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第60話:【キャリーを強要される元英雄】

第60話:【キャリーを強要される元英雄】と【驚異の手のひらクルー】


私が目の前の光景に宇宙猫のような顔で硬直している間に

『前世の俺の、20歳頃の姿(※全盛期の若き姿)』をした不審者は

圧倒的な暴力ステータスで周囲の大型魔獣たちを瞬く間に肉片へと変えてしまった。


「ふぅ……。ったく、女の子に手出しはさせねえよ? ――この俺がいる限りな」


バサァッと無駄にカッコいいポーズで剣を鞘に収め

若き日の俺の顔でキザなセリフを吐く不審者。

……うん、見ていて最高に鳥肌が立つ。

前世の自分の(しかも一番調子に乗っていた時期の)顔でそんなセリフ言われるの

ただの公開処刑なんだけど。


(……いや、待て。落ち着け私。よーく観察するのよ)

 私はパニックになりそうな脳を必死に回し、その『偽剣斗』を凝視した。


(見た目は確かに、前世の私が一番ノリにノっていた20歳そこらの姿だけど

……動きが決定的に違う。前世の私はもっと洗練された無駄のない体術だった。

あいつの動きは、ただ『暴力的なステータス』に物を言わせて

大振りの剣をぶん回しているだけ。外見を見る限り20代ってところだけど

中身は完全に「戦闘の素人」ね。……ガワ(外見)だけが若き日の俺なのか

それとも認識阻害の類か?)


私がそんな高度な分析をしていると

魔獣を全滅させられて顔を真っ青にしていた神宮寺が、狂ったように叫んだ。


「お、おのれぇぇ! どこから湧いたか知らんが

俺にはまだ『女王様』から授かった奥の手が残っているんだよ!

出てこい、俺の奴隷どもッ!!」


神宮寺が右手の指輪を掲げると、禍々しい魔法陣が地面に展開。

そこから、さらなる大量の海外マフィア(ごろつき)と

凶悪なモンスターの追加ウェーブが現れた。その数、およそ数十。


「へっ! 雑魚が何人、何匹集まったところで

この俺様の相手になるわけねえだろ! 蹴散らしてやるぜ!」


偽物の俺(20歳)は鼻で笑うと、防御もクソもないノーガード戦法で

敵の大群へと闇雲に突っ込んでいった。


「はぁぁぁ……っ!」

 私は盛大にため息をついた。

(ちょっと待てバカ! あいつがここで死んだり無力化されたりしたら

あの魔物の大群のヘイト(敵意)が全部私に向くじゃない!

そうなったら私は広範囲消滅魔法を使うしかなくなって

莫大な経験値でレベルが上がっちゃうでしょ!! 頼むから生き残れ!!)


私の命を守るため、私は『絶対にバレない超高等隠密スキル』を併用しながら

あいつの戦闘を陰からキャリー(極秘支援)することを決意した。


「オラオラオラァッ!!」

 偽物の俺が叫びながら大剣を大振りで叩きつける。

 ドガァァン! と地面が爆発し、マフィア数人が吹き飛ぶ。

だが、あいつの動きはあまりにも大雑把だ。死角となった背後から

マフィアの暗殺者がナイフを構えて肉薄し

横からは魔獣が鋭い爪を振り下ろしようとしていた。


(そこ、完全にガラ空き!! 盾、展開シールド!!)

 私を指先をわずかに動かし

偽物の死角に視認できない極薄・超高密度の『絶対障壁』をピンポイントで滑り込ませた。


キィィンッ! ガキィンッ!

「ぶふぉっ!?」

 不意打ちを仕掛けたマフィアと魔物の方が

勝手に目に見えない壁に激突して武器を叩き折られ、鼻血を吹いてひっくり返る。


「ハッ! 今の俺の鋭い気配を察知して自滅したか! 運が良いな!」

 偽物の俺は、自分が私の結界に救われたことなど1ミリも気づかず

ドヤ顔で振り返ってそいつらを一刀両断にした。


(自画自賛してないで周りを見ろ、20歳の若造肌!!)

 次はお膝元から突進してくる突撃獣。

(足元、少し止まってなさい!)

 突進してくる先のところを魔道銃で撃ちこみ、少し地面を削り

モンスターのバランスが崩れる。

 偽物が「フッ、隙だらけだぜ!」と脳筋パワーで叩き斬る。


マフィアのスナイパーが遠方から放った銃弾は

私が人知れず空間をわずかに歪めて弾道を逸らし

偽物の耳元をかすめて背後のゴブリンの脳天を撃ち抜かせた。


「ふははは! 弾丸の方から俺を避けていくぜ! これぞ主人公補正!」

(私の!! 魔力制御のおかげだよ!!!)


そんな私の必死のステルスサポート(超重労働)により

大群は見事に全滅。洞窟内は静まり返った。


大量の死体の真ん中で、偽物の俺はふんぞり返り、神宮寺と翔を見据えた。

「さて、次はどうするよ?」


形勢は完全に逆転。神宮寺はガタガタと震えながら、後ろの翔に怒鳴り散らした。

「さ、佐々木ッ! 何を見ている! やっちまえ! そいつを殺せぇッ!」


すると、翔はフッ……と冷めたため息をついた。

「――いや、嫌だね」


「な、何だと!?」


「あんな化け物に勝てるわけねえだろ。

……もう俺は降りるわ。命が惜しいんでね。

 翔はそう言うと、持っていた武器をカラン……と地面に投げ捨て

実にあっさりと両手を上げて降参のポーズを取った。


「て、てめぇぇぇ……っ! バックレやがったな! 後で絶対に覚えていろよ!」

 神宮寺は怒りで顔を真っ赤に染め、ついに理性を失った。

「こうなったら、俺が直接ブチ殺してやるわぁぁぁッ!!」


神宮寺が身につけていた『女王の指輪』が妖しく光り

凄まじい魔力が解放される。その身体能力は一瞬で跳ね上がり

神宮寺は猛烈な速度で偽物の俺へと突っ込んでいった。


「――っ!? は、はええっ!?」

 さっきまでイキり散らかしていた偽物の俺が

神宮寺のガチの突撃速度に思いっきり戸惑った。

焦って適当に大剣をぶん回すが、直線的な動きのため

神宮寺にひらりと余裕で避けられる。


「この程度なら、当たらねえなぁお前ッ!!」

 神宮寺の剣が、偽物の胸元にクリーンヒットした。

 ギィィンッ!!

 しかし、さすがは『チート級の身体(あるいは防具)』である。

神宮寺の攻撃を受けても、偽物の肉体は火花を散らすだけで全くの無傷だった。


 私は壁際で「へー、さすがに硬いのは本物なのね」と

ポップコーンでも食べんばかりの気軽さで見物していた。


「くっ、本気を出してやるぜぇッ!」

 偽物の俺が真っ赤になって魔力を解放し

無理やり身体能力を上げて剣を振り回し始めた。

「オラオラオラオラッ!」

 だが、いかんせん技術がゼロの素人丸出しスイングだ。

神宮寺は「ハハハ! 動きが素人なんだよ!」と嘲笑しながら

すべての攻撃を軽々とステップで回避していく。


(……あいつ、このままだとステータスで勝ってても

精神的にジリ貧になって負けるわね。仕方ない、ちょっとだけ手伝ってやるか)


私は誰も見ていないのを確認し、指先から極小の衝撃波を放ち

神宮寺が次のステップを踏もうとした『足元の地面』をピンポイントで弾いた。


「ぬおっ!?」

 突如として地面が爆ぜ、神宮寺のバランスが崩れる。


「隙ありぃぃッ!」

 偽物の俺がこれ幸いと大剣を大上段から振り下ろした――が、あまりにも大振りすぎて

バランスを崩した神宮寺の遥か横の地面を叩き割っただけだった。


ズドォォォン!!

「ハハハ! どこを狙っている!」

 神宮寺のカウンターが偽物の顔面に炸裂。しかしやっぱり無傷。


「ってぇな! なんだよそのチート防具は!

いい防具持ってんなお前、それを俺に寄こせやぁッ!」

 神宮寺が泥棒さながらのセリフを吐きながら、再び猛攻を仕掛ける。

対する偽物の俺は、無傷のくせに神宮寺の気迫に完全にビビり始めてしまい

「うわっ、お、おい、来るな!」と、大剣を盾にして防戦一方のヘタレモードに突入した。


(おい、前世の私のガワを使って情けない声を出すな。

若き日のイケメンな俺のイメージが崩壊するからやめろ。

……さっさと終わらせよ)


私は冷ややかな目で神宮寺を照準に定めると、手に持っていた魔導銃で、

防戦一方の偽物の影から、神宮寺の『膝の関節』を正確に撃ち抜いた。


パスンッ!

「ぎゃああああああああっっっ!?!?!?」


突然、何の前触れもなく右膝を内側から破壊された神宮寺が

凄まじい激痛の絶叫を上げてその場に崩れ落ちた。動きが完全に停止する。


「え? ……あ、あれ? 急に止まったぞ?」

 盾にしていた剣の隙間から恐る恐る覗き込んだ偽物の俺が

ようやく神宮寺の異変(大チャンス)に気づいた。


「よ、よく分からんが、隙だらけだぜぇッ!!」

 偽物はここぞとばかりに全力の力任せで大剣を縦一文字に振り下ろした。

 ザシュゥゥゥッ!!


「あぎゃああああああああっっっ!?」

 神宮寺が剣を構えていた『片腕』が

凄まじい豪腕の力によって根元から鮮やかに切り落とされ、宙を舞った。

洞窟内に神宮寺の無様な絶叫が木霊する。


神宮寺が血を流してのたうち回る中、偽物の俺は

さっきまで泣きそうになって防戦一方だったことなど

綺麗さっぱり脳内からデリート(忘却)したようで。


すんっ、と澄ました顔で剣の血を払い、最高にカッコつけたポーズで言い放った。


「フッ……もう終わりだな? 俺の敵じゃなかったぜ」


(どの口が言うてんねん)

 私は心の中で激しい関西弁のツッコミを炸裂させた。

あんなに防戦一方のヘタレ全開だったのに

よくまあその短時間でそこまでのドヤ顔を作れるものである。

そのメンタルの図太さだけは少し尊敬する。


「お、おのれぇぇぇ……! 覚醒者でもないポッと出のゴミ屑がぁぁぁッ!!」

 腕を失った神宮寺が、白目を剥きながら残った左手で右手の指輪を握りし

、呪詛のように絶叫した。

「俺は、俺は負けねえええええええッ!!!」


その瞬間。

 神宮寺の指輪から、これまでの空気とは一線を画す、

不吉で濃厚な【黒いモヤ】が爆発的に溢れ出し、洞窟全体を侵食し始めたのだった。

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