102 第7章エピローグ(お母さん視点・少し時間が遡る)
私たちが召喚されたこの世界は、だいたい中世くらいの文明レベルにある。魔法やモンスターの素材があるから部分的には地球を上回ってるけど、まあ古代から中世と思っていいでしょう。
ここエスパルダ王国は西欧文化圏っぽいことを考えたら、おおよそ……そうねえ、五賢帝から獅子心王リチャード1世の頃あたりの良いとこ取りって感じかしら? こっちじゃ異民族による技術衰退が起きてないから、インフラはローマレベルなのがありがたい。ていうかお風呂なかったらストレスで死ぬわ。
その一方で、情報伝達は魔法でどうにかならないらしく、地球より格段に劣ってる。早さも、正確さもだ。
向こうじゃパソコンをインターネットに接続すれば世界中の情報を見られ、携帯をかぱっと開けばいつでもどこでも誰とでも繋がれたけど、こっちじゃ何週間、何ヵ月もかけて手紙をやりとりしなきゃならない。しかも私の住む山中の小屋までは届かず、麓の町まで取りに行かなきゃならない始末。
極めつけは、こんなに不便なのに値段が高い。
行商のついでに運んでもらうならそこそこの手間賃で済むけど、届くのが遅すぎる。だもんで飛脚や早馬に頼むわけだけど、それだとどうしてもね。にもかかわらず、あの子は町から旅先からまめに手紙をくれる。
いろいろ不穏なご時世だから各地の情勢をいち早く伝えるのもあるけど、何より私が独り暮らしで退屈したり、寂しがってると思ってくれているのだろう。こんな悪女に育てられたのに、ほんといい子に成長してくれたわね……。
ある日。
麓の町へ買い出しに行き、いつもの酒場に寄ってみれば、またヒデトからの手紙が届いてた。どれどれ、今回は何が書いてあるのかしら~ん?
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「はて?」
帰宅後。読み終わって、私は首をかしげる。
なんでも、例の脳みそお花畑なエロ姫様(あの子の名誉のために補足しておくが、手紙にはこんな文言はない)のアニス王女の護衛で、懐かしのガドラム山脈まで出向いているらしい。これを書いてる時点ではまだ到着してないけど、洞窟を抜けて砂漠のマウルード王国まで行くんだとか。
ここまではいい。でもこの後、なにやら奇妙なことが書いてあるのだ。
魔法使いの爺さんに憑依していた、魔王ザラターを名乗るデーモンをやっつけた。そいつは魔界で別の魔王に敗れて逃げてきたらしく、剣に魔力を込めたヒデトを見て「あの女と同じ波長だ、貴様はあの女の息子だったのか」と言っていたという。
で、師弟なら魔力が似てて当然だから「あの女」ってのは私のことで、魔王は私と戦って魔界に逃げ帰った過去があったのだろう、その古傷があったおかげで勝てました、と……
いや、知らんわそんなやつ。
ザラターなんて見たことも聞いたこともない。いくら私でも、会ったことのない敵には傷のつけようがないわよ。
まあそれはいいわ。引っかかるのは、そこに書かれてた女のことだ。
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魔力には心が深く関わってくる。例えばリーズちゃんは防御の魔法が得意と聞いたときは、いかにもそれらしいと思ったもんだわ。あの娘、大人しくて我慢強いタイプだったから。
でもその一方で、生まれ持ったものもあるのよ。それこそリーズちゃんみたいな天才がいる一方で、どんなに努力しても魔法が使えない人もいるように。
そして魔力の波長は、先天的な要素が大きいと思う。要は遺伝ね。てことは、ヒデトと同じ波長の女ってのは……
「ふ、ふふ。うふふふふ」
口角がつり上がり、思わず笑いが漏れる。誰かが聞いたら、恐怖で背筋を凍らせそうな笑いが。
ザラターの言い方が紛らわしかったから、いやそれ以前にヒデトは真相を知らないから勘違いしただけで、女ってのは私じゃなく姉さん……あの子の実の母親、織田華蓮と思って間違いない。
「あの日、『今度こそ本当の魔王になって戻ってくる』って言ってたけど、上手くいってるみたいねぇ、姉さん」
それでいい。それでいいわ。私の最愛の夫を殺したあなたが、彼の子を産むという一生の夢を奪ったあなたが、魔界で別の魔王に殺されるなんて許さない。
あなたを殺すのは、この私よ。
主人公らがこの世界に召喚されたのは16年前なので、お母さんは当時のガラケーやIT知識しか知りません。




