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アイドルみやびはギャンブルがお好き  作者: 西織
第二章 バーチャルアイドルはポーカーフェイス
10/23

みやびちゃんのポーカー講座・その1


 オンラインポーカー


 電子上に用意されたテーブルで、同時にアクセスした人と電子マネーを賭けた勝負を行うことの出来るサービス。

 他のカジノゲームと違って明確に対人戦なので、自ずと実力差が詳らかになる。


「カジノゲームの中でも、明確に対人戦なのはポーカーくらいなんだけど、オンラインではそれを世界中の人とできるから、すごいんだよね」


 ポーカーはカジノゲームの中でも特殊な遊びだ。他のゲームが胴元(ハウス)(ゲスト)の勝負であるのに対して、ポーカーはゲスト同士の戦いとなる。胴元は勝負の場を提供し、ゲームごとに手数料(アンティ)を徴収していく。


 そこまで説明すると、英知くんが何気なく感想を口にした。


「なんだか雀荘の場代みたいですね。テーブルを貸す代わりに使用料だけ取るのは、カジノ側からしたらすごく利率良いんじゃないですか?」

「まあ、プレイ人口が多いから成り立つゲームではあるんだけど……って、ちょっと待って英知くん。もしかしてあなた、麻雀出来る人?」

「え? いや、学生の時にセット麻雀で遊んだくらいですが……。フリーとかは経験ないです!」


 私の質問に慌てて首を横に振る英知くんだったが、そこでとっさにフリーとか出てくる辺り、それなりに知っていそうだ。

 うわぁ、まじかー。英知くんが麻雀知っているなら、今日は雀荘に行っても良かったんだけどなぁ。


「英知くん……今度、私の知り合いの雀荘に遊びに行かない?」

「嫌ですよ。みやびちゃんの行きつけとか、絶対お金賭けるでしょ?」

「やんないやんない。最近は、健康麻雀とかも流行っているんだよ。カモったりしないから」


 私が親指をぐっと立たせると、彼は非常に嫌そうな顔をした。全く心外な。アイドルが笑顔を向けているのだから、もっと喜んで欲しい。


 うん、こほん。

 英知くんを雀荘に連れて行く計画はまたの機会にするとして―今はポーカーだ。


「英知くんってポーカーはやったことある?」

「そんなに遊んだことはないですけど、ルールくらいなら。アレですよね。五枚配って、一枚チェンジして、役を作るっていう」

「それはドローポーカーだね。日本だとその形式が有名なんだけど、実は世界的に遊ばれているのは、ルールが少し違うんだ」

「ポーカーに種類があるんですか?」

「色々あるよ。役は共通なんだけど、ゲーム性はまるで違うんだよね。インディアンポーカーとかファイブスタッドポーカーとか、調べてみると面白いんだけど―基本的に、本場でポーカーって言えば、だいたいテキサスホールデムだね」


 私はゲーム画面を開く。

 楕円に近い細長いテーブルが画面に映り、そこにログインしたプレイヤーが数人現れる。私を含めて五人のプレイヤーが席についた。


 電子上でカードが配られる。

 私の前に二枚のカードが表示された。


「ざっくりルールを説明すると、プレイヤーの手札は二枚だけ。あとは、テーブルの中央に五枚のカードが並べられるんだ。その五枚は全員が使える共有のカードになる。自分の手札と共有カードの、合わせて七枚から役を作っていくんだよ」


 私の手札は♣6と♡2。

 正直あまりいい手札とは言えなかったけど、説明を続けるためにそのままゲームを続行する。


 テーブルの中央に、コミュニティカードと呼ばれる共有カードが並べられていく。

 ゲームを進めていくと、やがて五枚のカードが揃った。


 ♣5 ♠4 ♠9 ♢2 ♢A


「今だと、私の手札の♡2と、コミュニティカードの♢2で、2のワンペアが出来たことになるね。あとは、他のプレイヤーが2のワンペア以上の手を持っていなければ、私の勝ち」


 そう言って、最後のコールを宣言する。

 ショーダウン。

 相手プレイヤーの中に、9のワンペアを持っている人が居た。テキサスホールデムは数字が大きい方が勝ちなので、私の負けだった。


「この場合、私の手札に3があれば、A,2,3,4,5でストレートが出来るから、手札に『ストレートがある』って思わせるように勝負したんだよね。でも、相手は9のワンペアで勝てると思ったから、勝負に乗ってきた」

「ブラフってことですね。そっか、ポーカーはブラフで手を大きく見せるっては聞きますけど、この形式だと、共有カードで役が絞り込めるんですね」


 さすがは英知くん。理解が早い。


 ブラフ――もっと噛み砕いて言えば、ハッタリはポーカーでは必須の技術だ。

 最終的には手役(ハンド)の強さで勝敗は決まるけれども、そのハンドに価値をつけるのはプレイヤー自身なので、役無しのブタに百万円賭けることだってできる。相手もまさか役無しに百万円も賭けるとは思わないので、よっぽど強いハンドだと思えば勝負から降りる。


 逆に言えば、強いハンドを弱く見せて誘い込むこともできる。

 ロイヤルストレートフラッシュなんて強いハンドにもし千円しか賭けなかったら、弱い手だと勘違いして勝負に乗ってくるかもしれない


 ポーカーは、賭け金を釣り上げるかゲームから降りるかを選ぶことが出来る。

 自分の手札が相手よりも強いと思うなら強気に増額(レイズ)するし、勝負するなら受けて立つ(コール)。逆に負けると思ったら降りる(フォールド)を選ぶ。また、相手の出方を見る時には様子を見る(チェック)なんてアクションも取ることも出来る。


 仮に弱い手でも、強気に出て相手を無理やり降参させることが出来るのが、ポーカーだ。


「ポーカーが頭脳競技(マインドスポーツ)って言われるのはこれが理由だね。自分のハンドを強く見せつつ、相手のハンドの強さを推理していく。カードの運だけじゃなくて、プレイヤー自身のスキルが問われる競技なんだ」


 だからこそ、ポーカーにはプロが存在する。


 プロのギャンブラーなんて基本的には碌でなしの戯言だけれど、ことポーカーに関しては、現実としてプロがいるのだ。

 カジノでキャッシュゲームをして稼ぐような人もいるけれど、何よりも世界中で行われるポーカーの大会で稼ぐ人が居る。大きな大会になると優勝賞金は億を軽く超えるので、まったくもって夢のある話だ。


「まあ、プロが居るってことは、もちろんそれだけ実力差が出るってことなんだけどね。だから私は、もし誰かと一緒に海外のカジノに行ったとしても、ポーカーだけは気軽に遊ばないように忠告するよ。絶対に負けるから」

「絶対、ですか」


 私が思いの外強い言葉を使ったからか、英知くんは驚いたように目を見開く。


「純粋な疑問ですけど、カード運がある以上、ラッキーパンチがありそうじゃないです? 麻雀だと、一回の役満でまくられるとかありますけど、そういうのはポーカーでは無いんですか?」

「無いとは言わないよ。でも、断言するけど、そのパンチはプロにはまず当たらない。当たったとしても、すごく軽傷で済ませることができる。それが、ポーカーと麻雀の大きな違いだね」


 麻雀の場合、和了(あが)られてしまうとその役に応じた点数を一律で取られてしまう。けれど、ポーカーの場合は前述の通り、役に価値をつけるのはプレイヤー自身なのだ。


 ブタ手に百万円を賭けることもできるし、ロイヤルストレートフラッシュを千円にすることもできる。対戦相手がどれだけ強いハンドを持っていても、安い金額で受け流すことが出来るのだ。

 仮に百万円レイズされても、こちらが勝負に乗らなければチップは減らない。

 だからこそ、強いハンドを持っている時は賭け金を釣り上げて勝負に乗せる技術が必要になる。その匙加減は素人には難しい。故に、ラッキーパンチはほぼ当たらない。


「麻雀でも強い人はアベレージで良い成績を出すけど、あれは確率的なゆらぎが大き過ぎるんだよね。それに対して、ポーカーは極論、カードが最弱でもプレイング次第で勝てたりするからね。だから、あらゆるギャンブルの中で唯一と言っていいくらい、実力が反映されるゲームなんだよ」


 ギャンブルにはそれぞれに戦術や戦略が存在するけど、大半は不確定なオカルトだ。でもポーカーだけは、知識が明確に勝敗を分ける。


 弱いものが負け、強いものが勝つ。

 それは、運否天賦を凌駕するゲーム性だからこそ、残酷なまでに人を魅了する。


「ポーカーが実力を反映するゲームなのは分かったけど、そんなものを気軽にやって良いんです? みやびちゃんって、そんなに強いの?」

「まあ、それなり?」


 私は画面を指差してみる。そこには、オンラインカジノで遊ぶために入金された総金額が表示されている。海外サイトなのでドル建てだ。


「えっと……いち、じゅう、ひゃく……えっと、六万のドル建てだから……え、六百万!?」

「今日の為替相場は一ドル百十円だったから、正確には六百六十万円だよ」(※執筆時点)

「どうしたんですか、こんな大金……」

「このオンラインカジノで勝ったり負けたり」


 少しだけいい気分になりながら、私は画面を操作してゲームを進める。


「他のゲームもやるから常勝とは行かないし、手痛い負け方をすることもあるから、スカンピンになった時は入金しているけどね。その中でも、安定して勝てるのはポーカーなんだよね」


 この所持金の中から、テーブルに持っていくチップの上限を予め決めることもできるので、熱くなって六百万円を一気に失うような心配もない。


「ま、そんなわけでね。プロとまでは言わないけど、セオリーは知ってるよ」


 言いながら、私は画面上に視線を向ける。えっと、今のポジションはボタンか。だったら試してみようかな。

 手札は全く見ずに、無造作にチップをレイズする。よし、スチール成功。十五ドル儲けた。


「え、なんか今、簡単にお金増えましたけど、一体何をやったんですか?」

「スチールって言って、手札が配られただけの段階で他のプレイヤーを降ろしたんだよ。ポーカーはポジションが持ち回りで、強制的にベットさせられる人が二人居るから、その二人を降ろすだけでも強制ベット分のチップを取れるんだ」


 できるだけ噛み砕いて説明したつもりだけど、英知くんはなんとも言い難い表情をしている。うん、まあ最初は、ポジションの概念自体があまり理解しづらいよね。


 そうするうちに、次のゲームが始まった。

 丁度勝負に出やすいハンドがやってきたので、また勝負に出ようと思う。


 スターティングハンドは♡Qと♡K。

 今の私のポジションはSB(スモールブラインド)

 ブラインドベットは五ドル。


 テキサスホールデムでは行動順が決まっていて、その順番は持ち回りになる。

 これをポジションと言うのだけれど、時計回りに持ち回りで、最初にアクションを起こす人や、必ずチップを賭けなければいけない人などが決まっている。


 ディーラーボタンと言う目印を一ゲームごとに移動させて、そこを基準にポジションが決まる。


 例えば私の今のポジションであるSB(スモールブラインド)は、強制的にチップを賭けさせられるポジションだ。

 ポーカーでは全員が降りてしまうとゲームにならないので、SB(スモールブラインド)BB(ビッグブラインド)というポジションは、ゲーム開始時に強制的にチップを賭けさせられる。これをブラインドベットという。


 ポジションに応じた戦略があって、さっきのスチールなんかはその一つ何だけど、それを全て説明するとすごく難しいからここでは割愛する。ただ、今の私のポジションはできれば勝負したい所だった。


 コミュニティカードが三枚配られる。

 カードの内容は♢2、♣K、♢6の三枚。


 この時点で、五人の内二人が降りた。

 残りは私を含めて三人。


 私の手札は♡Qと♡Kなので悪くない。

 私の前に居るプレイヤーがレイズしてきたので、私は様子を見てコールする。


「キングのワンペアですよね。今の所、一番強いんじゃないですか?」

「だね。でも、相手もKを持ってるかもしれない」


 ここで賭け金を一気に釣り上げて強気に出るのもありだったけど、ここは様子見だ。

 全員が二〇ドルずつ賭けているので、現在の総額(ポッド)は六〇ドル。これを三人で取り合う。

 そして、四枚目(ターン)のカードが開かれる。


 ♢2 ♣K ♢6 ♠2


 コミュニティカードで2のワンペアが出来た。


「これで誰かが2を持っていたら、スリー・オブ・ア・カインド――スリーカードの完成だね。だから、Kのワンペアじゃ勝てなくなった」

「ピンチじゃないですか」

「でも、ここでブラフの出番だよ」


 私の前のプレイヤーが、一〇ドルレイズしてきたので、私は一気に五〇ドルをレイズした。


「さあ、どうかな?」


 もしこの勝負に乗るのなら、相手は私と同じ五〇ドルを賭けないといけない。およそ五千円。まだ小遣いの範囲だ。


 しかし、相手はフォールドを選択した。もうひとりもあっさりフォールドしたので、このゲームは私が勝った。ポットに貯められた一二〇ドルが私のもとに来る。そのうち七〇ドルは私が出したものなので、差額の五〇ドルが利益となる。


 ちなみに、リングゲームではこの配当からゲームの手数料(レーキ)が五%取られるので、六ドルを引いて純粋な利益は四十四ドルである。


「今のはコミュニティカードで2のワンペアが出来た途端、私が強気でレイズしてきたから、相手は私のハンドをツーペアかスリーカードだと思ったんだよ。で、他のプレイヤーはそれ以上の手札を持っていなかったから、フォールドした」

「そっか。自分が負けるかもしれない時は相手にも同じ可能性があるんですね。でも、誰かが2のスリーカードを持ってたらどうするんです?」

「その時はリレイズしてくると思うから、どこまでなら勝負していいかを見極めるべきだね。私の場合、Kのワンペアは出来ているわけだから、五枚目のカードで逆転する可能性も考えられるけど、実は四枚目の時点でオッズに合わない賭けをしているから、更にレイズされたら降りるしかない」


 こういったバンクロール管理がポーカーにおいて重要なスキルの一つだ。

 資金管理は全てのギャンブルで意識するべき要素だけれど、特にポーカーはその恩恵が大きい。


 オッズ――これから賭ける金額と得られる金額の倍率が、勝てるカードを引く確率と合っているかという計算だ。


 例えば、今の状況で私が勝つためには、もう一枚Kを引いてくるしか無い。

 私に見えていないKは二枚で、場に見えている四枚を除いた残りのカードは四十六枚。

 その四十六枚から二枚のKを引いてくる確率は、約四%。およそ二十五回に一回という低い確率なので、この状況でオッズに合うとすれば、五ドル賭けて二十五倍の百二十五ドル手に入る場合だ。

 なので、オッズを考えると更にレイズ出来る金額は五ドルまでであり、それ以上のレイズはお金を無駄にするだけと言えるだろう。


 逆に言えば、相手も同じ状況ならば、五ドル以上の金額をレイズすれば、オッズに合わないのでまず間違いなく降りる。


 だからこそ、ブラフを掛ける時に考えるべきなのは、勝つ確率に対して勝った時の金額が割に合うかどうかである。


「私がさっき五〇ドルをレイズした時は、他の二人がオッズに合わないって思ったから降りてくれたんだよね。これはもちろん、素人相手には通じないんだけど、それなりにセオリーが分かっている同士だと良い駆け引きになるんだよね」


 自身のハンドの確率的な有利不利を計算して、相手のハンドを予測しながらそのリスクを秤にかける。

 自分自身の努力が確実に反映されるという意味で、ポーカーほど平等なギャンブルはない。

 一通り説明をし終えて、私は期待のこもった目を英知くんに向ける


「どう? 面白そうでしょ」

「そうですね。子供の頃にやったポーカーだと、役ができるまでのチキンレースみたいな所があったんで、何が面白いんだろうって思ってましたけど……こういう駆け引き要素があるんなら、人気な理由もわかります」

「でしょうでしょう」


 よし、と心の中でガッツポーズをしながら、私は沼に引きずり込ませるような気持ちで言った。


「というわけで! 今日は英知くんにも、実際にプレイしてもらおうと思います。私のパソコン貸すからやってみよ?」

「え? でも、これリアルマネーなんですよね。人のお金でギャンブルなんて出来ないですよ」

「大丈夫だって。バイインが――レートが低いテーブル選ぶし、十万くらいなら端金だから」

「十万を端金っていうアイドル怖い!」


 いや、結構売れ始めると、十万って端金よ?

 マネージャーなら知っているでしょうに。


 そんなわけで、今日は英知くんのポーカー特訓日にすることにした。



挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

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