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第十三話 神々の死闘

アデルvsビャクオウ、開幕。

「…アンジェ、下がっていろ。」

「ゲイル…」

自分に寄り添うアンジェを突き放し、プライドソウルを構えるアデル。

「あなたなら付き合ってくれると思っていました。とても嬉しいですよ」

「ぬかせ!!」

アデルはビャクオウに飛びかかった。放たれるプライドソウルの一撃を、ホワイトスイーパーで受け止める。

「お前らやめろ!!」

「もう戦いは終わったのよ!?」

「お前達は手を出すな!!」

狩谷と空子の制止も振り切り、二人は斬り合う。

「理事長からいろいろ聞きましたが、やはり自分で体感するのが一番です。現時点でのあなたの全力を見せてください」

ビャクオウは、アデルにまだリミッターが二つの残されていることを知っている。だから、現時点での、と言った。

「言われなくても見せてやる。クトゥグアドライブ!!」

奥の手の一つ、クトゥグアドライブを発動して、パワーで押しきろうとするアデル。

「ふ…」

ビャクオウはそれを直接受けようとはせず、さばく。いかにビャクオウとはいえ、クトゥグアドライブ発動時のアデルとまともに斬り合えば、無事では済まない。

「いつまでも逃げられると思うな!!」

アデルはビャクオウの右腕を強引に掴んで回避を封じ、プライドソウルで斬りかかる。当然、ビャクオウはそれをホワイトスイーパーで受け止めた。どうやらパワーはアデルの方が上らしく、少しずつだが押していけている。

(押しきる!!)

さらに力を込める。だが、

「ぐはっ!!」

みぞおちを殴られ、アデルは吹き飛んだ。


この時、読者の皆様はおかしいと思わなかっただろうか。


現在ビャクオウは右腕を封じられ、左腕も塞がっている状態。アデルを殴り飛ばせる状況ではないのだ。


なら、どうやって殴ったか。


確かに、この状況で腕が二本しかない人間にそんな芸当はできないだろう。


そう、二本の腕では無理。


だが、もし三本目の腕があったら?


普通に考えて、それはあり得ない。しかし、現実に起きている。




ビャクオウの腹から三本目の腕が生えているという、あり得ない出来事が。



「な、何だありゃあ!?」

「腹から腕が!!」

あまりの光景に驚く狩谷と空子。アデルのみぞおちを殴ったのは、この腕なのだ。

「これが二つ目の能力、パーフェクトチェンジです。」

パーフェクトチェンジとは、生物機械大きさを問わず、どんなものにも変身できる能力である。その能力を応用すれば、こんな具合に身体から手足を生やすこともできるのだ。

「私に死角は存在しません。デビルズエイリアス!!」

言ってから、ビャクオウは腕を消し去り、三十体ばかりの分身を生み出す。

「ちょっと!!これってあんまりじゃない!?完全にリンチだよ!!」

「戦場にそんな言葉はありません。殺れ!」

アンジェの抗議を無視し、分身達に号令を下すビャクオウ。これだけの数に襲われてはひとたまりもない。

「ならスピードで圧倒する!!ハスタードライブ!!」

アデルはハスタードライブを発動し、チャウグナルファングを装備する。チャウグナルファングでパワーを補い、ハスタードライブのスピードを利用して一気に勝つ戦法だ。アデルのスピードはビャクオウを上回り、分身達を次々に破壊していく。そして、あっという間に分身を全滅させ、

「ブラッディファング!!」

ビャクオウを斬りつけた。

「ぐうっ…!!」

ダメージを受けたビャクオウはよろめき、後ずさる。

「俺の勝ちだエリック。」

誰がどう見ても勝敗は明らか。だが、

「…ふふふ…」

ビャクオウは笑っている。

「…?」

もう戦闘の続行はできないほどのダメージを与えたはず。アデルはビャクオウの笑いに警戒していた。


その時、


「うっ…!!」

アデルの腹から、刃が突き出す。

「ゲイル!!」

アンジェは惨状を見て叫んだ。

「私がこんなに簡単にやらせると思いますか?」

声はアデルの背後から。

「エリック…!?」

今斬りつけたはずのビャクオウが、無傷でアデルの背後に立ち、ホワイトスイーパーの刃を突き刺している。すると、目の前にいたビャクオウが消えた。

「分身…だと…!!」

「ええ。あなたが分身と戦っている間に、入れ替わらせてもらいました。」

「どういうことだ!?ずっと見てたが、入れ替わったようには見えなかったぜ!?」

狩谷が見た時、ビャクオウは一歩も動かずに分身達を見守っていた。入れ替わった素振りなど、全く見せなかったのだ。

「気付くはずはありません。私の三つ目の能力を使ったのですから」

ビャクオウは三つ目の能力、イリュージョンナイトメアを発動していた。これはありとあらゆる存在が持つ全ての知覚能力を騙し、幻覚を見せるというもの。視角聴覚などの五感はもちろん、レーダーなどに偽の情報を流すこともできるのだ。

「例えあなたがパワーとスピードで私を超えようと、私にはそれを凌駕する技と戦略がある。」

デビルズエイリアス、パーフェクトチェンジ、イリュージョンナイトメア。この三つの能力を持つビャクオウの力は、相手の虚を突く戦い方を得意としているエリックと、非常に相性がいい。先ほど分身達があっさりやられたのも、油断させて本命の一撃を喰らわせるためにわざとやったこと。アデルはビャクオウの術中に嵌まっていたのだ。

「これで終わりです。」

ホワイトスイーパーの刃にエネルギーを込めていくビャクオウ。

「やめろエリック!!もう勝負は着いたろ!!」

「あなた本当にゲイルを殺すつもり!?」

狩谷と空子は懸命に呼び掛け、ビャクオウを思い留まらせようとする。しかし、

「殺します。」

ビャクオウは冷淡に、あまりにも冷淡に言い放った。

「ゲイルだけは…この男だけは…!!」

声に憎しみを込めながら、刃のエネルギーを強めていく。

(こうなれば…!!)

まともに組み合っても勝てない。となれば、取るべき道は一つ。

「エンドオブ…!!」

(今!!)

「イグニスドライブ!!」

ビャクオウが必殺技を発動する寸前に、アデルはイグニスドライブを発動。

「ファンタズマ!!!」

刃がアデルを斬り裂く前に、アデルは炎化して脱出した。クトゥグアドライブも発動した状態なので、炎化も使えるのだ。

「ちっ…面倒な…」

失敗したことに悪態をつくビャクオウ。

(今回は、四分以上は持たせたいものだな…!!)

戦った感じからも、ビャクオウからはダース以上の力を感じた。ならば、イグニスドライブは必要不可欠。今後のことも視野に入れて、この戦いで少しでも長く発動維持ができるよう、アデルは考えている。

「それがあなたの全力ですか。」

「そうだ。望み通りに見せてやったぞ!」

今にもぶつからんばかりの気迫を放ち、二人は互いに武器を構えた。


「もうやめて!!」


それに向かって、アンジェは制止の声をかける。

「何で!?何でそこまでしてエリックはゲイルを殺したいの!?ねぇ何で!?」

「ゴミは黙っていなさい。あなたの出る幕ではありません」

ビャクオウはアンジェの問いを聞き入れない。

「ゲイルもゲイルだよ!!どうしてエリックと戦うの!?同じメタルデビルズなんだし、殺し合いに付き合う理由なんてないよ!!」

仕方なく、アンジェはアデルに問いかけた。確かに、最初からアデルがビャクオウの挑戦状をはね除けていれば、こうはならなかったはずだ。そもそも、戦う理由があったとして、殺される理由はない。ただ模擬戦に負けた、それだけだ。

「理由なら、ある。」

「えっ…?」

アンジェはアデルの言ったことの意味がわからず、呆然と声を漏らした。アデルはもう一度説明してやる。

「…俺には、こいつとの殺し合い付き合う理由がある。」

「…それって…それって一体何!?」

「…この戦いが終わったら話す。今は待っていろ」

「…ふふふ…ふはっはっはっ!!!」

アデルの説得に割って入るように、ビャクオウの笑い声が響いた。

「終わったら話す?まさかあなた、生きて帰れるとでも思っているのですか?だとしたらとんだ思い上がりだ!!あなたは死ぬ!!私が殺す!!今!!この場で!!」

憎悪の慟哭。吐き出されるビャクオウの、エリックの憎しみ。と、ビャクオウは突然声を柔らかなものに戻した。

「まぁ、遺言なら言わせてあげましょう。教えてあげなさい」

自分にも教えて欲しい、とは言わない。それは、わかっているから。アデルが、ゲイルがこの殺し合いに付き合わなければならない理由を知っているからだ。しかし、アデルはそれを話さない。ただビャクオウを睨み付け、

「俺は死なない。」

とだけ言った。

「…強がりもここまでです!!」

これに怒ったビャクオウは、遂に全力を出す。

「トラペゾヘドロン、出力最大!!」

ビャクオウの全身からエネルギーが吹き出した。ビャクオウの全身を構成する金属の名は、ロイヤルスチール。エドガーが名付けた中では珍しくクトゥルフ神話の邪神の名前が入っていないが、問題はそこではなく、ビャクオウの動力にある。それはナイアルフォースと、万能機関トラペゾヘドロン。ナイアルフォースはエドガーが発見したエネルギーで、トラペゾヘドロンはエネルギーコア。しかし、ただのコアではない。浮遊装置や各特殊能力の発動キーなどの役目も兼ねており、それゆえ万能機関と呼ばれる。これはビャクオウの意思一つで、様々な効果をビャクオウにもたらすのだ。

「勝負だエリック!!」

イタカウイングを展開し、空へと舞い上がるアデル。

「面白い!!」

ビャクオウは空を飛んで追いかける。二人の邪神はぶつかり合いながら、宇宙へと消えていった。

「もう…!!」

見かねたアンジェは、二人を止めようと翼を広げるが、

「よせ。」

狩谷が止める。

「どうして!?」

「もう俺らにどうこうできる相手じゃねぇよ。それにゲイルが言うんだから、何かあるんだろ。信じようぜ」

「でも…」

「大丈夫。」

今度は空子が止めた。

「信じましょう、ゲイルを。」

「…うん。」

アンジェは聞き入れ、覚醒を解く。













宇宙では、人知を越えた死闘が展開されていた。

「ふんっ!!」

ビャクオウが何十体もの分身を放ち、

「うおおおおおお!!!」

アデルが炎と風をエネルギーに変化してプライドソウルに乗せ、閃光の斬撃として分身を全滅させる。しかし、隙を作って斬りかかっても、

「甘い!」

イリュージョンナイトメアを駆使した攪乱戦法でかわされ、クリーンヒットさせられない。

「私とあなたは何もかもが違う!!」

背後に回り込んだビャクオウは、アデルの背中にエネルギー弾を撃ち込む。アデルは直撃を受けながらも振り向き、ビャクオウを斬った。しかし、相手は分身ではなく、かといって本体でもない。イリュージョンナイトメアで見せた、幻。

「あなたは何も知らない!!戦うことの意味を!!殺すという行為がどういうことなのかを!!」

再度背後に回り込んだビャクオウは、今度は何発もの榴弾を放つ。

「ぐううっ…!!」

アデルはそれに耐えながら、プライドソウルをブラスターモードに切り替えて、光線を撃った。

「だが私は知っている!!私は戦いの中で生まれ、殺し合いの中で育った!!私が生まれて一番最初に何を習ったか、わかりますか!?」

回避に成功したビャクオウは射撃をしながら、自分の内心を吐露していく。

「銃の撃ち方です!!その次は人の殺し方!!その次は戦場での生き残り方!!言葉も教養も後回しだったんですよ!!あとは全部独学です!!そうしなければ生き残れなかった!!」

エリックが生きてきた世界は、地獄そのもの。その中で泥まみれ血まみれになって戦い、戦って戦って戦って、戦い続けたエリックの心は、いつしか壊れてしまっていた。殺戮と争いみを好む存在へと、勝利のみを求める存在へと、変化してしまっていた。普段は爽やかな好青年に見えるエリックも、その内心は凶暴。周囲の存在全てを、排除すべきゴミとしか見られないほど、狂っていた。

「そんな私が、あなたのような戦いも知らないゴミに負けるわけがない!!だが、私は負けた!!許せない!!だからあなたは死なねばならない!!私の手で殺されなければならない!!」

エリックにとって、自分がゲイルに負けたことは決して認められず、また許せなかった。そんな許されざる存在を抹殺すること。

「それが、あなたが私と殺し合わねばならない理由です!!」

ビャクオウがホワイトスイーパーを向けると、銃身がスライドするように展開した。展開された銃身に、凄まじいエネルギーが集束していく。対するアデルもダゴンとヒュドラを持ち、エネルギーを込める。


そして、


「ギャラクティックエンドブレイカァァァァァァァァーーッッ!!!!!」


ビャクオウは極太の光線を。


「ルルイエセメタリィィィィィィーーッッ!!!!!」


アデルは巨大なエネルギー弾を、それぞれ撃った。しかしビャクオウの必殺技、ギャラクティックエンドブレイカーの威力は圧倒的で、イグニスドライブを発動して威力を格段に高めたルルイエセメタリーさえ掻き消してしまう。撃ったらそれで終わりのエネルギー弾とは違い、光線は撃ったあとも照射が続けられ、威力を上げることができるのだから当然だ。

「終わりです!!消えなさい!!!」

さらに威力を上げるビャクオウ。対するアデルは、

(これしかない!!)

右拳にありったけのエネルギーを込め、

「アクセラレーションパァァァァァァァァンチッ!!!」

イタカウイングの出力を最大にして突撃した。

「愚かな…自分から消滅しに来るとは…」

その血迷ったとしか思えない行動を見ながら、ビャクオウはさらに威力を上げる。

(せめてバリアを張ればいいものを…)

エドガーから話を聞いて、ビャクオウもアデルがバリアを使えることは知っている。もっともバリアを使われたら使われたで、それも消滅させるつもりでいたが。


しかし、信じられないことが起こる。アデルが繰り出した拳は、光線を貫いて突き進んでいるのだ。

「なっ!?」

驚くビャクオウ。アデルはこれを狙っていた。

(守りに入っても破られるだけだ。なら俺は、奴の力を力で破る!!)

守ればそれだけ付け入る隙を与えてしまう。ならば、攻め。攻めて攻めて、細工をする暇も与えなければいい。

「うおおおおおおおおおおおおお!!!」

ギャラクティックエンドブレイカーを突き破り、拳を放つアデル。だが、それを喰らったビャクオウは消えてしまう。

(読んでいたぞエリック!!)

「そこだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

アデルは自分の背後に振り向き、プライドソウルを突き刺した。

「ぐっ!?」

声がして、何もないはずの空間に、何かが現れる。ビャクオウだ。プライドソウルに腹を貫かれたビャクオウだ。

「な、なぜわかった…!?」

イリュージョンナイトメアはレーダーも誤魔化すことができる。色彩を使った時とは、わけが違う。気付くはずはない。その答えを、アデルが出した。

「これだけ何度も背後に回り込まれていれば、馬鹿でも気付く!!」

戦闘において最も有利な場所は、敵の背後。エリックはその過去から、無意識に相手の背後に回り込む癖ができてしまっている。今朝の模擬戦の時もそうだった。予測さえしていれば、対処ができる。

「終わりだエリック!!」

刃にエネルギーを込めながら、アデルは押し込んでいく。

「エンドオブソウル!!!」

アデルの突撃は加速し、二人は地球の引力圏内へ。

「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおああああああああ!!!!」

ビャクオウは断末魔を上げ、アデルともども地上に落下していった。













地上で待ちぼうけをくっている三人。

「おい、あれ…」

最初に気付いたのは、狩谷だった。彼が目にしたのは、真っ赤に燃えながら落ちてくる、何か。

「あれ、ゲイルとエリックだわ!」

次に、驚異的な視力を持つ空子が、落ちてくるものの正体に気付く。空子が目にしたのは、大気との摩擦で燃えながら落ちてくる、アデルとビャクオウ。

「こっちに来る!!」

最後にアンジェが、二人がこちらに向かって落ちてくるのを目にし、

「逃げろ!!巻き込まれるぞ!!」

狩谷が退避警告を出した。急いで逃げ出す三人。そして、アデルとビャクオウは落ちた。落ちる寸前でアデルが減速をかけたため、周囲への被害はそれほどない。

「ご…おお…!!」

呻くビャクオウはオーバーロードを起こし、変身が解けていた。アデルはプライドソウルを引き抜いて変身を解き、エリックの上から降りる。

「…また…負けた…」

苦しみながら、呆然と呟くエリック。敗北。二度目の敗北。リベンジマッチに、エリックは負けた。

「改造までしたのに…全てを懸けて腕を磨いたのに…ここまでやっても…勝てないのか…」

「…そういえば聞いていなかったな。お前は俺が改造されていることを突き止め、自分から改造してもらったらしいが、いつから俺が改造されていたと気付いていた?」

「…あなたに負けて、すぐですよ…」

息も絶え絶えなエリックは、ゲイルの質問に答えた。


ゲイルとの戦いに負けたあの日、エリックはなぜ自分が負けたのかを必死で考えていた。二人が戦ったのは、あの日が初めてではない。あの日まで、二人は何度も戦った。結果はエリックの圧勝。ところが数日後、ゲイルの力は突然急激に強まり、エリックの攻撃の一切が通じず、エリックは負けたのだ。こんな短期間で、ここまでゲイルが強くなるはずはない。となれば、ゲイルが何かしたのは明白。続いて模擬戦時のゲイルの感じが、かつて自分が戦ったロボットに似ていることを思い出したエリックは、ゲイルが機械に改造されたのではないかと推理する。そして、それだけの技術の持ち主をエドガー以外に知らなかったエリックは、エドガーを直接問い詰め、ゲイルが改造されたことを聞き出したのだ。

「そこまで自分一人の力で気付いたってのかよ…」

「あたし達だって、ゲイル本人から聞くまでわからなかったのに…なんて推理力…」

狩谷と空子はエリックの頭の回転の早さに驚く。

「戦いでは、頭脳も要求されます。生まれた時から、傭兵として活動するうちに、自然と身に付いたもの、ですよ。ついでに改造された際、アンジェ・ティーリの話も、聞きました。」

エリックがアンジェの姿を見ても全く驚かずスルーしたのには、そういう理由があった。

「彼女の心の拠り所となって欲しいと言われましたが、拒否しました。理由がありませんからね」

例えアンジェがエンゼリオンと人間のハーフであろうと、エリックにとってそんなことは問題ではない。ゴミか、否か。敵か、味方か。彼にとって他者の判断材料など、それしかない。

「私だって、あなたみたいな人に心の拠り所になんてなって欲しくない。」

アンジェからも、きっぱりと断られた。

「…さっきお前は、俺とお前が殺し合う理由について言っていたが…」

それはともかくとして、ゲイルはとある事実を言う。


「あれはお前が俺を殺す理由であって、俺がお前との殺し合いに付き合う理由じゃないぞ。」

「!?」


あれはエリックからの一方的な憎悪。ゲイルがエリックとの殺し合いに付き合う理由は、別にある。

「ゲイル、戦いは終わったんだから、話してくれるよね?」

「…ああ。」

ゲイルはアンジェの問いに頷き、話した。


「エリック。俺にとってお前は、目標だった。」


「っ!?いきなり何を…!?」

当時のエリックは、文句なしのヘブンズエデン最強だった。

「あれくらい強くなれたらと何度も思った。だから俺はずっと、お前に挑戦していたんだ。」

エリックに勝てるくらい強くなったら、ミライの無念も晴らせるだけの強さに、かなり近付く。そう思って、何度もエリックに挑戦した。そしてとうとう、ゲイルはエリックに勝利した。最初はゲイルもそれが信じられず、平常心を装いながら、実はずっと喜んでいた。

「だが、それは俺の力じゃなかった。あくまでも改造によって得た、アデルの力だ。」

それからゲイルはエドガーから聞いたのだ。エリックが、どれだけ悲惨な過去を持つのか。知って、後悔した。ずっとずっと勝利を重ねてきたエリックに、敗北の傷を付けてしまったことを。自分が改造されたことを知ってからは、さらに後悔した。エリックに、そんな偽りの力で勝利してしまったことを。

「勝者がいるということは、必ず敗者がいるということ。敗者の中には、勝者を恨む者もいる。お前のようにな」

「…」

エリックは黙って聞いている。

「俺は取り返しのつかないことをしてしまった。だから俺には、お前の憎悪を受け止める義務がある。それが、お前との殺し合いに付き合う理由だ。」

勝者は敗者の想いを背負わなければならない。しかしその想いは、ゲームや漫画でよくあるような、後を託すとかそういう綺麗なものばかりではないのだ。

「…ふざけないで下さい…」

そして、それに納得できない者もいる。

「罪滅ぼしだとでも言うのですか!!情けだとでも!!そんなもので、この私と…!!」

死にたくなるような思いだった。負けた挙げ句に情けをかけられるなど、エリックにはたまったものではない。

「殺しなさい!!あなたから下らない情けをかけられるくらいなら、死んだ方がマシです!!」

「俺はお前を殺さない。理由がないからだ」

「!!」

自分がこれだけ殺意と憎悪を振り撒いているのに、ゲイルは殺さないと言った。殺す理由がないと。ゲイルはただ単にエリックを殺したくないだけ。しかし、エリックはこう勘違いしてしまった。ゲイルは自分を、殺す価値もない相手だと判断したと。

「…いいでしょう。ならば私は諦めません」

エリックは開き直った。

「何度でもあなたに挑みます。そして必ず、あなたを殺す!!」

対するゲイルは、その挑戦を受ける。

「何度でも来い。その度に俺は、お前の憎悪を受け止める。」

そして、アンジェ達を見て、次にロケットを見た。

「俺には守るべきものと、果たさなければならないものがある。それを果たすまで、俺は死ねない。俺はそのためにヘブンズエデンに来た」

それから、エリックを見た。

「エリック。お前はなぜここにいる?何のために、ヘブンズエデンに来た?」

「…あなたに教えるつもりはありません。」

ダメージをあらかた回復したエリックは立ち上がり、

「知ったとしても、あなたには絶対に理解できませんよ!!」

よろめきながら、去っていく。



「ゲイル!!」

危機が消えたのを察したアンジェは、ゲイルに飛び付いた。

「大丈夫!?医務室とか行かなくていいの!?」

「手酷くやられたが、大丈夫だ。」

ゲイルはゆっくりとアンジェの両肩に手を置いて、身体から離した。

「ったく、面倒臭いやつだよなエリックって。」

「自分勝手で感じも悪いし。」

狩谷と空子はゲイルの心配をしながらも、去っていくエリックから目を離さない。

「…仕方ないさ。」

ゲイルもエリックの背を見送り、呟いた。


「俺はそれだけのことをしたんだ。」





結局、その日一日、エリックがヘブンズエデンに戻ることはなかった。





ただ戦いと勝利を求める男、エリック。彼との和解はかなり難しそうです。


というわけで、今回はビャクオウの能力全てが明らかになりましたが、アデルに負けず劣らずのチートです。アデルが力なら、ビャクオウは技ですね。ビャクオウの基になったナイアルラトホテップ自体が、力ではなく技で勝負するタイプの神なんで。まぁそれでも、地球の二~三個は容易く破壊できる力の持ち主ですが。



次回はいよいよ、あの組織が動き始めます。お楽しみに!またお会いしましょう!

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