260413 エプロン 途中書き
しとしとと雨が降る。大粒のしずくが当たるたびに体から熱と命が奪われていくようだ。簡単に処置しただけの包帯からは赤く染まり、スラックスを伝う血液交じりの雨がびちゃびちゃの土に落ちてにじむ。路地の向こうに見える表通りはきらびやかだ。年に一度のお祭り。私よりも若い夫婦が小さな子供の手を引きながら笑顔で歩くのが見えた。
もうそろそろ身を固めたらどうなんだ? と言われた。遠回しな引退勧告。最盛期を超えた身体が少しずつキレをなくしていることには気づいていたし、いつまでも続けられないとはわかっていた。けれど衰えていく未来を見たくなくて、私にエプロンは似合わない、と返した。
薄暗い路地を歩く。片方の手で傷口を抑え、逆の手を壁にかけて体を支えながら。にくったらしい雨は徐々に強くなる。打たれ続けるのがまずいとわかっているが、かといって最低限の処置しかしていない傷口は放置できず、誰にも頼ることはできず、無理やりに足を動かす。
888、881、874。
頭の中で数を数える。1000から7を引いていく少し面倒な計算。自分の意識を保つための、思考のための思考。867、860、853、次はなんだっけ。計算ができない。頭が散らかる。さっきの数字がいくつかわからない。意識が途切れる。少しの思考停止。足は止まっていた。気づけば見えている先にどんよりとした分厚い雲があった。顔に当たる雨が煩わしい。けれど体が動かない。腕を上げよと命令が出ているはずなのに、指示が腕まで伝達しない。
意識を失う。
子供のころの私は、まあ普通の人間だった。三人兄弟の次女として生まれた。
将来の夢はお嫁さん!
アニメキャラのプリントされた子供用エプロンを見せびらかすよう胸を張って答えた。
幼い日の記憶
目を覚ます
私は答えた。
煙草を一本。




