第二十三話 家族
強化合宿前の閑話です。
自宅にたどり着いた皇魔。玄関の戸を開け、家に上がろうとする。
と、皇魔は戸を開けた段階で気付いた。
玄関に、下駄が置いてあるのだ。
それも、ただの下駄ではない。とてつもなく、大きかった。少なくとも、一般人が履いて歩ける大きさではないと断言できる。
「…」
皇魔が知る限り、この下駄を履く人物は一人しかいない。その人物に会うため、皇魔は家に上がり、居間へ向かう。
居間には、3メートルはあろうという巨大な老人が、袴を着用し、どかっとあぐらをかいて座っていた。勘違いしないでもらいたいのは、座っている状態で3メートルだということ。立てば、6メートル前後になる。とにかく、そんな老人がいた。そこへ入ってくる皇魔。
「帰ったか、馬鹿息子よ。」
老人は皇魔を見て言う。
「珍しいな。帰ってきていたのか、親父。」
皇魔も老人を見上げる。この老人こそ、現鬼宝院家当主にして皇魔の父、鬼宝院剛造である。鬼宝院グループという大企業の総帥の面もあるため、普段は滅多に帰ってこない男だが、今日はなぜかいた。
「たまには親子の会話も必要だろうと思ってな。」
白い顎ひげを撫でながら言う剛造。
「…ふん」
皇魔も座った。
「何が会話だ。親父ほど多忙な男が、何の用もなく家に帰ってくるはずがない。俺に何か言いたいことでもあるのだろう?」
「よくわかったな。当然だ。お前のような馬鹿息子の話相手をするためになど、わざわざ戻ってくるものか。」
「相変わらず口の悪い親父だ。」
「お前が弱いのが悪い。ウォントごときに苦戦などしおって…恥を知れ愚か者め。」
剛造はエドガーに、皇魔がどんな戦いをしたか逐一連絡してもらうよう頼んでいる。そのため、先日ヘブンズエデンにウォントが攻め込んできたことも知っていたし、苦戦したことも知っている。以前にも説明したが、剛造の戦闘力は、長い歴史を誇る鬼宝院家の中でも、間違いなく最強。78歳という高齢だが、その実力も覇気も全く衰えてはおらず、むしろキレを増しているほど。覇気も技も使わず、怒りだけで島を一つ塵に変えたこともある。四幹部をまとめて相手にしても全くひけを取らない、まさしくデザイアにとって最も危険な存在だった。ルーラーやイズマでさえ容易に手を出せない強さを持つ彼には、四幹部の一人程度にも苦戦する皇魔の姿が、とても歯がゆく見えた。
「…だが、お前はこのわしより強くなる可能性を秘めておる。その可能性こそ、デザイアとの因縁を断つために必要なものなのだ。」
しかし、皇魔が苦戦するのは仕方ないということも、わかっていた。デザイアには、進化の宝珠がある。それがある限り、デザイアは無限に強くなり続けるのだ。だからこそ、皇魔にはそれを超えるほどに強くなって欲しかった。冷たく突き放しているように聞こえる言動だが、全ては、皇魔を強くするための愛ゆえ。皇魔もそれは理解していた。
「この夏休み、お前は修行の旅に出るのだろう?ならば、この男を訪ねるがいい。わしの旧友の一人だ」
そして、そのためには協力を惜しまない。とある男性の名前と住所を書いた紙を、渡しておく。
「…中国か。」
「お前が行くということは、もう既に伝えてある。」
根回しもしてあった。紙に書いてある男の名前。皇魔はこの男に会ったことはないが、知ってはいる。剛造がこのタイミングで勧めたということは、何かあるのだろう。
「…どれほど強くなろうと、寿命には勝てぬ。わしも老いた…近いうちに、必ず絹恵のもとへと旅立つだろう。」
絹恵とは、皇魔の母のことである。皇魔や剛造と違って一般人と同じ身長と体格だが、一般人よりも体が弱く、皇魔を出産したことが原因で死んでしまった。
「それでも、強い女だった。本来なら半年で死ぬはずだったものを、二年も生きたのだ。その妻のもとへ行くことができると思うと、死もそれほど悪いものではないと思える。」
しかし、一族の宿敵ルーラーは、死を恐れていた。本当なら処分するはずだった長寿の秘薬神夜を、その製法を盗み、最強にして永遠の存在になろうとしている。
「永遠の命など求める必要はない。それを、あの男にわからせねばならぬ。この一族の使命を果たすまで、わしは死ねんのだ。が…」
万が一、億が一にでも、剛造がルーラーとの戦いに敗れ、死んでしまった時は…
「その時は、お前に後を託さねばならん。だから強くなれ、皇魔。わしを超えるほどにな」
責任は重大だ。皇魔の答えは…
「無論だ。そもそも、親父に出る幕などない。ルーラーを倒すのは、俺だ。」
というものだった。
「それで良い。」
満足した剛造は立ち上がり、居間から出て行く。
「もう行くのか?」
「うむ。先ほどもお前が言ったように、わしは多忙だからな。奴にはくれぐれも、よろしく言っておいてくれ。」
剛造は会社に戻った。ちなみに、リムジンなどは用意していない。彼ほどの巨体となれば、乗れる車がないからだ。新しく作らせればいいのだが、剛造曰く面倒とのこと。ゆえに、歩きだ。日々の生活においても鍛練を行うことを信条にしている剛造は、少しでも自分を鍛えるため、会議の会場まで走ったり、海を挟んでいるなら泳いだり、飛んだりしている。いずれも、覇気を操れるなら容易いこと。
「…時間が惜しい。すぐにでも行く」
そんな父に似たのか、皇魔もやるべきことは急いでやるようにしている。約二ヶ月しかない夏休み。一日一時間一分一秒たりとも、無駄にしたくはない。早速、中国に旅立つ準備を始めるのだった。
*
とある山。
全体に特殊な結界が張られ、常人ならば入るどころか見ることもできないこの山の頂上に、大きな屋敷があった。この屋敷は鬼宝院家の分家、霊宮寺家の屋敷。すなわち、レスティーの実家である。ちなみに、レスティーは寮からではなく、ヘブンズエデンから50km近く離れたこの実家から通っている。普通の方法ならそれなりに時間の掛かる距離だが、ヘブンズエデン最速の足を持つレスティーなら、三~四分で行き来できる。これも、彼女なりの鍛練方法だ。毎日十五分以内で600kmを走り込む鍛練をしているので、余裕だろう。
「レスティー・エンプレス…いえ、霊宮寺紗理奈、只今戻りました。」
その家に、レスティーが帰ってきた。居間のにいる父の前に膝を付き、帰還を告げる。
「家族だけの時にそう畏まるのはやめろと、前にも言ったはずだぞ?」
レスティーの父、霊宮寺満夫は、柔らかい笑みを浮かべながら言った。
「ただいま、父様。」
言われた通りくだけた口調に戻り、正座するレスティー。
「おかえり、紗理奈。」
満夫は暖かく迎える。と、
「あら紗理奈。帰っていたの?」
居間に美しい女性が入ってきた。
「母様!」
「おかえりなさい。」
抱きついてきたレスティーを、女性は優しく受け止めた。彼女がレスティーの母、照姫である。
「いよいよ明日から夏休みね。あなたと一緒にいられる時間が増えて、嬉しいわ。」
レスティーが大好きな照姫は、少しでもレスティーと一緒にいたい。なので、彼女もまた夏休みが来るのを待っていたのだ。しかし、とたんにレスティーの表情が曇る。
「どうしたの?あまり嬉しくなさそうだけど…」
「…ごめんなさい母様。私には、やるべきことがあるの。」
「…秘伝か。」
満夫は、レスティーの考えを見抜いていた。レスティーはこの夏休みを、一族秘伝の忍法の修得に当てたいのだ。
「…忍法・闇影武装。気を纏い鎧に変化させる、我が霊宮寺家に伝わる秘伝の忍法。」
満夫が説明した秘伝の忍法、闇影武装。これは気を纏って鎧の形に性質変化させる忍法である。
「お前は既に、あれを修得できる技量に達している。だが、あれはただ技量を高めただけで修得できる術ではない。」
気を操るという行為には、多大な精神力と集中力が必要となる。その点に注目すれば、いや、注目しなくても、レスティーの腕はかなりのものだった。だが、それだけでは闇影武装は使えない。ある特殊な条件を整えなければならないのだ。
「闇影武装を使うには術者が自分の使命に気付かなければならない…私の使命はルーラーを討ち、デザイアを滅ぼすこと…」
レスティーは使命を自覚していた。しかし、それでも闇影武装を使えるようにはなっていない。満夫はその理由を語った。
「それは我ら霊宮寺家の使命であって、お前自身の使命ではない。」
人は生まれた時に、その者だけしかできない使命を背負っている。レスティーが自覚している使命はあくまで一族の使命であり、レスティーだけの使命ではない。闇影武装を使うには、レスティーが自分だけの使命に気付く必要があるのだ。
「私は秘伝修得の修行のため、強化合宿に参加しようと思うの。それで、二週間は家にいられなくなる…もしこれでも修得できなかったら…」
「…焦らなくてもいいのよ?功を焦っては、全てを失ってしまうから。」
「焦らなくちゃいけないの!デザイアは昔私が戦った時よりずっと強くなってるのよ!?もっと強くならないと…」
一刻も早く闇影武装を修得してデザイアを壊滅させたい。そんな焦燥感に駆られるレスティーを、少し心配する照姫。満夫は言った。
「お前が決めたならそうすればいい。ただし、無茶はしないようにな。」
「っ!!ありがとう父様!!早速準備しに行くわね!!」
レスティーは喜び、自室に戻った。
「…あの子も自分なりに考えているのね。少し寂しいわ」
「なに。いずれは必ず一人立ちしなければならない。その時が近付いているだけの話さ」
二人は自分の道を自分で決められるようになってきた娘の成長を喜びながら、しかし、寂しくも思っている。
「…あの子にもずいぶん過酷な使命を背負わせてしまったな。だが、デザイアは確実に止めねばならない。」
霊宮寺家は忍の一族。忍者は傭兵。雇われて戦いに赴く者。戦いを誘発するという意味では、デザイアとそう変わらない。しかし、デザイアが起こす戦いは無秩序で、無差別だ。こんな戦いを続けていけば、いつか世界は滅んでしまう。それを避けるためにも、デザイアを討たなければならないのだ。
「私も紗理奈には、普通の女の子として生きてもらいたかった。でも、それは叶わないのよね…私達の…業…かしら…」
「…そうだな…」
娘が忍者になってしまったこと。二人は、それを悲しんでもいたのだった。願わくは、自分達だけでデザイアとの戦いを終わらせたいというのが、本音である。
*
夏休みに入って一日目。
「ただいま、おばさん。」
「光輝ちゃん!」
親戚の家に帰ってきた光輝。彼を迎えたのはその親戚の、千鶴という老婆だった。幼い頃から世話になっており、両親の隼人と優子同様に、光輝を可愛がってくれていた、大切な人だ。
「よかった!怪我とかない!?痛む所とかは!?」
「大袈裟だなおばさんは。そういう所があったら、帰ってくる前に病院に行ってるって。」
「…そうよね。とにかくおかえりなさい!」
千鶴は久しぶりに戻ってきた光輝を、優しく迎えた。
荷物を自室に置いた光輝は、家の近くにある墓地へと向かう。
「…」
彼が着いたのは、白宮家の墓。
「ただいま。父さん、母さん。」
墓参りだ。来る途中で買った花束を、供える。
「…やっと見つけたよ。父さんと母さんの仇を」
しばらく振りに、今までの生活の報告をする。恋人との仲が進展しそうだということも、友人が改造人間になったことも、ようやく二人の仇を見つけたことも。
「…待ってて。必ず仇を取るから」
墓前での誓いを新たに、光輝は家に帰った。
「それで光輝ちゃん。夏休みはどうするつもり?当然ゆっくりしていくんでしょ?」
「えっ…」
荷物整理中、光輝は千鶴に訊かれた。
「…うん。」
彼はこの夏休み、戦いを忘れてのんびりするつもりである。普段あんな所にいるから、こういう長期に渡る休暇ぐらいは、ゆっくりしたい。
…のだが…
(…落ち着かない…な…)
休息を取る度に、ウォントを思い出してしまう。奴を倒すためには、もっと強くならなければならない。本来なら、休んでいる暇などないのだ。まぁ、こんつめをしても逆効果だということはわかっているし、さだめにも注意された。しかし、やはり落ち着かない。
(…僕もまだまだだな…)
心に余裕を持たなければ、いつか潰れてしまう。とにかく、明確な予定は決まっていないので、さだめに電話でもしながら考えることにするのだった。
*
桐崎さだめは当初の予定通り、南樹の手伝いをしていた。
「ご飯置いとくね。」
「ありがとう。」
といっても、食事の世話などがほとんどで、普段とあまり変わらないが。と、彼女のケータイに光輝から電話がかかってきた。
「もしもし?どうしたの?」
「いや、ちょっと落ち着かなくてさ…」
「…ウォントのこと?」
「…うん。」
見破られてしまった。
「前にも言ったけど、いくら家族の仇だからって、焦っちゃ駄目だよ?ウォントは強いし、今のままじゃ勝てないってこともわかるけど、もし負けて死んだりしたら、千鶴さんきっと悲しむ。」
私が一番悲しむから、とは言わなかった。そんなことは、互いに言わなくてもわかるからだ。
「…わかってるよ。でも、僕はウォントを倒したいんだ。」
やはり光輝は焦っていた。そんな彼を落ち着けるために、さだめは言う。
「光輝、今度私の家に来て。」
「えっ?」
エドガーに連絡すれば、転移装置は使わせてもらえる。電車を経由して一日かかる距離でも、これならすぐだ。
「気晴らしに、私と遊ぼ?」
少しでも彼の心の負担を減らしたい。そんな気配りだった。
「…うん、わかった。じゃあ、また今度。」
「うん。待ってるね」
電話を切る二人。直後、
さだめは崩れ落ちた。
彼女の目からは大粒の涙が絶え間なく流れ、口からは苦しげな嗚咽が漏れる。
「ごめんね…私…無神経すぎるよね…!!」
彼女は父の死に際に立ち会い、家族の死というものを経験している。父が死んだ時、さだめは五日ほど、それを自覚しきれなかった。だが、日にちが経つにつれて徐々にわかり始め、父は本当に死んでしまったのだとわかった時、今のように泣き崩れたのだ。とても悲しかった。だが両親二人を失った分、光輝はもっと悲しい思いをしている。さだめの場合仇はいないが、光輝にはいるのだ。憎くないわけがないし、焦りもする。彼の気持ちを考えたつもりだが、結局何もしてあげられない無力感。さだめは自分の弱さを呪って泣き続けた。
*
「ただいま~。」
実家に帰ってきた狩谷。
「おかえり。よく帰ってきたな」
「おう。」
迎えてくれた父、明宏に手伝ってもらい、荷物を自室に運ぶ。それから母、珠樹も呼んで、久々の団らんを楽しんだ。
「へえ~あんたもいろいろあったんだねぇ。よく無事で済んだよ!」
狩谷から今まであった壮絶な任務の話を聞き、それでも生きて帰ってこれたことに、珠樹は驚いている。
「軽く百回は死にかけたな。」
「そうか…」
と、明宏の顔が曇った。
「…俺達のせいだな。俺達が動いてさえいれば、お前がそんな目に遭うことは…」
狩谷がヘブンズエデンに入学した理由は、恵美の仇を討つため。あの事件さえなければ、狩谷が傭兵になることもなかった。
「やっぱり、お前が一番恵美を愛していたんだ。だからお前は行動に踏み切れた」
猪頭に復讐したいと思っていたのは、狩谷だけではない。家族全員だ。しかし、実際に復讐ができたのは狩谷だけ。明宏も珠樹も、そこまで行動に移せなかった。怖かったのだ。いかに娘の仇とはいえ、相手は一人の人間。殺人を犯したくなかった。だが、狩谷は迷うことなく仇討ちの道を選び、猪頭を殺した。そういう点から見れば、やはり狩谷が一番恵美を愛していたのだろう。
「思えば、あたしが恵美の分のご飯を持って行こうとした時、『俺が持って行く!』って聞かなかったもんねぇ…」
それ以外にも、狩谷が全てにおいて恵美を優先し、世話をしてやっていたことを、珠樹は思い出す。
「…なぁ信介。もう終わりにしないか?仇討ちは終わったんだから。」
明宏は狩谷に、ヘブンズエデンの中退を奨めた。当初の目的は果たしたんだし、これ以上殺しの道を進ませることは、二人としても気が引ける。
「…悪い。俺、もう一つやらなきゃいけないことができちまった。」
しかし、狩谷にはやるべきことがある。ゲイルを、仲間達を守るために、ヴァルハラとデザイアを壊滅させる。今以上に強くならなければならない。
「それにさ、俺はこの世界から全てのロリコンをなくしたいんだ。俺達みたいな人間を増やさないためにも…」
いつか孤児院を開き、全ての恵まれない子供を引き取って守る。そんな夢ができていた。
「…そうか。お前にも、夢ができていたんだな。」
なら止めない。息子の夢を精一杯応援してやることも、必要だ。
「俺、ヘブンズエデンの強化合宿に参加しようと思うんだ。それでまた戻るんだが…」
「いいよ。あんたがやりたいんなら、そうしな。」
先に許可したのは、珠樹だった。明宏も同意する。
「いつなんだ?その強化合宿は。」
「八月一日だよ。」
「じゃあまだかなり先だな。それまで、せめてウチでゆっくりしていけ。」
これが最後の家族集合になるかもしれない。そう思ったからこそ、明宏は言った。
「ありがとな!」
狩谷は礼を言う。
*
久々に実家に帰ってきた空子。
(えっ…)
彼女は今、玄関で両親に抱き締められていた。
(何、この状況…)
何が何やらよくわからず、ただ困惑する空子。
「おかえり…おかえり空子…!!」
涙ながらに空子を抱き締める父、康太郎。
「ずっと待ってたのよ。あなたが帰ってくるのを…!!」
同じく抱き締める母、詩織。二人に連れられた空子は、とりあえず家の中へ。
「どうしたの二人とも?」
空子がヘブンズエデンに行った理由は、自分の存在を認めてくれる場所を探すためだ。両親との間にも心の壁を感じ、去年は帰らなかった。今年だって、本当は帰るつもりなどなかったのだ。しかし、やはり生みの親で育ての親。あまり心配させすぎるのもまずい。そう思ったから帰ってきた。で、コレである。あまりにも豹変していた両親の姿を見て、空子は理由を尋ねた。
「昨日エドガー理事長から連絡があったんだ。」
昨日。
「はい、夏原です。」
電話に出たのは、康太郎。
「理事長のエドガー・サカウチです。そちらの娘さんのことで、連絡しました。」
突然の電話に、康太郎は驚く。
「…何か、娘がやったんでしょうか…?」
「いえ、そうではありません。」
康太郎は最初、空子が学園で問題を起こしたかと思ったが、そうではないらしい。
「彼女からは、よくそちらの話を伺っています。なんでも、家族関係がうまくいっていないとか。」
エドガーは生徒達の事情を大体把握している。空子も例外ではなく、彼女からも話を聞いて、家族事情を知っていた。
「…それが何ですか。いくらあなたでも、関係ないでしょう?」
「大アリなんですねこれが。生徒間で問題を起こされても困るので」
これがきっかけとなって学園の存続に関わる問題でも起きれば、せっかくここまで大きくなったヘブンズエデンの名も失墜する。それだけは避けたかった。だからなにかしらの事情を抱える生徒に対しては、理事長であるエドガー自らが対応しているのだ。
「お宅は娘さんをウチの寮に送ることで、厄介払いができたつもりになっているでしょう。」
「そ、そんなこと…」
その通りだ。空子の力を気味悪がっていた康太郎と詩織は、ようやくいなくなったと安堵していた。エドガーにそこを指摘され、言い淀む。
「…それでいいと、本当に思っているんですか?我が子を自分から遠ざけて、それが人間のやることだと、本気で思っているんですか?」
「…」
答えられない。
「自分の子を愛せない親が、親になれると思っているんですか?彼女は、あなた方のことを忘れていないというのに。」
「…!!」
結局空子は帰還を決意した。二人が親だということを、大切な存在だということを忘れていなかったからだ。
「嫌いな親のことを、話せるわけがない。それでも話してくれるということは、あなた方のことが大好きな証拠ですよ。」
「でも、去年空子は帰ってこなかったんですよ!?」
「後ろめたいだけです。だから帰ってきた時に謝って、いっぱい甘やかしてあげて下さい。」
子供の心を考えてあげれば、子供は必ず応えてくれる。家族なのだから。
「理事長先生が…」
話を聞いた康太郎は、エドガーが言っていたことを詩織にも話し、こうして空子を迎えたのだ。
「…ごめんなさい。普通の子とちょっと違うってだけで、あんなにつらくあたってしまって…」
「可哀想なことをしてしまったと思っている。お前だってこんな力、欲しくて持ってるわけじゃないのにな…」
詩織と康太郎は、今までしてきたことを詫びる。親である自分達が守らないで、誰が子を守るというのか。子にとって一番の味方は、親でなくてはならないのに。
「…お父さぁん…お母さぁん…!!」
夢にまで見たこの光景。それが現実になったことを知り、空子は泣きながら、今度は自分から二人に抱きつく。
「大好きだよ…ずっと…ずっと大好きだよぉ!!」
本当に久しぶりに、空子は甘えた。二人もそれを受け入れた。狙撃というアーミースキルを持つこと以外は、普通の女の子と何も変わらない空子。彼女はようやく、家族の愛を取り戻したのだった。
*
「で、そんなお前も結局合宿に参加することにした、と。」
八月一日。ゲイルは空子に訊いた。
「ええ。強くなりたいのはあたしも同じだし、与えられた力は最大限に活かさなきゃ。」
「ポジティブだね。でも空子らしいかな」
アンジェは笑った。
「それじゃ、行こうぜ!」
狩谷は仲間とともに転移装置に入る。
「いざ、強化合宿へ!」
レスティーは拳を突き上げた。
強化合宿が始まる。物語の舞台は、マサチューセッツ州へ。
…はい!というわけで、次回からとうとう強化合宿に行くわけですが、舞台はマサチューセッツ州です。クトゥルフ好きなら、ピンと来た方もいるのでは?
お楽しみに!




