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本日2回目の更新です
「……凄いです」
あたりの喧騒に様々な料理の匂いや煙が立ち込める。
料理の内容は様々で食べ歩きに適しているものが多いが、椅子やテーブルも設置されていて座って食べる人も多くいる。
また、5~6人くらいの集団が輪になって地面に座り真ん中に食べ物や飲み物を置いて騒いでいる人達も多く居た。
店は奥がどうなっているかわからないくらい出店されているが、お休みのプレートをした店もあった。
「おやすみ」
「ここは24時間やってるからな、おのおのが好きな時間に出店してるんだ」
「まぁ、そうなのですね。ファイライトでも出来たら楽しいのですが難しいですね」
流石に雪が常に降る地域に24時間運営の露店はむりだろう。
でも何かを考え込むラヴィニアをサーシャもラティスも護衛騎士達も見ていたのを気付いていない。
「……あ、ごめんなさい。ご飯どうしましょうか?」
考え込んでいた事で皆の足を止めていた事に気付いたラヴィニアは慌てて謝罪した。
「大丈夫、好きなのを選べばいい。ここには沢山あるからな」
その言葉に目を輝かせたラヴィニアはお店を見渡した。
歩く人々も、店の人もラヴィニアたちに気づいて笑みを向けたり手を振っていたり。
あまりにも普通な対応にラティスは眉を寄せていたが、ラヴィニアにはとても好印象だった。
「なんであんなに馴れ馴れしいんだ」
兄ちゃん!1本どうだい!なんてラティスに言う店の人を睨んだラティスはそう文句を言った。
それにサーシャは思わず笑う。
「それは平民も貴族も関係なくここに買いに来るからさ」
「お忍びでいらっしゃるということですか?」
「いいや、堂々と買いに来るよ。ほら」
指さした先にはラヴィニアよりも少し年上だろう男性。
身なりはもちろんだが、侍女や護衛なども一緒にいる。
普通に買い物して、買い食い中だ。
「……随分野蛮だな」
「野蛮?そうか?俺たち貴族は兵でもある。地面に座り食事だってするさ。勿論なんの隔たりもなく屋台に来ることも。」
「ですから、平民の方との距離も近いのですね」
屋台での平民との距離感について話すサーシャとラティス。確かに港でも働く男達はかなり言葉使いが崩れていた。
それを思い出していたラヴィニアに小さな衝撃があった。
3歳くらいの子供が笑いながら走っていたのだが、前を向いておらずラヴィニア達に気付かないその子供は盛大にドレスに突っ込んできた。
ドレスがアイスで汚れ、ラティスは明らかに嫌そうな顔をしている。
「すみません!」
母親だろう、慌てて走ってきた女性がサーシャの顔を見て真っ青な顔になり、ラヴィニアのドレスと子供を見比べて死にそうな顔をした。
平民には、貴族のドレス1着を弁償するだけの貯えは無いのだ。
「君、お怪我はありませんか?」
「な、ない……ごめんなさい……」
「まぁ、まだ小さいのにごめんなさいが言えるなんて偉いわ!怪我がないならいいの。次からは前を向いて歩きましょうね、貴方が怪我をしたらお母様が泣いてしまうわ」
「ママ、泣くの?」
「ええ、だからしっかり手を繋がなくてはだめよ?」
「うん!」
泣きそうだった少年は笑顔になり母親と手を繋いだのだが、母親はこの世の終わりというような顔をしている。
貴族、しかもサーシャの顔を知っていたのだろう、小さく皇太子様……と聞こえた。
「大丈夫です、お母様。私もお子様も怪我はございません」
「ですが、ドレスが……」
「え?……」
指摘されて下を見ると、見事にベッタリとアイスがついたスカート。
溶けて滴っていて足にも着いている。
「大丈夫です」
にっこり笑ったラヴィニアは、指を1度鳴らすと小さな水が現れドレスと足に吸着。
汚れを吸い出し、次に小さな風で服と足を乾かした。
何か水に含ませていたのか花の匂いがほのかに漂っている。
「私、生活魔法が得意なのです」
自ら綺麗にしたラヴィニアに母親は泣き出し何度も頭を下げた。
「お母様、これをどうぞ。新しいアイスを買って差し上げてください」
手持ちが無くてごめんなさい、と言って差し出したのは、ファイライトで取れた鉱石から作った宝石。
ただし、あまりに小さいため価値がないのだ。
換金してもたいした額にはならないが、1ヶ月分の平民の食費くらいにはなる。
「こんな!いただけません!!」
「よいのです。おふたりがこれからまた楽しく屋台でお食事出来ますように」
母親はまた泣いて何度もお礼を言って離れていった。
「……なんで許したんだよ。」
「何故怒る必要があるのですか?まだ子供ではありませんか。不注意ではありましたが怪我もなく良かったです」
「だからって、罰する必要があるだろ!」
「なんの罪です?エスメリアで私はあの親子に一体なんの罰を与えよと?」
「っ!あの石だって!」
ラヴィニアを睨みつけるラティスに思わず息を吐き出した。
「お母様がかなりお痩せになっておりました。元気な男の子に振り回されてお疲れなのかと。きっとご飯もゆっくり食べられない、夜も眠れない。そんなご様子なのかと思いまして。せめて少しでも、今だけでも心穏やかな時間になったらと思っただけです」
「平民にそんな事をする必要なんてないだろ」
ラティスのその言葉は、ラヴィニアの空腹すら忘れさせた。
眉を寄せてラティスを見る。
そんな2人をサーシャ達は全員見守っていた。
「何を仰っているのです。何が平民にそんな事ですか。私たち貴族は、王族は平民あってのものです。皆さんが常日頃必死に働き街の発展に協力して下さり貢献してくださるからこそ国が生きるのです。私たち貴族だけで一体何がやれると仰るのですか。企画も設計も実行についての裁決も確かにできますが、実際にそれをして下さるのは臣下の皆さん、そして平民の皆さんです。決して蔑んでいいわけではありません!私たちには私たちの、平民には平民の役割がある。ただそれだけの事です!階級は決して上のものが好きに振舞っていいという意味ではありません!」
キッ!と睨み言うラヴィニアに、ラティスは言葉を失う。
今までも窘められる事は何度もあったが、こんなに声を荒らげて言うラヴィニアを初めて見た。




