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第十二話 帰ってきた男

今回から新章突入です!

早朝。

ゲイルは理事長室に呼び出されていた。

「君も知っての通り、アデルには複数のリミッターがかけてある。君が頑張ってくれたおかげで、それももうすぐ全て解除できるというわけだ。」

エドガーはコンピューターを操作し、モニターに出しながら説明する。アデルは強すぎるために複数のリミッターをかけられ、武器や能力が封印されており、リミッターを解除する度にそれらを使えるようになる。また、アデル自体の戦闘力も強化されていく。今まで解除されたリミッターは、合計八つ。一つ目はアデルへの変身。二つ目はイタカウイングの解禁。三つ目はチャウグナルファング。四つ目はダゴンとヒュドラ。五つ目はクトゥルフサンクチュアリ。六つ目はハスタードライブ。七つ目はクトゥグアドライブ。八つ目はイグニスドライブだ。

「残るリミッターは、あと二つ。」

あとわずか二つで、アデルの力が全開になる。

「…俺にその力を制御できるだろうか…」

ゲイルは呟いた。ついこの前使えるようになったイグニスドライブでさえ、まだ制御できていない。一つリミッターを解除しただけで、そこまでアデルの力が上昇したのだ。あと二つのリミッターも、一つ一つが凄まじい力を封印していることだろう。今までのリミッターとは、全く質が違う。

「やってもらうしかないよ。アデルは君で、ヴァルハラを滅ぼせるのは君しかいないんだから。」

その通りだ。やるしかない。

「…そう、君でなければならない。」

「…相変わらず話すつもりはないのか。」

ヴァルハラの何かを知っている素振りを見せるエドガーだが、

「ああ。」

まだ真実を語ろうとはしなかった。

「だが、これくらいは話しても大丈夫だろう。元々そのつもりで呼び出したんだから」

と思ったが、少しだけ、情報をくれるそうだ。

「ヴァルハラの盟主の名は、ミレイヌという女性だ。」

「ミレイヌ…」

遂に明らかになった、敵組織のトップの名前。ミレイヌさえ倒せば、ヴァルハラは崩壊する。

「だが、そう簡単にいくとは思わないことだ。彼女の力は、まさしくヴァルハラ最強。それに、トップソルジャーや三将軍という厄介な側近もいる。」

「トップソルジャー?」

「トップソルジャーとはその名の通り、ボーグソルジャーを統率する特別な改造人間のことだ。もっとも現トップソルジャーのフィスは、強さを求めて再改造を繰り返した結果、もう人間とも呼べない存在になってしまったが。」

「三将軍というのは?」

「ヴァルハラの最高戦力と呼ばれる、三人のボーグジェネラルのことだ。ボーグジェネラルの力は、トップソルジャーより強い。それが三人いることから、三将軍と呼ばれるようになった。」

エドガーは今後必ず戦うことになる強敵達について説明してやる。


三将軍及びヴァルハラの頭脳を務める『智将軍』マヴァル。戦闘を専門とし、ヴァルハラの守りを一身に引き受けている『闘将軍』ゴーザ。三将軍最強の実力を持つ『大将軍』ネイゼン。人間に戻れなくなるほど再改造をしたフィスも含めて、全員がダースとは比べものにならない強さだろう。

「そいつらを全員倒さなければ、ミレイヌの撃破は不可能というわけか。」

「だね。そもそもこの四人を一度に相手にして勝てる強さがなければ、ミレイヌには到底敵わないよ。いや、正直それでも勝てるかはわからない。まぁそこまで強くなれば、一撃死は避けられるだろう。」

人を絶望させるようなことを平気で言うやつだ。と思うゲイルだが、気休めを言っても仕方がない。実質それだけ強いのだろう。

「…相手がどれだけ強かろうと、それ以上に俺が強くなればいいだけの話だ。」

「その通りだよ。」

「…話は終わりか?」

「ああ。付き合わせて悪かったね」

これで話は終わりらしい。

「…一つだけ聞かせて欲しい。」

と、ゲイルは最後に質問した。


「今の俺がミレイヌと戦ったら、どうなる?」


今の自分の力が、ヴァルハラの盟主にどこまで通用するかという質問。その質問に、エドガーは正直に答える。


「全く通用しない。彼女の前に立った時点で、もう敗北が確定していると思った方がいい。」


エドガーがゲイルを呼んだ本当の理由。それは、イグニスドライブを発動して強敵を倒したとはいえ、いい気になるなと戒めるためだ。

「そうか。」

ゲイルは理事長室から出ていく。当然、浮かれてなどいない。今の自分では届かないことくらい、わかっている。だからこそ、今以上に強くなるべき。

(まずはイグニスドライブを制御することから始めないとな)

目標を決めて、自分の教室に入るゲイル。




しかし、彼は自分の席に着く寸前で気付いた。




とある席に座っている者に。




長らく座る者がいなかった席に、座っている男に。





その席は、ゲイルの席から二つほど前にある。





席二つ分の距離の先に、白い髪と白い肌で、白いコートと白いズボンを着用した生徒が座っている。





生徒は立ち上がり、振り向いてゲイルに語りかける。





「久しぶりですね、ゲイル。」





いつしか静まりかえっていた教室。





ゲイルは、自分に話しかけた生徒の名前を呟いていた。





「…エリック」

















「やれやれ、寝坊しちまったぜ。」

狩谷はヘブンズエデンへの道を急いでいた。まだホームルームには時間があるが。

「ゲイルはもう行っちまったよな。急がねぇと!」

友人を待たせてはいけない。そう思った狩谷は、さらに急ぐ。


校庭入った狩谷。と、彼は様子がおかしいことに気付く。そこかしこで、生徒達がひそひそ話をしているのだ。

「どうしたんだ?」

そのうちの一つに、狩谷は事情を聞く。話し合っていたのは、二人組。男子と女子だ。

「じ、実は…」

女子が怯えたような顔をしている。その後、男子が続けた。

「…エリックさんが帰ってきたらしいんだ。」

「っ!!エリックが!?」

それを聞いた狩谷は、全速力で校舎に駆け込む。

(なんてこった!!俺はなんて日に寝坊しちまったんだ!!)

エリックは模擬戦でも負けなしを誇るエリート訓練生。皇魔とレスティーとは、また違った意味で恐れられている。二人が恐れられている理由は、戦った時の被害が大きいから。巻き込まれることを思って、である。ところがエリックの場合は、全く違う。実はエリックは、皇魔とレスティーより強い。この二人より強く、また非常に厄介な性格の持ち主でもあるため、エリックの場合は最強最悪の訓練生として恐れられていたのだ。だが、そのエリックを唯一倒した者がいる。ゲイルだ。しかも、ゲイルとエリックのクラスは同じ。何かない方がおかしい。

(とにかくゲイルとエリックを会わせねぇようにしねぇと…!!)

狩谷は教室に飛び込んだ。

「ゲイル!!」

だが、すぐに手遅れであることに気付く。



二人は既に遭遇していたのだ。互いに睨み合い、凄まじい威圧感を出している。狩谷が目をやると、空子とアンジェはもう来ていた。アンジェはいつもの明るさが消えて、真剣な顔でゲイルとエリックを見ている。空子もまた同じで、何が起きても対処できるよう、ギガトラッシュをギターケースから出していた。ちなみに、皇魔とレスティーは我関せずといった感じでホームルームの準備をしており、さだめは目尻に涙を浮かべて完全に怯え、光輝は彼女を守る体勢を取っている。



重苦しい雰囲気が流れる中、先にそれを崩したのはエリックだった。



「やめましょう。今このクラスで問題を起こしても面倒です」

爽やかな笑顔でそう言ったエリックは再び自分の席に座る。

「ああ。」

ゲイルもそれに習った。

「…ふう…」

狩谷は雰囲気が変わったのを感じて、ようやく自分の席に座る。

「しかしいきなり帰ってくるとはな…」

「あたしもびっくりしたわ。」

「もう何ヵ月も経つもんね。」

狩谷、空子、アンジェは安堵して、おしゃべりを始めた。が、

「何の連絡もなしに帰ってきたのは謝りますよ。」

エリックが言葉を発したのを聞いて、また雰囲気がピリピリしたものに変わる。

「ただ私も、少し時間がかかる任務に行っていたんです。」

「…お前でもてこずることってあるんだな。」

狩谷は少し驚いた。エリックを倒せた者は、今まで一人だけ。だが、その一人以外には誰にも負けたことがない。そんな彼がてこずる任務があったこと。狩谷はそれが信じられなかった。

「いささか厄介な任務ですよ。」

と、ここでエリックの性格の一部が露呈する。



「あなたのようなゴミには絶対に達成できない任務です。」



一見爽やかな美青年に見えるエリックだが、彼は自分以外の存在をゴミとしか見ていない。そして、人目もはばからず平気でそれを言う。それが、エリックの性格の一部だ。どう考えても周囲に敵を作る性格だが、そのことに関しては誰も文句を言わない。

「…」

嫌そうな顔をしながらだが、狩谷ですら大人しく引き下がった。理由は簡単。エリックが強すぎるから。逆らったところで、誰も敵わない。またエリックは自分に逆らう者を決して許さず、彼に逆らって殺された生徒は数知れない。この点から、エリックに関わりを持つことは生徒達からタブーとされてきた。

「ああそうだ。ゲイル」

と、エリックは振り向く。

「ホームルームが終わったら、一戦付き合って下さい。『今度は負けませんから』」

笑顔で一部を強調し、エリックは頼んだ。

「…ああ。」

ゲイルは無表情のまま了承する。エリックは満足そうに頷き、顔を戻す。

「ゲイル。死なないで」

空子はゲイルに言った。













ホームルーム終了後、ゲイルとエリックは模擬戦フィールドに立った。

「いつでもいいぞ。」

プライドソウルを構えるゲイル。

「ふっ…」

対するエリックは、不敵に笑うだけだ。その反応に、ゲイルは疑問を覚える。

「…武器を使わないのか?」

そう、ただ笑っているだけで、武器を出そうとしないのだ。探してみても、どこにもない。すると、

「待っていましたよその言葉を。あなたに見せたかったんです」

エリックが手をかざした。それと同時に光の粒子が発生し、それはとある武器の形を形成する。自動拳銃型のガンブレード。ホワイトスイーパーと名付けられた、エリックの武器だ。

「!!」

これにはゲイルも驚く。プライドソウルと、まるっきり同じ出し方なのだ。

「おい!今の…!!」

ギャラリーとして来ていた狩谷も驚いた。

「どういうこと!?これじゃあまるで…!!」

「まさかエリックも!?」

同じく見物に来ていた空子とアンジェも驚く。いや、見学に来ていた生徒全員が目を疑っていた。ちなみに、二年C組の生徒全員が来ている。

「どういうことだ?前はそんなことはできなかったはず…」

それらを代表するように、ゲイルが尋ねた。

「私はあなたと同じ力を得ました。」

このエリックの返答から考えられるのは、エリックはゲイルが改造人間だと知っている、ということ。そしてもう一つ、わかることがある。



それは、エリックも改造されたということだ!



「得られた力はほぼ同じ。それなら、力の差はあの時と同じになる。これがわからないあなたではありませんよね?」

問いかけながらホワイトスイーパーを向けたエリックは、


「私の勝ちです。」


躊躇うことなく引き金を引いた。ホワイトスイーパーはプライドソウルと違い、発砲機能を潰していない。だから撃てるのだ。

「くっ!」

ゲイルはそれを最小限の動きでかわす。ゲイルの頭を外れて飛んでいった弾は、14m先にあった核シェルター並みの強度の壁に、深く突き刺さって爆発した。

「ゴム弾なんて必要ないでしょう?どうせこの程度で死ねる身体ではないのですから。」

いや、エリックが今撃った弾は人間体時のダースの頭を吹き飛ばすほどの威力がある。当たり所が悪ければ、ゲイルでも死んでしまう。しかしゲイルは、

「…そうだな。」

と答えた。

「死線ならいくらでもくぐり抜けている。」

「ほほう…ならば…」

エリックはホワイトスイーパーの照準を、ゲイルの頭に向ける。

「試してみましょうか。」

そして撃った。エリックは完全にゲイルを殺すつもりでいる。だが、ゲイルもただでやられはしない。飛んでくる銃弾をかわして、エリックの懐に飛び込んだ。

(もらった!)

しかし、ゲイルがそう思ったのも束の間、

「ふん!!」

エリックは膝蹴りを繰り出す。

「くっ…!!」

ゲイルはのけぞってかわし、宙返りして着地した。すぐまた仕掛けようとするが、エリックはいない。


それもそのはず、エリックはゲイルが着地するまでの間に、彼の背後へと回り込んでいたのだ。


「…はっ!!」

すぐ気付いて、左にサイドロールする。ゲイルがいた場所を銃弾が貫いた。

「うまいうまい。よくかわしましたね」

拍手してみせるエリック。本気など出していない。エリックは遊んでいた。だが、当然ゲイルもまだ本気ではない。

「はぁっ!!」

体勢を立て直し、エリックに斬りかかる。

「ふっ」

エリックはそれをかわし、自らもホワイトスイーパーで斬り結んだ。


ぶつかり合う二つの刃。一見均衡しているように見えるこの戦いだが、実は、ゲイルの方が劣勢だ。エリックも本気を出したらしく、徐々に圧されてきている。

「防戦一方じゃねぇか…!!」

狩谷が言った通り、今のゲイルはまさにそれだ。素早いエリックの攻撃をかわし、絶対に背後を取らせないようにしている。だが、それだけ。ゲイルからは攻めていない。理由は、攻められる余裕がないから。

「ならば!!」

しかし、ここで攻めに転じる。

「うっ!?」

アーミースキルを発動し、エリックの背後を爆破した。エリックの体勢が崩れ、

「今度こそ…!!」

ゲイルが斬り込む。


だが、これは罠だった。


「ふふっ」

エリックの姿がかき消え、ゲイルの攻撃は空振りする。

「で、出た!エリックのアーミースキル!」

光輝はその様を見ておののいた。そう、これこそがエリックのアーミースキル、『色彩』である。色を操るアーミースキルで、自分の身体を周囲の色に溶け込ませ、迷彩効果を得ることができる。だが、これだけではない。エリックはこの能力を併用して、恐ろしい戦法を展開してくるのだ。

「…」

その戦法に備えるべく身構え、気配を探るゲイル。エリックの気配の消し方は、完璧だった。近くにいるはずなのに、どこにいるか全くわからない。と、


コロコロ…。


石の転がる音がした。ゲイルは思わず、音源へと斬りかかる。だが、そこにエリックはいなかった。

(しまった!)

同時に、自分がエリックの術中に嵌まったことを知る。


ドゴッ!!


「ぐあっ!!」

ゲイルは後ろからエリックに蹴り飛ばされた。姿は見えないが、間違いなく蹴りだ。すかさず体勢を立て直そうとするゲイルだが、その前にまた蹴りを喰らう。ガードしても、ガードした方向とは別の方向から、打撃をもらってしまう。かといって闇雲に斬りかかっても、反撃を受ける。



これが、エリックが最も多用する戦法。



エリックは戦争地帯で生まれ、何よりも戦い方を仕込まれて育った、いわば生まれながらの傭兵。ゆえにエリックは相手の油断を誘うこと、それから相手の意識の隙を突く戦い方を得意としており、一度嵌まったら相手が死ぬか、エリックが飽きるまで踊らされ続ける。今のゲイルのように。

「ゲイルがやられちゃう…!!」

「本当にゲイルを!?」

アンジェと空子は、あまりにもエリックの攻撃に容赦がないため、ゲイル死んでしまわないかと心配する。


だが、この二人だけは違った。


「あれで終わる男ではあるまい。」

「まだ逆転できるわ。」


皇魔とレスティーだ。そして、その予想は現実となる。全く見えないし気配も掴めないはずのエリックの攻撃を、ゲイルが止めたのだ。

「止めた!?」

姿が見えないのでどんな攻撃をしてきたのかはわからないが、狩谷の目には確かにそう映った。間もなくしてエリックが迷彩を解き、姿を現す。エリックはホワイトスイーパーを振りかざしており、ゲイルはそれを止めていた。

「止めましたか。」

「俺も今までの俺じゃないんでな…!!」

再び斬り合う二人。ちなみに、今ゲイルがエリックの攻撃を見切った原理についてだが、それはゲイルが改造人間であるということが関係している。ゲイルの頭の中には、高性能なレーダーが搭載してあるのだ。目でも気配でも居場所がわからず、耳が騙されるという状況なら、レーダーを使う以外にない。幸いにも、エリックが誤魔化せるのは色だけ。レスティーのように完璧なステルスはかけられない。

「はっ!!」

「!!」

そして、ゲイルとエリックが互いの首に互いの得物を突きつけるのは、ほぼ同時だった。引き分けだ。

「…十分です。さすがに、何もしていなかったわけではないようですね」

エリックはホワイトスイーパーを下ろし、模擬戦フィールドから出ていった。

「…ふう…」

ようやく一息ついたゲイルも、フィールドを出る。

「ゲイル!!」

そんな彼を、アンジェが抱き締めて迎えた。

「よかった…殺されちゃうんじゃないかって…」

「…離れろ。俺は無事だ」

「あ、ごめん。」

アンジェは離れた。よく見ると、ゲイルはボロボロである。幸い叩き込まれたのは打撃だけで済んだが、それでもこの有り様。エリックがどれだけ化け物じみているかよくわかる。

「ったくヒヤヒヤさせやがって…」

「ゲイル!大丈夫!?」

引き上げていくギャラリーを掻き分け、狩谷と空子も来た。

「ああ。危うく殺されかけたが、大丈夫だ。」

「本当に大丈夫?医務室に行った方がよくない?」

「行くなら付き添うよ?」

「いや必要ない。もう治り始めている」

光輝とさだめに、ゲイルは傷を見せてやる。自己修復機能が働き、ダメージはもう治りつつあった。

「ずいぶんと苦戦していたようだな。お前が引き分けに持ち込まれるとは…」

「それだけエリックが腕を上げたってことでしょ。」

「…それもある。」

ゲイルは皇魔とレスティーに、エリックがパワーアップした理由を伝える。

「奴は俺と同じ力を得たと言っていた。つまり、奴も改造されたということだ。」

これは、全員が理解できた。そうでなければ、ホワイトスイーパーの出し方が説明できない。以前のエリックは、ホワイトスイーパーを腰に提げて携帯していた。だが、あんな風に出したことは一度もない。

「…理事長に訊いてみる必要がある。」

エリックを改造した者がいるとしたら、それは一人しか思い付かない。


エドガー・サカウチ。ゲイルをメタルデビルズ・アデルに改造した、あの科学者だ。












クルセイドキャッスル。

マヴァルは自室へ、ケリスというボーグソルジャーを呼び出していた。

「お呼びでしょうか、マヴァル様。」

「うむ。今すぐヘブンズエデンに行き、メタルデビルズ・アデルを倒すのじゃ」

マヴァルはケリスに、ゲイルの抹殺を命じる。

「は?しかしミレイヌ様は、アデルには極力手を出さないようにと…」

だが、ミレイヌからアデルとは出会った時のみ交戦しろと言われており、私的に戦うことは禁じられているのだ。それはマヴァルもわかっている。だから、少し後押しする。

「そう。だが、お前も知っておろう?ダースが敗れたことを。」

ケリスはダースと仲が良く、そのためダースが倒されたと聞いた時は一番悲しんでいた。

「ダースを倒したアデルを、お前は許せるのか?それに、アデルを放っておけばお前の仲間も、わしの部下達も大勢死ぬ。ヴァルハラそのものが危機にさらされるのじゃぞ?」

「それは…」

「責任は全てわしが取る。アデルの死については、事故とでも言っておけばわかりはせん!」

「…わかりました。」

マヴァルの説得によって、了承するケリス。

「お前はわしの直属の部下。期待しておるぞ」

「…行って参ります。」

ケリスは部屋を出る。それから、マヴァルは呟いた。

「ミレイヌ様が何を考えておられるかはわからんが、アデルを放置しておくなど危険すぎる。一刻も早く始末せねば…!」













「理事長。訊きたいことがある」

「何だねいきなり。」

理事長室に入ったゲイルは、単刀直入に訊く。

「エリックを改造したのはあんたか?」

「…」

エドガーは少し黙った。そして、

「ああ。彼は確かに、私が改造したよ。」

あっさり白状した。

「なぜだ。メタルデビルズは、俺一人で十分じゃなかったのか?」

「私もそう思ったんだが、どうしても改造して欲しいって聞かなくてね。」

「…何?エリックは、自分で望んだのか?」

「ああ。」

エドガーの話だと、エリックはどういうわけかゲイルが改造人間であることを突き止め、自分から改造されることを志願したらしい。

「一体どうやって…」

ゲイルが改造されていたことは、ゲイル自身もつい最近になって知ったこと。他の誰も知るはずがない。

「一番詳しいのはエリックだ。訊きたいことがあるなら、彼に訊くべきじゃないかね?」

「…そうする。」

言われて、ゲイルは理事長室から出ていった。

「まぁ、私としては戦力が大いにこしたことはないが。」

エドガーは一人呟く。













エリックを捜すゲイル。道行く生徒達に聞いて回っているが、見つからない。

(どこに行ったんだ?)

と、見つけた。エリックの後ろ姿が見える。

(しかしこうしてみると…エリックは目立つな…)

髪も肌も服も白一色なのだ。よく目に付く。しかし、今はそんなことを思っている場合ではない。

「エリック!」

ゲイルがエリックに声をかけた、その時、


「貴様がアデルだな!?」


ゲイルとエリックの間に、全身に鏡を装備した怪物が現れた。周囲がたちまちパニックになる。

「俺の名はケリス!!ダースの仇を取りに来た!!」

「ボーグソルジャーか…!!」

「行くぞ!!」

拳を振りかざして襲いかかってくるケリス。

(ここではまずいな…)

「来い!!」

ゲイルはケリスを、街の方へ誘導する。

「…」

エリックは全く慌てず、その光景を黙って見ていた。そこへ、

「おい!何の騒ぎだ!?」

狩谷、空子、アンジェの三人が来る。

「エリック!何があったか知らない!?」

空子の質問に、エリックは無言で指を差した。そこには、ゲイルがケリスを誘導する姿が。

「ボーグソルジャー!?」

「行こう!!」

狩谷は驚き、アンジェが二人を連れて走る。

「…一応お手並み拝見と行きますか。」

エリックも、気付かれないように後を追う。













「アデル、起動!!」

ケリスを人のいない空き地に誘導したゲイルはアデルに変身し、プライドソウルを構える。

「お前の強さは知っている。だが、簡単に勝てるとは思うな!!」

ケリスがそう言った瞬間、アデルは驚く。ケリスが全身に装備している鏡から光が放たれ、その光の中から別のケリスが生まれたのだ。これが、ケリスの能力。ケリスは鏡から自分の分身を作ることができる。ケリスが装備している鏡の数は、胸、背中に一枚ずつ。両手両足に六枚ずつの計十四枚。よって、分身の数も十四体だ。

「何体いようと関係ない!!」

アデルはそれに怯まず、プライドソウルで立ち向かう。だが、数が違いすぎる上に多人数での戦いに慣れているケリスはアデルを翻弄し、一方的にダメージを蓄積させていく。

「ならまとめて吹き飛ばすまでだ!!」

アデルは武器をダゴンとヒュドラに切り替え、必殺技を放つ。

「ルルイエセメタリー!!!」

しかし、

「甘い!!」

分身を含めた全員がガードすると、ルルイエセメタリーが跳ね返されてしまった。

「何!?ぐああああ!!!」

吹き飛ばすつもりが、逆に吹き飛ばされるアデル。

「俺の鏡はあらゆるエネルギー攻撃を跳ね返す!!まとめて倒そうとしても無駄だ!!」

「…ならば…!!」

アデルはエネルギーを込め、今喋ったケリスに向けて拳を叩き込んだ。

「アクセラレーションパンチ!!!」

ケリスは粉々に吹き飛ぶ。だが、

「無駄だ!!」

叫んだ分身の鏡から、ケリスが出てくる。

「本体分身を含めた全てを一度に倒さない限り、何度でも復活できる!!お前一人では俺に勝てない!!」

「くっ…」

何とも厄介な相手だ。


しかし、


「一人じゃないよ!!」


アンジェが剣に変化させたアークスを手に飛び込み、

「レイブレード!!」

刀身にエネルギーを込めて、ケリスの一体を両断した。

「俺達だっているぜ!!」

「みくびらないでよね!!」

狩谷がダークハンターで斬り捨て、空子がギガトラッシュで数体をまとめて撃ち抜く。

「分身だからかずいぶん脆いな…けどこれなら、すぐにカタがつくぜ!!」

狩谷は意気込んだ。

「俺の力を舐めるな!!」

分身を補充するケリス。

「気合い入れろよゲイル!!」

「あたし達がついてるわ!!」

「一緒に頑張ろう!!」

「ああ!!」

三人がアデルを勇気づけ、本当の戦いが始まる。




だが、状況は好転しなかった。分身達は耐久力こそヘルポーンより少し上程度しかないが、戦闘力自体は本物と同じ。そのため、狩谷とアンジェの二人は徐々に追い詰められる。しかも分身達は本物ごと全てをまとめて仕留めなければならないので、そうならない限りいくらでも補充される。空子の弾はもう尽きかけていた。

「みんな、下がって!!」

ここでアンジェが呼び掛ける。すると、アンジェの背中に翼が生え、顔に炎のような刺青が現れた。

「これがアンジェちゃんの…」

「すごい…本当に天使みたい…」

アンジェの本来の姿に魅了される狩谷と空子。実はこの姿、ゲイル以外の者にはまだ見せていなかった。アンジェとしても、非常に勇気がいる作業だからだ。

「シャイニングフェザーストーム!!!」

翼を広げたアンジェは、大量の羽を弾丸として撃ち出す。

(これなら!!)

アデルは勝利を確信した。シャイニングフェザーストームは、エネルギー攻撃ではない。エネルギーで強化されただけの、ただの羽だ。ケリスの鏡を突破し、倒すことができる。しかし、そう簡単にはいかなかった。

「舐めるなと言ったはずだぞ!!」

ケリスが叫んだ瞬間、分身達が本物の周辺に駆け付け、エネルギー化。球状のバリアを形成し、シャイニングフェザーストームを防ぎきってしまった。攻撃を防ぎ終えたバリアは、分身に戻る。

「そんなのアリかよ!?」

思わぬ能力に脱帽する狩谷。

「だったらプラチナアローシューティングで…!!」

「よせ!!奴の鏡はエネルギー攻撃を反射する!!お前の矢が跳ね返されてくるぞ!!」

「うっ…!!」

アンジェは自分の最強技を放とうとしたが、アデルから与えられた情報を聞いて思いとどまる。

(こうなったらイグニスドライブを使うしかない。だが…)

制御できるか、それが問題だった。あの時はうまくいったが、今回もうまくいくとは限らない。使ったとたんに解除されるかもしれないし、エネルギーが暴走してアンジェ達を巻き込むかもしれないのだ。


アデルが決断を悩んでいたその時、


「だらしないですね。この程度の相手に何をてこずっているのか…」


傍観していたエリックが飛び込んできた。

「エリック!!」

「仕方ありません。あなた達には少し荷が重い能力の持ち主ですし、ここは私が引き受けましょう。」

驚いているアデルの前で、エリックはホワイトスイーパーを出した。

「貴様はエリック!!」

「まさかヘブンズエデンに直接仕掛けるだけの度胸があるとは思いませんでしたよ。私があなた達の拠点をいくつも落としたから、焦っているんですかね?」

それこそが、エリックが約一年にも渡ってヘブンズエデンから離れていた理由だ。改造されたエリックはエドガーから、ヴァルハラの各拠点を潰して回るよう依頼を受けていたのである。

「ではお見せしましょう。私の力を」

そして、エリックは見せる。改造によって得た、メタルデビルズの力を。



「ビャクオウ、始動。」



エリックが変身したのは、禍々しいながらも神々しさを放つ、白い邪神。その姿はアデルに少し似ている。

「美しいでしょう?これが私の力、メタルデビルズ・ビャクオウです。本当は別の名前が付けられるはずだったんですが、私の希望でこの名前にしてもらいました。何せ私は、純白が好きなものでしてね。」

エリックは潔癖症である。そして何よりも美しいものを好み、それゆえ何にも染まることのない純白を愛している。

「では見ていなさい。美しき完全勝利を!」

変身したところで、ビャクオウはホワイトスイーパーをケリスに向けた。ホワイトスイーパーもプライドソウルと同様に、刃が長く、銃口が大きくなったアサルトモードに変化している。

「いきがるな!俺の分身殺法に勝てるか!!」

「では私も能力を発動させてもらいます。」

当然、ビャクオウも特殊能力を持っている。彼はその一部を発動することにした。












ビャクオウはアデルのように多数の武器や能力を持っているわけではない。使える武器はホワイトスイーパーだけで、使える能力も三つだけだ。しかし、それでもビャクオウの力はアデルに匹敵するほど強い。


その理由は、単純にビャクオウの三つの能力が、アデルの複数の武器や能力に届くほど強力だからだ。というのも、ビャクオウはアザトースの従者、ナイアルラトホテップを基にしたメタルデビルズだからである。


ナイアルラトホテップとは千の姿を持つといわれる邪神で、どんなものにも姿を変えることができる。また、複数の姿に分裂することも可能だ。それを踏襲した能力を、ビャクオウは使える。

「デビルズエイリアス!!」

今ビャクオウが発動したのは、デビルズエイリアス。分身を生み出す能力だ。

「なっ!?」

「私が生み出せる分身の数は、最大で百体。さすがに本家のナイアルラトホテップのように千体とはいきませんが、あなたには十分でしょう?」

この能力を使って十四体の分身を生み出したビャクオウは、ケリスの分身、そして本体にそれぞれ張り付き、ホワイトスイーパーの刃にエネルギーを込める。そして、

「エンドオブファンタズマ!!!」

全てのケリスを斬り捨てた。

『ぐわあああああああああああ!!!!』

断末魔を上げて分身もろとも爆発するケリス。戦闘開始からわずか数十秒で、ビャクオウはアデル達が苦戦した難敵を殲滅した。分身達はオーバーラップするようにして、本体に戻る。

「すげぇ…」

「これが…エリックの…」

「メタルデビルズ…ビャクオウ…!!」

圧倒的な力を見せつけたビャクオウの前に、ただただ驚愕するばかりの狩谷、空子、アンジェ。そんな中、アデルは一人進み出て、

「助かった。礼を言う」

握手を求めた。


しかし、


「何か勘違いをしていませんか?」


ビャクオウは握手をしない。それどころか、



アデルを斬りつけた。



「ぐあっ!!!」

体勢を崩すアデル。

「ゲイル!!」

アンジェはアデルに駆け寄った。

「エリック!!何をするの!?」

「てめぇどういうつもりだ!!」

ビャクオウを問い正す空子と狩谷。

「私はその姿のゲイルと戦うために、邪魔者を始末しただけです。」

冷淡に言ったビャクオウは、ケリスにやったように、アデルにもホワイトスイーパーを向ける。



「さぁ、朝の模擬戦の続きです。一緒に遊びましょう」




いやぁ、技名とか武器名とか能力名とか考えてたら、遅くなりました。


今回は以前から名前だけが出ていたヘブンズエデン最強の訓練生、エリック・アンダーソンの登場回。及び、メタルデビルズの二号機、ビャクオウの変身回です。今回は三つの能力の一つを明かしましたが、次回は残り二つの能力も明かしますので、お楽しみに!



では、次回でまたお会いしましょう!

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