同じヒントを得ていれば、誰だって同じことをする。」
「ふん…」
エリックはどうも納得していないようである。
「ほら、二人とも行くわよ!」
「早く早く!」
空子とアンジェが促し、一同は付近を調べた。
砂浜まで来てみたが、やはり何もない。
「やっぱり考えすぎだったかなぁ?」
首を傾げるアンジェ。しばらく調べてみたが結局何も見つからず、進展はなかった。
「駄目ね。どこからどう見ても、ただの海岸だわ。」
「めぼしいものは何もなかったぜ。」
空子と狩谷が来る。
「まぁ、所詮おとぎ話って…こ…と…」
レスティーは海を見て気付く。何かが、こっちに向かってやって来ていたのだ。
「ヴアアアアアアアアアア!!!」
それは砂浜に上陸し、咆哮を上げる。
「どわーっ!!クトゥルフか!?ダゴンか!?ヒュドラか!?深きものどもか!?インスマス面か!?」
「そのどれでもない!!グレートマリンタートルだ!!」
慌てる狩谷に、ゲイルは上陸してきた者の正体を教えた。相手は3メートルほどの巨大な海亀のモンスター、グレートマリンタートルだ。
「ヴオアアアアアアアアアア!!!」
グレートマリンタートルは白目を剥いて叫び、ゲイル達に襲い掛かる。
「亀が…身の程をわきまえなさい!」
しかし、冷静にホワイトスイーパーを出したエリックは、グレートマリンタートルの全身に向けて発砲。発射された弾は甲羅を、皮膚を吹き飛ばし、グレートマリンタートルを倒した。
「びっくりしたぁ…」
狩谷はようやく落ち着き、それから絶命した相手をよく見る。
「まさか行方不明事件を起こしてた犯人ってこいつじゃねぇだろうな?」
「それはないでしょ。失踪は街中でも起きてるわ」
狩谷の疑問を否定するレスティー。
「それに、グレートマリンタートルは大人しいモンスターだよ?それが人を襲うなんて…」
「だが、こいつは間違いなく俺達を襲ってきた。これはどういうことだ?」
アンジェとゲイルが言ったように、グレートマリンタートルは海に生息するモンスターの中でも、比較的大人しい部類に入る。肉食でもないので、人を襲うということはない。しかし、このグレートマリンタートルはゲイル達を襲ってきた。どう考えてもおかしい。
「…そういえば…」
空子はクトゥルフ神話に関するとある話を思い出した。
邪神クトゥルフはルルイエという石造都市に住んでいたが、何らかの原因によってルルイエが海底に沈み、クトゥルフはルルイエとともに眠りについた。しかし、このルルイエは一時的にだが、時々少しだけ浮上することがある。この浮上は海上世界にも影響を与え、感受性の高い人間が悪夢を見たり発狂したりするらしい。
「じゃあ、このグレートマリンタートルはその影響を受けて発狂したってのか?」
狩谷は尋ねた。言われてみると、先ほどのグレートマリンタートルの状態は普通ではなかった。彼らは前に一度グレートマリンタートルを見たことがあり、その温厚さを知っている。その時と比べると、こっちのグレートマリンタートルは白目を剥いていたり、とんでもない声で叫んだり、発狂しているとしか思えなかった。
その時、
「発狂とまでは行きませんが、悪夢を見せるくらいはできますよ。」
殺し屋の風貌をした男が現れ、話し掛けてきた。
「メイカー!!」
相手が何者か知っているレスティーは勢いよく飛び出し、立ち塞がる。
「知ってるの!?」
「デザイアの幹部よ!」
空子は質問し、レスティーは答えた。そのあまりにも強大すぎる正体を聞き、一同はメイカーを警戒する。
「久しぶりですね、レスティー・エンプレス。鬼宝院皇魔は一緒ではないのですか?まぁ、この際彼はいなくとも構いません。私の目的は…」
メイカーは一人を、ゲイルを指差す。
「あなただけなのですから。」
「…俺を…?」
「はい。ですから、あなたには悪夢を見てもらいます。」
次の瞬間、手足が発光し、光はメイカーの全身へと広がっていった。やがて光った部分から段々と装甲に覆われていき、最終的にメイカーの姿はバイザーを被ったロボットの姿になる。
「死という名の悪夢を。」
これがメイカーの怪人形態だ。
「…アデル、起動。」
「…ビャクオウ、始動。」
ゲイルとエリックはアデルとビャクオウに変身した。
「お前の趣向に付き合うつもりはない。俺を狙ってきたのなら、倒せばいいだけのこと!!」
「気に入りませんね。この私を無視するとは!」
二人は武器をメイカーに向ける。
「何が目的か知らないけど、デザイアの好きにはさせないわ!!個人的な恨みもあるしね!!」
メイカーに因縁を持つレスティーも、小太刀を抜いて構えた。
「ゲイルはやらせない!!」
覚醒するアンジェ。
「あんたなんかが殺していい相手じゃないんだから!!」
殺る気満々でギガトラッシュを構える空子。
「正直戦いたくねぇが、言ってられねぇか…!!」
強敵相手に気乗りしないながらも、ダークハンターを組み立てる狩谷。
「行くぞ!!」
アデル、ビャクオウ、アンジェ、レスティーは全速力で突撃した。
「ふっ」
メイカーが右手をかざすと、メイカーの手にリボルバー式拳銃が現れる。メイカーはそれを使って発砲してきた。風を切って飛んでくる弾をかわす四人。
「うおわっ!!」
「うっ!!」
狩谷は空子を突き飛ばし、飛んできた弾をかわす。外れた弾は、一発一発が榴弾並みの破壊力を残す。
「防砲服があるとはいえ、急所に喰らったらヤバいな…」
「そうね…」
狩谷と空子は戦慄した。
「こんなものも出せますよ。」
メイカーが左手をかざすと、今度はガトリング砲が出現。放たれる弾丸の雨を、四人は一度距離を取ることで回避。
「まだまだ!!」
メイカーの右手の拳銃が光り、こちらもガトリング砲に変化。銃弾の雨を嵐に変えて、攻撃の手を強める。
「奴の能力は兵器生成ですか。」
ビャクオウは攻撃を避けながら、メイカーの能力を突き止める。メイカーの能力は兵器生成。ありとあらゆる近代兵器を生成し、それを使うことができる。
「エボリュータントってどうなってんだよ!!明らかに生物の進化から逸脱してんだろ!!」
狩谷は喚く。武器生成のコレクといい炎熱のウォントといい今回のメイカーといい、どう考えても生物が到達できる進化の領域ではない。それにはレスティーが答えた。
「進化とは、生物が望む姿の可能性が形となったもの。望みさえすれば、どんな姿にも進化できる。それが進化の宝珠の力よ!」
あのでたらめな姿と力は、彼らが望んだからこそ、進化の宝珠に願ったからこそなれたものだ。どんな姿と力でも、今手にしていないもので、なおかつ欲していたものなら、それは進化になるのである。そして、その進化を可能にするのが、進化の宝珠なのだ。デザイアが血眼になって探している理由が理解できるだろう。
「何にしても、懐に飛び込みさえすれば…!!」
アデルは打開策を考案する。あの弾幕をくぐり抜け、本体を攻撃できるスピードが必要。
「ハスタードライブ!!」
アデルはハスタードライブを起動し、そのスピードを得た。
「はああああ!!!」
アデルはガトリング砲の弾をかわしながらメイカーに接近し、斬りかかる。
「ふん…」
だが、メイカーは右手のガトリング砲を、剣に変化させて受け止め、アデルをはね飛ばした。
「私は接近戦も得意なんです。」
メイカーが剣に付いているスイッチを押すと、刀身がギュィィィィィン!!!と耳障りな騒音を立て始める。
「高周波ソード!!」
アデルは剣の正体を見抜いた。メイカーが今生成したのは、刃を高速振動させて切れ味を上げる高周波ソードだ。メイカーは普通の武器を生成できないので、一見普通に見える武器でも、何かしらの仕込みがあると考えるべきである。
「こういうのはいかがですか?」
続いて、左手をかざすメイカー。今度は、懐中電灯のような形の短い棒だ。しかし、メイカーが棒に付いていたスイッチを押すと、棒からエネルギーで形成された刃が伸びる。ビームソードだ。メイカーはそれを使って、
「ふっ!」
「くっ…!」
背後からアークスを剣に変化させて斬りかかっていたアンジェの攻撃を受け止める。
「ではお手並み拝見!」
そのまま、二刀流で二人の相手を始めた。銃撃戦だけかと思いきや、格闘戦もかなりの腕で行えるメイカー。超高速移動と瞬間移動で対応するアデルとアンジェだが、まるで先読みされているかのように防がれ、反撃される。メイカーは彼らよりも遥かに戦士としての経験が長いため、その経験からアデル達の攻撃パターンを予測しているのだ。すなわち、経験測である。その時、
「私を忘れてもらっては困りますね。」
遠距離から、ビャクオウが発砲してきた。
「ふむ」
「ぐわっ!!」
「あうっ!!」
メイカーはコマのように回転しながらアデルとアンジェを払いのけ、そうしつつ新たな兵器の生成を行う。生成したのは、かなり大口径なマシンガン。それはメイカーの両腰に一丁ずつ装備され、
「はあっ!!」
ビャクオウ目掛けて発砲した。発射された弾は狂いなく、ビャクオウの全身を穴だらけにする。
しかしその直後、ビャクオウの姿が霞みのようにかき消えた。
「むっ!?」
気付けば、ビャクオウはメイカーの背後にいる。そして、
「はああああああ!!!」
正面からはレスティーが迫ってきていた。
「エンドオブファンタズマ!!!」
ホワイトスイーパーの刃にエネルギーを込めた斬撃。
「忍法・鋭刀殺の術!!!」
極限まで活性化させた小太刀で放つ剣撃。それぞれの必殺技を放つビャクオウとレスティー。完全に不意を突いているため、防御は間に合わない。二人はそう思っていた。
だが防がれた。
メイカーを中心に展開された、球状の光の壁によって。
「訓練以外でバリアを使ったのは久しぶりですねぇ。」
バリアは完璧に二人の必殺技を防いでいる。すごい防御力だ。
「あいつバリアまで使うのか!!」
驚く狩谷。空子も驚愕している。しかし、これはチャンスだった。今メイカーは動きを止めている。バリアさえ破壊できれば、ダメージを与えられるはずだ。
(やるしかない!!)
既にドリルバレットは装填済み。空子はメイカーの心臓に狙いを定めて、引き金を引いた。
「「!!」」
気付いて離れるビャクオウとレスティー。だが、グレーナイトを一撃で破壊できるドリルバレットでさえ、メイカーのバリアは撃ち抜けない。
「そんなものでこのバリアは破壊できませんよ。」
余裕を見せるメイカー。しかし、空子は気付く。弾はバリアを貫通できてこそいないが、少しだけバリアに食い込んでいる。ドリルバレットの威力のこともあるが、強力な必殺技を同時に受けたことで、バリア自体の強度が弱まっているのだ。
(メイカーはまだ気付いてない!!あそこにもう一発撃ち込めれば!!)
空子は確実にバリアを破壊するため、ギガトラッシュにレールガンアタッチメントを取り付けて、スイッチを入れる。
(ふっ…無駄ですよ。何せ私のバリアは、核ミサイルにも耐えられるのですから)
今さらレールガン程度の破壊力では、このバリアを破ることはできない。メイカーは、そうタカをくくっていた。と、
(む?)
メイカーは気付いた。先ほど放たれた弾丸が地面に落ちず、バリアに突き刺さっていることに。
(そういうことですか…)
同じ所を攻撃されれば、いかにメイカーのバリアとて砕かれる。しかし、このバリアにはある特性があるのだ。
(内側からの攻撃は防がないんですよ!!)
内側からの攻撃には干渉せず、外からの攻撃だけを防ぐ。だから、
(こんなこともできます!!)
自分を守りながら、ミサイルランチャーを生成して撃つこともできるのだ。
「死になさい!!」
両肩に八連装のミサイルランチャーを生成したメイカーは、空子をロックオンして攻撃する。だが、
発射されたミサイルが、全てあらぬ方向へと飛んでいき、計算外の場所に着弾した。
「軌道をずらすのは得意でな。」
狩谷の仕業だ。風でミサイルの軌道を操り、外させたのである。
「エクストリームプレッシャー!!!」
続いてダウンバーストを起こし、上からメイカーを攻撃する。バリアに守られているため、メイカーにダメージはない。しかし、これはバリアを破壊するための攻撃ではないのだ。狩谷が行ったのは、『面』への攻撃。バリア全体を攻撃することで、一点への防御力が手薄になる。つまり、これは『点』への攻撃を行うための布石なのだ。その攻撃を行うのは、空子。
「やれよ空子!!あそこを狙うんだろ!?」
狩谷は空子の意図に気付いていた。
「ごめん狩谷!!」
空子はアーミースキルを発動し、狙いを定める。アデル達は二人の連携を邪魔しないよう、少し距離を置いている。そもそも、こんな精密射撃は空子にしかできないのだ。
「ハウリングシュート!!!」
そして、とうとう空子はハウリングシュートを撃った。先に突き刺さっていた弾を撃ち抜き、バリアを貫通する。
「くぅっ!!」
メイカーは高周波ソードとビームソードを交差させ、ハウリングシュートを受け止める。しかし、
「ぐぅおおお!!!」
高周波ソードは叩き折られ、ビームソードは貫通されて、ハウリングシュートはメイカーの胸にぶち当たった。
「ごおお…!!」
だが、メイカーは倒れない。
「…この私にここまでダメージを与えるとは…少し舐めていたようです。」
彼にも、幹部としての誇りがある。その誇りに懸けて、倒れるわけにはいかないのだ。とはいえ、これほどまでのダメージを受けては、もうバリアを張れない。となれば…
「これで幕引きとしましょう。」
最大火力で一気に勝負を終わらせる。両肩のミサイルランチャーの弾を補充し、両手はレーザーキャノン砲に変化させ、両腕にはガトリング、両腰にはマシンガン、両足にはやはりミサイルランチャー。数多くの兵器を生成して装備した、フル装備形態。一度使えば大都市三つが一瞬で壊滅する、大火力を備えた形態だ。弾はメイカーの精神力が続く限り補給され続け、実質弾切れはなし。しかしこれを使うということは、それだけメイカーが追い詰められているということだ。
「あなた達は下がっていなさい。私がとどめを刺します」
進み出たのはビャクオウ。
「お前一人では無理だ。俺もやる」
イグニスドライブを発動するアデル。
「私もやるわ。言ったでしょ?個人的な恨みがあるって!」
「私もやる!」
並び立つレスティーとアンジェ。
「仕方ねぇ、やってやるか!」
「今度こそ仕留める!」
ダークハンターを担ぎ直す狩谷と、弾を補充する空子。
「倒す前に聞いておくぞ。このマサチューセッツ州で起こっている行方不明事件…あれはお前達デザイアの仕業か!?」
アデルはブラスターモードのプライドソウルにエネルギーを込めながら、事件について尋ねた。
「行方不明事件?小耳には挟んだ話ですが、私には覚えがありませんねぇ。」
どうやら知らないらしい。
「なら、お前に用はない!!」
アデルはプライドソウルをメイカーに向けた。
「本気で私を倒すつもりとは…舐めすぎですよ!!」
メイカーは全ての武器を発射する。
「アッシュ・トゥ・アッシュ!!!」
弾丸が、ミサイルが、巨大な光線が、大挙して押し寄せてきた。全てが当たれば、まさしく灰が灰に還るであろう凄まじい火力だ。
しかし、訓練生組も負けてはいない!!
「ワールドエンドブレイカー!!!」
「ギャラクティックエンドブレイカー!!!」
「五行滅殺の術!!!」
「シャイニングフェザーストーム!!!」
「ハウリングシュート!!!」
「エクストリームテンペスト!!!」
一斉に全力の必殺技を繰り出し、拮抗する。
しばらくぶつかり合っていた破壊の嵐。力同士の奔流。
しかし、突然変化が現れた。
必殺技同士がぶつかり合う、その狭間。そこに、稲妻が走り始めたのだ。
稲妻は大きくなり、巨大な光の亀裂となって裂けた。
「なっ!?」
「えっ!?」
「うおっ!?」
「きゃっ!?」
亀裂から発された光に、成す術もなく呑み込まれたアデル、アンジェ、狩谷、空子。
「みんな!」
「ちっ!」
仲間を追って飛び込んだレスティーと、ためらいながらも舌打ちして続くビャクオウ。光は訓練生組を亀裂の中に引きずり込むと、亀裂は何事もなかったかのように消え去った。
「…消えた?」
空間の亀裂があった場所に立つメイカー。
「一体どこに…?」
だが、どこにもいない。
「…どうやら捜す必要があるらしいですね…」
ため息をつくメイカー。その時、
「その必要はありません。メイカー様」
フードをかぶっている男が現れ、メイカーに話しかけた。
「…失礼ですが、どこかでお会いしましたか?あなたのような方はデザイアでも見た覚えがありませんが…」
メイカーが全く知らない男。男はフードを外し、自分の顔を見せた。
「おや、あなたはダゴン秘密教団の…」
メイカーはようやく、男が何者であるかを知る。
「そういえばこの辺りは…なるほど、そういうことですか…まったく運のいい連中だ。」
同時に、全てを理解した。
「いや、運が悪いと言った方がいいでしょうか。何しろ彼らは…ふふふ…」
ゲイル達がこの先、どうなるのかすらも…。
*
「…うっ…」
ゲイルは目を覚ました。自分の身体を見て、いつの間にか変身が解除されていることを知ったゲイルは、次に自分がどうなったのか、記憶を辿る。確か空間に亀裂が現れて、そこから出てきた光に呑み込まれた。
「…!!」
思い出したゲイルは辺りを見回す。それから、自分と同じように倒れているアンジェを起こした。
「アンジェ!起きろアンジェ!」
「…う…ん…」
目を覚ますアンジェ。ゲイルの声に反応して、近くで気絶していた狩谷と空子も起きた。
「…何だここ?」
「あたし達、どうなったの?」
辺りを見回して気付いたのは、周囲が灰色になっていたということ。空も、海も、砂浜の色も、全てが灰色だ。
「やっと起きましたか。」
既に起きていたエリック。彼の変身も解けていた。
「どうやら、大変な所に来ちゃったみたいよ。」
次にレスティーが、ある場所を見ながら言う。
レスティーが見ていたのは、港町だった。さっきまで何もなかったはずの場所に、港町がある。
しかし、全員が、あの港町が何なのかわかっていた。どういう理屈かはわからない。だが、認めるしかないのだ。
あの港町こそが、インスマスなのだと。
「…インスマスは…」
これから自分達に降りかかるであろう不幸を思いながら、ゲイルは呆然と呟いた。
「…実在する町だったのか…」
とうとう来てしまった最悪の場所。実在していたインスマス。これからゲイル達はどうなってしまうのか…。
次回、『深きものどもの陰謀』。
お楽しみに!




