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第11話:【裏社会の作法】無能な美少女と、死に損ないの極道

校門の前に並ぶ、異様な黒塗りの高級車の列。

そこから降りてきた黒服の男たちが、迷いなく真っ直ぐにこちらへ向かってくる。


「――高橋有希だな」


先頭に立つ、顔に深い傷跡のある強面の男が低い声で尋ねてきた。


(……ただのチンピラじゃない)


無理だ。

ステータス「1」の今の私では、どう足掻いてもこの人数は捌ききれない。


「そうだけど」

「来い」

「……わかったわ」


抵抗は無意味だ。あっさりと頷いた私に、隣にいた岩倉が血相を変えて前に出ようとする。

「おい、有希! お前ら、一体――」

「しゅうくん」


私は岩倉の胸にポンと手を当て、聖女の微笑みを作った。

「ごめんね、今日のところは帰って。……あとはよろしく」

「あっ……」


呆然とする彼を残し、私は大人しく黒塗りの車へと乗り込んだ。



滑るように走り出した車内。両脇を黒服に固められながら、私はため息をついた。

「で? 一体何の用なのよ」


助手席に座る強面の男が、ルームミラー越しに私を見る。

「……病気を治してほしい人間がいる」


「はあ? あんたたち、私のこと調べたんでしょ? なら分かるじゃない。

 私はステータス全部『1』の無能で学校で祭り上げられているだけよ。

 そんな重病なら、S級のヒーラーにでも頼みなさいよ」


「……全員に断られた」


男はギリッと奥歯を噛み締めた。

「だから、あんたを探し出した。『奇跡を起こす聖女』という噂に、藁をもすがる思いでな」


「……馬鹿みたい。名声だけで攫いに来るなんて、どんだけ切羽詰まってるのよ」

私はそれ以上会話を打ち切り、流れる窓の外の景色に視線を向けた。



やがて車が滑り込んだのは、山奥にひっそりと佇む大屋敷だった。


「聖女様。こちらです」

男たちに案内され、重厚な日本家屋の奥深くへ。

最も奥にある襖の前で、強面の男が深く頭を下げた。


「オジキ。……例の聖女様をお連れしました」

『……入れな』


(――オジキ?)

その単語で、連中の正体が完全に腑に落ちた。なるほど、道理で手練れなわけだ。


襖が開く。

そこは、医療機器が並ぶ広大な和室だった。

布団に横たわっていたのは、60代ほどの男。


死にかけの体で、目だけが生きている。


「……よく来たな、嬢ちゃん。強引な真似をしてすまねえ」

「……強制連行にしか見えなかったわね」

「違いない。だが、うちの若い衆もそれだけ切羽詰まってるんだ。許してやってくれや」


カハッ、と血の混じった咳をする男。

「で? 用件は?」


強面の男が、悲痛な顔で口を開く。

「オジキの体調は限界だ。……あんたの力で、なんとかしてくれ」


「……ちょっと見せて」

私は男の布団の傍に膝をつき、【魔力眼】を起動した。

微弱な魔力を、男の体内にゆっくりと浸透させる。


(……これは、ひどいわね)


複数の病魔が絡み合い、肺の半分はすでにどす黒く壊死している。


「……はぁ」

私は深くため息をつき、立ち上がった。

「これじゃあ、S級ヒーラーでも無理ね。S級の治癒魔法は『生命力の活性化』だから

今のこの人にかけたら、病魔まで活性化して一瞬で死ぬわ」


「なっ……」

「むしろ、今まで心臓が動いているのが不思議なくらいよ。……いつ死んでもおかしくない」


私の冷酷な宣告に、室内の空気が凍りついた。

「……そこを、なんとか頼むっ!!」


強面の男が、床に額を擦り付けるようにして土下座をした。

それに釣られるように、背後の黒服たちが次々と床に崩れ落ちる。

極道のプライドすら投げ捨てた、純粋な懇願だった。


私は少しだけ悩み、やがて静かに口を開いた。


「……条件があるわ」


全員が弾かれたように顔を上げる。

「一つ。この部屋から全員出て、私とこの人の『二人きり』にすること。

二つ。今日のことは一切他言無用。私も綺麗さっぱり忘れるわ。

三つ。報酬はお金じゃない。……私が望む『情報』を一つ集めてちょうだい。どう?」


「ふざけるな! オジキと正体も分からねえ女を二人きりにできるか!」

黒服の一人が叫ぶが、それを制したのは、布団の上の男だった。


「……いいだろう。条件を呑む」

「オ、オジキ!?」

「どうせダメ元だ、やってみようじゃねえか。……お前ら、外を固めてろ。誰も入れるな」


男の絶対的な命令に、黒服たちは悔しげに唇を噛みながら、部屋を退出していく。


ピシャリと襖が閉まり、広大な部屋に静寂が落ちた。


「……さて。これで邪魔者はいなくなったわね」

私は聖女の仮面をかなぐり捨て、首をボキボキと鳴らした。

口調から、少女の愛らしさが完全に消え失せる。


「それじゃあ治療を始めるけど……一つだけ言っておくぞ、おっさん」


私の右手に、禍々しいほどの高密度の魔力が収束していく。

その光なき闇を見下ろしながら、私は這いつくばる極道へ冷酷に告げた。


「あんたの体はもう限界だ。普通の治癒じゃどうにもならねえ。だから――」


「――今から一度、殺す」


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