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アイドルみやびはギャンブルがお好き  作者: 西織
第二章 バーチャルアイドルはポーカーフェイス
9/23

電子の海のカジノ



 社長から釘を刺された後、帰り支度をしているところを、英知くんに呼び止められた。


「みやびちゃん、今帰りです? なら少し待っていてください」


 言われるまま待っていると、同じく帰り支度を整えた英知くんが戻ってきた。今日の彼は薄桃色のカーディガンにミント色のロングスカートだ。髪の毛もアップにして、メイクもバッチリだった。

 なんでこの人、男なのにこの格好が似合うのかが分からない。どうして芸能事務所のマネージャーなんてやってるんだろうね。


「言われるまま待ってたけど、どうしたの?」

「どうしたもこうしたもないです。みやびちゃんが変な所に行かないように、今日は僕がお目付け役です。社長から言われたんですからね」


 生真面目そうな様子で英知くんは胸を張る。平たいはずの胸板が服の飾りでごまかされて、膨らみがあるように見える。これが男性なのだから本当に世の中間違っていると思う。

 いや、それよりも。

 お目付け役ですか。


「信用ないんだね、私」

「逆に聞きますけど、信用されるようなことをしたことがありますか?」


 困ったことに思い浮かばなかった。

 そんな訳で、帰りは英知くんとデートになった。


「そんなに心配しなくても、さすがにこの状況で危険は犯そうとしないよ」

「でも、遊びに行こうとはしてたでしょ?」

「…………」

「ほら無言!」

「いや、ほら、賭場だって色々あるし、ちゃんと合法的なものもあるから」


 違法な賭場には行くなというのが社長の命令だ。


 賭場に違法も何もあるもんかと思われるかもしれないが、この日本には不思議なことに、公に運営されている賭博が存在する。

 いわゆる公営競技で、競馬、競輪、ボートレース、オートレースの四種類だ。

 これらは賭博を前提として自治体などの公的機関が開催するスポーツ競技で、特別法という法律に守られた賭博である。なので、成人限定ではあるが、誰でも博奕を打つことが出来る。


「公営競技でいうと、府中の競馬場とかです? まあ、遊びに行くの自体は止めないので、行くのなら付き合うつもりですけど」

「いや、残念だけど、営業時間がね」


 今の時間は十八時。公営競技は大抵夕方までで、夜間(ナイター)競争(レース)などがあっても、二十一時にはほとんど終わっている。仕事終わりに一回くらいなら賭けられるかもしれないけど、正直それは面白くない。


 というわけで、却下。


 余談だが、最も身近なギャンブルであるパチンコやスロットは、実はこの公営ギャンブルには含まれない。

 まあ言ってしまえば、パチンコ店は景品を交換する所までしか風営法で認められておらず、景品の中には特殊景品という名の文鎮があって、たまたま近くにそれを買ってくれる質屋が開店していて――うん、これ以上は説明するグレーゾーンに触れるので、詳しく知りたい人は三店方式でググろう。


 とは言え、グレーだとしてもパチンコも違法ではないので、社長の約束を破ることにはならない。ただ、正直な所、今はあまり気分ではなかった。そもそもパチスロは、遊ぶと言うよりも頭を空っぽにするという感じだ。というわけで却下。


 そんなわけで、見事に手持ち無沙汰なのだった。


「仕方ないや。素直に家に帰るよ」

「本当に?」

「マジで信用ないのな、私」

「で、実際の所はどうなんです?」

「本当に帰るよ。ただ、カジノでは遊ぶけど」

「ほらやっぱり!」

「いや、違うって。ほら、社長との約束は、違法な賭場には行かないって話だったでしょ。海外のカジノなら、少なくとも合法だからね」


 海外は海外でも、その場所はオンラインだ。


 オンラインカジノ。

 インターネット上で仮想的に開帳されるカジノである。海外にサーバーがあるたため、原則は海外の法律が適用される。


「まあ、厳密にはグレーゾーンなんだけど」


 オンラインカジノの違法性については、逮捕事例はあるけど、ほぼ不起訴処分となっている。理由としては、日本国内の法整備が完全ではないため、裁判までもつれ込んだ際の結果が未知数なためだ。

(※作者注:2025年6月に法改正があり明確に違法化。物語は執筆時2020年時点の内容です)


「また屁理屈みたいなことを……」


 私の説明に、英知くんは呆れてみせた。

 でも、仕方ないではないか。現実として起訴事例がないのだ。

 ――最も、実際は罰金刑が適用された事例が存在するので、合法とも言い難いのが難しいところだ。それに、今後の法整備次第では全面的に規制が入る可能性もある。(※繰り返しますが法改正されました)

 如何に海外にサーバーがあろうとも、日本国内からアクセスする場合は日本の法律が適用されるし、基本的に賭博は日本国内では違法なのは忘れるべきではないだろう。


 とまあ、ごちゃごちゃ言ったが、とりあえず英知くんを丸め込むことには成功したので、今日はオンカジで遊ぼうと思う。


「で、英知くんはいつまで着いてくるの?」

「いつまでって、みやびちゃんの家にお邪魔するつもりですけど」

「どうして決定事項みたいな言い方をされなきゃいけないんだろう……」

「だって、社長に報告する必要があるんですよ。賭場には行くわけですから、そこが違法じゃないかは、ちゃんと僕も見ておく必要があります」


 さいですか。

 まあ私に拒否権はない。前科が多すぎるので、信用しろと言っても難しいのは分かっている。


 そんなわけで、英知くんを我が家にお持ち帰りすることになった。

 如何に女装美人とは言え、仮にも英知くんは男性だ。うら若き乙女としては、異性を一人暮らしの部屋に上げるのはそれなりに抵抗がある――なんてことは無い。むしろ英知くんが家に来ることなんて今更だ。なんだったら、モーニングコール代わりに迎えに来させることもある。その説は本当に申し訳ないと思っている。


 私は助かっているから良いけど、英知くんって性欲ないのかな……? さすがにこうも、プライベートスペースに当たり前のように居られると、女として座り心地が悪いのだけれど。


「えっと……英知くんはなにか飲む? 紅茶くらいならティーパックがあったと思うけど」

「なら僕が準備しますよ。台所お借りしますね」

「あ、はい」


 数分後、私の目の前にミルクティーが置かれた。

 ……彼氏か!

 いけない。自分の家なのに、なぜか英知くんの方が台所を知り尽くしている。

 そりゃまあ、帰る時間はいつも遅いし家も開けることが多いから、ろくな自炊も出来てないけど、なんで部外者の方が手慣れた様子でキッチンを使えるんだよ。


「なんでも何も、みやびちゃんの寝起きが悪い時に、軽食を用意しているからですけど」


 自業自得でした。

 むー、このままでは私の威厳が……。ここは、得意分野で良い所を見せよう。


 ノートパソコンをリビングに持ってきて、英知くんと二人で画面を覗き込む。私は登録しているサイトを呼び出しながら説明する。


「オンラインカジノは本場のカジノと同じように、色んなゲームを遊べるんだけど、プレイ形式が大きく分けて二つあるんだよね。それが、ライブゲームとビデオゲームの二つ」


 ライブゲームっていうのは、現実の人間がカメラの向こうでディーラーをしていて、そのゲームの様子に賭けるもの。

 ビデオゲームというのは、全てコンピュータがゲームの進行を処理してくれるもの。


 私は手始めに、ライブゲームの例えとして、ミニバカラの画面を立ち上げた。

 外国の若い美人ディーラーがカードをめくっている様子がライブで映る。その下の画面には、ゲーム結果の罫線が表示されていて、バンカーとプレイヤーの勝率が記されている。


「これ、本当にリアルタイムでカードをめくっているんですか?」


 ライブ映像を見て英知くんが驚いた顔をしている。まあ、驚くよなぁ、と思いながら、私は愉快な気分になりながら付け加える。


「そうそう。二十四時間、交代制でやっているから、いつでもゲームが出来るの」

「二十四時間!? お客さんがいない時間とか無いんですか?」

「アクセスは世界中からあるからね。時差を考えると、常に誰かいるはずだよ」


 そもそも、本場であるラスベガスのカジノだって営業は二十四時間だ。カジノ業界自体が眠ることを知らないのだから、常に人がいる可能性があるオンラインが営業時間を設ける理由がない。


 主なゲームはバカラ、ブラックジャック、カジノポーカー、ルーレットで、これらはコンピュータで表示されるよりも、現実のディーラーがディーリングしてくれた方が、臨場感が段違いだ。それに、複数台のカメラとセンサーで結果を表示するため、イカサマを行う余地が存在しない。そもそも控除率を考えるとイカサマをする必要性もないため、安心して遊べるというのが魅力だ。


「……あの、みやびちゃん」

「なあに?」

「こんなサービスがあるのに、なんで危険のある闇カジノに行く必要があるんですか?」

「…………」


 なんでだろうね?

 ほら、現実とは言っても、やっぱりカメラの向こうとリアルのゲームは違うし、それに他のお客さんが居ることで生まれる熱さとかもあるから……。


「えっと、それでね。もう一つのビデオゲームっていうのがね」


 言い訳から逃げつつ、私はもう一つ紹介する。

 こっちは分かりやすい。スロットを代表とする、コンピュータゲームとして遊ぶカジノゲームだ。現実のディーラーが居なくて、全て電子上で進行するものはだいたいこのタイプだ。


 ライブカジノと違って、時間の制限とかが殆どないので、自分のペースで進めることが出来るのが魅力だ。その反面、臨場感はあまり無いし、確率が偏るとどうしても不正があるんじゃないかと疑ってしまうのが残念な点だ。


「一応ビデオでも基本的なゲームはあるけど、私はライブの方が遊んでいる気持ちになれるかな」

「なら、今日はライブゲームをやるんですか?」

「それでも良いんだけど、今日は英知くんに勝ってる所を見せたいし、こっちにしようかな」


 言いながら、私は一つのゲームを選択する。


 それは――オンラインポーカー。

 カジノゲームの中で唯一、プレイヤーの実力が直に反映されるゲームだ。



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