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イグニスドライブ PART2

お待たせしました。長編第二話です。

ダースとの戦いは、見逃してもらったような形で終了し、ダースから襲撃を受けた光輝とさだめ。とばっちりでダメージを受けた狩谷と空子は、ヘブンズエデンの医務室に運ばれた。


あまり知られていないが、ヘブンズエデンの医療施設は、並みの病院よりもずっと整っている。現在におけるあらゆる病気に対する特効薬とか、欠損した四肢を復活させるための細胞復元装置とか、メンタルカウンセリングとか、例だけでもきりがない。まぁ、傭兵を育成する機関なのだ。大怪我でもされて再起不能になられたら、学園の信用が落ちる。幸い四人とも軽傷で済んだので、夜中には帰宅できるそうだ。













翌日。

「いやぁ、心配掛けさせちまったな。悪い悪い」

狩谷はからからと笑いながら登校してきた。

「もう大丈夫なの?」

「ええ。すっかり元気」

心配するアンジェに、空子は元気そうに振る舞ってみせる。

「僕も大丈夫だよ。」

「私も。」

光輝とさだめも大丈夫そうだ。


ただ、


「…」

ゲイルは大丈夫ではなかった。いや、ダメージは自己修復能力で完全に回復しているのだが、心のダメージまでは回復していない。

「お前にも心配させちまった。すまねぇ」

「…いや。」

狩谷の謝罪に、ゲイルは一言だけ返す。

「…ごめんね。」

空子も謝る。


しばらくして、ゲイルは言った。


「俺から距離を置け。」


「…えっ?」

空子は最初、ゲイルが言ったことの意味がわからなかった。突然距離を置けと言われても、どういうことかわからない。

「狩谷、アンジェ。お前達もだ」

「な、何だよゲイル!」

「どうしちゃったの!?」

「…奴の目的がわかった。」

「「「!!」」」

三人とも驚く。

「目的がわかったって?」

「あのボーグソルジャーは何をしようとしてるの?」

光輝とさだめものってくる。ゲイルは話した。

「奴の目的は、俺の周囲の人間だ。」

「それって…」

「どういうこと?」

アンジェと空子が尋ねる。



ゲイルは皇魔よりも先に、ダースが襲っている生徒が二年C組の生徒だということに気付いた。そのあたりから、ダースが本当に狙っているのは、自分の周囲の人間ではないかと予想していた。

「昨日の戦いで、俺は確信した。奴は間違いなく、俺の周囲の人間を狙っている。」

それは、ダースが昨日やったことが決定的だった。ダースが狩谷と空子を攻撃した時のこと。本当ならあの時、ダースは二人ではなく、ゲイルを攻撃するべきだった。ゲイルはアデルであり、ヴァルハラにとって最も倒さなければならない相手だからだ。最優先で倒すべきなら、全ての攻撃をゲイルに向けねばならない。だが、ダースはそれをしなかった。自分にとって何ら脅威にならない狩谷達を狙ったのだ。

「でも、それって考えすぎじゃない?」

「そうだよ。第一、何でそんなことするんだ?」

空子と狩谷は訊く。

「知るか。とにかく、もう俺に近付くな。」

ゲイルも、なぜダースがそんな真似をするのか理解できない。

「んなこと言われて、黙って引き下がると思ってんのか!」

「お前達が離れないなら、俺が離れる。」

ゲイルは狩谷の言葉を無視して、教室から出ていった。

「待ってよゲイル!」

追いかけるアンジェ。

「俺達も行くぞ!」

「ええ!」

「僕達も!」

「うん!」

四人も追う。


「…」

そんな喧騒を見て、皇魔はゆっくりと席を立った。

「行くの?」

レスティーが、自分の席に座ったまま問いかける。

「このままにしておくわけにもいくまい。」

「…じゃあ私も行く。」

「好きにするがいい。」

こうして、二人もゲイル達を追いかけることになった。













「待ってったら!」

街の一区画。逃げるように歩くゲイルの手を、アンジェが掴んだ。

「触るなっ!」

ゲイルはアンジェの手を振り払う。

「どうして!?どうしてそんな風に全部一人で解決しようとするの!?」

「黙れ!!俺さえいなければ奴はお前達を狙わない!!俺さえ消えれば、お前達は助かるんだ!!」

「そんなことであいつが退くと思うの!?」

「それしかない!!俺には奴を倒せないんだ!!」

「諦めないでよ!!」

口論を続ける二人。

「私は信じてるもん!!ゲイルは絶対に負けないって!!」

「いい加減にしろ!!」

「!!」

ゲイルはアンジェを無理矢理黙らせた。

「…お前に何がわかる…」

「…えっ…」

「お前に俺の何がわかるかと訊いているんだ!!失うことへの恐怖も悲しみも知らないくせに、俺につきまとうな!!」



ゲイルは自分の周囲と関係を持つことに、躊躇いがあった。あのテロの時のように、自分の近くにいる者を死なせたくなかったからだ。自分のことに他人を巻き込んでしまうことが、怖くてたまらない。それはアンジェ達との触れ合いで、薄れつつあった。アンジェ達なら大丈夫。いや、せめて彼女達とだけは一緒にいたい。そう思い始めていた。


しかし、ダースのせいでゲイルのトラウマはぶり返してしまった。それに、過去の過ちを繰り返すわけにはいかない。繰り返したくない。だからこそ、ゲイルは自分から離れる道を選んだ。仲間の手を、突き放す決意をした。

「…もう俺には関わるな。俺は……一人でいい。」

ゲイルは別れを告げて、アンジェから離れる。

「…」

アンジェは、何も言わない。何も言えない。ゲイルの抱える苦しみは、痛みは、彼女の予想を遥かに超えていたのだ。

「アンジェちゃん!」

「アンジェ!」

そこへ、狩谷と空子が追い付いてきた。

「お前ら歩くペース速すぎだよ!」

「ゲイルは!?」

「…今は一人にしておいた方がいいよ。ちょっと、パニックになっちゃってるみたいだから。」

アンジェは、ゲイルが永遠の孤立を望んでいることは語らず、ただ一人になりたいと言っていたと話した。

(…それでも、私は信じてる)

しかし、例えゲイルにどんな過去があろうと、アンジェは確信している。

(…あなたなら、絶対に乗り越えられるって…!!)





その時、爆発が起きて三人は吹き飛ばされた。





「ぐああっ!!」

「きゃあっ!!」

「あうっ!!」

ただの爆発ではなく、砲撃。そして、砲撃を行ったのは、


「くくく…」

ダースだった。

「て、てめぇは…!!」

「また会ったな訓練生ども。しかし、あの邪神は見事なまでに我らの計略にかかってくれた。」

「計略!?」

空子はダースの言葉に驚く。

「そうだ。我らの狙いは、アデルをお前達から引き離すことにこそある。我らの計画の中核を成す、貴様を手に入れるためにな。」

そう言ってダースが指差したのは、アンジェだった。

「アンジェを!?」

空子は再び驚く。

「我らの盟主は、どういうわけかアデルへの手出しを避けておられてな。アデルを遠ざけつつ目的の存在を手に入れるには、こんな回りくどい作戦を立てる必要があったということだ。」

二年C組の生徒を狙うと見せかけて、ゲイルの周囲の人間を狙う。ゲイルは確かにそこに気付いた。だが、ヴァルハラの目的はその先にあったのだ。ゲイルがここまで気付くこと、そして仲間から離れようとするところまで想定内だった。むしろ、そう誘導することがヴァルハラの計画だったのだ。最も危険な相手が消えたところで、目的の存在、アンジェをさらう。ここまでが、ヴァルハラの計画。

「何でアンジェちゃんを狙うんだ!?ゲイルならともかく、この子は関係ないだろ!?」

狩谷の疑問は当然。だが、


「…まさかその女が何者か知らずに行動していたのか?無知とは恐ろしいものだな。」


と逆に驚かれた。

「だが、そこまで教えてやるほど俺は甘くない。さあ来てもらうぞ、アンジェ・ティーリ。ヴァルハラのために」

アンジェが何者であるか、それを教えるメリットは、ダースにはない。種明かしはここまでということだ。

「くそっ!!」

狩谷は素早くダークハンターを組み立て、

「ふざけないで!!」

空子もギガトラッシュを出し、

「そんなことさせないわ!!」

ダースの顔面に狙いを定めて、三発撃った。狙撃を発動して撃ったため、弾は三発とも、狂いなくダースの顔面に命中する。しかし、

「効かんなぁ。」

戦車も一撃で破壊する弾丸を三発喰らったにも関わらず、当のダースは全くの無傷だ。

「ロックンロールハリケーン!!」

今度は狩谷がロックンロールハリケーンをぶつける。ダースの姿は突風に隠れて見えなくなったが、これでも恐らく効いてはいないだろう。

「…アンジェ、逃げて。」

「何で!?私も戦う!!」

空子はアンジェに逃げるように言う。

「ただ逃げるんじゃないわ。ゲイルを連れてきてもらうのよ」

「俺達の力じゃ、あのボーグソルジャーには勝てねぇ。だが、時間稼ぎくらいはできる!!」

「でも…!!」

「早く行って!!長くはもたないわ!!」

空子が言った瞬間、風の中からブーメランブレードを両手に持ったダースが飛び出してきた。

「行けぇぇ!!」

狩谷は玉砕覚悟で突っ込み、ダースのブーメランブレードを受け止めた。

「…!!」

アンジェは二人を救うため、ゲイルを呼びに行く。

「逃がさん!!」

「おわっ!!」

狩谷をはね飛ばし、アンジェを捕らえようとするダース。

「ぐおっ!!」

だが、直後に空子の砲撃を受け、すっ転んだ。

「貴様ら…!!」

怒りに身体を震わせ、ダースは立ち上がる。そこへ、

「ここにいたのか!」

「みんな、大丈夫!?」

狩谷達を見失い、街で迷っていた光輝とさだめが合流した。

「いいところに来たな。」

「アデルが来るまで、時間稼ぎを手伝って!!」

「う、うん!!」

「わかった!!」

空子の要請を受けて、二人は互いの武器を抜く。

「何人来ようと同じだ。一瞬で終わらせてくれる!!」

ダースはブーメランブレードを振りかざし、突撃してきた。













「ゲイル!!」

アンジェはようやくゲイルの姿を発見し、駆け寄る。

「…言ったはずだ。もう俺に関わるな!!」

「ボーグソルジャーが!!」

「何!?」

アンジェが追いかけてきたことに怒ったゲイルだったが、アンジェの言葉を聞き、顔色を変える。

「ボーグソルジャーの目的は私だったの。あいつがゲイルの周りの人を襲ったのは、ゲイルを私から引き離すためで…」

「どういうことだ!?ダースがお前を狙っていただと!?」

「とにかく来て!!空子達が…!!」

「…チッ!!案内しろ!!」

「こっち!!」

ゲイルは空子の案内に従って、ダースを倒しに向かう。




一方、時間稼ぎ組は劣勢だった。いや、劣勢という言葉すら生ぬるい。あれからダースに攻撃を仕掛けたが、ギガトラッシュの砲撃も、狩谷の風と鎌も、光輝とさだめの刀とハルバードと雷も、ダースには傷一つ付けられず、ボロボロにされてしまった。

「まだ…!!」

しかし、空子は諦めない。

「まだよ…!!」

最後の力でギガトラッシュにレールガンアタッチメントを取り付け、スイッチを入れる。照準は、ダースの心臓。

「ハウリングシュート!!!」

引き金を引く。だが、

「馬鹿め!!」

それはダースが展開したバリアに阻まれ、届かない。

「あ…うあ…」

遂に力尽きた空子は、ギガトラッシュを取り落とし、うつ伏せに倒れ込む。

「く…空子…!!」

狩谷は傷だらけの身体で、空子の身を案じる。

「僕達の力が…」

「まるで通じない…!!」

光輝とさだめも、もう戦える身体ではなかった。

「お前達の力などその程度のものだ。あのアデルとて、この俺に敗北した!!」

「…ふざけんじゃ…ねぇぞ…!!」

「アデルは…負けたりなんか…しないわ…!!」

言葉で精一杯の抵抗をする狩谷と空子。


その時、


「!!」

気配を感じたダースは、ブーメランブレードでそれを受け止めた。




アデルを。プライドソウルの一撃を。




「アデル!!」

光輝の顔が希望に輝く。狩谷が近くを見ると、そこには心配そうな顔をしてこちらを見る、アンジェの姿が。

(やっぱり…な…)

(来て…くれた…!!)

ゲイルはまだ、本当の意味で自分達と縁を切ったわけではなかった。狩谷と空子は、それがたまらなく嬉しい。

「フン…懲りずにまた来おったか!!」

ダースはアデルの攻撃を跳ね返し、互いに距離を取って再び斬り合う。

「貴様の力は俺には通じん。まだ理解できていないのか?」

「理解していないのはお前の方だ。」

「何?」

再度距離を取るアデル。

「はっ!!」

ダースはそれを見計らい、ブーメランブレードを二本とも投げつける。

「クトゥグアドライブ!!」

タイミングを合わせたアデルはクトゥグアドライブを発動。炎化し、攻撃を受け流した。

「ほう…そうだな。まだ貴様は全力を出し切っていなかった」

ダースは、アデルのクトゥグアドライブを知っている。ヴァルハラが回収したアデルの戦闘データに、確かにあったからだ。

「だが、もしそれで勝てると思っているなら、それは間違いだ。全力を出しても、勝てんものは勝てん。」

「間違いかどうか、判断するのは俺だ!!」

アデルはチャウグナルファングを装備し、ダースに斬りかかる。チャウグナルファングとクトゥグアドライブの相乗効果で、今のアデルのパワーは通常時の十二倍以上だ。

「…なるほど。確かに、パワーなら俺を上回っているな。」

ブーメランブレードで止めたダースだが、少しずつ押し込まれている。

「…だが!!」

突然、ダースの姿が消えた。

「ぐあっ!!」

消えたダースはアデルの背後に現れ、アデルを蹴り飛ばす。今度はアデルの正面に現れ、斬りつけた。次に右、左と移動し、アデルを圧倒する。パワーでは凌駕していても、スピードまで凌駕しているわけではない。炎化も間に合わない連撃の前に、

「はぁっ!!」

アデルは自分の周囲に炎の爆発を引き起こすことで窮地を脱出。だが、これはあくまでも一時的な処置だ。すぐ次の手を打たなければ、また連撃が来る。そこでアデルは、次の力を見せた。

「ハスタードライブ!!」

超高速移動能力を得たアデルは、再び襲ってきたダースの攻撃をかわし、先ほどやられたように、今度は自分がダースに連撃を仕掛ける。しかし、

「効かん!!」

ダースはアデルの腕を掴んで動きを封じ、頭突きをかました。

「ぐお…お…!!」

ダメージを受けるアデル。スピードで上回ったが、今度はパワー不足だ。ブーメランブレードを消したダースに首を掴まれ、地面に叩きつけられる。クレーターができるほどのパワーに、アデルの意識は危うく飛びそうになった。

「理解できたか?貴様の無力さを!!」

さらにアデルを蹴り飛ばす。

「所詮貴様はその程度の男なのだ!!」

そして、ダースは左腕をキャノン砲に変化させ、立ち上がる途中のアデルを砲撃した。

「ぐあああああああああああああ!!!!」

あまりのダメージに吹き飛んだアデルは、蓄積されたダメージの許容量が限界を超え、変身が解除されてしまった。そう、アデルへの変身はダメージを受けすぎると、システムにオーバーロードが起きて、強制的に解除されてしまうのだ。そして負担が自己修復されるまで、再度の変身を行うことはできない。

「うっ…おおおおおおおおおおおお!!!」

しかし、ゲイルはそれにも構わずに攻撃を仕掛ける。

「錯乱したか…」

冷ややかに見下したダースは、これまた冷ややかに反撃した。

「ぐほっ…!!」

みぞおちに拳を叩き込まれ、つんのめるゲイル。

「…あああああああああああああ!!!」

もはや戦力差は明らか。だがゲイルは諦めず、ダースの身体を斬りつける。その弱々しい斬撃は、ダースに傷の一つも付けられない。

「ゲイルが…」

「アデル…だった…?」

とうとう、光輝とさだめにも正体を知られた。だが、今そんなことは問題ではない。ゲイルの命だ。

「しゃらくさいわぁっ!!」

ダースは右腕を剣に変化させ、プライドソウルもろともゲイルを斬った。

「ぐおあっ!!!」

プライドソウルは無惨に折られ、ゲイルの胸には大きな裂傷が付く。遂に、ゲイルは倒れた。

「盟主には殺すなと命令されているが、貴様の存在はヴァルハラの存亡に関わる。」

抵抗の術を失ったゲイルに、ダースはキャノン砲を突き付ける。

「さらばだ!」

ゲイルを消滅させようとするダース。


その時、


「覇道烈破!!」


「ぐおおっ!?」

強烈な覇気が、ダースを吹き飛ばした。

「ぬう!?」

ダースが睨み付けた先にいたのは、皇魔とレスティー。

「鬼宝院皇魔と、レスティー・エンプレスか…お前達のことはデザイアの首領から聞いているぞ。自分達の獲物だから手を出すなとも言われたが、災いの芽は早急に潰しておくに限る。」

ダースは一度ゲイルに突き付けたキャノン砲を、今度は皇魔達に突き付ける。

「後で口裏を合わせておくとしよう。」

「面白い。返り討ちにしてくれる!」

「私達に勝てると思ってるの?」

両者とも殺る気満々だ。



だが、戦いは起きなかった。



「もうやめて!!」



アンジェが待ったをかけたからだ。



「…あなたと一緒に行くから、もうみんなを傷付けないで。」

「アン…ジェ…!?」

ゲイルはアンジェの言葉に反応するが、オーバーロードの影響で自己修復が遅く、まだ立ち上がれない。

「…貴様…自分の立場がわかっていないのか?」

「もし私の話が聞けないなら、今ここで死ぬ。私に死なれたら困るんでしょ?」

「…よかろう。」

ダースはあっさり提案を飲んだ。

「では来い。」

右腕の武装化を解除し、ダースは何かを取り出した。リモコンだ。ダースがスイッチを押すと、空間に穴が現れる。この穴こそヴァルハラの移動手段、ジャンパーホールだ。ダースは先行してジャンパーホールをくぐる。アンジェもジャンパーホールをくぐろうとした。


「アンジェ…!!」


ゲイルはそれを見て、必死に手を伸ばす。届くはずのない手を、伸ばす。

「…」

アンジェはそれに反応して一瞬動きを止めたが、ジャンパーホールに踏み込み、完全に穴の中に入ってしまった。入ってから、アンジェは振り向く。




彼女は笑顔だった。しかし、目に悲しみと涙を一杯に溜めた笑顔。みんなが助かるなら自分一人くらいはという、自己犠牲の笑顔。そんな彼女の想いを引き裂くかのように、ジャンパーホールは消えた。




「アンジェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!!!!!」




ゲイルは彼女の名を叫んだ。苦痛と悔恨のこもった慟哭を、喉が潰れるのではないかと思えるほど、上げた。





「今治すわね。」

レスティーは傷付いた仲間達に自分の気を浴びせ、活性を発動して治癒力を促進させる。

「何でだよ…」

「えっ?」

「何でお前らは戦わなかったんだよ!!お前らなら助けられたはずだろ!!」

狩谷は、アンジェが連れていかれるのを黙って見ていた皇魔とレスティーに怒りを投げかけた。

「…奴が正々堂々と戦うと思うのか?」

しかし、逆に質問する皇魔。

「あのまま戦えば、奴は間違いなくお前達を狙っていたはずだ。これだけの人数が倒れていては、俺でも守りきれん。」

「アンジェちゃんがやったことは正しいわ。納得はできないけど」

もしアンジェが自分を犠牲にしなければ、確実に全滅していた。アンジェに救われたのだ。

「僕達が…皇魔さんとレスティーさんの足手纏いになってしまったのか…!!」

「私達が…もっと強ければ…こんなことには…!!」

「言うな。俺の未熟さにも原因はある」

悔やむ光輝とさだめを、皇魔は慰める。

「それより…」

と、皇魔はゲイルを見た。

「話してもらうぞ。ここで起きたことの全てを、包み隠さずな。」

「…」

ゲイルは拳を握りしめながら、全てを語った。自分がアデルであることも、自分をアデルに改造したのがエドガーであることも…。






アデル、完全敗北。連れ去られたアンジェを、ゲイル達は取り戻せるのか?そして、アンジェは一体何者なのか?



緊迫の次回に続く!!

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