イグニスドライブ PART3
今回、アンジェの正体が判明します。
ゲイル達は事の顛末を報告するため、一部は申し立てるため、理事長室を訪れていた。ちなみに、ゲイルの自己修復は完了している。
「貴様、どういうつもりだ?」
「何のことかね?」
「とぼけないで!どうしてゲイルを改造したのかって訊いてるのよ!」
「ヴァルハラに対抗するためだ。ウチの生徒は君達みたいに、飛び抜けて強い者がそんなにたくさんいるわけじゃない。それに、安定して戦える戦力を用意する必要があった。」
皇魔とレスティーの追及を、のらりくらりとかわしていくエドガー。もっとも、後に起きるヴァルハラとの決戦では、アデルではなくゲイルそのものが重要な存在である、ということは伝えなかったが。
「いいんだ。二人とも」
ゲイルは二人に、エドガーに詰め寄るのをやめるよう言う。
「…良いのか?お前は本当に納得しているのか?」
「いいも悪いも、今は重要な話じゃない。問題は、なぜダースがアンジェを狙ったか、だ。」
過ぎたことをいくら言っても始まらない。今できることの話をするべきと、ゲイルは割り切った。狩谷はエドガーに訊く。
「あんたなら知ってるんだろ?あの子…一体何者なんだ?」
「…本当は彼女自身の口から知らせるべきだったが、まぁ、今となっては私の口より話すほかない。」
やはり、エドガーはアンジェが何者かを知っていた。というより、エドガーに知らないことがない方が珍しいだろう。
そして、エドガーは語った。
「アンジェ・ティーリは…彼女は人間ではない。超越種族エンゼリオンと人間の間に生まれた…俗に言うハーフだ。」
「エンゼリオン…?」
「それって一体…」
光輝とさだめ。それからエンゼリオンという言葉を初めて聞く者のために、エドガーは詳しく教える。
*
エンゼリオンとは、かつてこの世界に栄えていたという古代生物のことだ。時間と空間を超越する能力を持ち、様々な世界を旅する生命体。そのため、正確にはこの世界の生き物ではない。ただ一時的に立ち寄った。それだけのことだ。アンジェはそのエンゼリオンを母に、人間を父に持つハーフなのである。だが、彼女の母はこの世界の人間から迫害を受け、それが元になって数年前に死んでしまった。
「迫害?どうして?」
空子は尋ねる。
「エンゼリオンの力は極めて強大だ。矮小な人間が束になったところで、決して太刀打ちできない。そんな存在を認められなかったんだろう」
アンジェは半分とはいえ、エンゼリオンの力を受け継いでいる。実はゲイル達も、その力の一端は既に見ていた。そう、彼女のアーミースキルである。あれはヘブンズエデンで身に付けられたものではなく、エンゼリオンが持つ超絶的な力の一部だ。アデルに匹敵するパワーや身体能力も、また然り。
しかし、アンジェはそんな力を持つ自分を嫌悪していた。
「人間ではなく、エンゼリオンにもなりきれない。そんな中途半端で危うい存在な自分に、コンプレックスを抱いていたんだ。」
エドガーは聞いていないが、彼女自身も相当な迫害に遭ったのだろう。
やがて父も病で亡くし、心の拠り所を失ったアンジェは、父の遺言に従い、ヘブンズエデンを訪ねてきた。
「彼とは少しばかり付き合いがあってね、もし自分が嫌いでどうしようもなくなったら、私を頼るよう言われていたらしい。彼女が私に会って、開口一番に言った言葉は何だと思う?」
「…いや。」
突然質問され、ゲイルは首を横に振る。エドガーは、アンジェが自分に一番最初に言ったことを教えた。
「『私を人間にして』だ。どれだけ自分に対して嫌悪感を抱いていたのか、よくわかる言葉だよ。」
それからはアンジェをヘブンズエデンに入学させ、直にアンジェを人間にする方法を研究していた。さすがのエドガーも、異なる生物とのハーフを人間にする方法は知らなかったのだ。
「検査の時もよく言っていたよ。死ねたら一番いいけど簡単に死ねる身体じゃないし、そんな度胸もないってね。」
一同はエドガーが言ったことに驚いていた。アンジェが人間でなかったことにも驚いたが、一番驚いたのは、あの明るさだけが取り柄のような少女が、そこまで思い詰めていたこと。
「彼女にも新しい心の拠り所が必要だと思った私は、メタルデビルズであるゲイルのことを教えた。状況は違うが、少しでも気休めになればいいと思ってね。」
「!!」
エドガーに言われて、ゲイルは気付いた。
アンジェがやけにゲイルに付きまとってきた理由。それは、彼女がゲイルを頼っていたから。
あの底抜けなまでの明るさは、全て演技。本当は助けを求めていたのだ。自分の心の拠り所になって欲しかったのだ。
「なのに君は…時々見てたけど、いつも彼女を遠ざけていたよね?助けて欲しがっていたのに、君は彼女の言葉を無視した。側についていて欲しがっていたアンジェの想いを、残酷なまでに踏みにじった。全く…ずいぶんと無慈悲な真似をしたものだね」
(…言われてみれば、確かにそうだ)
ゲイルは思う。よく考えれば、アンジェは前から自分が人間ではないと言っていた。コンプレックスがあるような素振りも、見せていた。何も考えていないように見えて、苦しんでいたのだ。ずっとずっと、何年も前から…。
「…!!」
そう思うと、ゲイルはとても不快な気分になった。とにかくいても立ってもいられなくなり、ゲイルは理事長室を飛び出す。
「ゲイル!?」
「おい!どこ行くんだよ!」
空子と狩谷は、それを追いかけていく。
「理事長先生、そんな風に言うことないでしょう!?」
「ゲイルは今、ただでさえ追い詰められてるんですから!」
光輝とさだめも追いかけた。
「私は事実を言っただけなんだがね。」
エドガーはそれを見送り、残った二人に呟く。
「事実を受け入れられないことだってあるわ。変わらない事実を、目を背けることで変えようとする…」
その片方、レスティーが、現実というものを痛感して目を細める。
「だが、それだけでは何も変えられん。」
ともう片方、皇魔が歩き出した。
「行くの?」
「このままにしておくわけにはいくまい。」
「じゃあ私も。」
「好きにしろ。」
二人は揃って出て行こうとし、皇魔は背を向けたまま、エドガーに尋ねた。
「貴様はどう見る?ゲイルは立ち直れるか、否か。」
「聞くまでもないだろう?」
「…ふん。」
二人は、今度こそ出て行った。
*
「待てよゲイル!!」
狩谷はどこかに行こうとするゲイルの肩を掴んで止める。
「どこに行くってんだ?」
「決まっている。アンジェを助けにだ!」
「どこにいるかもわかんねぇんだぞ!無理だ!」
「とにかく捜す!こんな所ににいつまでもいられるか!」
「落ち着いてゲイル!!あたし達も一緒に捜すから!!」
空子も追いついてきて、一緒にゲイルを説得する。
「お前達の力など必要ない!アンジェは俺一人で助ける!」
「…本気で言ってんのか?」
突然、狩谷の声色が変わった。どことなく、怒っているような声だ。
「俺達の力が必要ないなんて、本気でそう思ってんのか?」
「…」
ゲイルは答えない。狩谷はそれに苛立ち、声を荒げた。
「どうしてお前は何でも一人で解決しようとするんだよ!!たった一人で全部背負って、それに押し潰されそうになって…バカみてぇじゃねぇか!!」
「お願いゲイル。これ以上思い詰めないで!」
狩谷と空子は勝手に自分を追い詰めているゲイルを、もう見ていられなくなっていた。このまま行けば、いずれゲイルの心は潰れてしまう。
「…俺は、ヘブンズエデンの訓練生、赤石ミライさんに命を救われた。」
そんな二人の想いが通じてか、ゲイルは自分の想いを話し出す。
「あの時死ぬべきだったのは、俺の方だった。だが、死ぬべき俺が生き残って、死ぬ必要のないミライさんが死んだ。なぜかわかるか?あの人は、俺の側にいたせいで死んでしまったんだ。」
それは、少し前に聞かせてくれた、ゲイルがヘブンズエデンに来た理由。
「俺はあの人の無念を晴らすために、ヘブンズエデンに入学した。だが、俺はあの時以来、自分の周囲に仲間を作るのが怖くなってしまったんだ。また同じことが起きるかもしれない、とな。」
だからこそ、ゲイルは孤独を選んで生きてきた。自分が一人でいれば、誰も巻き込むことはないから。
「ゲイルは死ぬべきなんかじゃないよ!」
そこへ、光輝とさだめが割り込んできた。
「そうだよ。ミライさんはゲイルに助かって欲しいから、自分を犠牲にしたんじゃないの?ミライさんの想いを受け継いだなら、そんなこと言っちゃ駄目だよ!」
「…それでも、俺は時々思うんだ。なぜ俺が生き残ってしまったのかと…」
当時のゲイルは、傭兵になろうとも思っていない、ただの中学生だった。しかし、ミライは傭兵。二人の生き方には、天と地ほどの差があった。
「もし死ぬなら、あの人のように誰かを守って死のうと決めている。だから、今回俺は一人でアンジェを助けに行くんだ。周囲を巻き込むのは、これで終わりにする。死ぬのは俺一人で十分ーーー」
その時、
バキッ!!!
狩谷が、ゲイルの顔面に拳を叩き込んだ。
「ぐあっ!!」
倒れるゲイル。
「…お前が俺達のことを考えてくれてるのは嬉しいよ。今なら、お前が俺達を遠ざけようとしてたのも納得できる。けどな!!」
狩谷はゲイルの胸ぐらを掴み、叫んだ。
「お前じゃなきゃ救えないやつだっているんだ!!いい加減気付けよ!!」
ゲイルは、自分が近くにいると人が死ぬと曲解していた。だから、狩谷達から距離を置いていた。しかし、狩谷はこう言ったのだ。離れていては、助けられない者もいると。近くにいるからこそ、守れる者もいると。
「ずいぶんと情けない顔付きになったな、ゲイル。」
そこへ皇魔が来た。
「俺達は貴様に気を配られるほど弱くない。そのようなこともわからんとは…貴様は所詮、その程度だということだな。」
「!!」
彼らは、最初からゲイルに心配される必要はなかった。既に覚悟ができているからだ。
「死など恐れてはおらん。そう覚悟したからこそ、俺達はここにいるのだ。」
「ゲイルが命を懸けるなら、あたし達も命を懸ける!仲間だから!!」
皇魔と空子から言われて、ゲイルはようやく気付く。距離を置く必要などなかった。彼らは、絶対に死なないと。
「で、アンジェちゃんのことはどうするの?」
今度はレスティーが割り込んできた。
「ここまでやられて、黙ってるの?」
「…当然助け出す。」だが、先ほどまでと答えは違う。
「俺達全員の力でだ!!」
*
完全に立ち直ったゲイルを連れて、一同は理事長室に戻った。
「やはり、戻ってきたね。」
「ああ。心配をかけた」
エドガーは最初から心配などしていないが、それでも嬉しかった。
「でも、問題はアンジェさんがどこにいるかだよね…」
「うん。何か手掛かりでもあれば…」
光輝とさだめは、アンジェの行方を捜す方法を模索する。と、
「そのことなら心配はいらない。」
エドガーが手元にキーボードを出し、何かのスイッチを入れた。間もなくして部屋が暗転し、モニターが現れる。映されたのは、何かの地図。地図の中心には赤い点があって、明滅を繰り返していた。地名も映っている。
「ヴァルハラがアンジェを狙ってくることは予想できていたからね。こういう状況を想定して、彼女には私特製の発信機を持たせている。」
「理事長先生グッジョブ!!」
エドガーのナイスプレーに、レスティーがテンションを上げてサムズアップした。
「でも、何だってヴァルハラはアンジェちゃんを狙うんだ?」
ゲイルが出て行ったのを追いかけたせいで、エドガーから聞けなかったことを狩谷が尋ねた。しかし、エドガーの前に皇魔が言う。
「大方、アンジェの力を欲してだろう。理事長の話が正しければ、エンゼリオンの力は相当なものだからな…」
「…まぁそんなところだね。」
「アンジェが何をされるかわからないわ。居場所がわかったんだから、早く助けに行きましょう!理事長先生、ありがとうございました!」
空子の号令で、一同は発信機が示す地点に行くため、転移装置のある部屋まで行く。
「ゲイル。」
しかし、ゲイルが最後に部屋を出ようとした時、エドガーが彼を呼び止めた。
「何だ。」
「…私がなぜすぐにアンジェの居場所を教えなかったかわかるかい?」
「…いや。」
「君に彼女という存在を再確認してもらうためだ。これは私の予想だが、恐らく彼女は君以外の者に救われることを望んでいない。」
それは、他の者に救われることで自分の正体を露見する可能性があるから。アンジェは自分自身が大嫌いなのだ。もしそうなったら、一体どうなってしまうことか。
「…私が言うのも変な話だが、心の底から私を頼ってきてくれたのは彼女が初めてなんだ。だから、どうしても助けて欲しい。」
「…理事長…」
「…聞かせてくれ。アンジェを助けに行く理由を…」
同情か、単に仲間としてからか。
そしてゲイルは、自分がアンジェを助けに行く理由を言った。
「ーーーーーー」
「…君らしい答えだ。」
エドガーはゲイルの答えに満足し、アンジェを救いに行く姿を見送った。
*
一行がたどり着いたのは、だだっ広い荒野。崖の下に基地があるのが見える。
「あそこにアンジェがいるのか。」
「発信機の反応はそこからしている。間違いはない」
ゲイルはエドガーと連携を取り、アンジェの位置を割り出す。
「…しかし、本当にいいのか?」
ゲイルは改めて仲間達に尋ねた。
「愚問だぜ、ゲイル。」
「あたし達は仲間なんだから。」
狩谷と空子は意気込む。
「…それにこんな決着、あたしは認めない。」
空子が何か言った。
「みんなで助けよう!」
「きっとうまくいくよ!」
光輝とさだめが励まし、
「ただの付き添いだ。気にするな」
「ちょっとおせっかいだけどね♪」
皇魔とレスティーが協力する。
これだけの面子がいるのだ。恐れるものなど、何もない。
「…アデル、起動!!」
ゲイルはアデルに変身し、仲間とともに奇襲をかけた。
(待っていろよ、アンジェ!!)
次回、突入!!




