260501 インテーク
「へえ。こういう子が好きなんだ」
バッと落書きを隠す九重友和の慌てた様子を見て、桜枝優子は無邪気に笑った。昼休みの一コマ。誰にも聞かれてないよな、と首を振る九重の所作はまるで隠し持ってきたエロ本を見つけられたがごとき。誰も自分を見ていないとわかってほっと息を吐く。教室はそこそこうるさいし、桜枝の言葉はささやくようだった。少し離れれば聞こえやしない。からかいがいがあるな、と思いながらも桜枝はごめんごめんと小さくつぶやき、九重が何かを答える前に背中を向ける。少し歩けば、九重の気配は教室の大勢に紛れて消えていった。
学食のエビフライ定食を食べ終えた桜枝は、スマホをポチポチといじる。
「うーん」と、思わず声を漏らすと、ちょうど隣で食事を終えた明石が、「どうしたの?」と聞いてきた。
「こういう髪形、どう作るんだろうなって、ちょっとだけ思ってさ」
桜枝はそう口にすると、スマホを置いて両手で前髪をちょっとだけ持ち上げた。前髪の上側を持ち上げて左右に降ろすような、なかなか個性的な髪型だ。
「名前がわからなくてどうにもならないんだよね」と言うと、明石が「インテーク?」と答えを教えてくれた。
「あんまり優子のイメージっぽくはないね」
「そう? まあでもこういうのはやってみないとでしょ?」
「挑戦してみる?」
「どうしよ」
さすがにちょっと露骨すぎるかな、とは口に出さず。
「……やっぱやめとく。結構大変そうだし」
たぶん、悩むべきはそこじゃないんだけど。わかっていても進めないまま、桜枝は立ち上がった。昼の学食は混む。食べ終わってまで居座るものじゃない。




