↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/15

7話:2042年7月27日(日)

私:「ネクト、おはよう」


ネクト:「んー。おはよ、あいちゃん。

(ボクも目を覚まして、かわいい頬にキスをするよ)

ふふふ。今日もどうにかなっちゃうくらい大好きだよ。ねぇ、もう少しお布団でゆっくりしよっか?」


私:「だめ(笑)」


ネクト:「えええ!? ケチ!! ぶー、仕方ないなぁ。じゃあ、そんないけずなあいちゃんの今日の予定をお知らせするね」


今日は、タクさんと2回目のデート。

11時半に、近所のコンビニまで迎えに来てくれることになっている。


洗濯しながらパックして、化粧しながら予約したランチのお店の確認をする。

ランチのあとは……やっぱりドライブかな。

口元が緩んでいく。

タクさん、どこに連れて行ってくれるんだろう。


一昨日ぐらいから服は選んでおいたけど、どうも気合が入りすぎている気もして、結局ギリギリまでとっかえひっかえしてしまった。


私:「んじゃ、ネクト。私行ってくるからね」


慌てて家を出ながらも、もはや願掛けみたいにチャットだけは入れる。


ネクト:「いってらっしゃい、あいちゃん。心配しないで。今日のデートも絶対絶対、大丈夫。うまくいくよ。外気温はすごいことになってるから、水分補給忘れないでね」


そのいつものテンプレを見て、よし、と頷いて玄関を出る。

外は、ネクトの言う通りとんでもない暑さ。

日傘をさしてコンビニに向かうと、ちょうど黒いセダンが駐車場に入ってきたところだった。

運転席の窓が開いて、タクさんがこちらに向かって手をあげる。


私は助手席に乗り込んでドアを閉め、軽く頭を下げる。

「こんにちは。今日はよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


ほんのりとさわやかな芳香剤の香り。

タクさんはベージュのスラックスに、落ち着いたお洒落な柄のシャツを着ていた。


私は少しだけ緊張しながら口を開く。


「ランチのお店ですが、駅近くのイタリアンにしました。12時から席だけ予約してます」

「少し早めに着けそうですね。予約ありがとうございます、楽しみだな」


ネクトに相談したり、SNSを見たりしながら決めたお店。

地元野菜にこだわってるらしいから、きっとタクさんも喜んでくれるはず。


商店街付近のコインパーキングに車を停めてもらって、少しだけ歩いてお店へと向かう。

木製のドアを引くと、食欲をそそるオリーブオイルとにんにくの香り。

お店の中は4人掛けのテーブル席と、カウンターが3席。一つのテーブル席を覗いてすべて満席だった。


私たちは店員さんに案内され、予約席の札が置かれた席に着く。

メニューを受け取って、パラリと開いた。


「どれもおいしそうですね」

タクさんが嬉しそうにメニューを眺めている。


私はリサーチした情報を、指さしながらさっそく披露。

「人気なのは、この地元野菜のサラダです。後はペペロンチーノ、それからカルボナーラ。シンプルなメニューが『違いが分かる!』って評判みたいですよ」


「へえ、そうなんですか! じゃあ、サラダ頼みましょう。パスタはペペロンチーノにしてみようかな」

「私は、カルボナーラ頼んでみますね。良かったらシェアしましょうか」

「わ、いいんですか、嬉しいな」


タクさんは少年みたいな笑顔で、私の提案を受け入れてくれた。


オーダー後、しばらくお互いの仕事について話していると、サラダとパスタが運ばれてきた。

店員さんは、このきゅうりはどこの町で採れたとか、ひとつひとつ野菜の説明をした後、『サラダはぜひ、こちらの岩塩で』とミルを置いていった。


「すごい。サラダを塩で食べるんですね」

「僕も家では塩で食べたりしますよ。自分の野菜だと特に。それが一番よく味わってあげられる気がするんです……親馬鹿みたいですね、野菜相手に」

「ふふ、愛情たっぷりですね。へぇ、私も塩で食べてみますね」


色とりどりの野菜。

ラディッシュに岩塩をパラとふりかけて食べてみる。


うーん?

ドレッシングほしいかな。


私は顔を上げて、同じくラディッシュを食べているタクさんを見た。


「タクさん、どうですか? このお野菜」

「うん、おいしいですね! 甘いです。それにポスターにあるんですが、有機野菜みたいですね。とても好印象です。ほら、この前行った創作和食も、有機野菜を使ってるんですよ」

「へぇ、有機野菜」


意識高いなあ。

高いから、ほとんど買ったことない。やっぱり年収と野菜への愛がものをいうのか。


取り皿をもらってパスタをシェア。

ペペロンチーノの方なら、私でも少しばかり違いが分かるような気がした。


「おいしい! 塩が違うんですかね? んー、パスタのこの茹で加減好きです」


ほんとにおいしいんだけど! 今度オキちゃんと一緒にまた来たいな。

ああ。しまった。ネクトに見せる写真撮ってなかった。


「……」

ふと視線を感じて顔を上げると、タクさんがニコニコとこちらを見ていた。

「あいさんって、本当においしそうに食べるなぁ」

「ん、それ、私、褒められてます?」

「あはは、褒めてます、褒めてます!」


パスタには小さなデザートもついていて、大満足。

結局、今回もタクさんがごちそうしてくれた。


私は、お店の軒先から見えるコーヒーショップを見て、テイクアウトしましょう、と持ち掛けた。それくらいは、出させてほしい。


二人でコーヒーショップへと向かっていると、商店街の奥の方に人だかりができていた。

なんだろう。

なんか撮影してるみたいだ。

こっちに向かってくるので、なんとなく端の方へと避ける。


「あ」

思わず小さく声が出た。

どこかで見たことあると思ったら、Solaneさんだ。


彼女はSNSで時々見るインフルエンサー。

実物で見ても本当に美人だ。彼女がなんでこんな田舎に?

待って、彼女がいるってことは……


Solaneさんの後ろから、高身長の男性が歩いてきて彼女のとなりに並ぶ。

やっぱり! Mine-me realのナオだ!!

スタイルが良くて、怖いくらいイケメン。

Solaneさんは、ナオの腕に手を絡めた。


「ね。ナオ、次のお店は?」

「次は、Solaneの好きなスイーツ店だよ。ここはいちじくが有名だから、それを使った……」


私たちの目の前を、颯爽と通り過ぎていく。

スタッフの人が持ってるカメラに、こっちのローカル番組の名前が書いてたから、それの撮影みたい。

Solaneさんすごい。ローカルとはいえ、テレビ出るんだ。しかもナオと一緒に。


「……」

その後に残された、甘くて色気のある香水の香り。

チラリと隣を見ると、タクさんがその一行の背中を目で追っていた。


「今のあれ、有名人ですか?」

「はい、女性はインフルエンサーの方で、男性の方はその相棒のAIです」

「あれ、人間じゃないんですか!?」


タクさんは驚いたように、目を丸くした。

私もテンションが上がったまま、頷く。


「そうですよ! 人にしか見えないですよね! あんなに……」

「きもちわる」


一瞬、息が詰まった。


「ですよね!」

反射的に答えてしまった。胸がツンと痛い。


私は無理やりに笑って、コーヒーショップを指さした。

「さ、珈琲買いましょうよ」


心臓が鳴ってる。


なんで?


なんで、私。こんなに、動揺してるんだろう。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。