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第12話:【死と生の再構築】

「……殺すだと? 何を言ってやがる」


布団に横たわる老人の顔が、本能的な恐怖に引き攣った。

「言葉通りの意味よ。病魔に喰い尽くされた部位を

いくら外から癒やしても無駄。腐った果実を治すには、一度削ぎ落としてから『生やす』しかないわ」


私は事務的な手際で魔力を編み上げ、床に幾何学模様の魔方陣を展開した。

そこから這い出してきたのは、金色の瞳を持つ白猫――ウィットだ。


『……正気か。ステータス「1」のお前が、この男を繋ぎ止めながら私を御すつもりか』

「やって。……私の制御コントロールを信じなさい」


ウィットが喉を鳴らす。それは愛らしい猫の声ではなく、獲物の断末魔を誘う獣の咆哮。


「始めるわ。……おっさん、歯を食いしばれ」


直後、鋭利な魔力の刃が老人の右腕を断った。


「――ッ!!!」


老人の喉が、声にならない絶叫で震える。

私は間髪入れず、断面に**【浄化】**を乗せた高位回復魔法を叩き込んだ。

腐り落ちた肉が純白の光に焼かれ、一瞬で新芽が芽吹くように再生していく。


(……一筋ずつ、神経を編み上げる。血管のバイパスを繋ぎ、骨の継ぎ目を癒着させる)


地獄のフルコース、その一品目だ。

一つ再生させるごとに、私の魔力回路に強烈な負荷が走り

少女の華奢な体がガタガタと震え出す。


そこから先は、狂気の反復だった。

左腕、右足、左足。

地獄を繰り返すたびに、老人の意識は摩耗し

絶叫はやがて掠れた呼吸へと変わっていく。

切断、浄化、再生。その極限のサイクルの中で

老人の肉体はかつての健全さを無理やり「取り戻させられて」いた。


『有希、最後だ』


ウィットの金色の瞳が、老人の胸元を射抜く。

私は深く息を吐き、全魔力を心臓の一点へ集中させた。


(……ここからが本番よ)


老人の心臓は、もはや病魔と癒着し

一個の臓器として判別がつかないほどに肥大している。

私の魔力で無理やり拍動を維持しているが、それも限界だ。

一瞬でも同期リンクがずれれば、肉体は再生の負荷に耐えきれず、内側から弾け飛ぶ。


「……一度、止めるわよ」


私の指先が、激しく乱れる老人の胸に触れる。

その瞬間、ステータス「1」の器が供給過多で悲鳴を上げた。

視界がグラリと揺れ、魔力の供給が一瞬だけ滞る。


(……まずい、ラグが出た!?)


心臓の拍動が、不気味に「跳ねた」。


「いけ!!」


私の叫びと同時に、ウィットの爪が心臓の核を正確に貫通した。


「が、はっ……!!」


老人が大きくのけ反り、心音が――消失した。


完全な無音。

世界からすべての音が消え去り、ただ冷たい虚無だけが部屋を支配する。

一秒。二秒。三秒。

通常なら、ここから再構築を始めれば鼓動は戻るはずだ。

だが、老人の魂が「死」の安らぎに惹かれ、こちら側の呼びかけに応じない。


(……戻ってきなさい。まだ、死なせないと言ったはずよ!)


私は老人の胸ぐらを掴み、自分の魔力を「電気ショック」のように叩き込んだ。

だが、反応がない。

指先から伝わる感触は、ただの冷たい肉の塊だ。

焦りが背中を伝う。視界が赤く染まり、鼻から熱い液体が垂れる。

脳が焼けるような異臭。


(……この私に、失敗しろっていうの!?)


私は意識の深淵まで手を伸ばし、老人の停止した心臓を「魔力の腕」で直接握りしめた。

そして、無理やり心筋を動かし、浄化の炎を奥深くまで流し込む。


五秒。十秒。

永遠にも思える空白のあと。


――ドクン。


掌に、かすかな、だが力強い拒絶の振動が返ってきた。


「……っ!!」


止まっていた時間が、一気に動き出す。

私はそのまま一気呵成に血管を繋ぎ直し、病魔の残滓を焼き尽くした。


……静寂。

今度は「死」の沈黙ではない。

平穏な、生きている人間だけが持つ静かな空気が部屋に戻ってきた。


「……おい、おっさん。起きて。もう大丈夫よ」


私は肩で激しく息をしながら、布団の上の男を見下ろした。

老人は、信じられないものを見るような足取りで、ゆっくりと上半身を起こした。

その肌には、先ほどまでの死相が嘘のような艶が戻っている。


「……死ぬかと思ったぜ、全く。三途の川の向こうで、先代が笑ってやがった」


その声には、確かな力が宿っていた。

老人は自分の手を見つめ、それから私を凝視した。


「……あんた、一体何者だ」


「はぁ……。あーあ、割に合わないわ。

もっと報酬をせびるべきだった。命の値段にしちゃ、情報一つなんて安すぎる」


私はどさりと床に座り込んだ。

もはや「聖女」を演じる余裕もない。

口調から少女の愛らしさが完全に消え

目の前の極道を「面倒な仕事相手」として扱う不遜さが隠しきれずに漏れ出している。


「……ふ。それが本性か、嬢ちゃん。おっかない目をしてやがる」


「そうだよ。だから二人きりにしたんだ。

 ……こんなえげつない治療、人に見せられるわけないだろ」


鼻血を乱暴に拭い、私は老人の瞳を見つめ返した。

その目は、命を救われた感謝よりも、私という「得体の知れない怪物」への警戒に満ちている。


「……おっさん、最後に一つだけ言っておくわ」


私はふらつく足取りで立ち上がり、重厚な襖の方へと歩き出す。


「あんたの体は治した。けど、あんたに『安全』は戻ってこない」

「……何?」


その時だった。

屋敷の遠くから、統制を失った汚い怒号が聞こえてきた。

続いて、重厚な金属同士が激しくぶつかり合う、不快な高音。

静寂だった屋敷が、一瞬にして刺々しい殺気に塗り替えられていく。


「……外、騒がしくなってるわよ。

 どうやら、あんたの死を待てなかった連中がいたみたいね」


私はわずかに口角を上げ、騒乱の気配が漂う廊下へと視線を向けた。

いつも応援ありがとうございます!


今後、**毎週日曜日は「2話更新」**を定例にしようと考えています。

内容としては、本編に加えて、掲示板回や他キャラ視点の幕間など、本編をより深く(あるいはニヤリと)楽しめる「オマケ回」をセットでお届けする予定です。

時間は19時と21時の2回更新です。 

読者の皆様の反応が執筆の励みになりますので、ぜひ日曜日のダブル更新を楽しみにしていてください!


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