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「あ、あの……如何しましたか……」
問いかけながら落ちた資料をヴィニアが拾おうとした時、サーシャが手で制して自ら腰を折り、地面の資料を拾い集めた。
ラヴィニアは慌てるが、ちらりとラティスを見るサーシャの眼差しに気付いて口をとざす。
「……これで、そんな事までわかると?」
「まぁ、普通は無理だ。だが、事前にある程度の情報がある場合となかった場合の知識の差は歴然だな」
「…………」
「あの……?」
2人のよく分からない会話にラヴィニアは首を傾げた。
そんな会話は今後も続き、分からない内容を聞くラティスとそれに答えるサーシャ。
そして知りたい事をただ教えて欲しいラヴィニアはここでもその意欲を爆発させていた。
「まぁ!ではこれが初めて出来た船の模造品なのですね!素敵です!……なるほど、積荷の範囲を増やしたから……まぁ、大砲まで!重量がありすぎるのでは?今よりも船の素材も重そうですね……」
詰所に飾られたミニチュアの模造品にテンションをあげている。
今の技術では廃れてしまい作られなくなった過去の遺物ではあるが、この船があったからこそ、ここまで発達した船が世界中を航海しているのだ。
こんな精巧な模造品はファイライトにも無かった。
「なんて素敵……船内の地図や設計図はありませんか?あ、見てはいけない資料でしょうか?」
「いんやぁ、大丈夫だけど。あんたみたいな綺麗なお姉ちゃんが船に興味を持ってくれるのは嬉しいなぁ」
詰所にいた港で働く男達はラヴィニアの可愛い好奇心に全力で付き合ってくれていた。
聞きたいことを1から教えてくれて、素直に感動する。
また疑問が増えて、のエンドレスだが自分の仕事に誇りを持っている彼らはその仕事に興味を示したラヴィニアにとても優しかった。
「…………」
「あそこまでとは言わないが、ああやって知りたいと知識を付けることは王太子として必ず必要な事だ。そうだろう?じゃないと肝心な物を見落としかねん」
壁によりかかり数人の男性に囲まれて話を聞き入るラヴィニアを見る2人。
楽しそうに笑い最新の船の情報まで聞き出していたラヴィニアにサーシャは苦笑した。
「さぁ、次に行こうか」
「あ、はい!皆様休憩時間におじゃま致しました。」
「あぁ、またおいで!」
「ありがとうございます」
スカートを持ち礼をすると、男達も慌てて頭を下げた。
とても気のいい人達だった、人相は悪かったが。
「すごい聞き上手だったな」
「聞き上手ですか?」
「最新の船舶の話まで聞いてたじゃないか。あれはまだ他国に出てない船の情報だ」
「なっ!!」
目を見開きサーシャを見る。
流石にその重大さは分かったのか、ラティスもサーシャに顔を向けた。
「まぁ、そのうち周りも真似し出す。気にしなくていい、流石に軍事用の船なら話は別だがな」
聞いていたのは豪華客船の船の設計などだった。
サーシャの言葉に首を横に強く振ってから、絶対言わないのアピール。
「……あ、サーシャ殿下」
「なんだ?」
「あの、先程の男性の方たちは……」
不安そうに先程聞いた情報のせいで罰せられるのでは無いかと構えているラヴィニアに、サーシャはあっさりと答えた。
「今回は何かをするつもりは無い。港に来てから1番知りたかった情報も手に入ったしな」
「そうですか、良かったです」
大切なお仕事を自分の好奇心で邪魔したかと思ったが、サーシャの満足そうな表情に安心した。
「……楽しかったか?」
「はい!とても!!こうやって現地に足を運んで話をきけるなど思ってもみませんでした。やはり資料だけではないその場の実情がわかりとてもいいですね」
聞いた内容を思い出しながら言うラヴィニアを、サーシャは意味深な笑みで見つめ、ラティスは何かを考え込むように足元をじっと見ながら歩いていた。
「遅くなったが昼食にしようか」
「……腹が減ったな」
思い出したかのように押し寄せる空腹感にラヴィニアも思わず腹部に手を当てる。
視察が終わった時間は既に昼を大きくすぎていて、このまま外食をする事になった。
「どうする?屋台でも行ってみるか?」
「「屋台……」」
同じセリフでも表情は真逆だった。
嫌そうに顔を顰めるラティスに、満面の笑みを見せるラヴィニア。
貴族の令嬢が食べに行くような場所では無いのに、ラヴィニアは昨日、あの香りが充満した屋台通りの近くを通っただけでわくわくが止まらなかった。
そこに行けるなんて!と興奮気味。
「今日はとても良き日です」
満面の笑みで言ったラヴィニアの一言に、目的地が決定した。
ラティスはそんなラヴィニアを見てから小さく息を吐き出す。
数日前から明らかに様子が変わりはじめているラティスにラヴィニアは不思議そうにしながらもサーシャの案内によって賑わう露天通りへと向かった。




