260504 緑
樹海と呼べるほど巨大な森の奥地に、緑の魔女は住んでいる。
緑の魔女はあらゆる薬草に精通し、どんな病もたちどころに直してしまうと言われていた。
とある国の王様が、ならば自分を不老不死にできるのではないかと考え、緑の魔女へ使者を送った。
けれど緑の魔女の返事は否。どんな病も治せると自負しているが、老いだけはどうしようもないと
それに怒った王は、必ず方法があるはずだと軍勢を差し向けて緑の魔女を捕らえてしまう。
何としてでも不老不死にしろと言われた魔女は、それならひとつだけ方法があると、しぶしぶ答えた。
それは転生の秘儀であった。老いによる死は避けられない。しかし死した魂はあらゆる記憶を失って再びこの世界へと命を授かる
転生の秘儀は死した魂の再誕をコントロールすることで、転生先をある程度制御しつつ己を維持し続けるものだった
王はこれを喜んだ。転生の秘儀は為され、王は後に生まれてくる自身の子孫として新たな命を得る。そうして再び王へと至る。
けれどこの転生の秘儀には、大きな欠点があった。
転生の秘儀を知ったのは王だけではない。儀式を取りまとめた家臣も転生の秘儀の内容を知り、自分たちも秘儀によって自我を存続させようと試みたのだ。さらには自分がより良い思いをするため、自分の子孫ではなく、新たに生まれてくる王の直系としての転生を試みた。
さらには情報を知った異なる王や、それに連なるものたちも転生の秘儀を使って次なる命をつなごうとする。
すると何が起こるのか。王家に生まれてくる人間は誰もかれもが転生者となっていった。事情を知らないものからすれば、王家は誰もが神童であるように思えただろう。けれど当事者たちからすれば、それは酷い状況であった。なぜなら互いに、相手が転生者であるとわかっている。子どものころから優秀ならば他の兄弟を出し抜いて自分が王座に着けると思っていたものたちは、同じ土俵に立たされたことで苛烈な権力争いを始めることとなる。何よりも、彼らは転生の秘儀という知識を持ってしまっていた。つまり今回の生で追い落としたとしても、転生の秘儀によって将来再び王族として生まれ変わり、同じく王家に生まれなおした自分とぶつかる可能性があったのだ。その未来を摘むためには、相手の命を確実に奪わなければならない。
苛烈な跡目争いは国家を巻き込んだ内戦へと発達し、民は疲弊し土地は荒れ果てた。
そして戦乱は、深い深い樹海の奥に住む緑の魔女まで及ぶ。緑の魔女は魔女である故に悠久のときを生きていた。自身の安寧さえ守られれば外の争いなどどうでも良いと考えていた魔女だったが、自分の元にまで戦火が広がれば話は別だ。
怒った魔女は、転生の秘儀に仕込んでおいた仕掛けを実行する。それは王に教えた儀式に仕込んでおいたノイズ。転生した後の命にマーキングを施し、遠隔で強制的に転生をさせるというものだった。
この儀式により、その時生きていた転生者たちはまとめて森の樹木へと変えられた。国は転生者ではなかった王家のものがどうにかまとめて事態を収束させる。そして樹木に変えられた転生者たちは、人の心と記憶を持ちながら動くことができず、しゃべることも出来ない樹木の姿のまま、何十年という時を封じられることとなった。




