260412 白猫
樹齢二千年を超えるともいわれる知恵の大樹の洞に造られた学校の一室で、見習い魔女のシャルは小さく体を縮こませていた。周りの視線が気になってきょろきょろとあたりを不安そうに見まわす様子は、傍から見たらそれ自体が挙動不審で注目を集めかねないものだったが、余裕のない当人は気づいていない。黒いローブで抱えた存在をなるべく見えないようにするのでいっぱいいっぱいだ。
けれど黒いローブから覗く白色は、これまた本人の思いとは裏腹にとても分かりやすかった。
シャルに抱えられたままぴくぴくと尻尾を震わせているのは、雪のように真っ白な一匹の猫だった。整えられた毛並みは滑らかで、とても美しい猫だ。ただ、この場では少々、個性的だった。
魔女の正装は黒だと昔から決まっているように、使い魔として使われる動物も主に決まっている。別にルールとかではないけれど、慣習として。メジャーなのは黒猫やカラス、レアなところだとカエルなんか。だから猫っていうのはおかしなことではないのだけれど、白猫なんてのは聞いたことがないし、実際シャルの見たところ教室内に白い使い魔はほかにいない。それで悪目立ちしているんじゃないかと、シャルは気が気でないのだ。
一年と少し前、雨の日にずぶぬれだったこの子を拾ったときにはそれが正しい行いだと思っていたのに、魔女学校に入学した今、周りの目が気になってあの日の選択をなかったことにしたくなっている。顔が熱い。実際がどうかなんてわからないけれど、変な目で見られているんじゃないかと思えて仕方がないのだ。
そうやって周りの様子をびくびくうかがっていたから、だろうか。他の魔女見習いたちが妙にざわつきだしたことに、シャルもすぐに気付いた。何だろうか、とちょっとだけ顔を上げる。
最初に目に入ったのは、黄金色だった。ちょうど今教室から入ってきた少女の、鮮やかな金髪の色。人種的な理由で、このあたりの魔女はほとんどが黒髪だ。だからそれは、たくさんの魔女見習いがいるこの場所でもとてもよく目立つ。隠しきれていない、金髪少女のことを話す声がシャルの耳にも聞こえたし、シャル含めて大勢の視線が吸い寄せられるのもわかった。たぶん、この場にいる全員が一度以上その鮮やかな金髪を目で追っている。
けれどその金髪少女は注目をまったく気にした様子もなく、堂々と教室の中を歩いて自分の指定された席へと向かっていく。名前も知らない相手だけれど、シャルは彼女に、強さと崇高さを感じていた。
いつの間にかシャルは、白猫を抱え込むように隠していなかったことに気づく。よく見ようと首を伸ばした結果だ。けれど今更、自分の相棒にして愛猫を恥ずかしいからと隠すようなことはしなかった。




