260417 先生
誰もいない教室で、私は誰のものでもなくなった椅子に掛けていた。後ろ脚だけで体重を支えながら行儀悪く揺らしていると、ガラガラと音を立ててドアが開く。姿を見せたのは今日ばかりはしっかりとした格好をした副担任の清水。「ここにいたんですか」と呆れたように口にする。
「なに、感傷に浸っていただけだ。開放感かもしれんけどな」
今年のやつらも酷かったからな、と笑う。名前さえ書ければ入れる、なんて言われる、いわゆる底辺校だ。事件を起こして退学になるやつ。妊娠して退学するやつ。例年のように現れるし、そこまでいかない問題行動まであげるならきりがない。落書きはそこかしこにあり、見えにくい場所へ行けば煙草の吸殻が転がっている。授業中にゲームをするのなんて当たり前で、人の話なんて聞きやしない。それがここの普通だ。
「でも、無事に迎えられてよかったです。就職先も、一応決まりましたし」
「何人が今年中に辞めるかわからんけどな」
頑張ってあちこち受け先を探したというのに。
「もうちょっと、まともなところに赴任したいものだよ。進学校とは言わないが、授業がちゃんと成り立つところに」
「それはそれで大変だと思いますけどね。成績のこととか、親からもいろいろと言われそうです」
「どこもかしこも教師は大変だね」
カン、と音を立てて椅子の前脚を落とす。職員室に呼ぶという要件を済ませた清水は一足先に教室を出て行った。それに続いて私もドアをくぐる。後でまた戻ってこないといけない。
「まったく、派手に書きやがって。自分たちは盛り上がるのかもしれんが、消すのは誰だと思ってるんだか」
残されたのは誰のものでもなくなった空っぽの教室。先生ありがとうという文字が、黒板にでかでかと書かれていた。




