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アイドルみやびはギャンブルがお好き  作者: 西織
第二章 バーチャルアイドルはポーカーフェイス
14/16

バーチャルアイドルやみみちゃん


 誰でも出来るバーチャルアイドル入門。

 用意するもの

・スマホ(普段使い)

・キャラクターモデル(フリー素材)

 以上。



「これ、動画配信を真剣にやってる人が見たらブチ切れますよ……。仮にも中堅どころのVドルとのコラボで、汎用モデルのキャラクターを使うなんて……。しかも、配信環境ほとんど相手の方に頼りっきりなんて、本当にひどい……」

「し、仕方ないじゃない。私こういうの初めてなんだから。プロに任せた方が良いのは確かでしょ」


 英知くんからの苦言に、私は唇を尖らせながら言い訳をする。

 昨今人気が高まっているバーチャルアイドル業界だけど、簡単な配信に限れば、そこまで大仰な機材は必要ない。スマホでバーチャルライブ用のアプリを入れれば、簡単にバ美肉出来る。もっとも、クオリティはお察しだ。


 ガチでアイドル活動をしたかったら、ちゃんと配信用のパソコンを組んで、モーションキャプチャが出来るカメラを設置し、キャラモデリングもオリジナルで作るのが良いのだろうけれど、さすがに私はそこまでやるつもりはない。ガチでやろうとすると、現実でアイドルやってるのに、なんでバーチャルでもアイドルやらなきゃいけないのかとなる。


「というか、勝手にVドルデビューしたなんて言ったら、社長きっと怒りますよ」

「だからお遊びレベルにおさえてるんだって。本気出してやったらまずいことくらい、さすがに私も分かってるって」

「だったらせめて、コラボ依頼メールを送る前に僕に相談が欲しかった……」


 それはホント、ごめんね。


 リアルとバーチャルで活動場所は違うとは言え、アイドルという人気商売である点は同じだ。勝手に活動してしまったら、トラブルがあった時に事務所が対応できなくなるので、本来なら必ず両事務所の交渉が必須だ。最も、霧雨ナツは個人活動のVドルなのでそこまで問題は無いと思うけど。


 ちなみに、身元を隠しているため、さすがに今回は一ノ瀬みやびという名前は使えない。

 なので、『やみみ』という名前で依頼をした。

 ひねりがないとか言うな。


「あと、用意したのはゲーム機ですか」

「うん。霧雨ナツ側が提示してきた条件でね」


 子どもから大人まで幅広く大人気の家庭用据え置き型ゲーム機である。どの店舗も売り切れだったので手に入れるのに苦労した。

 今回は、このゲーム機のパーティゲームソフトの中に入っている、テキサスホールデムのゲームを使って対戦することになっていた。


 なぜこんな回りくどいことをしているかと言うと、二つほど理由がある。

 まず一つは、イカサマ対策だ。と言っても、ゲームデータを弄るような専門的な話ではなく、単純に相手の配信を見て手札を覗くのを防止する目的である。

 互いのパソコンの画面を表示すると、ハンドが丸見えになってしまうので勝負にならない。そうでなくても、片方のハンドが見えていたら、配信中のコメントでネタバレされてしまう。なので、片方のゲーム画面を配信用として映し、ハンドは編集で隠すことで公平性を保っている。


 二つ目は、ノーレートで勝負を行うためだった。これも霧雨ナツからの提案で、コラボ配信では賭け事はなしという約束にした。まあ、妥当な条件だ。オンラインとはいえ、同じ日本人同士で賭け事をしたらどんなトラブルが起こるか分からない。仮にも日本で配信する以上、最悪の場合、警察のお世話になってしまう可能性がある。そんなわけで、ゲーム機を使っての平勝負である。


 霧雨ナツとは、メールだけでなく軽く通話して打ち合わせを行った。私が動画配信の素人だと分かっても、丁寧に色んな方法を教えてくれた。

 霧雨ナツは少し甲高いアニメ声の子だった。おそらくボイスチェンジャーを使っているんだろう。声の割に、口調はとても丁寧で親しみやすい。大人びているけれど、端々の砕けた言葉遣いに幼さが垣間見える印象だった。


『準備はそろそろ大丈夫ですか?』


 霧雨ナツの落ち着いた声が聞こえてくる。

 リハとして、私は自分のスマートフォンに顔を合わせてモーションの確認をする。私のアバターはショートの水色髪にメガネの女の子で、どことなく委員長って感じのキャラだった。


「ナツさん。声、聞こえてます? マイクはやっぱり用意した方が良かったですかね」

『大丈夫みたいです。スマホのマイクでも性能がいいと十分ですからね』


 横で起動させているパソコンの画面に、ナツのアバターが映っている。パソコンから漏れる音が反響しないように、そちらからイヤホンを伸ばして左耳に付ける。テーブルの上は、ノートパソコン、スマホ、ゲーム機と、大所帯だ。


「じゃ、英知くんはリビングで配信を見ててね」

「分かりました。まあ、頑張ってくださいね」


 英知くんには環境設営に手伝ってもらったけれど、ここから先は私の勝負だ。

 ま、勝つにしろ負けるにしろ、せめて前回よりもマシな勝負をしたいものだ。


『それでは、よろしくお願いします。やみみさん』

「はい、こちらこそ!」

『あの……』


 不意に、ナツが口ごもった。

『配信直前に聞くのも変ですけど……どうして、誘ってくれたんですか?』

「ナツさんと勝負したかったからですよ」


 私は正直な気持ちを口にした。

 ナツからすれば、私が『ミヤミヤ』なことは知らないはずだから、疑問に覚えるのは当たり前だろう。だから、せめて分かりやすい理由を作った。


「ナツさんの動画を見て面白かったから、この人と本気で勝負したらどうなるんだろうって思ったんです。ナツさんの方こそ、どうして私の誘いに乗ってくれたんですか?」

『それは……面白そうだったから、です』


 ニコリと、アバターが楽しそうに微笑んだ。


『麻雀とか他の対戦ゲームなら、何度もコラボ配信の誘いがありましたけど――僕の専門であるポーカーは誘われたことがなかったです。そもそも、バーチャル界隈では配信者が少ないですからね。まあ、ゲーム性が生配信に向かないのは分かっているので、当たり前ですけど。でも―せっかくならやってみようと思えたのは、やみみさんのおかげです』


 だから、と。

 ナツのアバターが目を見開いて挑戦的に笑った。


『本気でやります。覚悟してください』

「は――はは」


 望むところだ。

 そして――生配信が始まった。


※※※


『みなさんこんにちは! 霧雨ナツのポーカーチャンネル。今日は特別編ってことで、ゲストの人とヘッズアップの勝負をしてみるよ!』


 ヘッズアップ――一対一の勝負のことだ。

 テキサスホールデムは、三人以上のゲームと二人対戦では、全く違うゲームと言っていいくらいゲーム性が変わる。理由はいくつかあるのだけれど、最も大きな理由として、チップを奪える相手が一人しか居ないという点である。


 何を当たり前のことを、と思うかもしれないけど、これはすごく大きい。だって、三人以上なら、一人には勝てなくてももう一人からチップを奪っていけば逆転出来るけれど、ヘッズアップの場合、一対一なのでスタックが明確に有利不利を分けてしまう。流れを一度でも奪われれば、下手をすればストレート負けしてしまう可能性があるのだ。


 けれど逆に言えば、ポーカーにおける立ち回りが一番重要なゲーム形式とも言える。


『今日ゲストで来てくれているのは、Vドル初心者のやみみちゃんです。なんと、バーチャル配信は初めてなんだって。初々しいよね! でも、ポーカーの実力はそれなりだから、注意が必要。油断していると僕も足元すくわれちゃうから気をつけます。というわけで、やみみちゃん、挨拶お願いします』

「こんにちは~。やみみですぅ。今日はナツちゃんに誘ってもらいました。楽しい時間を過ごせたらいいなって思います。がんばりますっ!」


 ぶりっ子である。

 やみみという名前で委員長アバターのぶりっ子キャラである。キャラが大混雑だった。


 まあでも、これくらいキャラを変えないとゲーム中に黙ってしまいそうだったから、色々考えた上でこの方向性で行くことにした。勝負は勝負だけど、配信もしっかりと成功させないといけない。私もアイドルだ。仮面くらいかぶれる。


 現在の閲覧者数は――もう千人を越えた。事前に告知していたとは言え、この短時間ですごい。私が最初の頃にリアルライブやった時は、百人の箱を埋める壁ですら中々厚かったというのに。ネット配信という媒体の違いはあるとは言え、霧雨ナツのネームバリューを感じる。


 ポーカー分かる人がこれだけ居るのか、はたまたナツの配信はなら何でも見る人なのか。

 少なくとも、霧雨ナツが人気者なのは確かだ。


『それじゃ、今日のルール説明をするよ』


 ナツの言葉とともに、ルールをまとめたテロップが画面に表示される。



チップ量(スタック)は五〇〇〇点スタート

強制ベット(ブラインド)は最初一〇点。十ゲームごとに一〇点ずつ上昇、一○○点打ち止め。

・どちらかのチップが無くなるか、一時間後にスタックが多い方が勝ち



「運が悪いと十分くらいで負けちゃうかもですね。やみみ、あんまり運良くないんですよぉ」

『あはは。そんなこと言って、やみみちゃんかなりロックだから、怖いなぁ』

「えー、そんなことないですよぅ。ガード固いみたいに言わないでください! やみみ、これでも結構惚れっぽいんですよ?」


 小芝居をしつつ、私は流れを確認する。


 生配信ということで、それなりに撮れ高は意識するけれども、互いにゲーム中の忖度は無しという打ち合わせだった。なんだったら、最初からオールインしても良いとナツは言ってきた。まあ、さすがに私も、この勝負が最初の一ゲームで着いてしまうと困るので、最初は様子見だ。


『じゃ、早速始めましょうか』


 ゲームの始まりは、比較的穏やかだった。


 ナツと連絡をとった最初の時に、オンラインポーカーでの私のハンドヒストリー(棋譜のようなもの)を送っている。普段の私はタイトアグレッシブ寄りのプレイングだけど、その時送ったのは意図的にタイトパッシブにプレイした。おかげで今、私は非常にガードの固い女だと言われた。まあ、貞操観念の緩い女よりマシだ。


 霧雨ナツのプレイングについても、公開済みの動画は全て見て研究した。

 その結果として分かったのは、彼女はオールラウンダーだ。もちろん、動画にする時に意図してプレイスタイルを変えている節があるから、実際のプレイは分からないけれど、トーナメントなどを見る限り、状況に応じてかなり大胆にスタイルを変える。


 敢えてスタイルを言うとすれば、タイト寄りで、パッシブ。他のプレイヤーの様子を見つつ、的確にアクションを変えていく。特にキャッシュゲームに慣れた手付きのプレイヤーだった。こういった手合はゼロか一という賭けを嫌うので、あまり大きな勝負には出てこないだろう。


 しかし、ヘッズアップは互いのチップを限界まで奪い合うのが目的だ。そこに勝機があるのではないかと考えている。


『うーん、あんまり勝負には出れない手ですねー。撮れ高考えると、あんまりフォールドばかりするのはどうなんだ、って感じなんだけどね』

「なら、勝負します?」

『あはは、その手には乗らないよ。遠慮します』


 私もナツも、淡々とゲームを進めていった。

 一対一のヘッズアップでは、プレイヤーが二人しか居ないため、ポジションも自然と二パターンしか存在しなくなる。

 ディーラーボタンが置かれた方がSBでもう一人がBBだ。例えばブラインドが一○点だった場合、SBは五点、BBは一○点を必ずベットする。そのため、フォールドし続けていたら自然とチップが少なくなっていく。


 かといって、弱いハンドで勝負を仕掛けても返り討ちになるので、自然と膠着状態が生まれる。どちらが決定打を早く手に入れ、そして相手をうまく勝負に乗せられるか。それがヘッズアップでの戦略で、これが中々難しい。


(っていうか、キャッシュゲームに慣れると、ヘッズアップって下手になるんだよね。基本的にトーナメント向きの戦術だし、アベレージで成績を出すリングゲームとは相性が悪いから)


 私もナツと同じタイプなので、互いに大きなアドバンテージが存在するわけではない。


 五ゲームが終わり、十ゲームが終わり……ブラインドは三○点に上がった。

 この時点でのスタックは、私が四五〇〇点、ナツが五五○○点。

 ……しっかりリードされている。


(でも、まだ大きな差じゃない。むしろ―いい勝負をしているように見えてると思う)


 配信を盛り上げるために、決定的な差が出ないように調整されている。一進一退の攻防を演じさせられているのだとしたら、それほどまでに私とナツの間の実力差があると言うことだ。

 しかし、このままではジリ貧だ。


(なら、そろそろ勝負に出てみようか)


 勝負が始まって二十分。

 十三ゲーム目。


 私のスターティングハンドは♡8♡9。スーテッドコネクター。

 フロップは♡J、♣7、♠4。スートがばらばらのレインボー。


 フラッシュは難しいけれど、10が来ればストレートになるのを期待できる。ちょうどホールカードが8と9で真ん中のコネクターなので、ボードだけでは気づかれづらいのが利点だ。

 ひとまず、Jのペアが入っているように見せかけながら回してみようかと考える。


「レイズ、五〇〇点」

『大きく出るのに迷いが短かったですね。ハンドが出来ているのかな。なら僕も――コール』


 これでポットは一六○○点。

 ターンは♢A。ホールカードと絡まなかった。


 こめかみを叩きながら、少しだけ考える。

 ここで相手の手札にAや絵札があった場合、私の8,9ではまず勝てない。役無しのハイカード勝負では、9というカードは非常に脆い。本来なら勝負に出るべきところではないけれど――まだ、五枚目で10が落ちてくる可能性も捨てきれない。


 こういう来れば勝てるというカードのことをアウツというけれど、問題はそれを待つことが割に合うかだ。今の私にとって、アウツは10だけだから四枚。今、私の目に見えているカードは手札の二枚とボードの四枚の六枚。残り四十六枚のカードの中からアウツの四枚を引いてくる確率は、約八%。一割以下の確率だ。


 オッズを考えれば、ベットできるのはポット額の十分の一、つまり一六〇点までだろう。そんな額をレイズした所で攻撃にもならないので、ここは確率的に考えれば降りるべきだ。


 一割。そう、一割の確率。

 けど――


「レイズ、一〇〇〇点――です!」


 オッズに合わないからこそのブラフであり、そして賭けるからこそのギャンブルだ。


「今回のやみみは強いですよー。どうします?」

『わぁ。強気だね! これは困ったなぁ』


 アバターを大げさに動かしながら、ナツはリアクションをする。この後のアクション次第で、彼女の手の内がある程度しぼれる。レイズだったら確実に何かしらのハンドが出来ているので即降りだ。コールの時が困るけど、それなら五枚目で判断すればいい。どちらにせよ、私からの攻撃はこの一〇〇〇点レイズで済ませている。


 あとは、ナツの方がどう出るかだが。


『うーん、困った困った。それじゃあ――』


 ナツのアバターが、目を細めて口角をニヤリと釣り上げる。二次元のキャラクターのはずなのに、それは随分と表情豊かだった。


『オールイン、だよ。やみみちゃん』

「………ッ!」


 配信中だと言うのに、思わず反応しそこねた。

 ただ息を呑むことしか出来ない。ここでレイズは可能性として考えていたけれど、まさかオールインしてくるなんて思わなかった。だから、第一声は疑問符だった。


「どう、して……?」

『だってやみみちゃん、ストレートドロー待ちだもん。最初はJペアかなと思ったけど、さっきの長考を見るとペアはまず無いし、ボード的にフラッシュはありえない。だとしたら、ストレートのガットショットを狙っているんだって思ったんだ。違う?』

「…………」

『一応言っておくけど、僕のハンドもそれなりに強いよ? このボードだと、ストレートドローは必然的にガットショットだから、確率は八%くらいかな。それでも勝負できるかな?』


 放送事故覚悟で、少しだけ無言になった。

 図星をことごとくつかれてティルトしそうになるのをぐっと堪える。小さく息を呑み、そのまま吐かずに悔しさとともに飲み込む。


 ミスを取り繕うために、キャラを作って声を出すくらいの余裕は取り戻した。


「う、くぅうううう! はいっ、そのとおりです! 参りました、フォールドですぅ!」


 ここまでハンドを見透かされてしまえば、ナツのアクションがブラフかどうかなんて関係ない。

 仮に捨て身のオールイン勝負で負けた場合、ここで対決が終わってしまう。だったら、傷が浅いうちに撤退するのが吉だ。


「あーん! ナツさんがいじめる! 頑張ってブラフかけたのにぃ!」

『あははは! まだまだだね、やみみちゃん。もっと巧妙にブラフしないと』


 私の悲痛な叫びとナツの愉快そうな声が、配信上で同時に響き渡った。



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