260615 羊
その牧場には1頭だけ、淡いピンク色の毛を持つ羊がいた。
ピンクの体毛の羊は浮いた存在で、だからいつも仲間外れにされていた。
けれど天然の桜色の羊毛はとても珍しく美しいと人々は珍重し、特別に高い値段で取引されていた。
しかしあるとき牧場に狼が入り込み、桜色の羊を殺してしまった。桜色の羊は仲間外れにされていて、1頭だけ群れと離れた位置にいたため狙われてしまったのだ。
羊飼いは大変焦った。牧場にとって、高値で売れる桜色の羊毛は重要な収入源だったからだ。
そこで牧場主は刈った羊毛を染色することで、桜色の羊毛だと偽って売ることにした。
染色された桜色の羊毛は、疑われることなく売れた。そのことに気をよくした牧場主は、翌年には桜色の羊毛をさらにたくさん用意して、さらに手広く売り払うことにした。それもまた成功し、さらに多くの利益を得た牧場主は、翌年はさらに量を増やした。
牧場主は慎重にやっているつもりだったが、成功を重ねるうちに偽りはどんどん大胆に、雑になっていった。だがそれもいつまでもは続かない。小さなきっかけからおかしさに気づかれると、あっさりとすべての悪事はばれてしまう。
牧場主は桜色の羊毛を購入していた高貴な人々の怒りを買い、処刑されてしまう。
処刑は残忍で、猟奇的な方法で行われた。牧場主の全身を羊毛で覆ったうえで剣を何度も突き刺し、流れ出る血で羊毛を染色しようとしたのだ。
しかしこの催しはあまりうまくはいかなかった。流れた血は確かに羊毛の一部をピンク色に染めたが、多くの部分は真っ赤に染まったり、逆に白いままだったりと、疎らで汚らしい形になってしまったのだ。観衆はうまくいかなかったと残念がりながらも、残虐な処刑には大変盛り上がった。
殺された牧場主の死体はその後しばらく広場で放置された。血に塗れた羊毛はところどころがどす黒く変色し、ハエが近くを飛び回る。汚らしいものを見るように、広場を通る人々は死体を遠巻きに眺める。
羊毛に包まれた牧場主の死体は、ひとりぼっちの羊と呼ぶにはあまりに醜悪なものだった。




