第27話 魔導博覧会の挑戦状と、伝説の魔改造
第26話では、巨大魔導企業『ネオ・アルケミー社』のヴィンセントが下町の立ち退きを迫り、魔導博覧会での技術対決が決まりました。
第27話では、最新鋭の量産兵器に対抗するため、ロディたちが下町のガラクタ置き場から発掘した「三十年前のオンボロ作業ゴーレム」を前代未聞の神兵器へと魔改造します!
春の訪れを告げるぬるい風が、下町のスクラップ置き場に積まれた鉄屑の山を吹き抜けていた。
山積みになった壊れた魔導具や廃材の奥深く。
泥と錆にまみれ、分厚い麻布を被せられた巨大な人影が、物言わぬ巨木のように佇んでいた。
「……親方、本当にこれを使うんですか?」
麻布の端をめくったトビアスが、目を丸くして息を呑んだ。
そこに埋もれていたのは、全高三メートルを超える武骨な鉄の塊――三十年前に帝都の外郭工事で使われ、動力炉が焼き切れて遺棄された旧式の土木作業用ゴーレムだった。
角ばった重装甲のあちこちが赤錆びて剥がれ落ち、関節の油圧シリンダーからは油が抜け、胸の中央にあるはずの魔力炉は空っぽの洞穴になっている。
「ガハハッ! こいつはまた懐かしいもんを引っ張り出してきたな!」
大斧を地面に突き立て、腕組みをしたヴァルガスが豪快に笑った。
「三十年前に廃盤になった『ゴライアス工兵型』じゃねえか。頑丈さだけが取り柄の鈍重な鉄クズだぜ。ネオ・アルケミー社の最新鋭機甲兵と張り合おうってのに、こんな骨董品で大丈夫なのかい?」
「外見だけで判断するなよ、ヴァルガス」
ロディは手袋を外し、赤錆びたゴーレムの装甲板を素手でコンコンと叩いた。
(――『構造解読』)
ロディの瞳の奥で、青紫色の幾何学模様が静かに光を放つ。
右手のひらに刻まれた『古代修繕中枢核』が微かに共鳴し、三十年間眠り続けていた鉄巨人の全身骨格図を、ロディの脳裏へ鮮明に浮かび上がらせた。
「昔の職人が作った機械はな、今の使い捨て製品とは根本から思想が違うんだよ。外装の鉄板は無駄に分厚い三層鋳造鋼、フレームの骨組みは地殻変動の圧力にも耐えられる超高密度トラス構造だ。……骨組み《フレーム》自体には、ヒビ一つ入っちゃいねえ」
「ヒビ一つ……ない?」
トビアスがおずおずと近づき、泥を拭き取ったフレームの継ぎ目を指先でなぞった。
「本当だ……。錆びてるのは表面だけで、中の骨組みは凄くしっかりしてる……!」
「そうだ。動力炉が死んで関節が固着してるから動かないだけだ。……手入れをサボって捨てられただけの頑丈な骨に、俺たちの技術で『新しい血と筋肉』を通してやりゃ、最新鋭のピカピカ野郎なんぞ束になっても敵わん化け物に化ける」
ロディが無精髭の口元をニヤリと歪めた。
『マスター・ロディの設計方針を全面的に支持します』
静かな足音とともに、アリアが歩み寄ってきた。
彼女の藍色の瞳には、すでに魔改造プランの立体図面が淡い光のグリッドとして投影されている。
『ネオ・アルケミー社が出品予定の最新型機甲兵「アルケム・ギア」の流出データを照合。……相手側は薄肉軽量装甲と高回転モーターによる高速戦闘型です。この旧式作業ゴーレムの骨格剛性をベースに、出力系と駆動系を現代の最高規格へリビルドした場合、耐久値および瞬間トルクにおいて相手を三一〇パーセント上回る設計が可能です』
「三倍以上……!?」
セリアが持ってきた帳簿を胸に抱きしめ、興奮に頬を紅潮させた。
「ロディさん! シルフィード商会の全ルートを使って、最高純度の青銅配管と、強化エーテル結晶、それにガルバさんの鍛冶場で使う特殊合金プレートを最優先で手配しました!」
「よし、資材は揃ったな。……ガルバの爺さん! 鍛冶炉に火を入れてくれ!」
「おうよ! 下町の町工場の底力、見せてやろうじゃねえか!」
向かいの鍛冶場から、ガルバの野太い怒号とともに、真っ赤な炎が天高く噴き上がった。
◇
作業場の中央に運び込まれた巨大な鉄塊を前に、前代未聞の『超突貫・町工場魔改造プロジェクト』が始まった。
「トビアス! 両腕の油圧ダンパーを分解しろ! 内部の古い真鍮バルブを取り出して、内径をコンマ三ミリ削り広げて鏡面磨きだ!」
「はいっ、親方!」
トビアスは作業台に飛びつき、手に入れたばかりの精密ヤスリを迷いなく走らせた。
サリ、サリ、サリ……。
一定のリズムで金属粉が舞う。
ロディから教わった「道具の呼吸を聞く」手つきで、トビアスはバルブの摩擦抵抗を極限までゼロへと近づけていく。
「ガルバさん! 胸部装甲の裏打ちプレートだ! 炭素鋼とミスリル銀を七対三で折り返し鍛造してくれ!」
「任せとけぇっ! 一万回叩き込んで、竜の牙でも通らねえ鋼にしてやる!」
ドガンッ! カンッ! ドガンッ!
ガルバの振るう大槌が、白熱した鋼を打ち据え、眩い火花が工房を満たす。
そして――。
「アリア、動力炉のバイパス制御盤だ。オメガ・セルの余剰エネルギーを無害化して、瞬間的に爆発的なトルクに変換する『三段可変式エーテル・トランスミッション』を組み込むぞ」
「了解――回路の同期シークエンスを開始」
ロディは手袋を脱ぎ捨て、特注の万能工具槍の先端を、ゴーレムの空っぽの胸部へと突き入れた。
(――『構造解読』並びに『アーキタイプ・コア同調』!!)
ロディの右手のひらの銀の紋章が、カッと白銀の光を放った。
失われた古代文明の超精密回路が、ロディの手作業を通じて、三十年前の無骨な鉄骨の中へ神経のように張り巡らされていく。
アリアが繊細な指先で、超高密度のルーン刻印を水晶板へと削り込み、トビアスが磨き上げたピカピカの真鍮バルブが次々と配管へ噛み合わされていく。
ガルバが打ち上げたばかりの黒光りする積層装甲が、寸分の狂いもなくゴーレムの胸部を覆い、強固なリベットで固定された。
夜を徹して続けられる作業。
油の焦げる匂い、金属が擦れ合う高音、飛び散る火花。
宮廷の机上の空論でもなく、大企業の金儲けの使い捨てでもない。
泥にまみれ、汗を流し、道具を愛する職人たちの魂が、冷え切っていた鉄の巨人に注ぎ込まれていく。
◇
――そして、三日目の夜明け。
東の空が白み始め、工房の天窓から清冽な朝の光が差し込んできた。
作業場の中央に立っていたのは、もはや打ち捨てられたガラクタではなかった。
全身を鈍い黒銀の複合装甲で包み、要所要所に職人の手による美しい真鍮の配管が走る巨躯。
無駄な飾りは一切ない。
だが、その無骨な立ち姿からは、どんな最新鋭兵器をも寄せ付けない圧倒的な剛健さと、研ぎ澄まされた機能美が放たれていた。
――下町改修型・重作業万能ゴーレム『アイアン・スミス』。
「……ふぅ。全系統の組み上げ、完了だ」
ロディは煤と油で汚れた顔を拭い、万能工具槍を肩に担いで息を吐いた。
トビアスはその場に座り込みながらも、完成した巨体を仰ぎ見て感涙に目を潤ませている。
「す、すごい……! 本当に……あのボロボロだった作業用が、こんなにかっこよく生まれ変わるなんて……!」
「トビアス、お前が磨いたバルブのおかげで、油圧の伝達ロスがゼロになったぞ。……胸を張れ、お前が作ったゴーレムだ」
「親方……っ! はいっ!」
アリアが静かに歩み寄り、ゴーレムのメインスイッチに手を当てた。
『最終起動テストを実行します。……魔力炉、点火』
――ゴォォォォォン……!
ゴーレムの胸郭の奥から、腹に響く重厚な重低音が鳴り響いた。
両眼のスリットに、澄み渡る琥珀色の光が宿る。
シューッと清涼な排熱蒸気が立ち上り、巨大な右腕が、まるで生き物のように滑らかに、そして力強く持ち上がった。
「ガハハハッ! たまらねえな! こいつの一撃を喰らったら、最新鋭のペラペラ装甲なんざ一撃でペッチャンコだぜ!」
ヴァルガスが歓声を上げ、ガルバが満足そうに腕組みをして頷いた。
「よし! これで魔導博覧会の準備は万全だな!」
◇
一方、帝都中央区の超高級ホテル最上階。
豪奢なワイングラスを傾けながら、ネオ・アルケミー社のヴィンセントは、眼下に広がる帝都の夜景を見下ろしてせせら笑っていた。
「フフフ……下町のゴミ修理屋どもが、血相を変えて廃材置き場から旧式の作業用ゴーレムを掘り出したそうですね」
背後に控えていた黒服の部下が、慇懃に頭を下げる。
「はい、支部長。三十年前の廃棄物を修理して博覧会に出品するつもりのようです。……まったく、身の程知らずの愚か者どもめ」
「旧時代の遺物で我が社の最高傑作『アルケム・ギア』に勝てるなどと、本気で思っているのでしょうか。……まあよいでしょう。博覧会の会場には、すでに帝都商業ギルドの幹部と審査員たちを我が社の息のかかった者たちで固めてあります」
ヴィンセントは冷酷にモノクルを押し上げた。
「さらに、念には念を入れて、博覧会の前夜に下町の工房へ『特別なお掃除部隊』を送り込み、あの粗大ゴミの動力炉に細工をしておきなさい。……皇帝陛下と民衆の面前で、無様に爆発炎上させて恥をかかせてやるのです」
「御意。音もなく処理させます」
黒服の影が夜の闇へと溶けていく。
「下町の立ち退き期限まで、あと三日。……職人などという非効率なゴミは、我が社の最新技術で綺麗さっぱり消え去るがよい」
巨大企業の冷酷な罠が、完成したばかりのアイアン・スミスとロディ工房へ向けて、静かに忍び寄っていた。
お読みいただきありがとうございました!
三十年前のボロボロの作業用ゴーレムが、職人たちの手作業によって究極の重機甲『アイアン・スミス』へと生まれ変わりました!
次回:『第28話 前夜の破壊工作と、返り討ちの防犯工学』
夜の工房へ侵入してきたネオ・アルケミー社の工作員たちを、ロディとトビアスの仕掛けた『魔改造トラップ』が完璧に迎え撃ちます! お楽しみに!




