イグニスドライブ PART2
お待たせしました。長編第二話です。
ダースとの戦いは、見逃してもらったような形で終了し、ダースから襲撃を受けた光輝とさだめ。とばっちりでダメージを受けた狩谷と空子は、ヘブンズエデンの医務室に運ばれた。
あまり知られていないが、ヘブンズエデンの医療施設は、並みの病院よりもずっと整っている。現在におけるあらゆる病気に対する特効薬とか、欠損した四肢を復活させるための細胞復元装置とか、メンタルカウンセリングとか、例だけでもきりがない。まぁ、傭兵を育成する機関なのだ。大怪我でもされて再起不能になられたら、学園の信用が落ちる。幸い四人とも軽傷で済んだので、夜中には帰宅できるそうだ。
*
翌日。
「いやぁ、心配掛けさせちまったな。悪い悪い」
狩谷はからからと笑いながら登校してきた。
「もう大丈夫なの?」
「ええ。すっかり元気」
心配するアンジェに、空子は元気そうに振る舞ってみせる。
「僕も大丈夫だよ。」
「私も。」
光輝とさだめも大丈夫そうだ。
ただ、
「…」
ゲイルは大丈夫ではなかった。いや、ダメージは自己修復能力で完全に回復しているのだが、心のダメージまでは回復していない。
「お前にも心配させちまった。すまねぇ」
「…いや。」
狩谷の謝罪に、ゲイルは一言だけ返す。
「…ごめんね。」
空子も謝る。
しばらくして、ゲイルは言った。
「俺から距離を置け。」
「…えっ?」
空子は最初、ゲイルが言ったことの意味がわからなかった。突然距離を置けと言われても、どういうことかわからない。
「狩谷、アンジェ。お前達もだ」
「な、何だよゲイル!」
「どうしちゃったの!?」
「…奴の目的がわかった。」
「「「!!」」」
三人とも驚く。
「目的がわかったって?」
「あのボーグソルジャーは何をしようとしてるの?」
光輝とさだめものってくる。ゲイルは話した。
「奴の目的は、俺の周囲の人間だ。」
「それって…」
「どういうこと?」
アンジェと空子が尋ねる。
ゲイルは皇魔よりも先に、ダースが襲っている生徒が二年C組の生徒だということに気付いた。そのあたりから、ダースが本当に狙っているのは、自分の周囲の人間ではないかと予想していた。
「昨日の戦いで、俺は確信した。奴は間違いなく、俺の周囲の人間を狙っている。」
それは、ダースが昨日やったことが決定的だった。ダースが狩谷と空子を攻撃した時のこと。本当ならあの時、ダースは二人ではなく、ゲイルを攻撃するべきだった。ゲイルはアデルであり、ヴァルハラにとって最も倒さなければならない相手だからだ。最優先で倒すべきなら、全ての攻撃をゲイルに向けねばならない。だが、ダースはそれをしなかった。自分にとって何ら脅威にならない狩谷達を狙ったのだ。
「でも、それって考えすぎじゃない?」
「そうだよ。第一、何でそんなことするんだ?」
空子と狩谷は訊く。
「知るか。とにかく、もう俺に近付くな。」
ゲイルも、なぜダースがそんな真似をするのか理解できない。
「んなこと言われて、黙って引き下がると思ってんのか!」
「お前達が離れないなら、俺が離れる。」
ゲイルは狩谷の言葉を無視して、教室から出ていった。
「待ってよゲイル!」
追いかけるアンジェ。
「俺達も行くぞ!」
「ええ!」
「僕達も!」
「うん!」
四人も追う。
「…」
そんな喧騒を見て、皇魔はゆっくりと席を立った。
「行くの?」
レスティーが、自分の席に座ったまま問いかける。
「このままにしておくわけにもいくまい。」
「…じゃあ私も行く。」
「好きにするがいい。」
こうして、二人もゲイル達を追いかけることになった。
*
「待ってったら!」
街の一区画。逃げるように歩くゲイルの手を、アンジェが掴んだ。
「触るなっ!」
ゲイルはアンジェの手を振り払う。
「どうして!?どうしてそんな風に全部一人で解決しようとするの!?」
「黙れ!!俺さえいなければ奴はお前達を狙わない!!俺さえ消えれば、お前達は助かるんだ!!」
「そんなことであいつが退くと思うの!?」
「それしかない!!俺には奴を倒せないんだ!!」
「諦めないでよ!!」
口論を続ける二人。
「私は信じてるもん!!ゲイルは絶対に負けないって!!」
「いい加減にしろ!!」
「!!」
ゲイルはアンジェを無理矢理黙らせた。
「…お前に何がわかる…」
「…えっ…」
「お前に俺の何がわかるかと訊いているんだ!!失うことへの恐怖も悲しみも知らないくせに、俺につきまとうな!!」
ゲイルは自分の周囲と関係を持つことに、躊躇いがあった。あのテロの時のように、自分の近くにいる者を死なせたくなかったからだ。自分のことに他人を巻き込んでしまうことが、怖くてたまらない。それはアンジェ達との触れ合いで、薄れつつあった。アンジェ達なら大丈夫。いや、せめて彼女達とだけは一緒にいたい。そう思い始めていた。
しかし、ダースのせいでゲイルのトラウマはぶり返してしまった。それに、過去の過ちを繰り返すわけにはいかない。繰り返したくない。だからこそ、ゲイルは自分から離れる道を選んだ。仲間の手を、突き放す決意をした。
「…もう俺には関わるな。俺は……一人でいい。」
ゲイルは別れを告げて、アンジェから離れる。
「…」
アンジェは、何も言わない。何も言えない。ゲイルの抱える苦しみは、痛みは、彼女の予想を遥かに超えていたのだ。
「アンジェちゃん!」
「アンジェ!」
そこへ、狩谷と空子が追い付いてきた。
「お前ら歩くペース速すぎだよ!」
「ゲイルは!?」
「…今は一人にしておいた方がいいよ。ちょっと、パニックになっちゃってるみたいだから。」
アンジェは、ゲイルが永遠の孤立を望んでいることは語らず、ただ一人になりたいと言っていたと話した。
(…それでも、私は信じてる)
しかし、例えゲイルにどんな過去があろうと、アンジェは確信している。
(…あなたなら、絶対に乗り越えられるって…!!)
その時、爆発が起きて三人は吹き飛ばされた。
「ぐああっ!!」
「きゃあっ!!」
「あうっ!!」
ただの爆発ではなく、砲撃。そして、砲撃を行ったのは、
「くくく…」
ダースだった。
「て、てめぇは…!!」
「また会ったな訓練生ども。しかし、あの邪神は見事なまでに我らの計略にかかってくれた。」
「計略!?」
空子はダースの言葉に驚く。
「そうだ。我らの狙いは、アデルをお前達から引き離すことにこそある。我らの計画の中核を成す、貴様を手に入れるためにな。」
そう言ってダースが指差したのは、アンジェだった。
「アンジェを!?」
空子は再び驚く。
「我らの盟主は、どういうわけかアデルへの手出しを避けておられてな。アデルを遠ざけつつ目的の存在を手に入れるには、こんな回りくどい作戦を立てる必要があったということだ。」
二年C組の生徒を狙うと見せかけて、ゲイルの周囲の人間を狙う。ゲイルは確かにそこに気付いた。だが、ヴァルハラの目的はその先にあったのだ。ゲイルがここまで気付くこと、そして仲間から離れようとするところまで想定内だった。むしろ、そう誘導することがヴァルハラの計画だったのだ。最も危険な相手が消えたところで、目的の存在、アンジェをさらう。ここまでが、ヴァルハラの計画。
「何でアンジェちゃんを狙うんだ!?ゲイルならともかく、この子は関係ないだろ!?」
狩谷の疑問は当然。だが、
「…まさかその女が何者か知らずに行動していたのか?無知とは恐ろしいものだな。」
と逆に驚かれた。
「だが、そこまで教えてやるほど俺は甘くない。さあ来てもらうぞ、アンジェ・ティーリ。ヴァルハラのために」
アンジェが何者であるか、それを教えるメリットは、ダースにはない。種明かしはここまでということだ。
「くそっ!!」
狩谷は素早くダークハンターを組み立て、
「ふざけないで!!」
空子もギガトラッシュを出し、
「そんなことさせないわ!!」
ダースの顔面に狙いを定めて、三発撃った。狙撃を発動して撃ったため、弾は三発とも、狂いなくダースの顔面に命中する。しかし、
「効かんなぁ。」
戦車も一撃で破壊する弾丸を三発喰らったにも関わらず、当のダースは全くの無傷だ。
「ロックンロールハリケーン!!」
今度は狩谷がロックンロールハリケーンをぶつける。ダースの姿は突風に隠れて見えなくなったが、これでも恐らく効いてはいないだろう。
「…アンジェ、逃げて。」
「何で!?私も戦う!!」
空子はアンジェに逃げるように言う。
「ただ逃げるんじゃないわ。ゲイルを連れてきてもらうのよ」
「俺達の力じゃ、あのボーグソルジャーには勝てねぇ。だが、時間稼ぎくらいはできる!!」
「でも…!!」
「早く行って!!長くはもたないわ!!」
空子が言った瞬間、風の中からブーメランブレードを両手に持ったダースが飛び出してきた。
「行けぇぇ!!」
狩谷は玉砕覚悟で突っ込み、ダースのブーメランブレードを受け止めた。
「…!!」
アンジェは二人を救うため、ゲイルを呼びに行く。
「逃がさん!!」
「おわっ!!」
狩谷をはね飛ばし、アンジェを捕らえようとするダース。
「ぐおっ!!」
だが、直後に空子の砲撃を受け、すっ転んだ。
「貴様ら…!!」
怒りに身体を震わせ、ダースは立ち上がる。そこへ、
「ここにいたのか!」
「みんな、大丈夫!?」
狩谷達を見失い、街で迷っていた光輝とさだめが合流した。
「いいところに来たな。」
「アデルが来るまで、時間稼ぎを手伝って!!」
「う、うん!!」
「わかった!!」
空子の要請を受けて、二人は互いの武器を抜く。
「何人来ようと同じだ。一瞬で終わらせてくれる!!」
ダースはブーメランブレードを振りかざし、突撃してきた。
*
「ゲイル!!」
アンジェはようやくゲイルの姿を発見し、駆け寄る。
「…言ったはずだ。もう俺に関わるな!!」
「ボーグソルジャーが!!」
「何!?」
アンジェが追いかけてきたことに怒ったゲイルだったが、アンジェの言葉を聞き、顔色を変える。
「ボーグソルジャーの目的は私だったの。あいつがゲイルの周りの人を襲ったのは、ゲイルを私から引き離すためで…」
「どういうことだ!?ダースがお前を狙っていただと!?」
「とにかく来て!!空子達が…!!」
「…チッ!!案内しろ!!」
「こっち!!」
ゲイルは空子の案内に従って、ダースを倒しに向かう。
一方、時間稼ぎ組は劣勢だった。いや、劣勢という言葉すら生ぬるい。あれからダースに攻撃を仕掛けたが、ギガトラッシュの砲撃も、狩谷の風と鎌も、光輝とさだめの刀とハルバードと雷も、ダースには傷一つ付けられず、ボロボロにされてしまった。
「まだ…!!」
しかし、空子は諦めない。
「まだよ…!!」
最後の力でギガトラッシュにレールガンアタッチメントを取り付け、スイッチを入れる。照準は、ダースの心臓。
「ハウリングシュート!!!」
引き金を引く。だが、
「馬鹿め!!」
それはダースが展開したバリアに阻まれ、届かない。
「あ…うあ…」
遂に力尽きた空子は、ギガトラッシュを取り落とし、うつ伏せに倒れ込む。
「く…空子…!!」
狩谷は傷だらけの身体で、空子の身を案じる。
「僕達の力が…」
「まるで通じない…!!」
光輝とさだめも、もう戦える身体ではなかった。
「お前達の力などその程度のものだ。あのアデルとて、この俺に敗北した!!」
「…ふざけんじゃ…ねぇぞ…!!」
「アデルは…負けたりなんか…しないわ…!!」
言葉で精一杯の抵抗をする狩谷と空子。
その時、
「!!」
気配を感じたダースは、ブーメランブレードでそれを受け止めた。
アデルを。プライドソウルの一撃を。
「アデル!!」
光輝の顔が希望に輝く。狩谷が近くを見ると、そこには心配そうな顔をしてこちらを見る、アンジェの姿が。
(やっぱり…な…)
(来て…くれた…!!)
ゲイルはまだ、本当の意味で自分達と縁を切ったわけではなかった。狩谷と空子は、それがたまらなく嬉しい。
「フン…懲りずにまた来おったか!!」
ダースはアデルの攻撃を跳ね返し、互いに距離を取って再び斬り合う。
「貴様の力は俺には通じん。まだ理解できていないのか?」
「理解していないのはお前の方だ。」
「何?」
再度距離を取るアデル。
「はっ!!」
ダースはそれを見計らい、ブーメランブレードを二本とも投げつける。
「クトゥグアドライブ!!」
タイミングを合わせたアデルはクトゥグアドライブを発動。炎化し、攻撃を受け流した。
「ほう…そうだな。まだ貴様は全力を出し切っていなかった」
ダースは、アデルのクトゥグアドライブを知っている。ヴァルハラが回収したアデルの戦闘データに、確かにあったからだ。
「だが、もしそれで勝てると思っているなら、それは間違いだ。全力を出しても、勝てんものは勝てん。」
「間違いかどうか、判断するのは俺だ!!」
アデルはチャウグナルファングを装備し、ダースに斬りかかる。チャウグナルファングとクトゥグアドライブの相乗効果で、今のアデルのパワーは通常時の十二倍以上だ。
「…なるほど。確かに、パワーなら俺を上回っているな。」
ブーメランブレードで止めたダースだが、少しずつ押し込まれている。
「…だが!!」
突然、ダースの姿が消えた。
「ぐあっ!!」
消えたダースはアデルの背後に現れ、アデルを蹴り飛ばす。今度はアデルの正面に現れ、斬りつけた。次に右、左と移動し、アデルを圧倒する。パワーでは凌駕していても、スピードまで凌駕しているわけではない。炎化も間に合わない連撃の前に、
「はぁっ!!」
アデルは自分の周囲に炎の爆発を引き起こすことで窮地を脱出。だが、これはあくまでも一時的な処置だ。すぐ次の手を打たなければ、また連撃が来る。そこでアデルは、次の力を見せた。
「ハスタードライブ!!」
超高速移動能力を得たアデルは、再び襲ってきたダースの攻撃をかわし、先ほどやられたように、今度は自分がダースに連撃を仕掛ける。しかし、
「効かん!!」
ダースはアデルの腕を掴んで動きを封じ、頭突きをかました。
「ぐお…お…!!」
ダメージを受けるアデル。スピードで上回ったが、今度はパワー不足だ。ブーメランブレードを消したダースに首を掴まれ、地面に叩きつけられる。クレーターができるほどのパワーに、アデルの意識は危うく飛びそうになった。
「理解できたか?貴様の無力さを!!」
さらにアデルを蹴り飛ばす。
「所詮貴様はその程度の男なのだ!!」
そして、ダースは左腕をキャノン砲に変化させ、立ち上がる途中のアデルを砲撃した。
「ぐあああああああああああああ!!!!」
あまりのダメージに吹き飛んだアデルは、蓄積されたダメージの許容量が限界を超え、変身が解除されてしまった。そう、アデルへの変身はダメージを受けすぎると、システムにオーバーロードが起きて、強制的に解除されてしまうのだ。そして負担が自己修復されるまで、再度の変身を行うことはできない。
「うっ…おおおおおおおおおおおお!!!」
しかし、ゲイルはそれにも構わずに攻撃を仕掛ける。
「錯乱したか…」
冷ややかに見下したダースは、これまた冷ややかに反撃した。
「ぐほっ…!!」
みぞおちに拳を叩き込まれ、つんのめるゲイル。
「…あああああああああああああ!!!」
もはや戦力差は明らか。だがゲイルは諦めず、ダースの身体を斬りつける。その弱々しい斬撃は、ダースに傷の一つも付けられない。
「ゲイルが…」
「アデル…だった…?」
とうとう、光輝とさだめにも正体を知られた。だが、今そんなことは問題ではない。ゲイルの命だ。
「しゃらくさいわぁっ!!」
ダースは右腕を剣に変化させ、プライドソウルもろともゲイルを斬った。
「ぐおあっ!!!」
プライドソウルは無惨に折られ、ゲイルの胸には大きな裂傷が付く。遂に、ゲイルは倒れた。
「盟主には殺すなと命令されているが、貴様の存在はヴァルハラの存亡に関わる。」
抵抗の術を失ったゲイルに、ダースはキャノン砲を突き付ける。
「さらばだ!」
ゲイルを消滅させようとするダース。
その時、
「覇道烈破!!」
「ぐおおっ!?」
強烈な覇気が、ダースを吹き飛ばした。
「ぬう!?」
ダースが睨み付けた先にいたのは、皇魔とレスティー。
「鬼宝院皇魔と、レスティー・エンプレスか…お前達のことはデザイアの首領から聞いているぞ。自分達の獲物だから手を出すなとも言われたが、災いの芽は早急に潰しておくに限る。」
ダースは一度ゲイルに突き付けたキャノン砲を、今度は皇魔達に突き付ける。
「後で口裏を合わせておくとしよう。」
「面白い。返り討ちにしてくれる!」
「私達に勝てると思ってるの?」
両者とも殺る気満々だ。
だが、戦いは起きなかった。
「もうやめて!!」
アンジェが待ったをかけたからだ。
「…あなたと一緒に行くから、もうみんなを傷付けないで。」
「アン…ジェ…!?」
ゲイルはアンジェの言葉に反応するが、オーバーロードの影響で自己修復が遅く、まだ立ち上がれない。
「…貴様…自分の立場がわかっていないのか?」
「もし私の話が聞けないなら、今ここで死ぬ。私に死なれたら困るんでしょ?」
「…よかろう。」
ダースはあっさり提案を飲んだ。
「では来い。」
右腕の武装化を解除し、ダースは何かを取り出した。リモコンだ。ダースがスイッチを押すと、空間に穴が現れる。この穴こそヴァルハラの移動手段、ジャンパーホールだ。ダースは先行してジャンパーホールをくぐる。アンジェもジャンパーホールをくぐろうとした。
「アンジェ…!!」
ゲイルはそれを見て、必死に手を伸ばす。届くはずのない手を、伸ばす。
「…」
アンジェはそれに反応して一瞬動きを止めたが、ジャンパーホールに踏み込み、完全に穴の中に入ってしまった。入ってから、アンジェは振り向く。
彼女は笑顔だった。しかし、目に悲しみと涙を一杯に溜めた笑顔。みんなが助かるなら自分一人くらいはという、自己犠牲の笑顔。そんな彼女の想いを引き裂くかのように、ジャンパーホールは消えた。
「アンジェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!!!!!」
ゲイルは彼女の名を叫んだ。苦痛と悔恨のこもった慟哭を、喉が潰れるのではないかと思えるほど、上げた。
「今治すわね。」
レスティーは傷付いた仲間達に自分の気を浴びせ、活性を発動して治癒力を促進させる。
「何でだよ…」
「えっ?」
「何でお前らは戦わなかったんだよ!!お前らなら助けられたはずだろ!!」
狩谷は、アンジェが連れていかれるのを黙って見ていた皇魔とレスティーに怒りを投げかけた。
「…奴が正々堂々と戦うと思うのか?」
しかし、逆に質問する皇魔。
「あのまま戦えば、奴は間違いなくお前達を狙っていたはずだ。これだけの人数が倒れていては、俺でも守りきれん。」
「アンジェちゃんがやったことは正しいわ。納得はできないけど」
もしアンジェが自分を犠牲にしなければ、確実に全滅していた。アンジェに救われたのだ。
「僕達が…皇魔さんとレスティーさんの足手纏いになってしまったのか…!!」
「私達が…もっと強ければ…こんなことには…!!」
「言うな。俺の未熟さにも原因はある」
悔やむ光輝とさだめを、皇魔は慰める。
「それより…」
と、皇魔はゲイルを見た。
「話してもらうぞ。ここで起きたことの全てを、包み隠さずな。」
「…」
ゲイルは拳を握りしめながら、全てを語った。自分がアデルであることも、自分をアデルに改造したのがエドガーであることも…。
アデル、完全敗北。連れ去られたアンジェを、ゲイル達は取り戻せるのか?そして、アンジェは一体何者なのか?
緊迫の次回に続く!!




