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第64話:【世界を脅すチートマザー】

第64話:【世界を脅すチートマザー】

覚醒者協会本部の豪華な応接室――ではなく

私はその奥にある記者会見会場の控室に連行されていた。

 ふかふかのソファに深く腰掛け

私は目の前で念入りに身だしなみをチェックしているお母さんに

不満たらたらで話しかける。


「ねえ、お母さん。なんで私がこんな場所にまでついて行かなきゃいけないの?

お家でゴロゴロしながらネット小説でも読んでいたいんだけど……」


「ダメよ、有希」

 お母様は振り返り、母親らしい慈愛に満ちた(ただし目が一切笑っていない)微笑みを浮かべた。


「あなたという可愛い愛娘が狙われた以上

私の目の届く場所に置くのは当然でしょう?

でも安心しなさい。この会見ですべてのケリをつけてあげるから。

有希はそこにあるテレビで、お母さんの雄姿を見ていなさい」

「はぁーい……」


これ以上の抵抗は命に関わると察し、私が大人しく返事をすると

お母さんはドアノブに手をかけた状態で、何気ない口調で爆弾を落とした。


「あ、そうそう。お家に帰ったら、さっそく『特訓』を始めるからね?」

「……え?」

 予想外の単語に、私の背筋に冷たいものが走る。

しどろもどろになりながら、恐る恐る聞き返した。


「と、特訓って……一体なんの?」

「決まっているじゃない。――『座学(お勉強)』と『実技(戦闘)』の両方よ」

「」


絶望。まさに圧倒的絶望。

 私の頭の中に、前世の過酷なブートキャンプ以上の地獄絵図が浮かび上がる。

ステータスオール3にあがったばかりの貧弱ボディで

あの魔王以上のチートマザーから直接物理的な特訓を受けるなんて

スローライフどころか人生そのものが早期退職(永眠)の危機である。


「それじゃあ、ちょっとゴミ掃除に行ってくるわね」

 お母様は爽やかな笑顔でそう言い残し

ランボーが戦場に赴くような足取りで控室を出て行った。


私はガタガタと震える手でリモコンを操作し

壁掛けテレビのスイッチを入れた。画面には

すでに満席状態の記者会見会場の中継映像が映し出されている。


***


パシャパシャパシャパシャッ!!!

 凄まじいフラッシュの嵐の中、お母様がステージに登壇し、マイクの前に立った。


『本日はお集まりいただき、ありがとうございます』


まずは無難で殊勝な挨拶から始まった。よしよし、ここまでは普通の会見だ。


『単刀直入に申し上げます。私は今朝、自宅にて裏組織による襲撃を受けました。

そして、迅速かつ徹底的な“調査(※拷問)”の結果、犯人の特定に成功いたしましたので

この場で発表させていただきます』


会場がガヤガヤと騒がしくなる。一人の記者が勢いよく挙手し、マイクを握った。

『高橋さん! それは本当に正しい情報なのですか!? 憶測で発言されているのでは?』


『正しい情報ですね。理由は後ほど説明します』

 お母様は一瞬で一蹴。しかし、別の記者がさらに食い下がる。

『しかし、このような公式の場で唐突に特定の個人を告発するとなると

今後の警察の捜査や国交、あるいは社会的な支障が出ると思うのですが……』


その質問を聞いた瞬間、お母様の美しい眉がピクリと跳ねた。

 テレビの画面越しでも分かるほど、スタジオの空気が一変する。


『――私が殺されかけたというのに、随分と暢気で

加害者に寄り添った台詞を吐くのですね。いい度胸です。

あなた、どこの新聞社? 帰ったら社ごと“治療”してあげましょうか?』

 

 ドォォォォンッ!!!

 お母様がマイクを通して、わずかに魔力を解放した。

 画面に映る記者たちの顔が恐怖で一瞬にして土気色に染まり

数人がガタガタと震えながら椅子から転げ落ちるのが見えた。

会見会場は一瞬で静まり返る。カメラの手ブレが酷い。カメラマンもビビっている。


『話を戻します』

 お母様は何事もなかったかのようにコホンと咳払いをし、冷徹な声を響かせた。

『私と私の娘を殺そうと裏から指示を出した人間は――

神宮司議員、およびその御子息である神宮寺豪です。証拠として、こちらをお聞きなさい』


お母様がポチッと手元のスイッチを押すと

私が翔からもぎ取ってきた音声データが会場に大音量で流れ出した。

 スピーカーから響くのは、紛れもない神宮司議員と豪の

「有希を拉致しろ」「高橋希を消せ」という生々しい悪だくみの声。


会場が蜂の巣をつついたような大騒ぎになる中、往生際の悪い記者が叫んだ。

『そ、その音声が本物であるという証拠はどこに――』


『それでは、もう一つお聞きなさい』

 お母様は被せるように次のデータを再生した。

今度は豪と佐々木翔の、ダンジョン内での拉致計画のやり取りである。


『いかがでしょうか? そしてこの会話の直後、私は実際に自宅を襲撃され、娘はダンジョンへと拉致されました。

……国会議員がその権力を使い、一市民の家庭を壊滅させようとしたのです。

国家によるテロと言っても過言ではありませんね』


お母様は冷たい目でカメラを睨みつけ、全人類へ向けて爆弾発言を投下した。


『よって、この場で宣言します。――日本政府が責任を持ってこの親子を厳罰に処し

私への誠意ある対応を見せない限り

私は今後、世界中から要請を受けている回復業務を

【一切執り行わない】ことを、ここに宣言いたします』


その瞬間、会場どころかテレビの前の私まで「ぶふぉっ!?」と変な声を上げた。

 世界ボイコット宣言。おいおいおい、スケールがデカくなりすぎだろ!


たまらず記者が悲鳴のような声を上げる。

『そんなことをすれば、世界各国のVIPや覚醒者たちから

莫大な違約金や賠償金が発生するのでは……!?』


『そんなこと、私の知ったことではありませんわ』

 お母様は鼻で笑った。

『破産したら破産したで結構。二度と回復業務ができなくなるだけですわね。

そうなれば私は、生活のためにダンジョンに潜らなければならなくなります。

ただでさえ、これからは愛する娘の教育や

大切な家族との時間を最優先したいと思っていましたの。

私が回復業務をできなくなっても、私自身は何も困りませんので』


「ひえっ……」

 私はテレビの前で頭を抱えた。

(お母さんめちゃくちゃ怒ってる……!

そして『娘の教育』ってワードがバッチリ入ってるぅぅ!

今から始まる我が家での特訓が怖すぎるんだけど!!)


その後も記者がいくつか的外れな質問を投げかけたが

お母様はすべての質問を圧倒的な正論と冷酷なドSトークで完全論破していった。


『――以上で会見を終わります。

これ以上の質問は何も受け付けません。……どうしても死にたい方だけ、発言をどうぞ?

この場で肉体的に“分からせて”差し上げますわ。

私は国から【超法規的免責の許可証】をいただいておりますので

あなた方をここでどう調理しようとも、一切罪には問われませんから』


堂々たる合法殺人予告。

 お母様は最凶の笑顔をカメラに向けたまま、優雅に一礼してステージを去っていった。


「うわぁ……。さすがにやりすぎでしょ……」

 私はテレビを消し、遠い目をした。

 まあ、いいか。悪いのは全部神宮寺親子だし、私には関係ないし。

……いや、帰ってからの特訓という意味では大いに関係あるんだけど。


不安で胃を痛めていると、控室の扉がガチャリと開いた。


「有希、ただいま〜!」

 さっきまで全世界を脅迫していたとは思えないほどの

お花が飛び散らんばかりの超満面の笑顔で、お母さんが戻ってきた。


「お、おかえり、お母さん……」

「見ていたかしら、有希? ああやって会見はするのよ。

有象無象のうるさい連中はね、ちょっと脅せば一瞬で黙るの。

世間の外野が好き勝手言わせておけばいいわ。

どうせあいつらは口だけで手を出してこないし

もし万が一手を出してきたら――その時は物理的に『分からせれば』いいだけよ。わかった?」


「……うん、よく分かったわ(白目)」


異世界でも、現代地球でも

結局のところ一番手っ取り早く相手を黙らせる方法は『圧倒的な暴力パワー』なのだと

いう不都合な真実を、私は再確認させられた。


「それじゃあ、お家に帰りましょうか、有希!

あなたを立派な大人の女性に育てるために、お母さん張り切っちゃうわ!」

「あはは……お手柔らかにお願いします……」


この会見のせいで、日本政府が世界各国の首脳陣から

「お前らの国の議員のせいでS級ヒーラーが怒っただろ

どう責任取るんだ!」と大バッシングを受け

国家存亡の危機レベルの大パニックに陥っていることなど

この時の有希は知る由もなかった。


ただ、自宅に帰還した有希を待っていたのは

国家存亡の危機よりも遥かに過酷な

チートマザーによる【地獄のマンツーマン特訓】だったのである。

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