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イグニスドライブ PART1

長編、スタートです。

「うわあああああああああ!!」

路上に、青年の絶叫が響いた。

「…ふん。」

やがて絶叫がやみ、青年を打ち倒した怪物は人間の男性の姿へと変わって、血まみれになって倒れている青年を見下ろす。だが、青年はまだ死んでいない。半殺し、といった感じだ。

「これで五人目…あと三人くらいやれば、気付くか?」

男は呟き、姿を消した。













ゲイルと狩谷は、全速力でヘブンズエデンの廊下を駆け抜ける。

「アンジェ!!」

「空子!!」

二年C組の教室にたどり着いたゲイルと狩谷は、クラスメイトの少女達の名を呼ぶ。

「ゲイル!」

「狩谷!」

それに応え、少女達、アンジェと空子は駆け寄ってきた。

「またやられたって聞いたが、マジか!?」

狩谷が尋ねる。

「残念だけど、本当よ。」

空子は本当に残念そうに、いや、無念そうに答えた。













ヘブンズエデンでは数日前から、とある事件が起きていた。訓練生達が何者かから、襲撃を受けるという事件だ。襲われた訓練生は幸いにも全員一命をとりとめており、死亡するには至っていないが、今日、五人目の被害者が出たらしい。

「これで五人目か…」

狩谷は危機感を抱いていた。何せ、襲撃されたのは訓練生なのだ。最低でも銀行強盗程度なら一人で鎮圧できるほどの力を持つ訓練生が、もう五人も倒された。どう考えても自然ではない。

「一体誰が…」

アンジェがただならぬ実力の襲撃犯が何者か予想していると、

「はいはい!みんな座って!ホームルーム始めるわよ!」

メイリンが入ってきた。

「もうチャイムは鳴ったんだから、さっさと座る!」

「…ゲイル、狩谷。」

「…」

「…ちっ!」

空子に促され、ゲイルは無言で、狩谷は舌打ちしながら席につく。

「みんなも知ってると思うけど、昨夜、竪彦くんが襲撃されて入院したわ。」

時雨竪彦しぐれたてひこ。襲撃された訓練生だ。

「もしかしたらみんなも襲われるかもしれないから、常に警戒心を怠らないように。」

その後、他に簡単な連絡事項をして、ホームルームは終わった。













ゲイル、狩谷、アンジェ、空子の四人は、謎の襲撃犯について話し合う。

「何者なんだろう…」

「さあな。」

アンジェの呟きに、ゲイルは素っ気なく返す。

「わかってるのは、相手がとんでもなく強いやつってことだよな。」

「ええ。」

狩谷が現時点で判明している情報を言い、空子は頷く。

「それにしても、みんな死なずに済んでるんだっけ。」

「運が良かったよな。」

アンジェは被害者達が全員生き残ったことに安堵している。


「それはどうかしら?」


そこへ来たのは、レスティーだった。

「五人も襲われたのに一人も死んでいない…そっちの方がおかしいわ。」

確かに、死んだ者が一人もいないというのは、違和感がある。ヘブンズエデンの訓練生を倒せる力があるなら、当然そのまま殺そうとするはずだ。

「犯人は意図的に被害を抑えている。私はそう感じるわ」

「意図的にって…何でそんな回りくどいことするんだよ?」

狩谷は意味がわからなかった。邪魔だというなら被害を抑えようなどと考えずに、さっさと始末するべき。それを半殺し程度に留めるなど、無駄としか思えない。

「そこまでは私もわからない。私なりに調べてみたけど、襲われた時間もその場所も、友人関係等までバラバラ。無差別よ」

「何それ…」

「わけがわかんねぇ…」

レスティーの情報からも、犯人の目的が全く掴めない。空子はこめかみを押さえ、狩谷は頭を抱えて、二人で思考の迷路に迷い込んでいた。



その時、



「まだ気付かんのか?」



瞑想をしていた皇魔が、背を向けたまま言った。

「皇魔くん!?」

「聞いてたのか!?」

今まで全く微動だにしなかった皇魔の反応に、空子と狩谷は驚く。

「何かわかったの?」

レスティーは自分でもたどり着けなかった情報に皇魔がたどり着いたと知り、その情報を聞き出そうとする。

「…お前はくの一だろうが。忍のくせにわからんのか」

皇魔は背を向けたまま、呆れた。

「悪かったわね。私は暗殺専門の一族だから、諜報活動はあんまり得意じゃないのよ。」

「…まあ良い。襲われた五人には、一つだけ共通点が存在する。」

「共通点?」

アンジェが首を傾げる。ここで初めて、皇魔はレスティー達の方を向いた。



「全員がこのクラスの生徒だということだ。」



「「…あ!!」」

狩谷と空子も気付く。今まで襲われた被害者のうち、四人はこのクラスの生徒。そして、昨夜襲われた竪彦も、このクラスの生徒なのだ。

(皇魔もそこに気付いたか…)

ところが、ゲイルもその点に気付いている。

「この共通点から、敵はこのクラスの生徒に、もしくはこのクラスそのものに、何らかの思惑を持っていることが推理できる。」

皇魔はさらに自分の推理を述べた。

「何らかの思惑…一体なんだろ?」

アンジェは顎を押さえて唸っている。そこで、次の授業を知らせるチャイムが鳴った。

「俺は放課後、竪彦が入院している病院に行ってみる。何か手掛かりが掴めるかもしれない」

「なら俺も行くぜ!」

「私も!」

「あたしも。」

「私はもう少し探ってみるわ。」

「好きにしろ。」

ゲイルの提案に狩谷、アンジェ、空子は同行の意を示し、レスティーは別行動を、皇魔は無関心を通すことにした。

(…まさかな…)

しかし、実はゲイルは敵の目的に気付き始めている。

(そんなはずはない。あり得ないんだ、そんなことは…)

だが、それはまだ推測の域を出ない。













メイリンから病院の場所を聞き出したゲイル達は、放課後、病院に来た。

「どちらの方ですか?」

「時雨竪彦さんの友人です。」

「かしこまりました。時雨さんは304号室に入院しておられます」

ゲイルは受付を済ませ、一同を連れて304号室に向かう。



304号室。

ゲイルが扉を開けると、全身に包帯を巻いてベッドの上に横たわっている竪彦の姿が確認できた。

「竪彦!」

狩谷が駆け出し、空子、アンジェがそれに続く。ゲイルはその後ろから、ゆっくりとついていった。

「うう…」

竪彦は呻く。

「大丈夫か!?」

声を掛ける狩谷。しかし、竪彦は目を覚ましたわけではなく、うなされているようだ。

「怪物が…怪物が…!!」

「怪物?」

空子が呟くと、竪彦は落ち着いたらしく、再び眠りについた。

「怪物って…?」

「…モンスターか?まさかこんな街中に…」

考える空子と狩谷。モンスターが街中に現れることは、めったにない。それこそ、動物園から猿や熊が脱走するような頻度だ。第一、ヘブンズエデンの訓練生を倒せるモンスターなど、大型のものしかいない。そんなモンスターが出現すれば、街の人間が全員気付く。


よって、竪彦を襲った怪物の正体は、


「ボーグソルジャー…」


ゲイルが出した答えに、ほぼ間違いないだろう。

「でも、何でヴァルハラが…」

「知るか。連中が何を考えているかは、誰にもわからない。」

ゲイルはアンジェの問いを冷たく突き放す。

「にしてもひどいな…」

狩谷は竪彦の有り様を見て言う。それはもう、ひどい眺めだった。右足と左手首を骨折し、看護婦の話では内臓もいくつか破裂しているらしい。

「…」

ゲイルは竪彦の無惨な姿を数秒見つめ、それから出口に向かう。

「どこ行くんだ?」

「ここではもうこれ以上情報を得られない。だから帰る」

狩谷の質問に歩みを止めず、ゲイルは出ていった。

「待ってよゲイル!」

追いかけるアンジェ。

「また来るからな。」

「早く治すのよ?」

狩谷と空子は竪彦に別れを告げ、二人を追った。













「ごめんね光輝。」

さだめは今、光輝と一緒に家路についていた。光輝は寮生なのだが、家から通っているさだめのことが心配になり、こうして送っているのだ。

「いいよいいよ。僕は君の彼氏だから、彼女を危険な目に遭わせるわけにはいかない。万が一さだめさんに入院でもされたら、彼氏失格だからね。」

「光輝…」

自分に注がれる愛を感じて、さだめは顔を赤くした。



その時、



「危ない!!」



光輝はさだめを抱き抱えて飛び退いた。さだめがいた場所に、剣が突き刺さる。さだめを降ろし、二人は攻撃してきた者の正体を見た。



ドクロを元にした無機質な光を放つ鋼色の頭部。首から下はしっかりした人間の形をしているが、右腕が剣に変化している、そんな怪物。

「何だお前は!?」

異形の怪物に向けて、光輝は問いかける。

「我が名はダース。ヴァルハラの戦士!!」

ダースと名乗った怪物は、右腕の剣を振りかざして襲い掛かってきた。

「さだめさん!!」

「うん!!」

光輝は羅刹刃を抜刀し、さだめはギターケースからヴォルテクスを取り出して、ダースを迎え討つ。













「待ってってば!」

アンジェは足早に歩くゲイルに追い付き、その左手を掴む。ゲイルは一度足を止めてアンジェの手を振り払い、また歩き出した。

「どうしたのゲイル?なんか変だよ?」

「何でもない。」

「何でもないわけないじゃない!」

「何でもないと言っている!!」

「よせってお前ら!!」

「落ち着きなさいよ!!」

口論を始める二人の間に狩谷と空子が割って入り、やめさせる。

「一体どうしたんだ。お前らしくもねぇ…」

「…」

ゲイルは狩谷の質問に答えず、顔を背けた。

「気持ちはわかるけど、苛ついたって何にもならないわ。あたし達だって…」

「違う。」

「…えっ?」

空子の言葉に、ゲイルはようやく反応する。

「違うって何が?」

「…」

アンジェの質問に、ゲイルはまただんまりを始めた。

「何なんだよ!わかったことがあるならはっきりーーー」



ドガァァァァァァァァン!!!



詰め寄る狩谷の言葉を遮って、爆発が起きる。

「なに!?」

驚くアンジェ。と、ゲイルが爆発の起こった方向に駆け出した。

「ゲイル!?」

「ったく…だから何なんだって!!」

「追いかけるわよ!!」

三人は再びゲイルを追って走る。













「はぁ…はぁ…!!」

光輝は粗い息をついていた。今爆発を起こしたのは、キャノン砲に変化したダースの左腕。爆発の正体はそこから砲撃だった。

「大丈夫!?」

「なんとか…!!」

さだめは気遣い、光輝は無事だと返す。二人とも、ダースの攻撃を紙一重でかわしていた。

「ほう…俺が倒した訓練生とは、少しばかり違うらしい。」

「!じゃあ、お前が!!」

「襲撃犯!?」

ダースは自分が襲撃事件の犯人であることを自白する。

「そうだ。今までの連中は弱すぎてつまらなかったが、お前達との戦いは少しだけなら本気を出せそうだな。」

「…馬鹿にするな!!」

「光輝!!」

光輝は仲間を侮辱されたことに怒って突撃し、さだめはフォローするために飛び出した。

「ふん。」

それを見たダースの背後に、ある物が出現する。



二本のブーメランブレードだった。



ダースは両腕の武器化を解除し、ブーメランブレードを二本とも抜いて光輝とさだめに投げつけた。

「ぐあっ!!」

「きゃあっ!!」

そのパワーに耐えきれず、吹き飛ばされる二人。

「少しは本気が出せると思ったが、この程度か。」

ダースは戻ってきたブーメランブレードを回収し、消す。

「さて…一度に二人もやれるとはな。」

そして、再度右腕を剣に変化させ、二人に迫る。













「おい!あれ!」

間一髪で間に合った狩谷は、ダースの姿を見て驚く。

「ボーグソルジャー!?」

「危ない!二人が!」

空子とアンジェが二人の危機を察する。


だが、それらを無視してゲイルは疾駆した。



「アデル、起動!!」



アデルへの変身を忘れずに。



「受けよ!これがヴァルハラの洗礼だ!」

剣を振り下ろすダース。アデルはそこに飛び込み、プライドソウルで剣を受け止めた。

「!!」

驚いて飛び退くダース。アデルはダースに追撃をかけた。

「光輝!」

「さだめちゃん!」

「二人とも大丈夫!?」

アデルがダースを引き受けている間に、狩谷、空子、アンジェが、光輝とさだめに駆け寄る。

「僕は大丈夫。」

「私も。」

「良かった…」

アンジェは二人が大事に至らずに済んで、安堵する。

「まさか貴様が来るとはな…来い!」

ダースはどこかへアデルを誘導する。アデルはそれに従って、ダースを追いかけていった。

「お前らはここにいろ!」

「アンジェは二人をお願い!」

狩谷と空子はアデルとダースを追い、

「わかった!」

アンジェはそれを見送ってから、ヘブンズエデンに光輝とさだめを回収してもらうよう連絡を入れた。

「大丈夫かな…助けに行った方がいいんじゃ…」

「大丈夫だよ。」

光輝の心配を、アンジェは一言で打ち消す。

「絶対に…大丈夫だから。」













「ここならばよかろう。」

ダースは誘導をやめた。アデルは周囲を確認する。ダースにとって有利な空間に誘い込まれたかと思ったが、どうもそうではないらしい。何か仕掛けがしてある様子はないし、適当に広くて人が一人もいないため、どちらかと言えばアデルの方が有利な空間だ。

「戦う場所を選ぶとは、ずいぶん空気が読めるボーグソルジャーだな。言っておくが、ここは俺にとって有利な空間だぞ。」

「そう思ってここを選んだ。」

「?」

なんと、ダースはわざとアデルが有利になる空間を選んだのだという。

「どういうつもりだ?」

「いやなに。これくらいのハンデがなければ、弱すぎてすぐに終わってしまうと思ってな。」

アデルの質問を聞いて、ダースは余裕たっぷりに答えた。

「…お前は自分の実力によほど自信があるようだな。」

「あるとも。貴様のような餓鬼に、負けるはずがない。」

余裕を崩さないダース。

「…人を馬鹿にするのもほどほどにしておけ!」

アデルはダースの態度に怒り、突撃をかけた。風を斬って繰り出される、プライドソウルの一撃。ダースはそれを、右腕の剣で受け止めた。

「面白いものを見せてやろう。」

ダースがそう宣言した次の瞬間、ダースの左腕が刺付きのハンマーに変化した。

「おぉらぁっ!!」

そのまま、驚くアデルのみぞおちにハンマーを叩き込む。

「ぐうっ!!」

凄まじい衝撃に数歩下がるアデル。対するダースは右腕をガトリング砲に変化させ、体勢の直らないアデルに射撃を行った。

「がぁぁぁぁぁ!!!」

アデルはこれをまともに受けてしまう。しかしダメージはあまりなく、すぐ体勢を立て直す。

「その能力は…ザジの…」

今ダースが見せた能力は、アデルが初めて倒したボーグソルジャーの能力に酷似していた。

「やはりザジを倒したのは貴様だったか。だが、ザジだけではないぞ!!」

両腕の武器化を解除し、ブーメランブレードを生成して投げるダース。

「これはカナスの…!!」

アデルはそれを弾き飛ばした。ダースはそれを回収して、しかし消滅はさせず両手に持ち、

「まだ行くぞ!!」

今度はとてつもない速度で空を飛んで斬りかかってきた。アデルはそれをかわしてイタカウイングを起動し、空中戦を展開する。

(ベルーゼのようなスピードだ…!!)

だが、スピード自体はベルーゼを超えていた。

「このっ!!」

アデルはプライドソウルを消してチャウグナルファングを装備。ダースの手数に対抗する。しかし、

(なんてパワーだ!!)

本来チャウグナルファングを装備したアデルのパワーは並みのボーグソルジャーを圧倒できるのだが、今回アデルは逆に圧倒されていた。

(まるでガルのパワーを強化したかのような…!!)

「ちいっ!!」

アデルは距離を取って武器をダゴンとヒュドラに切り替え、

「ルルイエセメタリー!!!」

必殺のエネルギー弾を撃つ。


だが!!


「無駄だ!!」

ダースの前面にバリアが展開され、エネルギー弾を防いだ!!


「バリアだと!?」

「そこだ!!」

「!!」

動揺してしまったアデルは、急速に接近してきたダースから一撃を受け、

「ぐわああああああああああ!!!」

地面に叩き落とされた。

「ぐぅぅ…!!」

立ち上がるアデル。

「なぜそこまで多彩な能力を…それも、全部見覚えがある…!!」

「教えてやろう。」

ダースはゆっくりと降りてきて、説明した。

「俺は様々なボーグソルジャーの長所を選りすぐり、さらに強化して再改造を受けている。その中には、貴様が倒してきた俺の同胞達の能力もあるのだ。」

「何だと!?」

ダースが様々な能力を持つ理由を知り、アデルは驚く。長所を選りすぐり、強化して再改造された。だからダースはザジの両腕武装化を、カナスのブーメランブレードを、ベルーゼの飛行能力とスピードを、ガルのパワーを、ラーキスのバリアを使えたのだ。しかもそれぞれの長所が強化されているため、アデルが倒した時よりも強い。

「そういうことだ。」

すると、突然ダースが両腕をキャノン砲に変化させ、アデルの背後を撃った。

(何だ?どこを狙って…)

「ぐあああああ!!!」

「きゃあああああ!!!」

二つの悲鳴を聞き、アデルは振り向く。


狩谷と空子が吹き飛ばされていた。


「狩谷!!空子!!」

「ハッハッハッハッハッハ!!!」

その有り様を見て、ダースは笑う。

「全ては貴様の弱さゆえ…その程度の力では誰も守れぬぞ。」

「ッ!!貴様…!!」

アデルはダースを睨み付けた。

「俺の名はダース。また会おう!」

しかし、その視線を全く意に介さず、ダースは去っていってしまう。

「…くっ…!!」

アデルは変身を解き、自分の弱さを悔やんだ。そして、気付いた。



自分の推測が、確信に変わったことを…。

今まで負け知らずだったアデルが、初めて負けました。まぁ、主人公がずっと勝ちっぱなしっていうのも飽きますからね。ここらでそろそろと思い、負けさせました。


次回はいよいよ…お楽しみに!

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